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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード57-11

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警視庁 多魔中央警察署 会議室――

 会議室では数人の刑事たちが議論を交わしていた。

「一体どうなってるんだ!? こんなド田舎に『太陽の爪』だと!?」バァン

 多魔市は都内の中では都市化が若干遅れているが、決してド田舎ではない。
 机を叩いた中年刑事に、若手の女刑事が首を傾げながら聞いた。 

「主任、『太陽の爪』とはどの様な組織なのですか?」
「何だ知らんのか? まぁ無理もない……」

 横にいた先輩刑事が若手女刑事に言った。

「ネットで調べて見ろ。 直ぐにわかるさ」
「はい、 調べます……」

 若手の刑事がノートPCを起動し、ネットで検索している。

「『太陽の爪』は世界各国で事件を起こしているテロ組織である……ですって! この筋では超有名らしいですっ!」

 画面には『太陽の爪』が起こした事件がずらっと列記されていた。
 先輩刑事が画面を指さして若手女刑事に言った。

「お前でも『ビグザム空港爆破事件』はわかるだろ?」
「あっ! それなら知ってます! 空港をジャックした挙句、ジャンボ機を爆破した事件ですね?」
「そうだ。 あの空港は復旧までに10年を費やした……」
「傍迷惑な事件だったな。 人質も大勢巻き添えを食ったし……」

 主任と先輩が腕を組み、しかめっ面で天井の方を見た。

「そんな世界的テロ組織が『ヨンリオ』に?」 
「そうらしい。 『ある筋』からの有力な情報だ……」

 若手女刑事が主任に聞くと、主任は頭を抱えながら答えた。

「子供たちを盾にするつもりか!? 最悪だぜ!」

 先輩刑事は苦虫を嚙み潰したような顔で唸った。
 その時、会議室の扉が勢いよく開き、恰幅の良い制服警官が中に入って来た。

「「「署長!」」」

「うむ。 待たせたな」

 署長は後ろで手を組み、刑事たちに向き直った。

「みんなご苦労! もう安心だ」
「何が安心ですか!? ふざけないで下さい!」

 署長の物言いに、先輩刑事はキレた。

「落ち着け。 我々は対テロ組織には素人だ。 従って専門家を呼んだ」
「専門家? プロって事っスか?」
「『餅は餅屋』と言うだろう? テロ組織には『対テロ課』だ!」
「『対テロ課』だと!?」 

 署長は大きく頷き、ドアの方を見て言った。

「お待たせしました。 お入りください」 

 署長に促され、隊列を組んだ数人が会議室に入って来た。 
 その数7人。 署長は刑事たちに紹介した。

「えー、 この方たちは『国際組織犯罪対策部 対テロ課 特務班』、別名『マイルド7』の方々である!」

 ザッ!

 紹介を受け、マイルド7のメンバーたちは同時に敬礼した。
 7人共、赤いバイク警官の制服を着用し、サングラスをかけた女性だった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ヨンリオ・ビュートランド 2階 制御室――

 スーツの女がスタッフに聞いた。

「犯行声明はまだ?」
「まだ来ません……一体何が目的なのでしょう?」
「わからない」

 スタッフたちもまだピンと来ていないようだ。
 スーツの女はポンと手を叩き、スタッフたちを鼓舞した。  

「とにかく今はあらゆる角度から監視、 怪しい動きをいち早く察知する事。 気を引き締めて!」

「「「「はっ! わかりました!」」」」

 スタッフは真剣な表情でモニターを注視し始めた。

「よりによって今日か……全くツイてないな」

 スーツの女が周囲に聞こえないほど小さな声で呟いた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ヨンリオ・ビュートランド 2階―― 

 ボートが終点に着き、係員がボートを固定した。

「ご利用ありがとうございました! またお越し下さいっ!」
「スマンがちょっと聞きたいのだが……」

 沖田は後ろにいるダレぱんだを横目に見ながら、沖田は係員に聞いた。

「このアトラクションには、 着ぐるみが同乗する様なサービスは無かったと思うが?」
 
 ダレぱんだはボートを降り、スタスタと去っていこうとしている。

「そ、 そうですねぇ……申し訳ありません、 ちょっと私どもにはわかり兼ねます……」
「そうか。 変な事を聞いた。 忘れてくれ」

 沖田は本人に直接聞こうと振り向く。
 そこにいる筈のダレぱんだが忽然と姿を消していた。

「ん? 静流殿、 ダレぱんだはドコだ?」
「凄い速さであの階段を降りて行きましたよ?」
「ふむ?」

 静流が指差した先には、『ヨンリオタウン』がある。

(この違和感、 何かが起こっているに違いない……)

 沖田はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「面白い。 丁度次に行く予定だったのだ。 静流殿、 行くぞ!」
「は、 はい……」
(何か、 マズい事になってきたなぁ……)

 静流はイヤな予感を感じていた。 
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