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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード57-2

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ワタルの塔 2階 応接室――

 保養所から帰って来た次の日、塔の応接室では忍たちが睦美と談話していた。

「昨日言ってた『策』って何?」
「そうよ睦美! ちゃんと説明しなさい!」バァン!

 薫子が机を叩いて睦美に迫った。
 沖田が保養所の忘年会に参加出来なかった為、静流が気を遣って沖田の希望を叶える事となり、沖田の希望は静流と二人だけで『ヨンリオ・ビュートランド』に行く事であった。
 その事を後で知った忍たちは憤慨したが、睦美に説得されて現在に至る。

「まぁまぁ落ち着いて下さい。 今説明しますから」
「落ち着いてなんかいられないわ! 早く何とかしないと……」
 
 そこで忍がいつもより低めの声で言った。

「ドローンで監視する程度は『策』とは言わないから……」
「わ、 わかってますって。 もっと画期的な方法ですから……」

 忍からのプレッシャーを感じながら、睦美は説明を始めた。

「彼奴は潤沢な資金に物を言わせ、『株主特権』を最大限に利用するつもりです」
「アイツってそんなに金持ちなの?」
「そりゃあベストセラー作家ですからね。 毎年かなりの印税が入っていると思われます」

 塵芥川賞を取った処女作を始め、現在3作の小説を発表している沖田は、幅広い読者層によりそこそこの収益を持たらしている。

「それじゃあ敵わないじゃない! お金なんて無いし……」
「それが……ある所にはあるんですよねぇ~♪」

 みるみる顔が青くなる薫子に、睦美は得意げに言った。

「要は『金には金を……』と言う事ですよ。 フフフフ」

 睦美の不敵な笑いに、姉たちは顔を見合わせた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



五十嵐家 静流の部屋

 静流は明日行く『ヨンリオ・ビュートランド』について、美千留から講義を受けていた。
 この件にはほとんど関係ない真琴も、何故か講義に参加している。

「先ずはココでキャラクターたちによるショーを観る!」 

 ビュートランドの見取り図を見せながら美千留が熱弁している。
 館内1階には中央の『生命の木』を囲うように4つのショーステージがあり、多種多様なショーが用意されている。

「上演時間をチェックして、 順番通り観ていく!」
「ショーは無料だから、 優待とか期待しない方がイイわよ?」
「そうなのか? 並ばなくてイイって言ってたのになぁ……」

 美千留は真琴が言った事のある点に疑問を感じた。

「マコちゃん、 何その『優待』って?」
「え? ああ、 それはな……」

 沖田が『ヨンリオ』の株を所有している為、『株主優待』を受けられる事を代わりに静流が説明した。

「なっ!? 何よそのチート!」

 美千留は驚きと怒りで顔を赤くした。

「アトラクションなら優先して乗れるって先生が言ってたぞ?」
「確かにスタッフの誘導付きで横入りされたりした事あったな……むぅぅ」

 美千留は顎に手をやり、低く唸った。

「株主専用のゲートもあるらしいぞ?」
「ぐぬぬ……恐るべし株主!」
 
 自慢げに語る静流。美千留は奥歯を噛みしめて悔しがった。
 そんな美千留に、静流は諭すように言った。

「株主ならお金を出している手前、 それ位の特典があってもイイじゃないか」
「株主って、どの位株を持てばなれるの?」
「さあね。 聞いたけど教えてくれなかったよ」
「アノ人の事だから、相当持ってるんじゃないかしら?」
「まぁ、 所詮庶民の僕たちには関係無い事だからね」

 そう言って静流は興味の無い話題を終わらせた。
 気を取り直して美千留が続けた。

「次のポイントは、 随時配布される『グリーティングチケット』をゲットする事!」
「何だよそれ? まだチケットが要るの?」

 美千留の言う事がさっぱり理解できない静流。

「しず兄……真面目に楽しむ気、 あるわけ?」
「遊びに行くのに真面目も不真面目も無いだろ?」

 静流は全力でツッコんだ。

「甘いな。 しず兄は甘い……」

 美千留は大きな溜息を吐いた。
 グリーティングとは、園内を周回しているキャラクターが写真撮影や握手などを行う事を指す。
 つまり『グリーティングチケット』とは、園内に点在する「きゃらぐりスポット」と呼ばれる場所で、キャラクターと写真撮影ができる整理券の事である。
 整理券があると言う事は定員があるわけで、人気のキャラクターはすぐに定員に達してしまう事もあるらしい。 

「流石に株主の力もここまでは及ばないでしょうね?」
「何か面倒な事になって来たぞ……」

 真琴になじられ、少し不安になる静流。

「大丈夫! 私が予想した場所を逐一チェックしていれば取りこぼしは無い!」
「ふぅん。 やけに自信ありげだな?」
「年季が違うの! 私に任せなさい!」

 美千留はドヤ顔でそう言った。



              ◆ ◆ ◆ ◆


 沖田の自宅――

 とある雑居ビルの一室。
 生活感の感じられない部屋には、何やら物凄い超望遠レンズが付いた天体望遠鏡が設置してあり、望遠鏡の向いている先は五十嵐家であった。
 今まさに静流が美千留からビュートランドの攻略法の講義を受けている所だった。

「フムフム。 予習とは感心感心♪」

 沖田は望遠鏡を覗き込みながらニヤけた。

「スケジュールは完璧に把握しているし、 明日は美千留嬢の手を煩わせずとも完璧にやり遂げて見せよう! ハッハッハ!」

 沖田は高笑いして右手を力強く握りしめた。

「よぉし! 明日は静流殿と思う存分遊び倒すぞぉ♪」
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