拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード57-22

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流刑ドーム モモの部屋――

「お母さん! 大変なの!」

 部屋で寛いでいたモモの所に、薫子が血相を変えて入って来た。
 モモは煙たがりながら薫子に聞いた。

「なぁに? 騒々しい」
「兎に角大変なの! コレを見て頂戴!」

 薫子はA4のコピー紙をモモに渡した。

「何だ薫子? 昼メシか?」
「ナイスタイミングじゃんか。 丁度アニキと腹減ったって言ってた所だったんだ♪」
「たまにはジャンクフードも悪くないわね。 あら忍は?」

 物音に気付いた薫が後に続き、近くにいたリナと雪乃もそれに続いた。

「違うってば! 何をのん気な事を言ってるの!?」

 薫子は全力でツッコミを入れた。

「このリストが何なのって……あら?」

 モモはコピー紙の文字を見て、ある部分に目が留まった。

「何か気付いた事ある?」
「あるも何も、 アタシの名前がバッチリ入ってるじゃないさ?」

 モモは自分の名前を指さし、薫子に見せた。

「もうちょっと下、見てごらん?」
「ん? えっ!?」

 薫子に促され、もう一度紙に目を通したモモは、次の瞬間驚愕した。

「朔也兄様もいるじゃない……一体どう言う事?」

 薫子はヨンリオであった事をモモたちに説明した。

「はぁ? テロ組織が爆弾を仕掛けて、 その解除条件がウチらを開放しろって言うのか?」
「どうもそうらしいの……」
「馬鹿馬鹿しい。 付き合ってらんねぇ」
 
 余りに荒唐無稽な話に、薫は呆れていた。

「そうでもないみたい。 幾つか知ってる名前があるのよ」
「えっ? 本当?」

 モモがそう言うと、薫子の顔がパァッと明るくなった。

「でも、 ロクな奴はいないね。 犯罪者モドキばっかりよ?」
「どんな犯罪者なの?」
「どいつもこいつも『異端者』とか『国賊』なんて言われて追放された奴……」

 ふとリストの中にある名前に目が留まった。

「ふぅん……これは懐かしい名前だわね」 

 モモはある名前を見てニヤッとほくそ笑んだ。

「『チョ・ゲボラ』、『エルフ解放同盟』のリーダー」
「知らねぇな、そんなヤツ」
「元々は『エルフィンナイツ』の幹部だった人よ」 

 『エルフィンナイツ財団』は、かつて朔也も所属していた組織で、政府の『影』として紛争地域での暴動の鎮圧や諜報活動を行っていた組織である。

「ひょー。 正義の味方がなんでまたお尋ね者に?」
「さぁね。 そこまでは知らない」

 薫はまだ疑っている様だ。
 モモは吹き出しそうな顔で言った。 

「さしずめ『ブラックリスト』ってところね。 フフフ」
「おいおい、 アンタも入ってるの、 忘れんなよ?」

 そんなモモを薫はいじった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ヨンリオ・ビュートランド 2階 制御室――

 『太陽の爪』が要求している『解放者リスト』に、モモと朔也の名前があった為、沖田は大胆な仮説を説いた。


 ・モモたちが住んでいる『流刑ドーム』は数カ所存在する事。
 ・朔也が目指した惑星『カサンドラ』が『流刑ドーム』や『ワタルの塔』がある『アノ星』である可能性が高い事。
 ・これらを管理している所が『ゲソリック総本山』である事。


 ココナがあのポーズで沖田に聞いた。 

「して、『爪』の狙いは?」
「恐らく解放はブラフだろう。 真の目的は惑星カサンドラの存在を広く知らしめる事だ」

 沖田の言葉に、静流の顔が曇った。

「それはちょっとマズいですね……」
「何故だ静流?」

 眉間にしわを寄せ、郁が静流に聞いた。

「その内場所が特定されて、 他の人がいっぱいアノ星に来ちゃうのはちょっと……」
「確かに。 アソコは私と静流の為の星だから」

 忍は当然の様に言うが、全員がスルーした。

「塔の外なんて砂漠しかないと思っていたから、 まさかそんな事になっているとは……」
「あくまでも仮説だ。 アノ星にそれ程利用価値があるのかどうかもわからん」

 静流は塔や流刑ドームの今後を案じ、不安げな表情を浮かべた。
 そんな静流に、沖田はフォローを入れた。

「と言う事は、 ジン様もアノ星にいるのでありますか?」
「その可能性は高いな。 しかし、他の者とはケースが違い過ぎる」
「確かに。 身動き取れないんですもんね……」

 追放されたモモや他の者たちとは違い、朔也の場合は本人曰く、暗闇の中で身動きが取れない状態であり、いわば『昏睡状態』の様な状況である。
 
「そう都合よく条件が揃うハズがないだろ? 先ずは敵さんの出方を見んとな……」

 郁は腕を組んで静流に言った。

「大丈夫だ静流殿! 他の連中はアノ星に行く移動手段は皆無だからなっ!」

 ココナはドヤ顔で静流に言った。
 宇宙開発の技術は全世界で研究がされているが、人工衛星を打ち上げる程度であり、月に人間が降り立つ事も未だ『夢物語』なのである。
 一方『ラプロス』は宇宙航行用のMTである為、将来的には位置が掴めればアノ星に行くことも可能となる。

「そうかな? ではどうやって罪人をアノ星に追放するのだ?」

 沖田は異論を唱えた。

「そ、それは……う~ん」

 ココナが唸り出すと、郁が口を挟んだ。

「簡単な話だ。 あるんだろ?【ゲート】が」
「ご明察。 ほぼ間違いなくあるだろうね……」

 沖田は満足げに頷いた。

「つまり、 教団はアノ星に自由に行き来する術を持っていると言う事だ」 
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