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第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード56-99
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露天風呂 男湯――
達也を混浴エリアに送り出した後、薫と談笑していた静流。
「あの野郎、 上手くやってるかな?」
「多分伊藤さんだと思う。 あの二人って、 なんだかんだ言って結構仲イイから」
そんな事を薫と話していた静流に、混浴エリアらしき方向から叫び声が上がった。
「五十嵐クーン! ちょっと来てぇ~! 達也が大変なのぉ~!」
叫び声の主は朋子だ。
「そぉら、 何かやらかしたな?」
「ふぅ……全く世話の焼けるヤツだ……」
静流は大きな溜息を吐き、立ち上がった。
「わかったぁー、 今行くよー!」
「ごめーん!」
そう返事を返し、静流は混浴エリアに向かった。
混浴エリアの手前で立ち止まり、静流が朋子に声を掛けた。
「どうしたの伊藤さん!」
「達也が! 急に倒れたの!」
「何ぃぃ? 倒れたぁ!?」
静流が混浴エリアを覗くと、鼻血を垂れ流しながらノビている達也が浮いていた。
奥に見える朋子の身体には、既にタオルが巻かれていた。
「失礼。 うわ……何でこんな状態に?」
「ちょっと、 刺激が強すぎた……かな?」
朋子は冷静を装っているが、静流にはバレバレだった。
「大方察しは付くけど、 限度ってもんがあるよね?」
「はーい、 済みませーん……」ペコリ
呆れ顔の静流に、朋子は苦笑いで頭を下げた。
「ほら達也! 上がるよ!」
「あぁ、 見える、 見えるぞ……グランド・オダリスク……ヴィーナス誕生……ウヒヒ」
「何言ってんの? ほら、 行くよ?」
意味不明の言葉を呟く達也を肩に担ぎ、混浴エリアを出て行く静流だった。
◆ ◆ ◆ ◆
医務室――
「はっ!? ここは……どこだ?」
覚醒した達也は上体を起こし、辺りを見回した。
視覚で把握できる状況は、自分がベッドで寝かされ、鼻に詰め物をされている事ぐらいだった。
達也のベッドに、誰かが近付いて来た。
「お! 起きたか。 丁度良かった」
「静流?」
両手にフルーツ牛乳を持っている静流は、丸イスに座り達也に片方を渡した。
「ほれ! これを飲んで落ち着け」
「お、 おう……サンキュ」
達也は受け取ったフルーツ牛乳を一気に煽った。
「んぐっ、 んぐっ……プハー! 生き返るぜ♪」
達也はフルーツ牛乳を飲み干すと、意識が完全に戻った。
「もしかして俺、 露天風呂でぶっ倒れたのか?」
「うん。 鼻血吹いてた……スタッフさんの仕事を増やしちゃったね」
「うっ……後で謝罪しとこ……」
達也は自分の身体を確かめ、後頭部をさすった。
「どっかぶつけたか? 洗い場で石鹸でも踏んじまったかなぁ?」
「お前……何も覚えて無いの?」
静流はそう言ってジト目で達也を見た。
「なーんも。 さっぱり覚えてない。 アニキと酒飲んだ事くらいしか……待てよ?」
だんだん記憶がよみがえって来た達也は、次第に顔を青くした。
「いや……そんな事は……夢、 あれは夢だ……」ブツブツ
両手で頭を抱え、静流に聞き取れない位の声で何かを呟いている達也。
「武士の情けだ。 何があったかは聞かないでおくよ……」
そんな事を話していると、カーテンで隠されていた隣のベッドから声が聞こえてきた。
「お兄様……近くにお兄様が……いた!」シャッ!
