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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード57-9

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ヨンリオ・ビュートランド 1階――

 パレードを観終わった静流たちは、株主専用席をあとにした。

「よし! 次は吾輩が推奨する『阿鼻叫喚アニマル』のショーを観に行くぞ!」

 沖田は『生命の樹』を中心に設置された4つのステージの一つを指さした。

「あ、 それって美千留が好きなキャラです!」
「妹君が? ならばグリチケを取得しておこう♪」

 沖田は何かの券売機に例のカードを挿入した。
 『グリチケ』とはグリーティングチケットの略であり、希望のキャラクターと写真撮影をする際の整理券である。
 タッチパネルで好きなキャラクターを選び、『決定』のボタンをタッチした。

「これで良し! さぁ、 ショーを観よう!」
「え? あ、 はいっ」

 沖田はさりげなく静流の手を握り、ズンズンと前進した。
 静流は驚きはしたが特に嫌がっている様子はなかった。

(よしっ! 今回は邪魔が入らなかったぞ!)

 冬休み真っ最中のせいか、親子連れに混じりカップルも相当数いた。
 沖田に手を引かれながら、静流は周囲をキョロキョロと見渡した。

「へぇ~。 知らなかったな……ココってデートスポットでもあるんですね?」
「左様! ココは多魔地区の隠れたデートスポットなのだ!」

 沖田は自慢げにこの施設の立地条件等を説明した。

「成程。 地域振興にも一役買ってるわけですね?」
「そう言う事だ。 さぁ着いたぞ♪」

 二人は程なく『阿鼻叫喚アニマルのうきうきバトルロイヤル』と書かれた看板があるステージに着いた。
 中に入り、適当な場所に座ると直ぐにショーが始まった。

 ステージではウサギとクマのキャラクターが睨み合っている。
 他のメンバーはライオン、ウォンバット、イルカ、フクロウだった。

「あ!『断末魔ウサギ』と『自堕落クマ』だ!」
「ほぉ。 良く知ってるね?」
「実は……あのキャラクターのぬいぐるみをゲーセンで捕るのに、 めちゃめちゃ苦労したんですよ……」

 静流はヤス子たちと腐中にあるゲーセンのUFOキャッチャーで『阿鼻叫喚アニマル』を捕るのに苦労した事を思い出し、苦笑いした。
 その後もライオンやウォンバット等の名前を言い当てる静流に、沖田は感心した。

「素晴らしい。 妹君による教育の賜物だな♪」

 ショーと言ってもちょっとしたコントのようなもので、ストーリーなどは皆無である。
 あからさまな暴力表現は無いが、取っ組み合いである事は確かだった。

「静流殿はこの後の展開、 どう読む?」 
「んと、 そうですねぇ……」
 
 静流は顎に手をやり、ステージを眺めながら考えた。

「普通に考えるとクマかライオンでしょうけど、 それじゃあベタ過ぎて面白くないです」
「ふんふん、 それで?」

 沖田は興味津々で静流の考察を聞いている。

「フクロウが【催眠音波】を発生させて無力化させる、 とか?」
「成程、 斬新な発想だね。 さぁ答え合わせだ」

 沖田に得意げにそう言われ、静流はステージに注目した。
 結果は予想を遥かに超えるものだった。

「は? どゆこと?」

 ステージの袖付近から大きなクジラが口を大きく開け、キャラクターたちが立っている床が動き出し、次々とクジラの方に吸い寄せられて行き、そして消えて行った。
 シュール過ぎる結末に、静流はキョトンとして首を傾げた。

「やられました……最後に『世紀末クジラ』が全てを飲み込んでしまうとは……」
「所詮子供相手のシナリオだからな。 この位ブッ飛んでいた方がウケは良いだろう」

 反対側の袖からキャラクターたちが再び現れ、フィナーレとなった。

「次はさっきのキャラたちと記念撮影するぞっ!」



              ◆ ◆ ◆ ◆



ヨンリオ・ビュートランド 1階 きゃらぐりスポット――

 『きゃらぐりスポット』とは、キャラクターと写真撮影をする為のスポットであり、沖田が先ほど取得した『グリチケ』を使う所である。

「順番が来た! いくぞ♪」

 ウキウキの沖田に比べ、静流はどこかぎこちなかった。

「ん? 何してるんだ? 早く来たまえ♪」
「は、 はい……」
 
 周りがたまたま子どもたちばかりだった為、高校生の二人が目立ってしまったようだ。
 沖田に促され、静流はもたつきながら台に上がった。

「何か……照れますね」ポォォ

 『阿鼻叫喚アニマル』たちに囲まれ、静流の顔に赤みがさした。


「「「「「ばっふぅぅぅん♡」」」」」


 恥ずかしがっている静流を見た沖田と、何故かアニマルたちまで大きくのけ反った。
 沖田は端末でキャラクターたちを撮影し始めた。

「イイねそのポーズ! はい、 撮るよ~♪」パシャ

 沖田はキャラクターにポーズをとらせ、写真に収めていく。

「よし! ひと通り撮ったな。 次は静流殿、ココに立ってくれ」
「え? あ、 はい……」

 沖田はキャラクターたちに声を掛けた。

「おいお前たち! ココにいる静流殿と写真を撮りたい者はいるかぁ?」

「「「「「ギラーン」」」」」

 すると、キャラクターたちの顔が瞬時に静流を捉えた。

「うわっ! 何かコワいな……」

 若干引いている静流に向かい、キャラクターたちがズンズンと迫って来た。
 そしてキャラクターたちが一番を争って小競り合いが始まった。 

「はいそこケンカしなーい!」

 結局じゃんけんで勝った『怒号ライオン』が一番だった。
 
「よ、 よろしく……」

 ライオンは何度も頷き、静流を背後からやさしく包み込む、いわゆる『あすなろ抱き』のようなポーズを取った。
 
「ほらほら静流殿? 表情が固いよ? 笑って♪」
「こ、 こうですか?」ニィ~

 まだ緊張しているのか、笑顔が若干引きつっていた。
 
「次はそうだな……こういうポーズはどうだろう?」
「え? ホントにやるんですか?」

 ノリノリで自堕落クマに静流を『お姫様抱っこ』させる沖田。
 そんな調子で写真を撮りまくった沖田は、係のスタッフに声を掛けた。 

「スタッフ! スマンが写真を頼む!」
「はい! かしこまりましたぁ♪」

 沖田は端末をスタッフに渡し、キャラクターの配置を指示した。 

「はーい! 撮りまーすっ」パシャ

 端末をチェックし、満足げな沖田。

「次は2階でアトラクションだっ!」
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