上 下
42 / 84
ポアチエ

22(2/2)※おまけ.NO2付き

しおりを挟む
ルーはそう言うと、手に持った籠をテーブルの上に置いて、またどこかに行こうとする。
そこには干した果実がいくつか入っている。

「待て待て待て。ルー。一緒に食おうぜ。それにしてもお前、黒くない服着てるの珍しいな。どうした。」

リシャールが笑いながらルーを引き止め、籠の中の干し果実を渡す。

「ここに来る前にコリンヌ殿に見つかって、身ぐるみ剥がれた。これはリシャール、お前のシャツとズボンだそうだ。借りた。で、ついでにこの籠を持たされた。」
「はっはっは。コリンヌは小うるさいからな。構わんよ。お前の服は黒いから汚れが見えないが実は汚れているとか言われたんだろう。想像つくな。でも、よくここが分かったな。」
「ジャンを見かけたから。たまたまだ。」
「それなら、ジャンに用事があったんじゃないのか? 俺のことは気にするな。手合わせか?」
「いや。オレは教えるのは向いてねぇから。お前に教わる方がいいだろ。」

干し果実を食べながら、そういえばルーと手合わせしてコッテンパンにヤラれたなっと思い出した。
実践的ではあったが、確かに教えるのはリシャールのほうが上手かもしれない。
その話をリシャールにした覚えがないがルーから聞いたのだろうか。

「実践的といえば、ルーとウィリアム殿の一騎打ちすごかったよねぇ。」
「お前、今、オレの教え方は実践的だとか、思ったんだろ。」

ルーが複雑そうな顔をしておれの方を見ていた。

「いえ。思ってません。」
「くっくっく。確かに。暴漢にあった時もしばらく見てたって言うし、厳しい師匠になりそうだよな。」

リシャールにそう言われ、少し苦笑をしながらルーがボソボソと文句を言う。

「なんだよ。リシャールまでコリンヌ殿みたいに怒らないでくれよ。あの日は散々言われたんだぜ。勘弁してくれよ。しかもウィリアム殿には負けるし。」
「あー。お前あの日、ちょっと集中力かけてただろ。いつもの実力が出てれば、ぜってぇ負けてねぇ。」

リシャールはまっすぐにルーの顔を見て断言する。
そんなふうに言ってもらえるのルーが少し羨ましい。
羨望の眼差しで見たルーの表情は、以外にも少し困惑していた。

「・・・そう、見えたか?」
「ああ。らしくなかったな。」

別にリシャールも怒って言っているのではないのだろうが、なんだか微妙な空気が流れ始める。

「えー。何だよ、それー。おれのせい?」

あっはっはーと、少し不穏な空気を払拭するつもりで言ったセリフだったのだが、二人に恐ろしい顔で睨み・・・いや、多分びっくりしているだけの表情を返される。

「えっと、え? やっぱり、おれのせいなの? おれが試合前にルーに殺生事おこさせちゃったから・・・。なんか、コンディション的に上手くいかなかった的な? ウィリアム殿殺しちゃったらイケナイだろ的な作用が働いて集中できなかったとか?」

現世でみた寺院の前の仁王像の阿形と吽形みたいな二人の顔を見比べながら、ビクビクと聞いてみる。
すると、リシャールは深いため息をつき、ルーはソッポを向いて短く息を吐いた。

「とにかく、ルーは本気だったら絶対負けなかったよな!」
「いたい、いたい。リシャール! 頭グリグリやめろって! そうだよ! おれ達のエースはウィリアム殿には負けてねぇ! 」

