拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-106

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保養施設内 お土産コーナー

「ふぅ。 やっと終わったぁ……」 

 ツーショット写真を全て撮り終えた静流は、軽く伸びをした。

「よぉし、 お土産コーナーに行こっと♪」

 ウキウキしながらお土産コーナーに行くと、何やら思い空気が漂っていた。

「困りますねぇ……商品化には版元の許可が要るんですよ?」
「女神様に著作権も登録商標も無いでしょう? だったらイイじゃないですか?」
「ありますよ! 女神様の具現化には私共が携わっておりますので……」

 お菓子のブースで保養所の偉い人らしき人と言い争っていたのは、睦美を筆頭とした『桃魔』の連中だった。

「睦美先輩? どうしたんですか?」
「ん? ああ、 ちょっとマズい事があってね……」

 静流は睦美たちの横に陳列されているお菓子を見た。

『ククルス島銘菓 シズルカ饅頭』
『ククルス島銘菓 セタップ羊かん』
『ククルス島銘菓 メテオ・ブリージング煎餅』

「シズルカのお菓子? へぇー」

 静流は饅頭の箱を手に取り、感心していた。
 箱には学園に寄付したシズルカの像が見事に描かれていた。

「よろしければ、 いかがです?」
「え? イイの?」

 ニコッと微笑みながら店員が試食用のお盆を静流の前に出すと、静流は先ず饅頭に手を付けた。

「どれどれ……ん~♪ 甘ぁ~い」ニパァァァ


「「「「きゃっふぅぅぅ~ん♡♡」」」」


 静流の渾身のニパに、周囲の者たちは一瞬よろめいた。
 静流は試食品を次々と口に入れる。
  
「うん。 どれもスゴく美味しいよ♪」
「ありがとうございますっ」

 静流は煎餅をかじりながら睦美に聞いた。

「睦美先輩? これの何処がマズいんです? とっても美味しいですよ?」

 不思議そうに首を傾げる静流に、睦美は気まずそうに言った。

「味の問題じゃないんだよ静流キュン。『無許可』でシズルカの名を冠する事がマズいのだよ……」
「だったら許可を出しましょうよ。 味なら僕が太鼓判を押しますから」ニパァ
「し、 静流キュン……」
 
 満面の笑みで見つめられた睦美は、緩んだ顔を瞬時に引き締めて偉い人に言った。

「コホン! シズルカのモデルである静流キュンのたっての願いとなれば、 無下にも出来まい……」
「では、 よろしいので?」

 偉い人はもみ手をしながら睦美の様子を窺った。

「許可します! ですから速やかに申請をお願いしますよ?」
「ありがとうございますっ!」

 偉い人は睦美に何度も頭を下げた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 無事に商品が合法化したお礼にと無料でお土産をゲットした静流は、満面の笑みを浮かべた。

「やったぁ♪ 店の人ホント気前イイよね?」
「つくづく思うけど、 静流ってホントおめでたいヤツだよな……」

 貰った煎餅をかじりながら、達也はそう呟いた。

「そんな事言うヤツにはもう上げないよぉ~♪」

 そんな態度の達也がかじっていた煎餅を静流はひょいと取り上げた。

「あ、 コラ! 取り消すっ! 取り消すから!」
「さぁて、 どうしようかなぁ~♪」

 無邪気にはしゃいでいる静流たちを眺め、睦美は周囲にも聞こえない位の音量で呟いた。

「済まない静流キュン……高校生のキミにとんでもない重荷を背負わせてしまって……」

 その呟きに反応した者たちがいた。

「アナタも高校生でしょ? おマセさん?」
「木ノ実先生と、 伯母上?」

 国尼で司書教諭をしているネネと、静流の伯母のモモだった。

「今後もあの子に何かやらせるつもりなんでしょうけど、 心配無用よ。 なんせウチの家系だからね」
「そうね。 当分退屈はしそうにないわね。 フフフ」

 そう言った二人の大人の女性に、睦美は深く溜息を吐いた。

「ふぅ……敵わないなぁ」

 睦美は肝心な所をぼかしながら水面下で進んでいる計画を二人に説明した。

「そんな事、 ホントに出来るの?」
「余りにも荒唐無稽過ぎるわね……」

 驚愕する二人に、睦美は不敵な笑みを浮かべて言い放った。

「恐らく! 3学期が我々の今後の行方を左右する分水嶺となるでしょう! ハッハッハ」 



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設内 宿泊棟 『デルフィニウムの間』

 昨夜ジンと弥七によってフルンチングの【浄化】に付き合わされたキャリーとフジ子。
 ジンたちに何度も昇天させられた二人は、満足げに寝息を立てていた。
 一方、同じ部屋でシズルーのオイルマッサージで昇天したジョアンヌとカミラが先に目が覚めた。

「う、 う~ん……はっ!」

 目が覚めたジョアンヌは壁の時計をみるなり、隣で気持ちよさそうに寝ているカミラを叩き起こした。
 
「ねぇカミラ! 起きてカミラ!」
「うにゅぅ……あれ? あたしのシズルー様は?」

 カミラは辺りを見回した。

「寝ぼけてないで! 今は午前10時よ!」
「へ? もうそんな時間なの?」

 ジョアンヌはキャリーたちが寝ている別のベッドに近付いた。

「ひっ!?」
「どうしたのジョアンヌ? うわぁ……」

 キングサイズのベッドで寝ているキャリーたちの布団をめくると、二人は全裸だった。
 たちまちメスの香りが周囲を覆い、カミラは目を細めた。

「あの後乱交パーティーでもやったの?」
「相手は誰!? 聞き捨てならない!」

 ジョアンヌは血相を変えてキャリーたちを起こした。

「ママ! 起きてママ!」
「あふぅ……もう少し寝かせて頂戴……」 
「フジ子さん!? アナタも起きて下さい!」
「もうちょっと……昨夜の情事を脳内ストレージに保管しますので……」

 数分間そんな調子が続き、キャリーたちがやっと目を覚ました。

「騒々しいねぇアンタたち……何か事件でもあったの?」
「事件と言えば、昨夜は最高にエキサイティングな夜でしたわ……ヌフ」

 フジ子は天井の方をぼぉーっと見つめながらそう言った。
 隣に寝ていたのがフジ子だとわかると、キャリーの目が大きく開かれた。

「何でフジ子が?……えっ!? じゃあアレは夢じゃなかったの?」
「夢……そうね。 夢だったのかもしれない……フフフ」
 
 フジ子は淫靡な笑みを浮かべながらポツリと呟いた。
 ジョアンヌは眉間にしわを寄せ、恐る恐る二人に聞いた。

「昨夜一体何があったんですか?」

 その問いに、二人の顔が赤らんだ。

「そんなの決まってるじゃない……むふぅ」
「蠱惑……魅惑……淫靡で素敵な夜だった……」

 ジョアンヌは逡巡しながらも二人に聞いた。

「その相手は……誰です?」


「「あぁ、 ジン様ぁ~♡♡♡」」


 二人はそう叫んでベッドに倒れ込んだ。
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