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回想

二ー39 クリストフ4 1/2

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ボルドーの執務室のテーブルには食事が並べられ、ロベールはワインを片手にむしゃむしゃと口を動かしている。
ごくんと喉をならすと、グビグビとワインを流し込む。

「はー。しかしジャンの険相ときたら焦ったよ。」

ロベールのカップにワインを注ぎながらおれは恥ずかしさに自分の耳が熱くなるのを感じながら不平を漏らした。

「だって、ウィルもディーターもなんか変な空気出してたじゃん。」
「いや、オレ達だって、簡単にしか聞いてなかったから・・・。」

ロベールの隣に座るウィルが話しながら皿の上の肉をつまむと、その手をロベールがピシャリと叩く。

「お前はこのきのこのソテー食えよ。肉はオレのだ。」

 二人は幼い頃からリシャールに仕えていたらしく、年も同い年だ。
農家出身のフィルと代々王家に仕えている家柄のロベールとで家柄は格段に違うのだが、ふたりとも王家に仕えているという心構えがあるのか、リシャールに対しても軽い敬語でポールやペランとはすこし違う。
ロベールは肉体派、フィルは頭脳派とタイプは違うが、リシャールに仕えているという心構えに共通点が多いのか、二人は仲が良い。
そんな肉体派の見た目は元気そうなロベールだが、先どの話ではランスで痛めつけられたといっていた。

「体は大丈夫なの? 」
「ああ。もう全然大丈夫だよ。フィルと違って優しいな、ジャンは。」
「なんだよ、オレだって心配してたんだぞ? だからちょっとぐらい肉よこせよ。」

二人もちゃもちゃとしているのを見る限り、ロベールは元気そうで安心する。
拷問というものを見たことがないからどんなものなのかはわからないが、フィリップの印象からはそんな言葉が出てくる事は想像できなかった。

「それにしても、意外だな。フィリップ殿って話でしか聞いてないけど、そんな激しい事する印象なかったんだけどな。」
「そうだな。・・・まぁ、まだお若いからな。フィリップ殿も。それに、今回は全面的にリシャールが悪いしな。」
「そうだね。・・・でも、あれから噂が流れて来たんだけど、フィリップ殿の様態があまりよくなくって寝込んでるって話だけど。戴冠式も11月になるんだろ?」
「ああ。オレ達はすぐにランスから出たから詳しくは知らないんだよ。まあ、アンリ様のこともあるし、
此方としては戴冠式が11月になって良かったけどな。あのままリシャール様がアンリ様と顔合わせる事にならずに済んでよかったよ。」
「・・・アンリ様、戴冠式に呼ばれてたのか。」
「どんな顔して出るつもりだったのかな。11月も顔合わせるんだけどな。」

ロベールはそう言うと長椅子にどっしりと背中を預けてため息をついた。

「リシャール・・・。」

その言葉を聞いたロベールの体がピクリと反応するのが見て取れた。

「リシャールは、どうしてるの?」

なんだか聞きにくい雰囲気の中で聞いてみたが、やはりロベールの顔はわずかに曇った。

「・・・ああ。お元気にされているよ。平常心を取り戻されて、今はマルマンドの要塞造りに没頭されている。」
「ロベールもマルマンドに行ったの?」
「マルマンドの様子も見たかったし・・・リシャール様も心配だったし・・・。マルマンドについてからのリシャール様は、なんだか異常に明るいんだよな。ずっと体動かしてるし。まぁ、城壁づくりの戦力としては凄え助かってたみたいだけど・・・。」
「・・・おれ、マルマンドに行ったらだめかな。ボルドーにいてロベールの手伝いしろって指示がでてるけど。・・・リシャールに、逢いたいんだ。」
「・・・そうだよな。気持はよくわかるよ。でもな・・・リシャール様の直々の命だからな。」

 主、絶対主義のロベールはやはり難しい顔をする。

「・・・なんで。・・・リシャール、おれに、逢いたくなくなったのかな・・・。」

『早く逢いてぇよ。』パンプローナの門の前で聞いたリシャールの言葉と、温かな大きな手の平が後頭部にふれる感触を思い出す。
 ずっと我慢していた思いがポロポロと眼からこぼれ落ちる。





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