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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-107

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保養施設 1Fロビー 

 チェックアウトを済ませたアマンダが一同に言った。

「はいみんな注目! 支配人から『お言葉』があるらしいの」

 支配人らしき初老の男性が、奥から歩いて来た。

「皆さま、今回はご堪能頂けたでしょうか?」 

「そりゃあもう。 大満足よぉ♪」
「ぜーったい、 また来まぁす♪」

「ありがとうございます」

 客たちの反応に手応えを感じ、支配人は深々と頭を下げた。

「世界各地に20箇所存在する保養所のランキングでトップ5に我が施設が選出されたのも、ひとえにご利用者のお陰でございます」

 そして支配人は、静流の前に来て一礼した。

「五十嵐静流様、 この度は当保養所をご利用頂きありがとうございました」
「こ、 こちらこそお世話になりましたっ」ペコリ

 支配人に最敬礼された静流は、ぎこちなく頭を下げた。
 すると支配人は静流に耳打ちした。

(マダムたちの評判も上々でしたよ。 またお願いしますね?)
(は、 はぁ……)

 支配人が後ろに下がると、いつの間にかスタッフたちがずらっと整列していた。

「では、 またのご利用、 お待ちしております」


「「「「ご利用、 ありがとうございましたぁーっ!」」」」

 一斉に頭を下げ、客を見送るスタッフたち。

「お世話様♪」
「また来まーす!」
「ねぇねぇ、他の保養所に行った事ある?」
「あるよぉ。 火山が噴火してる所」
「ああ、どっかの山奥にあったね。 ちょっとコワい所……」
「私は北極近くの保養所に行った事あるわよ?」
「流氷を見ながらのお風呂は格別でありましたな」
「何それ、 行ってみたーい!」

 ロビーを出た者たちは、それぞれ勝手な事を言い合いながら、ラプロス壱号機がある駐機場に向かった。

「さぁ! 無事に家に着くまでが遠足よぉ♪」

 アマンダは引率の先生のような口ぶりだった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設 駐機場――

 駐機場に着き、ココナは何もない空間に向かい、指パッチンした。


「「おぉ~っ!」」


 ココナの合図で不可視化を解除したラプロス壱号機が姿を現した。
 ドラゴン型M・Tの壱号機は頭部を下げ、搭乗時モードになっていた。
 壱号機の横に、APCと呼ばれている『装甲兵員輸送車』が停車している。

「皆の者! コスチュームチェンジだ!」

「「「はいっ! 姫様!」」」

 ココナが部下たちを呼ぶと、色んな道具を持った部下たちがココナを取り巻いた。


「コスチューム、チェーンジ!」


 ココナが叫ぶと同時に、フラフープ大きなに布を縫い付けたような道具を被せ、早着替えが始まった。

「ほれっ! 早くせんかっ!」
「ちょっと待ってください!」
「姫様、 コレを」
「そんなもの要らん!」
「えっ? まさかノーブ――」
「しぃっ! 声がデカいぞ?」

 布の中で何やらもぞもぞとやっていたが、着替えが終わったようだ。
 ココナは右手を挙げて指パッチンすると、布が落下してココナの姿が現れた。

「フッ、 待たせたな……」

 ぴちっとしたパイロットスーツは、均整の取れたボディラインがくっきり出て実にセクシーだった。 
 静流のいる方向を向いてポーズをとり、少し前かがみになって胸の谷間を強調した。

