553 / 611
第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード57-3
しおりを挟む
五十嵐家 静流の部屋――
ついに沖田と『ヨンリオ・ビュートランド』に行く日となった。
沖田から当日は朝7時に家まで車で迎えに来るとの事で、静流は目覚ましを3個仕掛けて寝ていた。
ピーッ・ピーッ・ピーッ!
ピピピピピピピピピピピ!
ジリリリリリリリリリリ!
けたたましく鳴り始める目覚まし時計にも動じず、静流は熟睡していた。
休止モードから回復したオシリスとロディが静流を起こしにかかった。
「静流! 起きなさい!」
「静流様! 起きて下さい!」
オシリスたちに揺さぶられ、身をよじる静流。
「う、 うぅ~ん……」
「ロディちゃん、布団をめくっちゃって!」
「了解!」
豹モードのロディが口で器用に布団をめくり上げた。
「ふわぁ……もう6時なのぉ?……」
布団をめくられた静流は、寒さからか身を丸くした。
そんな静流に背後から手を回して密着している者がいた。
「メルク! アンタ何やってるの? しかもその恰好!?」
「何じゃオシリス? 決まっておろう、 添い寝じゃ♪」
メルクは深夜、静流の布団に潜り込んだ様だ。
煽情的な下着が透けて見える黒いベビードール姿だった。
「お見事です……私のセンサーには掛かりませんでした……」
「当然じゃ♪ どれ、 ログの確認をするかの」
ロディに褒められたメルクは、喜々として自分の脳内をサーチし、昨夜の様子を脳内で再生した。
「ふむ。 胸を2回程揉まれた後は特にいじられた形跡なしか……何じゃつまらん!」
メルクは口をとんがらせて拗ねた。
「アンタねぇ……常時発情型アンドロイドにも困ったもんね……」
オシリスは呆れ声でそう言った。
静流は背後に気配を感じ、ゆっくりと身体を反転した。
「うん?……メ、メルク!? ひゃあ! 何て格好してるの!?」
メルクがあられもない姿で突然現れ、静流は飛び起きた。
「おはよう静流♪ 休みなのに早起きとは感心じゃな♪」
「いつから布団の中に? まさか……」
「おう。 勿論夜中からずっとじゃな♪」
「オーマイガーッ!」
無邪気に笑うメルクに、静流は頭を抱えてのけ反った。
「無意識に何かしてないだろうな……大丈夫だ。 そんな事僕はしない!」
ブツブツと自分に言い聞かせる静流に、メルクが笑顔で言った。
「安心せい! 胸を2回程揉まれたが、 それ以上は何も無かったぞ!」
「うわぁぁ、 やっちゃってる……」
静流はまた頭を抱えてのけ反った。
「何かうわ言を言うておったぞ? 『あぁ、 ミリアさまぁ~』とか」
「え? そんな事言ってた? 全然覚えてないな……恥ずかしい!」
顔を真っ赤にしてベッドに顔をうずめる静流。
「ミリアって女神様の?」
「そう。 多分ね……」
ミリア様とは恐らく『地母神マキシ・ミリア』の事で、あの学園の礼拝堂にあった女神像である。
「女神が夢枕に立ったって言うの?」
「わからない……とにかくこの件は事故みたいなものだから、 ノーカンだよメルク?」
「まぁ、 ワシにとってはどうでもイイがな」
メルクはつまらなそうにそう言った。
◆ ◆ ◆ ◆
五十嵐家 居間――
洗面所で顔を洗い、静流は居間に行った。
居間には食卓が用意され、美千留が朝食をとっていた。
「おはよ」
「おーす」
軽く挨拶を交わした二人は、それ以降無言で黙々とご飯をかきこんでいた。
朝食のメニューはご飯とワカメのみそ汁、鮭の切り身と沢庵だった。
「静流? 早く起きてどこか行くの?」
「うん、 ちょっとね……」
母親のミミに聞かれ、歯切れの悪い返事をする静流。
「そう言えば薫クン大きくなったわねぇ? 見違えちゃったわぁ♡」
ミミは先日の忘年会で撮った記念写真を見て、嬉しそうに言った。
「モモ姉さんは相変わらず不愛想な顔してるけど、具合はどうだったの?」
「元気だったよ。 顔を出すように言ったんだけど、上手く避けられちゃったよ……」
ミミの双子の姉であるモモは、エルフの里では双子は忌まわしい物とされ、双子である事を偽装していた事がバレてしまい、里を追放された上、謎の機関により『流刑ドーム』に長い間幽閉されていた。
