上 下
28 / 71
パンプローナ

二ー14 レホネオ 1/2

しおりを挟む
 「手の上で転がされる」というのは、こういう事を言うのではないだろうか。
ベランジェールの作戦に乗せられているような気がするのは気の所為ではないだろう。
なるほど。
リシャールやジョーンがベランジェールの言うことを聞くのだと、以前ボルドーの執務室でディーターから聞いた話を思い出し、妙に納得する。
サンチョの特訓だと息巻いていたリシャールが、いつの間にか鍛錬場で雄牛の登場を待っているのだから。

眼の前には馬に乗ったリシャールとルーが円形の広場へと進み出ている。
柵の周りには多くの人たちが集まり始め、歓声もどんどん大きくなっていった。


数分前、気が合う馬を選べと、厩に案内された。

ふたりが乗る騎馬はナバラで特別に訓練されたアンダルシアンという馬らしい。
リシャールはいつものことだが、珍しくルーも興奮しながら馬を撫で回していた。
アンダルシアンという馬は背が高く胸も厚くどっしりとして、鋭い角を持つ大きな雄牛と並んでも迫力は負けていない。
それでいて軽快にステップを踏み、ウェーブのかかった長いたてがみと尻尾を揺らしながら機敏に動く姿が美しいとても馬だ。

「まぁ、俺のラトロアと比べれば劣るけどな。」

コートをバサリとおれに投げつけながら白いアンダルシアンにリシャールが乗馬する。

「そうだな。オレのヴィランティフのほうがいい。」

ルーもバザリとコートを地面に落とし、黒いアンダルシアンに乗馬する。

地面のルーのコートをひらいながら、二人に向けて応援の言葉をかけようと口を開きかけた所で、リシャールが不満気にルーに突っかかり始めた。

「・・・お前さぁ。前から思ってたんだけど、お前の馬の名前変えろよ。ローランの愛馬の名前なんてつけんなよ。」
「別にいいだろう。オレの馬にケチつけるなよ。」

二人はそのまま馬を広場の柵へと進みながら喧嘩を始めてしまった。

「ケチはつけてねぇだろ。あ。そうだラムレイにしろ。キング・アーサーの愛馬の名だ。」
「やだね。お前がキング・アーサーに縛られてるのはオレには関係ない。」
「関係なくはないだろう。お前誰の随従だと思ってんだよ。」
「ふん。別にお前じゃなくてもいい。」
「あ? 何だとこの野郎。ヤんのかコラ。・・・・・」

後半何を言っていたのか分からないが、愛馬の名前で揉め始めたようだ。
器用に馬を勧めながら足で互いに蹴り合い口論する姿を、ポールと並んで眺め二人で深いため息をついた。


馬に乗ったリシャールとルーが喧嘩しながら中央に出る。

柵の周りには多くの人たちが集まり始め、二人が柵を抜け中央に進むにつれて歓声がどんどん大きくなっている。
二人のあの喧嘩も、気持ちを盛り上げるためなのだろう。
しかし、そろそろ真面目になってもらわなければ。
そう思い、先程二人に掛けそびれた言葉を叫ぶ。

「二人共、頑張ってー! 」

その言葉にリシャールが片手を上げ「おう!」と返事をし、ルーはチラリと目線をよこしてくれた。

リシャールは上げた手をそのまま柄にもってゆく。
そして、ニヤリと不敵に笑い、剣をスラリと鞘から抜くと馬を歩ませ、柵の向こうで声を上げながら見物している者たちを剣で指差す仕草をしながらゆっくりと円を描く様に移動し始めた。
 差された者たちは威圧され、息を飲む。
リシャールは徐々に静まる群衆の視線を集めながら広場の中央で待つルーの側に行くと、皆に顔が見えるように馬をぐるりと小さく円を描くように歩ませながら、高々と剣を突き出して名乗りを上げる。

「我はピュルテジュネ国、ブルトン王で、ノルマンディー公、アンジュー伯であるアンリ2世が息子、アクテヌ公、リシャール、である。」

リシャールの声が大きく空に響き渡りその場を制圧する。

「ベランジェール姫に、この剣を捧げる。」

そう宣言すると、顔の前に剣をかざし、小さくキスをする。
隣でルーも同様に、しかし無言で剣で祈りを捧げると、それを合図に群衆たちが盛大な歓声を上げる。

「牛を!」

ベランジェールの高くよく通る声がしたかと思うと ガッタン と柵の一部が開き一頭の大きな雄牛が場内に歓声と共に放たれた。
興奮状態で投入された雄牛は、中央にいるリシャールとルーに標的を定め、勢いよく突進していく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

烏木の使いと守護騎士の誓いを破るなんてとんでもない

時雨
BL
いつもの通勤中に猫を助ける為に車道に飛び出し車に轢かれて死んでしまったオレは、気が付けば見知らぬ異世界の道の真ん中に大の字で寝ていた。 通りがかりの騎士風のコスプレをしたお兄さんに偶然助けてもらうが、言葉は全く通じない様子。 黒い髪も瞳もこの世界では珍しいらしいが、なんとか目立たず安心して暮らせる場所を探しつつ、助けてくれた騎士へ恩返しもしたい。 騎士が失踪した大切な女性を捜している道中と知り、手伝いたい……けど、この”恩返し”という名の”人捜し”結構ハードモードじゃない? ◇ブロマンス寄りのふんわりBLです。メインCPは騎士×転移主人公です。 ◇異世界転移・騎士・西洋風ファンタジーと好きな物を詰め込んでいます。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...