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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-94

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露天風呂 男湯――

 露天風呂の混浴エリアで静流とひと時を過ごす事が許され、女湯の面々は沸き立った。

「きゃっはー! コレよコレ! そうこなくちゃ!」
「これはいわゆる『冥途の土産』と言うのでしょうか?」ハァハァ
「え? メイドさんにお土産?」
「ケイ……意味が違うよ」

 先ほどまで静まり返っていた女湯が急に騒がしくなったのに、静流は驚愕の表情を浮かべた。

「いったい何人いるんだ!? 2、3人、 せいぜい4、5人だと思った……」

 薫はニヤけながら静流に言った。

「気配から察するにざっと15人はいるな。 頑張れよ、 静流♪ ニヒヒ」
「そんなに!? えげつな……」

 静流の顔がみるみるうちに青くなっていく。

「落ち着け静流! 頭を冷やすんだ!」
「落ち着いてる。 むしろ寒気さえ感じてる……」

 興奮気味の達也に、静流はいたって冷静に言った。

「ルール……ルールを決めよう。 そうだな……全裸はご法度! 何かで隠す事!」
 
 静流の言い草に、達也は眉間にしわを寄せた。 

「は? 何だよそれ? ココ風呂だぞ? 水着着用のエリアと変わらないじゃんか!」
「じゃあ、 タオルで隠して入るとか?」

 静流は頑なに全裸での接近を拒んだ。

「お前なぁ……テレビの温泉レポとは違うんだぞ? 大体あれは管理者にちゃんと許可を――」
「わかったわ! 取ればイイのね? 許可♡」

 達也に被せる様に言ったのは、澪だった。

「交渉事なら任せて♪ ちょっと行ってくる!」
「ミオ姉……フットワーク軽すぎ!」
 
 そう言って脱衣所の方に走っていた澪に、静流は思わずツッコミを入れた。

「ま、 どうせ許可が下りなくて、 この企画は頓挫するだろうね」

 そう言ってわずかに口角を上げる静流に、達也は動揺した。

「お前、 まさかそれを狙ったのか? そうまでして混浴を避ける理由って何よ?」
「まあ、 色々あってね……」
「何だよ、 色々って?」

 思い当たる節があるとすれば、学園の入浴タイムだろうか。
 静流は神妙な顔つきで達也に話し始めた。

「最近おかしいんだ。 女の子のそういう部分を見たりすると、 なんだか落ち着かないって言うか……動悸が激しくなるんだ」 
「ほぉ、 それで?」
「暫く脳裏に焼き付いて離れなくなる。 極めつけは今日の昼間、 メルクが僕にアソコを見せた時だ……」
「ふんふん。 それで?」
「ついつい頭の中でイケナイ事を考えちゃうんだ……『薄い本』にある様なイケナイ事を……」

 そこまで話を聞いていた達也は、奥で話を聞いていた薫に聞いた。

「ですってよ? アニキ?」
「確かに、 そりゃあ重症だ!」


「「プ、 ダァーハッハッハッハ!!」」


 達也と薫は顔を見合わせ、その後盛大に吹き出した。

「な! 笑う事ないじゃん! 人が真剣に悩んでいるのに!」
「スマンスマン静流! それはな、 オスとして当然の現象だ。 一個も間違っちゃいない!」

 顔を赤くして達也たちに食って掛かる静流に、薫は『落ち着け』とばかりに両手で静流を制した。
 その横から達也が満面の笑顔で静流に言い放った。

「フッフッフ。 おめでとう静流クン。 キミはついに『アノ領域』に足を踏み入れたのだ!」
「何だよその『領域』って?」
 
 いまだにピンと来ない静流に、二人は同時に告げた。

「「決まってんだろ? 『思春期』だ!」」ビシッ

 そして二人は親指を立てて白い歯を見せた。
 
「これが『思春期』……?」
「そうだ静流! お前も『エロエロ大魔王』に一歩近づいたって事だ」
「オトナの階段のーぼるぅ~♪ってかぁ~?」

 戸惑いを隠せない静流に対し、二人は肩を組んで囃し立てた。

「それって煩悩だろ? 邪心、邪念、下心……」ブツブツ

 静流は頭を抱え、二人はそっちのけで独り言を言い始めた。
 その時、脱衣所の方からバタバタと走ってくる足音が聞こえた。

「みんな! 朗報よぉ! バスタオル着用の許可が下りたわ~っ!」


「「「きゃぁぁ~っ♡♡♡」」」


 澪らしき声に、女湯がまた騒がしくなった。

「まさか……許可が下りるなんて」
「簡単だったよぉ? フロントで静流クンの事言ったら二つ返事でOKしてくれたわ♪」
「お前、 どんだけVIPなの?」
「そんなの知らないよ!」

 いつまでもグズっている静流に、薫が若干苛立ちながら言った。

「イイじゃねぇかよ減るもんじゃねぇし。 ちゃちゃっと済ませちまえよ!」
「そうだぞ静流。 余興の一つだ。 客を満足させてやれ♪」

 達也に後押しされ、静流は観念した。

「仕方ない、 やるか。 これも修行の一環だと思って……」ザバァ

 静流は立ち上がり、洗い場の方に向かった。

「先ずは火照った身体を引き締める!」
「お、 気合十分だな静流! やれやれ!」

 洗い場で静流は洗面器に水を入れ、それを頭からかぶった。

「あらゆる煩悩よ去れ……うりゃ! ぎゃひぃぃぃぃぃ!」

 余りの冷たさに、静流は情けない顔で悲鳴を上げた。

「今の悲鳴、 お静だよな?」
「何事なの静流クン!? 大丈夫?」

 その悲鳴が女湯にも聞こえてしまい、心配する女ども。

「だ、 大丈夫! ミオ姉、 それで順番は決まったの?」
「うん。 今すぐ決めるわ」



              ◆ ◆ ◆ ◆



露天風呂 女湯――

 女湯では澪が場を仕切っていた。

「希望者はココにいる15人。 静流クンのHPを考慮すると一人当たりの持ち時間は3分とします」

 澪がそう言うと、一同の顔が若干曇った。

「15人も相手にするの? ちょっとかわいそう……」

 みのりが困った顔で呟いた。

「ふぇ? たった3分……ですかぁ?」
「サラ? 贅沢言わないの」

 不満げなサラをヨーコはたしなめた。

「おいヤス、3分も何話せばイイんだ?」
「知らねぇ。 コッチが聞きてぇよ」

 3分が短いと感じる者もいれば、長いと感じる者もいるようだ。
 蘭子に聞かれたヤス子は、澪に提案した。

「なぁ軍人さん、『コンビ打ち』とかってアリかなぁ?」
「そうね。2人位ならイイわ。 ただし、 所要時間は同じだからね?」
「問題ねぇ。 それで頼むわ」

 そのあと双子の工藤姉妹とみのり・ケイ組が『コンビ打ち』を望んだ為、接客回数は12回に減った。
 その時、不満げな顔で忍がぼやいた。

「何で妹ちゃんとシズムがいるの? あとメルクも」

 何故か混浴希望者に名を連ねていた美千留・シズム・メルクが忍に睨まれた。

「む? 妹は混浴しちゃダメな法律でもあるの?」
「同居人は遠慮してもらいたい。 お前たちもだよ?」ギロ
「うえぇ? ダメなのぉ?」

 忍に睨まれ、シズムは上目遣いで懇願した。

「例外は認めない。 無機物でもダメなものはダメ!」
「ならば忍、 この3人でならどうじゃ?」
「……わかった。 十万歩譲って許す」

 メルクがそう言うと、忍は渋々引き下がった。

「でかしたメルク。 体つきは納得いかないけど……」

 美千留はメルクの身体を直視せずに誉めた。
 これにより接客回数は10回となり、所要時間は30分となった。
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