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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード57-21

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警視庁 多魔中央警察署 会議室――

 千葉が協力を要請した『迷宮のサンドローラ』こと砂川ローラが多魔中央署に到着した。
 自己紹介を終えた所で、若手女刑事が話し掛けた。
 
「砂川警部補、 お目にかかれて光栄ですっ」
「ローラでイイわよ。 堅苦しいの嫌いなのよ」

 緊張気味の若手女刑事に、ローラはフランクな対応だった。

「数々の『迷宮入り事件』を解決に導いた偉業、 素晴らしい功績です!」
「そんなに持ち上げても、 何も上げないわよ? フフフ」
「ローラさんは私たちの間では『伝説の人』なんです! スーパー、 いやハイパー、 いやアルティメットなんです!」

 若手女刑事はトレーディングカードのレアリティに例えようとして、変な雰囲気を醸し出していた。

「なぁに? 私をチュパカブラ扱いしないで頂戴?」
「す、 すいませんっ!」

 『チュパカブラ』とは、『ネッシー』や『ビッグフット』のような『UMA』と呼ばれる未確認生物の一つである。

「今までの概要を説明するわ。 アナタ、 資料を」
「は、 はい! 只今」

 千葉が若手女刑事に指示を出す。

「ストーップ! その必要は無いわ♪」
「えっ?」

 ローラにそう言われ、困惑する若手女刑事。

「ココに入る時に触ったドアノブから、 今までのビジョンが見えたの。 だから説明は不要よ♪」

 ローラは得意げに言った。

「流石だな。 それなら話が早い」

 千葉は大きく頷いた。
 全てを把握しているローラは、千葉に捜査状況を確認した。

「『爪』の連中が言っている行方不明者が『アノ教団』によって拉致されていると言う根拠と裏付けは?」
「それについては、 ウチのメンバーを多無にある『サレシタ教会』に潜り込ませる」

 すると千葉の横からシスター姿に紛争した八万が颯爽と現れた。

「どうです? どこから見ても敬虔なシスターでしょう?」

 八万はその場で一回転し、両手を組んで祈る真似をした。

「頼んだわよ! これでまた一歩『あの方』に近付ける……」

 ローラは両手を組み、天井の方を見つめた。
 八万は自信満々でローラに言った。 

「任せて下せぇローラの姐御。 とっておきのネタ、 取って来ますゼ♪」



              ◆ ◆ ◆ ◆



ヨンリオ・ビュートランド 2階 制御室――

 怒涛の急展開で、制御室には予想外のメンバーが終結した。
 テロ集団『太陽の爪』の声明にあった『解放者リスト』に、静流たちには馴染みの深い者たちがいた。

「伯母さんと、 朔也さんがリストに? うーん……」

 困惑した静流は腕を組み、低く唸った。
 そこで手を挙げたのは、『マイルド7』の補欠メンバーであるテルミだった。

「ちょっとストッープ! アナタ方はこの五十嵐モモさんと知り合いなので?」
「え? ええ。 五十嵐モモは僕の伯母さんにあたる人です」
「えぇ~!?」

 テルミは素っ頓狂な声を上げた。
 静流は手短に自分とモモとついでに朔也との間柄を説明した。

「え? あの伝説のアイドル『七本木ジン』が!?」
「まぁ。 そうみたいなんです……」

 テルミは目を大きく開き、心底驚いていた。

「ウチの隊長もジン様びいきだと聞いた事ありますよ?」
「それはどうも……」

 テルミの疑問が解消したところで、薫子たちがココナに聞いた。

「お母さんを『解放』って、私たちを自由にしてくれるの?」
「それだったら渡りに船。 結果オーライ」
「どうもそうらしいな。 伯母上も喜ばれるだろう」
 
 喜びも束の間、薫子は複雑な表情で言った。

「でもおかしいのよ……あそこのドーム、 私たち以外住んでないよ?」
「確かに。 中は隈なく探した。 生命反応ゼロ」

 モモや薫子たちが暮らしている『流刑ドーム』は、『ワタルの塔』がある『砂の惑星』に存在している。
 常に砂嵐が起こっており、砂漠には危険な生物もいる為、ドームの中でしか生きていけない。
 ドーム内は廃墟になったビル群がそびえ建ち、モモたちが暮らしている廃墟マンションは、かつて香港にあったスラム街『クーロン城砦』の様な趣であった。

「そもそも『流刑ドーム』は、 ハイエルフたちが罪人を追放する為にあるって伯母さんが言ってたよね?」
「うん。 お母さんたちはエルフに忌み嫌われる双子だったから……」 

 そう言った薫子の顔が少し曇った。
 ココナは続けた。

「伯母上にリストを見せて、 思い当たる事が無いか聞いてみてはくれんか?」
「そうね。 お母さんなら何か知ってるかも」

 薫子はすくっと立上り、忍に言った。

「私が行ってくるから、 アンタは静流の事をお願い!」
「言われなくても、 全力で守る!」

 薫子はゲートのあるスタッフルームに向かった。
 それを見送ったココナは、一同に向き直った。
 
「もう一つの謎は、 リストに『荻原朔也』氏がいる事だろう……」
「確かにそうですね……」

 すると、今まで黙っていた沖田が話し始めた。 

「情報不足で何とも言えないが、 一つ仮説は立てられるな……」
「先生、 どんな仮説ですか?」

 沖田の意味深な言い回しに、静流は恐る恐る聞いた。

「ジン様がミッションで訪れた星は、『ワタルの塔』があるアノ星だったと言う事だ……」

 先日の忘年会で、静流が作ったレプリカに宿った『七本木ジン』こと荻原朔也が語った、自らが何者かに捉えられるまでのエピソードにあった惑星『カサンドラ』が『砂の惑星』である可能性が高くなったと言う事だろうか。

「だからそれはないって――」

 静流が沖田の仮説を否定しようとして沖田に止められた。

「待てよ。 つまり『流刑ドーム』は複数個所ある、 と言う事は考えられないか?」

 郁が口を挟むと、沖田の口元が緩んだ。

「その通り。 ジン様が調査に飛ばしたポッパーの話を思い出してくれ」

 朔也の話では、3機飛ばした内2機が帰還し、映像を確認したがかたや高層ビル群が建ち並び、かたや緑に囲まれた大きな湖が映っていた。

「アノ星には数カ所のドーム状コロニーが存在し、そこで暮らしている人々がいる可能性は否定できまい」
「おぉ……」

 沖田の説明に、異論を唱える者はいなかったが、静流は何かに気付いた。
 
「ところで先生、 不参加だった忘年会の時の話をよくご存じですね?」
「ま、 まぁな……」

 今までの話についていけたのは、沖田とテルミ以外は忘年会に参加しているからである。
 一同の目が沖田に集中し、沖田の顔が引きつった。

「情報の共有は必須だろう? その為に手段は選ばんよ!」フッ

 沖田は開き直り、ドヤ顔でそう言った。
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