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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード57-15

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警視庁 多魔中央警察署 会議室――

 会議室に『YBL事件特別捜査本部』と書かれた紙が貼られている。
 『マイルド7』の隊長である千葉が若手女刑事に声を掛けた。

「リストにあった名前について、 何かわかった?」
「ええと、 それがですね……」

 若手女刑事がPCの画面を操作すると、警察に捜索願が出された者が半数ほど該当し、中には『死亡届』が出されている者もいた。
 法律では行方不明になってから7年が経過した場合、死亡したとみなして戸籍から抹消する手続きが可能となるからであろう。

「驚いたのは、 15年ほど前にあった『腐中神隠し事件』の被害者も中にいるんです……」
「ほう。 生存していると言うならむしろ朗報じゃない?」 

 捜査員の言葉に、千葉が興味を示した。

「あの事件、 やはり『神隠し』ではなく、『拉致』だったのでしょうか?」
「さぁね。 それは私たちの管轄じゃないから」 
 
 千葉は過去の事件にはあまり興味が無いようだ。

「そうですよね。 未解決事件は本庁の『迷宮のサンドローラ』さんに任せていますし……」
「あの人、 まだ『エスパー課』にいるの?」

 奇妙なコードネームを耳にした千葉は、面識があるようだった。 

「いますいますっ! 結局あの方の【サイコメトリー】で事件が解決した事何度もありますから!」

 サイコメトリーとは超能力の一種で、簡単に言うと対象物に触れる事でその物に込められた『記憶』を読み取る事が出来る能力である。

「フム。 技はサビ付いてはいない、 か」

 千葉は少し考えたあと、小さく何度も頷いた。 

「よし、 彼女を召喚するっ!」
「え? マジ、 ですか?」

 若手女刑事はぎょっとした。 

「マジも大マジ。 未解決案件が一挙に何件も解決する可能性があるのよ? 呼ばない選択肢は無いと思うわ!」

 そう力説した千葉に、若手女刑事は不満げにぼやいた。

「あの方、 オファーしても直ぐに来てくれるかどうか……気まぐれだって聞きますし、 署長に応援要請の書類を書いてもらわないと……」 
「『腐中神隠し事件』を引き合いに出せば必ず乗って来る! 手続き頼むわよ!」

 乗り気じゃない若手女刑事に、千葉は強めに指示を出した。

「はぁい。 わかりました……」 
 
 不満げな若手女刑事は、口をとんがらせた。
 そんな若手女刑事を見ながら、千葉は顎に手をやった。

「このヤマ、 何か裏がありそうね……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



ヨンリオ・ビュートランド 1階 『生命の樹』周辺――

 睦美に念話した静流だったが、睦美は意味深な発言を残して一方的に念話を切られてしまった。

「睦美先輩らしくないなぁ……一体何だったんでしょう?」
「さぁな。 しかし不気味だ……」
「何でも首を突っ込みたがる先輩が、 やけにあっさりと引き下がりましたよね?」

 静流の指摘に沖田は眉間にしわを寄せ、うなるように呟いた。

「確かに。 まるでシナリオでも用意されているかのようだったな……」
「まさか? いくら先輩だって、 法に触れる様な事はしないでしょう?」

 沖田の勘繰りに、静流は全力で否定した。

「第一、 動機がわかりません。 爆発騒ぎを起こしてまで、 何をしたいんでしょう?」
「う、 うん。 まぁそうだね……」
(静流殿とのデートをブチ壊すのには、 ちと派手過ぎるか……)

 静流の指摘に、合点がいった沖田。
 その時、ある客が小走りでスタッフに近付き、声を荒げた。

「おい! 地下の駐車場から退場しようとしたんだが、 見えない壁があって出られないぞ!?」
「その件は只今調査中でございますっ! もう少しお待ちを……」
「お陰で車に傷が着いちまった! どうしてくれるんだ?」
「申し分けありません……」 

 その様子を見ていた周囲の客たちがざわめき始めた。

「困ったわぁ。 3階のメインゲートも同じ感じで外に出れないみたい……」ざわ…
「そうなの!? どうしましょう……」ざわ…

 客たちも【結界】が張られている事に気付き出した。

「館内は封鎖されてるって事ですか。 先生が言った通りでしたね?」
「ウム。 その様だ」

 沖田はボリュームを絞って静流に言った。

「兎に角、 脱出方法を考えよう。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ヨンリオ・ビュートランド 地下 機械室――

 機械室には【魔法キャンセラー】が設置してあった場所に二人の従業員が首を捻っていた。
 魔法キャンセラーは元の形状がわからない程粉砕されていた。

「うひゃあ……どこから手を付ければイイんでしょうか?」
「知らん! そんな事俺に聞くな!」

 上司らしき従業員は、部下にきつめに当たった。
 おかしな事に、その周辺は特に目立った損傷が無かった。

「これだけ派手に壊したのに壁に傷ひとつ無い。 おかしいですよ……」

 部下は顎に手をやり、現場を見ながら首を左右に捻った。
 そんな部下に、上司は諭すように部下に言った。

「俺たちの仕事はそれを調べる事じゃない。 現場の写真は撮ったか?」
「はい。 いろんな角度から『これでもかっ』ってくらいに」グッ

 部下は自信たっぷりに親指を立てた。

「だったら無駄口叩いてないで、 このガラクタを隅に移動しろ!」 
「へいへい……」

 上司と部下は、残骸を拾って台車に乗せ始めた。
 その様子を、黒い影が上から見ていた。

(無駄が無い。 見事な仕事……)

 影は現場の状況を確認し、素直に感心していた。

(この仕業……『結界師』がやったとした思えない)

 影は対象物を『結界』で囲み、破壊行動に出たと推理した。
 そうすれば、破片が周囲に飛び散る事もなく粉砕出来るからだ。

(でもおかしい。 音と振動はわざと? わたしなら気付かれずに処理できる)

 影はある答えに辿り着いた。

(陽動? 破壊行動が真の目的じゃないの?)
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