「仕方ないわよ……でも、 もう少しの辛抱だから」
そう言ったミミの顔は寂しげだった。
「しず兄、 わかってるよね?」
突然美千留が仏頂面で話しかけて来た。
「わかってるって。 でも売り切れの時は勘弁してくれよな?」
「だから優先順位を付けたの。 特に限定品は要注意だよ?」
美千留は指で静流を指しながら、上から目線で言った。
「何だか遊びに行くのにミッションみたいだな……」
静流は溜息混じりにぼやいた。
そんな静流に、美千留は親指を立てて精一杯低い声で言い放った。
「貴君の健闘を祈る!」
◆ ◆ ◆ ◆
七日市街道を走る一台のペパーミントグリーンの大型車。
俗に言う『リムジン』と呼ばれる、ホイールベースが異常に長い車だった。
外車の『ハマー』を改造したものと思われ、対向車がすれ違う際に避けてしまうほどであった。
「運転手、 到着は時間キッカリで頼むぞ?」
社内は運転手側に長いソファーが、助手席側にはカクテルが作れるテーブルが設置されている。
後部座席の部分は大人4人が余裕で座れるソファーとなっており、その中央にどかっとふんぞり返って座っている沖田がいた。
「はっ! かしこまりましたでありますっ!」
沖田の横柄な言い回しに、運転手はぎこちなく答えた。
運転席とは壁で仕切ってあり、のぞき窓が付いていた。
沖田は運転手の声や口調に何か引っかかった。
「うん? どこかで会った事あったか?」
「いえ、 それは無いのあります。 今日が初仕事なのでありますから」
上官と話す際に使う堅苦しい口調に、既視感の様なものを感じていた沖田。
「そうか。 気のせいだったか。 貴殿は従軍経験があるのか?」
「はい。 かつては戦闘ヘリやMT等の操縦を少々……」
「ほぅ。 それはスゴい。 精鋭だったんじゃないか?」
「それ程でも。 まぁ、 昔の事でありますから……」
そう言って謙遜している運転手の後頭部が覗き窓から見え、制帽からはみ出した綺麗なサファリオレンジの髪がチラと見えた。
ついに沖田と『ヨンリオ・ビュートランド』に行く日となった。
沖田から当日は朝7時に家まで車で迎えに来るとの事で、静流は目覚ましを3個仕掛けて寝ていた。
ピーッ・ピーッ・ピーッ!
ピピピピピピピピピピピ!
ジリリリリリリリリリリ!
けたたましく鳴り始める目覚まし時計にも動じず、静流は熟睡していた。
休止モードから回復したオシリスとロディが静流を起こしにかかった。
「静流! 起きなさい!」
「静流様! 起きて下さい!」
オシリスたちに揺さぶられ、身をよじる静流。
「う、 うぅ~ん……」
「ロディちゃん、布団をめくっちゃって!」
「了解!」
豹モードのロディが口で器用に布団をめくり上げた。
「ふわぁ……もう6時なのぉ?……」
布団をめくられた静流は、寒さからか身を丸くした。
そんな静流に背後から手を回して密着している者がいた。
「メルク! アンタ何やってるの? しかもその恰好!?」
「何じゃオシリス? 決まっておろう、 添い寝じゃ♪」
メルクは深夜、静流の布団に潜り込んだ様だ。
煽情的な下着が透けて見える黒いベビードール姿だった。
「お見事です……私のセンサーには掛かりませんでした……」
「当然じゃ♪ どれ、 ログの確認をするかの」
ロディに褒められたメルクは、喜々として自分の脳内をサーチし、昨夜の様子を脳内で再生した。
「ふむ。 胸を2回程揉まれた後は特にいじられた形跡なしか……何じゃつまらん!」
メルクは口をとんがらせて拗ねた。
「アンタねぇ……常時発情型アンドロイドにも困ったもんね……」
オシリスは呆れ声でそう言った。
静流は背後に気配を感じ、ゆっくりと身体を反転した。
「うん?……メ、メルク!? ひゃあ! 何て格好してるの!?」
メルクがあられもない姿で突然現れ、静流は飛び起きた。
「おはよう静流♪ 休みなのに早起きとは感心じゃな♪」
「いつから布団の中に? まさか……」
「おう。 勿論夜中からずっとじゃな♪」
「オーマイガーッ!」