「静流殿、 どうかな? 今すぐむしゃぶりつきたくはならんか?」
「なりませんよ! でも何か行きの時より違うような……」

 静流はココナの身体を注意深く観察した。

「イイぞ……もっと見てくれ。 温泉で肌を磨いた甲斐があったな♪」

 そんな時、ココナの隣に瞬歩で近付いた者がいた。

「静流! ワシも準備完了じゃ!」
「メルク……」

 メルクリアはピタッとしたパイロットスーツの様なものを着ていた。
 ココナと並ぶと最早ココナの姿がかすんで見えるようだった。

「ほれほれどうじゃ? 温泉に溶け込んでおったナトリウムやマグネシウムが人工皮膚に程よい潤いをもたらしたのだっ!」
「お、 おぅ……」

 静流はメルクリアのパーフェクトボディに目を奪われている。

「帰りはワシが添い寝してやろう。 良き旅をくれた礼じゃ♪」
「そ、 そんなのイイってば」
「な、 何を言っている! アレのマスターはあくまでも私だっ!」

 静流に甘える無邪気なメルクに、ココナは憤慨した。

「お主が決める事じゃあるまい。 な? 静流っ♪」
「ひぃっ!」

 メルクに胸を押し付けられ、静流は小さい悲鳴を上げた。

「静流殿が嫌がっておる。 離れよメルク!」
「外見はNOだが、 果たして内面はどうかのう?……ほれほれ」

 グニグニと胸を押し付けられ、静流は赤面しながら言った。

「帰りは……みんなと一緒がイイ」
「何ィィ!? バカな……ワシの『誘惑光線』が効かん、 だと?」

 メルクの身体はかつて壱号機のブラックボックスに収納されていたアンドロイドだ。
 その要素は主であるパイロットをあらゆる面でサポートし、極めつけはパイロットの性的欲求を満たす事も含まれていたのだ。
  
「残念だったなメルク。 静流殿の『鋼の貞操観念』を前にして、 さしもの万能セクサロイドでも打つ手なしだなっ!」
「くぅぅ、 無念じゃ……」

 ココナは勝ち誇ったように腰に手を当てて高笑いした。

「はーっはっはっは……ん?」

 ふと見回すと、周りにはほとんど人はいなかった。
 ココナは横にいた部下の夏樹に聞いた。

「おいナッキー、 皆はどこだ?」
「姫様、 もうAPCに乗り込んでいますよ?」
「何ィ!? 静流殿もか?」
「ええ。 とっくに……」 
 
 数秒ポカンとした顔だったココナは、瞬時に真顔になった。

「点呼が済み次第離陸する! メルク、 お前は私とコクピットだ!」
「やかましい!……わかっておるわい」

 テンションの低さで、メルクの憔悴ぶりがイタいほどわかった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



APC内 仮眠室――

 APCの中と繋がっているインベントリ内にある仮眠室には、睡眠カプセルがずらっと並んでいる。 

「さぁみんな! 順番に体内時計の調整を始めるわよっ!」

「「はぁーい」」

 アマンダの指示に、素直に従う部下たち。
 数回使用している為、慣れた手つきで睡眠カプセルに乗り込んでいる。
 そんな様子を見て、静流が神妙な面持ちでアマンダに近付いた。

「アマンダさん、 ちょっとお願いが……」
「なぁに静流クン? もしかして添い寝して欲しいとか?」
「そんな事じゃありません!」

 おどけて見せるアマンダを、一蹴した静流。

「冗談でしょ? で、 何かしら?」
「朔也さんの件でどうも引っかかる事がありまして……」

 静流は『ワタルの塔』がある『砂の惑星』が、朔也が囚われている『惑星カサンドラ』ではないかと思っている。

「確かに符合する点があるのは、 リリィたちとも話していたのよ……」
「それで、 あの星にある『宇宙船の残骸』を調べたいんですけど……」

 恐る恐る聞いて来た静流に、アマンダはニコッと微笑んだ。

「任せて頂戴! 元々アノ宇宙船はウチで調査する予定だったし」
「ありがとうございますっ!」パァァ
「あふぅん」
 
 アマンダは静流のニパを食らって若干よろけた。

「インベントリに宇宙船をサルベージして、 じっくり調査する予定なのよ」
「流石アマンダさん! ぬかりないですねっ♪」
「当然よ♪ 宇宙船の構造を丸裸にするわっ!」

 静流におだてられ、アマンダはふんぞり返った。

「とにかく、 調査の詳細がわかったら連絡入れるから」
「よろしくお願いします」ペコリ

 静流はアマンダに最敬礼した。
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