カーテンが勢いよく開き、ベッドにいたのはカナ子だと判明した。
カナ子は達也同様、鼻に詰め物をされていた。
「カ、 カナちゃん?」
「お兄様! も、 もしかして……混浴イベはもう?」
「う、うん。 もう終わったよ……」
青い顔のカナ子は、静流の気まずそうな顔で全てを理解した。
静流は先ほどカナ子が医務室に行ったと美千留に聞かされていた事を思い出した。
「オーマイガー! 私の……今日イチがぁぁ……」
頭を抱えてもだえ苦しむカナ子に、静流が心配そうに声を掛けた。
「だ、 大丈夫!? 何か飲むかい? ちょっと買って来ようか――」
そう言って静流が丸イスから立ち上がろうとした時、カナ子が静流に言った。
「それ! それがイイです!」
「これ? 僕の飲みかけだけど?」
興奮気味のカナ子が指で指したのは、静流の飲みかけのフルーツ牛乳だった。
「わかった。 同じものを買って来ればイイんだね?」
「そうではなくて……その飲みかけがイイのです!」ハァハァ
そう言ったカナ子は、静流の手元を血走った目で見ていた。
戸惑っている静流に、達也が声を掛けた。
「静流、 察してやれよ……」
「何を?」
「鈍いなぁ……ごにょごにょ」
「え!? あぁ……」
達也に耳打ちされ、鈍感な静流もやっと理解出来たようだ。
カナ子に向き直り、静流は恐る恐るカナ子に聞いた。
「本当に、 コレでイイの?」
「イイんです! それがイイんです!」フー、 フー
それを聞いた静流は、飲みかけのフルーツ牛乳をカナ子に渡した。
「じゃあ、 はい」
「ありがとうございます! ツッチー先輩、 ナイスアシストでしたっ!」シャッ
そう言ってカナ子は、カーテンを勢いよく閉めた。
その様子に、静流たちは顔を見合わせた。
「何だったんだろう? 今の?」
「さぁな。 くぅーっ!」
達也がベッドから跳ね起き、軽く伸びをした。
「サンキュー静流! 俺はもう大丈夫だ。 部屋に帰ろうぜ!」
「うん。 カナちゃん、 お大事に……」
静流はカーテン越しにカナ子に話しかけたが、返事は無かった。
「ん? 寝たのかな?」
「放っといてやれ。 武士の情けだ……」
医務室を出た時、丁度美千留と鉢合わせた。
「おうミッチー! 見舞いに来てくれたのか?」
「違う! カナ子の様子を見に来ただけ!」
達也の問いかけに全否定する美千留。
静流は申し訳なさそうに美千留に言った。
「美千留、 カナちゃん……ちょっと情緒不安定っぽいから着いててあげてよ」
「大丈夫。 いつもの事だから」
静流と別れ、医務室に入った美千留が目にしたもの、それはベッドに掛かったカーテンに映るカナ子のシルエットだった。
「ピチャピチャ……チュポッ」
「???」
カナ子のシルエットは、円筒状の物を舌で舐め回している様に見えた。
美千留はカーテンをそっと少し開け、中を覗いた。
「ゴクン………あぁ……甘い。 お兄様の愛を感じますぅ……ゴク」
カナ子はベッドに座り、フルーツ牛乳を時折舐め回しながらチビチビと飲んでいた。
「…………」
(放っておくか。 武士の情けだ)
美千留はカーテンを閉め、静かに医務室を出た。
達也を混浴エリアに送り出した後、薫と談笑していた静流。
「あの野郎、 上手くやってるかな?」
「多分伊藤さんだと思う。 あの二人って、 なんだかんだ言って結構仲イイから」
そんな事を薫と話していた静流に、混浴エリアらしき方向から叫び声が上がった。
「五十嵐クーン! ちょっと来てぇ~! 達也が大変なのぉ~!」
叫び声の主は朋子だ。
「そぉら、 何かやらかしたな?」
「ふぅ……全く世話の焼けるヤツだ……」
静流は大きな溜息を吐き、立ち上がった。
「わかったぁー、 今行くよー!」
「ごめーん!」
そう返事を返し、静流は混浴エリアに向かった。
混浴エリアの手前で立ち止まり、静流が朋子に声を掛けた。
「どうしたの伊藤さん!」
「達也が! 急に倒れたの!」
「何ぃぃ? 倒れたぁ!?」
静流が混浴エリアを覗くと、鼻血を垂れ流しながらノビている達也が浮いていた。
奥に見える朋子の身体には、既にタオルが巻かれていた。
「失礼。 うわ……何でこんな状態に?」
「ちょっと、 刺激が強すぎた……かな?」
朋子は冷静を装っているが、静流にはバレバレだった。
「大方察しは付くけど、 限度ってもんがあるよね?」
「はーい、 済みませーん……」ペコリ
呆れ顔の静流に、朋子は苦笑いで頭を下げた。
「ほら達也! 上がるよ!」
「あぁ、 見える、 見えるぞ……グランド・オダリスク……ヴィーナス誕生……ウヒヒ」
「何言ってんの? ほら、 行くよ?」
意味不明の言葉を呟く達也を肩に担ぎ、混浴エリアを出て行く静流だった。
◆ ◆ ◆ ◆
医務室――
「はっ!? ここは……どこだ?」
覚醒した達也は上体を起こし、辺りを見回した。
視覚で把握できる状況は、自分がベッドで寝かされ、鼻に詰め物をされている事ぐらいだった。
達也のベッドに、誰かが近付いて来た。
「お! 起きたか。 丁度良かった」
「静流?」
両手にフルーツ牛乳を持っている静流は、丸イスに座り達也に片方を渡した。
「ほれ! これを飲んで落ち着け」
「お、 おう……サンキュ」
達也は受け取ったフルーツ牛乳を一気に煽った。
「んぐっ、 んぐっ……プハー! 生き返るぜ♪」
達也はフルーツ牛乳を飲み干すと、意識が完全に戻った。
「もしかして俺、 露天風呂でぶっ倒れたのか?」
「うん。 鼻血吹いてた……スタッフさんの仕事を増やしちゃったね」
「うっ……後で謝罪しとこ……」
達也は自分の身体を確かめ、後頭部をさすった。
「どっかぶつけたか? 洗い場で石鹸でも踏んじまったかなぁ?」
「お前……何も覚えて無いの?」
静流はそう言ってジト目で達也を見た。
「なーんも。 さっぱり覚えてない。 アニキと酒飲んだ事くらいしか……待てよ?」
だんだん記憶がよみがえって来た達也は、次第に顔を青くした。
「いや……そんな事は……夢、 あれは夢だ……」ブツブツ
両手で頭を抱え、静流に聞き取れない位の声で何かを呟いている達也。
「武士の情けだ。 何があったかは聞かないでおくよ……」
そんな事を話していると、カーテンで隠されていた隣のベッドから声が聞こえてきた。
「お兄様……近くにお兄様が……いた!」シャッ!