無邪気に笑うメルクに、静流は頭を抱えてのけ反った。
「無意識に何かしてないだろうな……大丈夫だ。 そんな事僕はしない!」
ブツブツと自分に言い聞かせる静流に、メルクが笑顔で言った。
「安心せい! 胸を2回程揉まれたが、 それ以上は何も無かったぞ!」
「うわぁぁ、 やっちゃってる……」
静流はまた頭を抱えてのけ反った。
「何かうわ言を言うておったぞ? 『あぁ、 ミリアさまぁ~』とか」
「え? そんな事言ってた? 全然覚えてないな……恥ずかしい!」
顔を真っ赤にしてベッドに顔をうずめる静流。
「ミリアって女神様の?」
「そう。 多分ね……」
ミリア様とは恐らく『地母神マキシ・ミリア』の事で、あの学園の礼拝堂にあった女神像である。
「女神が夢枕に立ったって言うの?」
「わからない……とにかくこの件は事故みたいなものだから、 ノーカンだよメルク?」
「まぁ、 ワシにとってはどうでもイイがな」
メルクはつまらなそうにそう言った。
◆ ◆ ◆ ◆
五十嵐家 居間――
洗面所で顔を洗い、静流は居間に行った。
居間には食卓が用意され、美千留が朝食をとっていた。
「おはよ」
「おーす」
軽く挨拶を交わした二人は、それ以降無言で黙々とご飯をかきこんでいた。
朝食のメニューはご飯とワカメのみそ汁、鮭の切り身と沢庵だった。
「静流? 早く起きてどこか行くの?」
「うん、 ちょっとね……」
母親のミミに聞かれ、歯切れの悪い返事をする静流。
「そう言えば薫クン大きくなったわねぇ? 見違えちゃったわぁ♡」
ミミは先日の忘年会で撮った記念写真を見て、嬉しそうに言った。
「モモ姉さんは相変わらず不愛想な顔してるけど、具合はどうだったの?」
「元気だったよ。 顔を出すように言ったんだけど、上手く避けられちゃったよ……」
ミミの双子の姉であるモモは、エルフの里では双子は忌まわしい物とされ、双子である事を偽装していた事がバレてしまい、里を追放された上、謎の機関により『流刑ドーム』に長い間幽閉されていた。
「仕方ないわよ……でも、 もう少しの辛抱だから」
そう言ったミミの顔は寂しげだった。
「しず兄、 わかってるよね?」
突然美千留が仏頂面で話しかけて来た。
「わかってるって。 でも売り切れの時は勘弁してくれよな?」
「だから優先順位を付けたの。 特に限定品は要注意だよ?」
美千留は指で静流を指しながら、上から目線で言った。
「何だか遊びに行くのにミッションみたいだな……」
静流は溜息混じりにぼやいた。
そんな静流に、美千留は親指を立てて精一杯低い声で言い放った。
「貴君の健闘を祈る!」
◆ ◆ ◆ ◆
七日市街道を走る一台のペパーミントグリーンの大型車。
俗に言う『リムジン』と呼ばれる、ホイールベースが異常に長い車だった。
外車の『ハマー』を改造したものと思われ、対向車がすれ違う際に避けてしまうほどであった。
「運転手、 到着は時間キッカリで頼むぞ?」
社内は運転手側に長いソファーが、助手席側にはカクテルが作れるテーブルが設置されている。
後部座席の部分は大人4人が余裕で座れるソファーとなっており、その中央にどかっとふんぞり返って座っている沖田がいた。
「はっ! かしこまりましたでありますっ!」
沖田の横柄な言い回しに、運転手はぎこちなく答えた。
運転席とは壁で仕切ってあり、のぞき窓が付いていた。
沖田は運転手の声や口調に何か引っかかった。
「うん? どこかで会った事あったか?」
「いえ、 それは無いのあります。 今日が初仕事なのでありますから」
上官と話す際に使う堅苦しい口調に、既視感の様なものを感じていた沖田。
「そうか。 気のせいだったか。 貴殿は従軍経験があるのか?」
「はい。 かつては戦闘ヘリやMT等の操縦を少々……」
「ほぅ。 それはスゴい。 精鋭だったんじゃないか?」
「それ程でも。 まぁ、 昔の事でありますから……」
そう言って謙遜している運転手の後頭部が覗き窓から見え、制帽からはみ出した綺麗なサファリオレンジの髪がチラと見えた。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる