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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-92

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インベントリ内 特設会場――

 静流の手でジンたちを【浄化】し終わり、会場は静まり返っていた。
 その中でひときわ目立っていたのは、カチュアと鳴海だった。

「あぁ……あの方はどこかへ帰られてしまった……」
「ジン様ロス、 キツ過ぎますぅぅ……」

 二人は会場の隅っこで『体育座り』をして顔を膝にうずめている。
 そんな二人を見て、薫子が心配そうに言った。

「先生たち、 かなりの重症だね……」
「よくわかる。 私の前から静流がいなくなったら……無理無理、 絶対無理! フガ」
「忍ちゃん? いい加減離れてくれないかな?」
 
 忍は静流の背後にしがみつき、後頭部の匂いを嗅いでいる。
 
「忍!? 静流が嫌がってるでしょ? 早く離れなさい!」
「嫌。 静流がどこにも行かないって確証が無い限り、 離れない!」ぎゅうぅぅ
「うげぇ……苦しい……」
 
 暴走気味の忍を薫子が引き剝がそうとするが、意固地になって余計くっ付く忍。
 周囲を見渡すと、どこも重々しい空気に覆われている。
 見かねたジルが静流に声を掛けた。

「静流サン、 アレを試しては如何でしょう?」
「ジル神父? ……わかりました。 【テンホー】」シュパッ

 ジルに言われ、静流はフルンチングを召喚した。


「行きます! 【ホン・ロー・トー】!」パァァ


 静流は忍に抱き付かれながら左手にあるフルンチングを縦に構え、右手の二本の指を横に交差してゆっくりとその場を一回転した。
 静流から放たれる金色のオーラが、会場のみんなに降り注いだ。



「「「「はっひぃぃぃぃん……」」」」」



 降り注いだ光に、自然と顔を上げる一同。

「心が軽くなった……あぁ、 気持ちイイ……」
「心にぽっかりと空いた穴が、 だんだん塞がっていく……」

 さっきまで体育座りしていたカチュアたちがすくっと立ち上がった。

「いつまでも悲しんではいられません。 ジン様もそれは望まない!」
「探し出す……どんな手を使っても……ね!」

 みんなが前向きな気持ちになっていくのが、手に取る様に分かった。

「ほら忍! とっとと静流から退きなさいって、 あら? このコ寝てるわよ?」
「スピー。 静流ぅぅ……むにゃ」

 忍は安堵に満ちた顔で眠りに落ちていた。

「しょうがないわねぇ、 全くもう……」

 薫子はスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている忍を担ぎ、床に寝かせた。

「ジル神父、 これって成功……でしょうか?」
「お見事です。 静流サン!」グッ

 周りの反応を見て、静流が恐る恐るジルに聞くと、ジルは親指を立てて賞賛した。

「早速『混沌の闇』を払う呪法が役に立ったね♪ やるじゃん!」

 一部始終を見ていたラチャナも、静流を褒め称えた。

「スゴいな……感情の起伏にも作用する呪法なんて……」

 静流は自分が起こした行為に半信半疑だった。

「ですから、 使用する際は慎重に、 よく考えるのですよ? イイですね?」
「は、 はい……わかりました」

 ジンに念を押され、静流は肝に銘じた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 アマンダは作業用ゴーレムを使い、会場を片付け始めた。

「とっとと撤収して、 一杯やりましょう」
「イイッスね! 付き合いますよ♪」

 アマンダの誘いに、リリィは二つ返事で快諾した。
 ゴーレムに指示を出しているアマンダに、カチュアが声を掛けた。

「ねぇ……あるんでしょ? アレ」
「姉さん? 何よアレって?」 
「わかってるくせに! 睡眠カプセルよ!」

 鬱陶しそうにあしらうアマンダに、カチュアはキレ気味に言った。

「あるけど……もう体内時計の調整するの?」
「違う! 決まってるじゃない! ジン様との夢を見るのよ!」
「私にも、 お願いします……」

 鳴海まで言い始める始末にアマンダは呆れた。
 カチュアたちに言い寄られながら、アマンダは暫く考え込んだ。

「ふぅん……成程ね……」
(うるさい駄々っ子を寝かしつけるには持って来いね……) 
 
 考えがまとまったアマンダは、まだ会場にいる面々に声を掛けた。

「みんな聞いて! これから翌朝まで『睡眠カプセル』の使用を許可します。 時差の調整もあるから一石二鳥でしょ?」 
「確かに。 イキな計らいだね♪」
「いろいろあって疲れたわ。 もう寝ようかしら?」
「そうね。 もうイベントは無さそうだし……」
 
 そんな中、達也は静流に聞いた。

「おい静流、 この後どーすんだ?」

 達也の一言に、周囲がわずかに反応した。

「う~ん、 強いて言えば露天風呂に入りたい……かな?」

 静流は達也に語り出した。

「露天風呂で星を眺めていたら、 なんか思いつくかも?」
「流石に安直過ぎるだろ? でもまぁ、 それもアリか」

 達也はポンと手を叩いた。

「よし! 行くか。 アニキはどうします?」
「フム。 温泉で一杯やるのもイイか。 俺も行くわ♪」

 男どもがそう話していると、少し離れた所でわずかにざわめいた。

「聞いた? 静流様たち、 この後露天風呂に入るみたいよ?」
「イイわね。 私も入ろうかしら?」
「湯に浸かりながらアルコール摂取か? 悪くない。 ワシも入るぞ♪」



              ◆ ◆ ◆ ◆



露天風呂 男湯

 露天風呂に来た静流たちは、洗い場でさっと体を洗い、岩風呂に入った。、


「「「あ゛ぁぁぁ……」」」


 思わず声が漏れる静流たち。
 上を見上げた達也が、思わず声を漏らした。

「うわぁ……すっげぇ星……」
「だろう? 僕も初めての時は感動したよ」

 満面の星空を見ながら、お猪口に酒を注ぐ薫。

「この星のどれかに、 朔也のアニキがいるのか…」

 薫はそう言ってお猪口を煽った。

「くぅーっ! うめぇ……」

 星を見ながら、静流が語り出した。

「でもさぁ、 何か引っかかるんだよね……」
「ジン様の『冒険譚』か?」
「うん。 そう」

 静流は顎に手をやり、持論を述べた。

「薫さん、『カサンドラ』って星、 何か似てませんか? アノ星に?」
「それって『流刑ドーム』があるアノ星の事か?」

 薫は眉間にしわを寄せ、静流の顔を見た。

「でもよぉ、 アノ星は見渡す限りの砂漠だぜ? 朔也のアニキの話じゃ緑豊かだって言ってたろ?」
「確かにそう言ってたな。 違うんじゃね?」
「でも、『塔のようなもの』が見えるって言ってたよね? それって『ワタルの塔』だったりしないかなぁ?」

 静流の指摘に、薫は腕を組んで唸った。

「むぅ……仮にそうだとしたら、 世界線が違うのかもな……わかんねぇけど」
「例えば、 朔也さんがいた時代より何万年も経っている、 とか?」
「おいおい、 そりゃあ荒唐無稽過ぎんぞ静流?」
「やっぱそうだよね……考え過ぎかぁ……」

 そう言って静流は、組んだ手を上に向け、大きく伸びをした。
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