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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード57-27

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ヨンリオ・ビュートランド 地下 機械室――

 制御室を出たスタッフに追随する郁。
 スタッフは郁よりも頭一個分背が高かった。

「それで、 損傷はどの位なんだ?」 

 見上げるような態勢で、郁はスタッフに話しかけた。

「酷い有様です。 ご覧になればわかりますよ……」
「百聞は一見に如かず、 か」

 エレベーターで地下に降り、二人は機械室に入った。
 中を少し歩いた所でスタッフが足を止め、郁に話しかけた。

「こちらです。 榊原様……」
「うひゃぁ……」

 それを見た瞬間、郁は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。

「御覧の通り、 原型をとどめていない位無残に破壊されてしまいました……」

 スタッフは装置が置いてあったと思われる場所にある残骸を指さした。
 これ一台で施設全体の魔法をキャンセルさせる事が出来る為、装置の大きさも群を抜いていた。

「これは見事なスクラップだ。 ここまで粉砕されていれば、 回収業者が喜んで引き取ってくれるぞ?」

 残骸の山を見た郁は、皮肉交じりにスタッフに言った。

「それはご勘弁を。 当施設には必須の装置ですので……」
「わかっている。 ほんの冗談だ」

 スタッフは怪訝そうな顔で郁に恐る恐る聞いた。

「このガラクタ……本当に復元可能なのですか?」
「問題無い。 任せておけ!」

 郁は両手を腰に当てて胸を張り、自信満々に言い放った。
 そんな郁を見て、スタッフは一層怪訝そうな表情になった。

「新品同様に復元してやる。 徳と見よ!」

 郁は残骸の前に立ち、手のひらを交差して照準を合わせる。


「行くぞ!【レストレーション】!!」パァァ


 郁の手のひらから金色のオーラが放出され、残骸の山が眩しく輝いた。

「おぉ……これはスゴい」

 数十秒間この状態が続き、やがて金色の輝きが消えた。 

「え? あぁ~っ!?」

 スタッフは身を乗り出して驚嘆の声を上げた。
 金色の輝きが収まると、さっきまでガラクタの山だった物が見事に修復されていた。
 スタッフは装置に駆け寄った。

「どうだ? 見違えただろう?」

 郁はふんぞり返ってドヤ顔でスタッフに言った。
 操作ボタンの調子を確かめているスタッフは、若干興奮気味に郁に言った。

「とても信じられません! あのガラクタが、 まるで購入時のようにピカピカです!」

 ドヤ顔だった郁は、真顔になりスタッフに向き直った。

「ココで見た事はくれぐれも口外しない事。 何故かわかるか?」
「へ? いいえわかりません……」

 郁にそう告げられたスタッフは、困惑の表情を浮かべた。

「こんな素晴らしい魔法、 秘密にしておくのはもったいないです!」
「お前、 何もわかっとらんな……」

 郁は呆れ顔でスタッフを諭した。

「この理不尽極まりない魔法が蔓延してみろ、 人々は物を買う意欲が著しく低下し、 果ては製造業の衰退、 つまり国力の低下を招き兼ねんのだ!」
「ちょっと極端過ぎませんか?」

 力説する郁に、スタッフはツッコミをいれた。 

「しかるに、 私のような稀有の魔法は、『都市伝説』程度にとどめておく事が良いのだ」
「はぁ……そんなもんですかねぇ」

 郁を『面倒な人』と認定したスタッフは、それ以上ツッコむ事を止めた。
 スタッフは制御室に内線を繋いだ。

〔竜崎様、 お喜び下さいっ!〕
〔装置が直ったのか?〕
〔ええ! もうバッチリですっ!〕グッ

 スタッフは郁に向かって親指を立てた。

〔竜崎様、 直ちに起動しますか?〕

 スタッフの問いに、ココナは少し考えた。

〔いや、 起動は待て〕
〔何故です? 起動すれば【結界】も解除されるでしょうに?〕

 困惑するスタッフに、ココナが説明した。

〔敵を油断させる。 警察の到着まで軌道はせず、 機械室に警備員を配置させろ〕
〔了解しました〕

 内線を切り、スタッフは郁に言った。

「さぁ、 制御室に戻りましょう」
「そうだな。 ブツの大きさからか、 少し疲れたな……」

 機械室を出た二人は、制御室に向かった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



黄金井街道 腐中付近

 事件のカギを握る女神『サチウス』の像があると言われている『聖ドドリア魔導女学院』を目指し、6台の白バイと1台のパトカーが走っている。
 隊長機である千葉のCB750を先頭に、その後ろをバタピーの操るGT380とオカシラのZ2が。
 その後ろを宇宙のハーレーとパーコーの陸王で、しんがりは国領のBMWサイドカー付きが務めている。
 白バイがクラシックなフォルムだったりサイドカー付きだったりと、通常の白バイとは一線を画すものばかりであり、車線一杯を使って爆走する様はさしずめパレードの様だった。

「お? 何だ? 撮影か?」
「カッケェー!『東部警察』みてぇ」

 反対車線をすれ違う車やバイクが、この一団を好奇の目で見ていた。
 千葉がインカムでバタピーを注意した。

「バタピー、 吹かし過ぎ。 回転抑えて」
「仕方ねぇだろ? 2ストの特性なんだからよぉ」

 ブータレるバタピーに後ろのパーコーが言った。

「オマエ、後ろに回るがよろし。 煙で前が見えないアル」
「なんだとパーコー! おちょくってんのかぁ?」
「止めんかバタピー。 すいやせん隊長、 何分不器用なもんで……」
 
 バタピーとパーコーがもめており、オカシラがなだめていた。
 GT380が出す2スト特有の白煙に、宇宙も苦言を呈した。
 メンバーで2ストに乗っているのは、他にはここにいない八万のハスラー250のみだった。

「う~ん。 環境には優しくないかな?」
「言えてる。 安いオイル使ってんだろ?」

 宇宙の皮肉に、しんがりの国領も同調した。

「お前らぁ~!」

 メンバーみんなに責められ、 バタピーは絶叫した。
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