上 下
576 / 590
第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード57-26

しおりを挟む
警視庁 多魔中央警察署 会議室――

 『太陽の爪』から2回目の配信があった。
 そこでGが告げたヒントは、『サチウス』だった。
 配信が終わり、首を傾げる千葉に、今まで黙っていた静流が呟いた。

〔僕知ってます。『サチウス』は、 女神の名前です……〕

 画面に映った桃色の髪の少年に、千葉は訝し気に聞いた。

〔ええと、 キミは?〕
〔五十嵐静流です。 モモさんは僕の伯母です〕
〔ああ。 それでその髪の色なのね……ん? って事は……〕

 いきなり横からローラが割り込んだ。

〔ジジジ、 ジン様の親戚!?……確かに似てない事もないわね……〕

 ローラは画面の中の静流をまじまじと見つめていると、少し様子がおかしかった。

〔この子……見れば見るほど胸の奥がズキズキと締め付けて来るわぁ……〕

 すると、いつも間にか千葉も画面に見入っていた。

〔何だろう……大昔に味わった、 甘酸っぱい気持ち……〕

 薫子はたまらず、静流を画面から外した。

〔ダメ! 変な目で静流を見ないで!〕
〔わぁっ!?〕

 静流が画面からいなくなり、ローラたちは正気に戻った。

〔コホン。 で、『サチウス』とは一体何者?〕
〔ボス、 ソイツなら聞いた事がありますぜ。 ウチの賭場では『博打の女神』と言われていやした〕

 そこで割り込んで来たのは、『マイルド7』のメンバー、オカシラだった。

〔女神サチウス……信仰者を『強運』にも『凶運』にも導くギャンブルの女神と言われている……〕

 続いて沖田が補足した。

〔アイツが言ったヒントからすると……どこか『サチウス』を祭っている教会とかは無いの?〕
〔さぁね。 女神の中では扱いにくい部類にはいるから……〕
 
 ローラの問いに、沖田は腕を組んで首を傾げた。

〔サチウス……様? どっかで聞いた事あるんですよねぇ~?〕

 そう言ったのは若手女刑事だった。

〔アナタ、出身は女子校だったわよね?〕
〔ええ……聖ドドリア魔導女学院ですけど……〕

 聖ドドリア魔導女学院は黄金井市にあるゲソリック系の女神信仰では有名な名門校である。

〔ご本尊は『フィアナ・ベルゼルガ』様ですし……はっ!?〕

 若手女刑事は何かを思い出した。

〔百葉箱の中にありました! 小さいですが女神像が!〕

 続けて女若手女刑事が語り出した。

〔あと、『学院七不思議』の一つに『異世界転移』のゲートがあるって先輩が言ってました……〕


〔〔それだわ~っ!〕〕


 ローラたちは顔を見合わせて叫んだ。
 すると警察側が急にあわただしく動き出した。

〔サチウスの件はコッチに任せてもらうわよ〕
〔そうしてもらえると助かる〕

 そこで通信を切った千葉は、メンバーたちに告げた。

〔時間が無い。 任意で乗り込むわよっ!〕

 すると、メンバーたちが立ちあがった。

〔お? やっと出番か?〕
〔面白くなってきやがった♪〕
〔黄金井街道200kmでぶっ飛ばせば15分位で着くだろっ〕
〔おいおい、そりゃあ無理だろ?〕

 千葉は談笑しているメンバーたちの前に立った。

「目標、 聖ドドリア魔導女学院!」

 メンバーたちの顔に、緊張が走った。
 千葉はメンバーたちに言った。

「マイルド7、 出動!」
「イエス! マム!」



              ◆ ◆ ◆ ◆



ヨンリオ・ビュートランド 2階 制御室――

 警察との通信が終わり、深く溜息を吐いた一同。

「やっと警察が動き出したか……」

 郁の呟きに、静流が反応した。

「イク姉、警察が【ゲート】の所在を突き止めた後は、 どんな展開になるの?」
「う~ん、 そうだな……」

 郁は腕を組んで考え始めると、横からココナが割り込んで来た。
 
「恐らく管理者を任意で引っ張って、 実際に拉致・監禁があるのか吐かせるのだろう……」
「それで過激派が納得するのかなぁ?」

 その問いには沖田が答えた。

「どうだろうな。 奴らは警察が尻尾を掴んだ時点で御の字なのではないだろうか?」
「ああ。 【ゲート】の所在が明らかになれば、 直接乗り込む事も可能になるからな……」

 質問をふられた郁は、不満げにそう言った。

「次のターゲットはあの『お嬢様校』か……」

 静流たちは前に『国尼祭』でそこの生徒を見ていた。
 短期留学の件でお嬢様校にはこりごりの静流だった。

「どっちにしても、 公には出来そうも無いね……」

 静流の呟きに、郁は盛大に突っ込んだ。 

「そりゃそうだろ? 地球以外に人間が住める惑星が存在するって事が一気に知れ渡って見ろ? 大パニックが起こるぞ?」
 
 それを受け、ココナは神妙な顔つきで呟いた。

「非常にデリケートな事案だ。 特にマスコミには悟られない様にしないとな……」

 気を取り直したココナは、郁に話しかけた。

「そう言えば郁、 お前を呼んだのは他でもない。 『魔法キャンセラー』の修復を頼みたい」
「そうだったな。 その場所は何処だ?」
「ウチのスタッフに案内させる」パチン
 
 ココナが指パッチンすると、スタッフが郁の前にやって来た。

「ご案内します」
「おう。 では行って来る」

 郁はスタッフの次に制御室を出て行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...