カーテンが勢いよく開き、ベッドにいたのはカナ子だと判明した。
カナ子は達也同様、鼻に詰め物をされていた。
「カ、 カナちゃん?」
「お兄様! も、 もしかして……混浴イベはもう?」
「う、うん。 もう終わったよ……」
青い顔のカナ子は、静流の気まずそうな顔で全てを理解した。
静流は先ほどカナ子が医務室に行ったと美千留に聞かされていた事を思い出した。
「オーマイガー! 私の……今日イチがぁぁ……」
頭を抱えてもだえ苦しむカナ子に、静流が心配そうに声を掛けた。
「だ、 大丈夫!? 何か飲むかい? ちょっと買って来ようか――」
そう言って静流が丸イスから立ち上がろうとした時、カナ子が静流に言った。
「それ! それがイイです!」
「これ? 僕の飲みかけだけど?」
興奮気味のカナ子が指で指したのは、静流の飲みかけのフルーツ牛乳だった。
「わかった。 同じものを買って来ればイイんだね?」
「そうではなくて……その飲みかけがイイのです!」ハァハァ
そう言ったカナ子は、静流の手元を血走った目で見ていた。
戸惑っている静流に、達也が声を掛けた。
「静流、 察してやれよ……」
「何を?」
「鈍いなぁ……ごにょごにょ」
「え!? あぁ……」
達也に耳打ちされ、鈍感な静流もやっと理解出来たようだ。
カナ子に向き直り、静流は恐る恐るカナ子に聞いた。
「本当に、 コレでイイの?」
「イイんです! それがイイんです!」フー、 フー
それを聞いた静流は、飲みかけのフルーツ牛乳をカナ子に渡した。
「じゃあ、 はい」
「ありがとうございます! ツッチー先輩、 ナイスアシストでしたっ!」シャッ
そう言ってカナ子は、カーテンを勢いよく閉めた。
その様子に、静流たちは顔を見合わせた。
「何だったんだろう? 今の?」
「さぁな。 くぅーっ!」
達也がベッドから跳ね起き、軽く伸びをした。
「サンキュー静流! 俺はもう大丈夫だ。 部屋に帰ろうぜ!」
「うん。 カナちゃん、 お大事に……」
静流はカーテン越しにカナ子に話しかけたが、返事は無かった。
「ん? 寝たのかな?」
「放っといてやれ。 武士の情けだ……」
医務室を出た時、丁度美千留と鉢合わせた。
「おうミッチー! 見舞いに来てくれたのか?」
「違う! カナ子の様子を見に来ただけ!」
達也の問いかけに全否定する美千留。
静流は申し訳なさそうに美千留に言った。
「美千留、 カナちゃん……ちょっと情緒不安定っぽいから着いててあげてよ」
「大丈夫。 いつもの事だから」
静流と別れ、医務室に入った美千留が目にしたもの、それはベッドに掛かったカーテンに映るカナ子のシルエットだった。
「ピチャピチャ……チュポッ」
「???」
カナ子のシルエットは、円筒状の物を舌で舐め回している様に見えた。
美千留はカーテンをそっと少し開け、中を覗いた。
「ゴクン………あぁ……甘い。 お兄様の愛を感じますぅ……ゴク」
カナ子はベッドに座り、フルーツ牛乳を時折舐め回しながらチビチビと飲んでいた。
「…………」
(放っておくか。 武士の情けだ)
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