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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード57-10

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ヨンリオ・ビュートランド 2階――

 1階でパレードやショーを堪能した沖田たちは、エスカレーターで2階に上がった。

「2階に来たら、 先ずはボートだなっ!」

 そう言った沖田は迷う事無く真っ直ぐに目的地に向かった。

 目的地は『ヨンリオ・キャラクターボートライド』だった。
 このアトラクションは、ボートに乗ってヨンリオのいろんなキャラクターたちの日常生活を見て回るというものだった。
 
「さぁ行こう。 準備はイイな?」

 沖田は意気揚々とゲートをくぐろうとした。
 ゲートの脇に券売機があり、券を買う人が列を作っているが見えたので、静流はあわてて沖田を止めた。

「先生、 券売機は? 並ばないんですか?」 
「問題無い。 コレがあるからなっ」ビシッ

 沖田は例のカードをドヤ顔で静流に見せた。

「ですよねー。 一応聞いてみたんですよ……」

 薄々はわかっていた静流だが、いかにも突っ込んでくれと言わんばかりの仕草だった為、静流なりに気を遣ったのだろう。

「スタッフ、 コレで頼む」ピッ

 沖田がゲートにいる係員にカードを渡すと、係員は読み取り機で確認する。
 
「いらっしゃいませ沖田様、 どうぞお入り下さい」
「うむ。 ご苦労」

 係員からカードを受け取り、ゲートをくぐる沖田たち。
 券売機付近から、一般客らしき人達の視線が二人に集まった。

「さぁ行こう静流殿♪」
「は、 はい……」

 静流は周囲の視線を気にしながら、ぎこちなく先に進んだ。
 こう言ったシチュエーションに慣れていない静流は、優越感などを感じる余裕は皆無だった。

「へぇ~。 ココって2階ですよね? 川が流れてますよ?」
「普通は1階に作るんだろうがな」

 そこは船着き場になっていて、『流れるプール』の様な人工的な水路があった。
 二人掛け3列のボートが静流たちの前に到着した。
 係員がボートをフックで固定し、静流たちに声を掛けた。

「お客様はお二人ですね? ではお乗りください♪」

 先頭に二人が乗ると、直ぐに発進準備にかかる。

「それでは、 しゅっぱーつ♪」

 係員がフックを外すと、ボートはゆっくりと前進を始めた。

「おぉ……動き出したっ」

 ジャングルのジオラマが周囲に広がり、いろんなキャラクターたちが機械仕掛けで動いている。

「凝ってますね。 動きが滑らかだ」
「子供騙しにしては気合が入っているだろう?」

 ボートが緩やかなカーブに差し掛かり、ボートが左右に揺れた。

「うわ……少し揺れるなぁ……」 

 ボートが若干揺れ、静流の顔が強張った。

「多少揺れるが、 怖がる事は無いぞ?」
(ラッキー♪ プチ吊り橋効果だなっ)

 そんな静流をかわいらしく思い、沖田の顔は緩みっぱなしだった。

「子供が乗るんですもんね。 安全なのはわかって――うわっ!」
 
 静流がそう言った瞬間、ボートに衝撃が走った。


 グワァァン……


「結構揺れましたね? 怖がらせようとしてるんですか?」
「そんな筈は……ん? 何だお前は?」

 沖田が後ろを向くと、後ろの座席にパンダのキャラクターが座っていた。

「あっ!『ダレぱんだ』だっ!」
「まさか、 飛び乗って来たとでも言うのか?」

 船着き場からはとっくに離れており、可能性があるとすれば先ほど差し掛かったジャングルのジオラマのあたりだろうか?

「おかしい。 着ぐるみはこのアトラクションにはいない筈だ……」

 沖田は眉間にしわを寄せ、ダレぱんだを睨んだ。

「まぁイイじゃないですか! このアトラクションって、10分ぐらいでしたよね?」
「ああ……そうだな……」

 通常とは違う度重なるアクシデントに、沖田は黙考し始めた。

(まさか、 妨害されている……のか?)

 薄暗いジャングルを抜けると、一変してパステルカラーのファンシーなエリアに入った。
 『スナモンロール』や『ムチムチプルリン』がお菓子の家から出て来る所だった。

「……んせい、 先生!」
「はっ!? ど、 どうした静流殿?」

 気が付くと静流の顔が自分の目の前にあり、動揺する沖田。

「この先で撮影があるんですって! 知ってました?」
「あ……ああ、 そうだったな」

 心配そうな顔の静流を見て、沖田はフッと自虐的に笑った。

「バカか吾輩は……このシチュ、 楽しまないでどうする!?」

 沖田は右手を固く握り、本来の目的を再確認した。
 間もなく撮影スポットが近づいて来た。

「よぉーしっ! ダレぱんだと記念写真を撮るぞぉーっ!」 
「おーっ!」

 満面の笑顔でポーズを取る二人と1体だった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ヨンリオ・ビュートランド 2階 制御室――

 2階のアトラクションを管理する制御室で、スタッフに指示する者がいた。
 ビュートランドのスタッフとは違う、タイトなスーツ姿の女だった。

「例のVIPは今ドコにいる?」  
「えーっと、 今はボートライドにいますね」

 監視カメラを切り替えると、静流と沖田の乗ったボートが映し出された。
 スーツの女は画面に映った沖田の緩んだ顔を見て即座に反応した。 

「接近しすぎだ! 誰か手すきの奴を向かわせろ」
「では、 『ダレぱんだ』に行かせましょう」

 スーツの女は腕を組み、画面を見つめながらボソッと呟いた。

「全く、呑気なものだな……」
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