おれの首根っこを掴みながら頭に拳をグリグリと押し付けるリシャールを殴りながら見たルーは、安心したような顔で少し笑っていた。

「分かった。絶対負けねぇ。本気で行く。」
「おぅ! さすがうちのエース! その意気だ! 受けて立つ! 」
「ちょ、リシャール! マジで離して! ギブギブ! 」

締める力が強くなるリシャールからようやく開放され見上げる二人の顔は、なんだか先程とは変わってスッキリしている。

「リシャールが受けて立ってどうするんだよ。そのセリフ言うのはウィリアム殿だろ。」

何故か疎外感を感じて口を尖らせながらリシャールに指摘をすると、今は頻繁に見るようになった笑顔でルーが笑う。

「くくく。リシャールのセリフは、好きにしろ! だな。」
「ん? んー。まぁ、ちょっと違う気もするけど、それっぽいな。うん。」

おれは首をかしげながら、まぁ、いいかと同意する。

「はっはっは。バーカ。好きにしろよ! 」

リシャールが大きな口を開けて笑いながら暴言を吐く。

「ああ、これこれ。リシャールはこうだよね。なんかわかんないけど、打倒ウィリアーム! 」

張り切って宣言すると、リシャールとルーが突如真顔になって手のひらを返す。

「え。なにそれ。」
「ジャンには無理だろ。」
「いやいやいやいや。今そう云う流れだったじゃん? どうした二人共? 」

何か噛み合わない会話をしつつ、なんだか楽しくて、だっはっはと大声で笑う。

「リシャール! 見つけたぞ! この野郎、オレに全部押し付けて逃げやがって! 」

遠くでポールが書類を抱えて叫んでいる。
リシャールはガックリと肩を落とし、落胆したようにつぶやく。

「あぁぁ。ポール。見つかっちまった。」
「リシャール、いってらっしゃーい。」

しおしおと後ろ髪引かれるようにしながら歩くリシャールに手を振り見送ると、振り返る顔が犬コロの様で可笑しく、愛おしいと思った。




※※※※※※※※※※おまけ.No2.※※※※※※※※※※

ルー 「ジャン。オレと手合わせするか? 」

ジャン 「え? いいの? あ、実践的じゃないやつ? 」

リシャール 「おい。待て。おい、待て。おいまて。ルー。お前教えるのは無理って言ってたじゃねぇか。」

ルー 「向いてないと言ったが、教えるのは無理とは言っていないが? 」

リシャール 「えぇぇぇ。」

ポール 「おいゴラァ! リシャールゥゥ! 何楽しそうに喋ってんだテメェ。」

リシャール 「うっせえよ。てめえゴラ、ポールこの野郎。やんのかぁ? あぁぁ? ルゥー。オメェもプラプラしてねぇで手伝やゴラァ」

ルー 「っち。」

リシャール ポール「あぁぁ?」

ルー 「おい。リシャール。受けて立つんじゃねぇのかよ。」

リシャール 「ぐぬぬ。・・・おおおぉうよ。受けて立ってやらぁ。クソがぁ。好きにしろやァァァ」

ルー 「リシャールが好きにしろと言っている。行こうぜジャン。」

ジャン 「そっか。じゃ、おれ、ルーと手合わせ行ってくるー。ポールもリシャール疲れてるみたいだから程々にしてやってねー。」

ポール 「えぇ? あ、うん。判った。ジャン。ガンバれよー。」

ジャン 「うん! いってきまーす! 」

リシャール、ポール「・・・」

ポール 「ライバル、現る・・・か。」

リシャール 「アイツの間の良さが俺は憎い。」

ポール 「あー。判る。ルーって旨いもの食ってる時とか必ず現れるな。そういうヤツだな。確かに。」

リシャール 「俺は先手取られっぱなしだ。クソ。・・・仕事まだ一杯あんの? 」

ポール 「・・・頑張ろうぜ。程々にしてやるよ。」

リシャール 「ポール。好き。」

ポール 「ああ。オレもだぜ。」

ポール、リシャール 「・・・はぁぁ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

わがまま子息は七回目のタイムリープで今度こそ有能執事と結ばれる! ……かな?

大波小波
BL
 上流階級・藤原家の子息である、藤原 昴(ふじわら すばる)は、社交界の人気者だ。  美貌に教養、優れた美的センスの持ち主で、多彩な才覚を持っている。  甘やかされ、ちやほやされて育った昴は、わがまま子息として華やかに暮らしていた。  ただ一つ問題があるとすれば、それは彼がすでに故人だということだ。  第二性がオメガである昴は、親が勝手に決めた相手との結婚を強いられた。  その屋敷へと向かう道中で、自動車事故に遭い短い人生を終えたのだ。  しかし昴には、どうしても諦めきれない心残りがあった。  それが、彼の専属執事・柏 暁斗(かしわ あきと)だ。  凛々しく、寡黙で、美しく、有能。  そして、第二性がアルファの暁斗は、昴のわがままが通らない唯一の人間だった。  少年以上・青年未満の、多感な年頃の昴は、暁斗の存在が以前から気になっていた。  昴の、暁斗への想いは、タイムリープを繰り返すたびに募る。  何とかして、何としてでも、彼と結ばれたい!  強い想いは、最後の死に戻りを実現させる。  ただ、この七回目がラストチャンス。  これで暁斗との恋を成就できなければ、昴は永遠に人間へ転生できないのだ。    果たして、昴は暁斗との愛を育み、死亡ルートを回避できるのか……?  

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...