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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-91

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インベントリ内 特設会場――

 仁奈から譲り受けたフルンチングを使って、ジンたちを【浄化】する事となった静流。
 退魔士の資格を持っているジルと、陰陽道の心得があるラチャナにレクチャーを受けた。

「とにかく! あのバジュラと静流クンの相性がドンピシャなんだよね!」
「そうなのです! お陰で難解な呪法を使わずに済みそうです」

 ラチャナたちは静流の生まれながらの素質とフルンチングの性能にご満悦の様だった。

「へぇ。 具体的には?」

 ジンは嬉しそうにジルに聞いた。

「呪法に使う言語は古代アーシア語を起源としており、 解読が難解でこれを詠唱し【法力】を発生させるとなると並みの修行僧ならば何年も修行してやっと習得出来るものなのです」
「でもね、 どう言うわけか彼の場合、 イメージ出来ればこのバジュラを通して『最適化』出来ちゃうんだよねぇ。 これってスゴい事なんだよ?」

 二人は興奮気味にジンに説明した。

「それは才能だろうね。 やっぱ血筋かなぁ?」

 静流を褒めちぎる二人に、ジンはおどけて見せた。

「恐るべし『桃髪家の一族』だね? 薫クンと言い器用なコばかりで頼もしいよ」

 ラチャナは周りを見渡し、極レアな筈の桃色の髪をした者が何人もいる事に嬉々として言った。

「アイツらはその内きっと『英雄レベル』の偉業を達成するだろう。 これからも力になってやってくれたら嬉しいよ……」

 そう言ったジンは、どこか寂しそうだった。
 そんなジンに、ジルは諭すようにジンに言った。

「朔也? 何を他人事みたいに言っているのです? アナタも若い力を信じて待つのです。 イイですね?」
「ありがとうジルベール。 そうさせてもらうよ」

 ジルにそう言われ、ジンは笑みを浮かべた。

「お別れを希望される方、 こちらに……」

 ジルがそう言うと、一瞬でジンの前に長蛇の列が出来た。
 まるで書店のサイン会や、地下アイドルの握手会の様だった。

「ジ、 ジン様ぁぁ~っ」
「また会おう♪」
「ご自愛ください……」
「キミもね♪」

 そんな感じで一言二言交わして後ろに交代していく。

「静流は私たちがサポートするから、朔也兄様は諦めずに通信を試みて頂戴」
「わかったよモモ」

 一通り別れを済ませたジンは、満足げに微笑んだ。

「嬉しいね♪ なんか駆け出しの頃を思い出したよ」

 微笑んだジルの身体が、さらに薄くなっていった。

「もう時間が無いですね……静流サン! 出番ですよ!」

 少し離れた所で薫や達也たちと談笑していた静流に声がかかった。

「あ、 はーい……」

 自信なさげに返事した静流を、薫たちは笑顔で送り出した。

「見せてもらおうか。 進化した静流の性能とやらを……」
「静流! 行ってこい」
「はいっ!」

 緩んでいた顔を引き締め、静流はジンの元に来た。

「静流サン、 準備はイイですか?」
「ええ。 いつでもイケます!」

 ジルに声をかけられ、静流は緊張気味にそう答えた。

「ほれ弥七、 お前もやってもらいな!」
「へい! 姐御」

 ラチャナは弥七に声をかけ、ジンの元に行かせた。

「さて……こっちも準備始めよっと」

 そう言いながらラチャナは、ポーチからトイレットペーパーの芯くらいの筒を取り出した。

 ステージはジンと弥七、そして静流の三人だけになった。

「静流、 ぶっつけ本番で悪いけど、 頼むよ」
「おねげぇします、 坊ちゃん」

 神妙な顔つきの静流に、二人は声をかけた。
 すると静流がポツリとやや小さめの声で呟くように言った。

「……これが最後だって事、 無いよね?」
「ん? どうしてそう思う? 言ってごらん?」

 そんな静流に、ジンは優しく聞いた。

「何十年もどこかに閉じ込められているんでしょ? 僕なんかにホントに見つけられるかどうか……」
「お前がプレッシャーを感じる必要なんかない」
「でも……だって……」

 悔しそうに顔を歪める静流に、ジンはおどけて見せた。

「なぁに、 数十年耐えられたんだ。 あと何年経とうが大したダメージにはならないさ♪」

 頃合いとなったのか、ジルが静流に声をかけた。

「では静流サン、 始めて下さい」
「はい……」

 静流は深呼吸し、肩を回して緊張をほぐした。
 そして静流は肩幅程足を広げ、両手を前に出し呪法を唱えた。

「【テンホー】!」パシュ

 すると静流の両手にフルンチングが召喚された。

「かっけー! イイぞ静流!」
「静流様素敵っ! 私もお清めしてもらおうかしら?」

 すかさず達也とヨーコが声をかけた。
 大きく頷いたジンは、感心しながら静流に言った。

「イイね静流。 中々サマになってるじゃないか!」 
「エへへ。 そうかなぁ」

 思いがけず褒められた静流は、後頭部を掻きながら照れた。 
 気を取り直した静流は顔を引き締め、ジンたちに言った。

「じゃあ、 始めます」

 静流はフルンチングを左手に持ち、印を結んだ右手を添えて呪法を唱え始めた。

「サンアンコー・イーペーコー・トイトイチャンタソワカ……」

 呪法を唱え終わると、静流はフルンチングを両手で握り、二人の前にかざした。 
 それを見たラチャナは、さっきの筒の蓋を取り、頭上に掲げた。

「今だ! おっしゃ行け―っ!」

 その時、静流がキメの呪法を唱えた。


「【リン・シャン・カイ・ホー】!!」


 パァァァァァーッ

 
 フルンチングから金色のオーラが放出され、二人を飲み込んだ。
 姿が完全に消える直前、ジンは微笑んで言った。 

『ありがとう、 静流……』

 そして光が小さな粒の集合体となり、天井に向かってユラユラと上り始めた。

「ジン様たちが【浄化】されていく……」

 少しの間その様子が続くと、光の粒が一つ別の方向に飛んで行った。

「ほい。 お帰り弥七♪」

 ラチャナは光の粒が筒に入ったのを確認し、蓋を閉めた。
 筒に入っていたのは依り代のハエだったのだろう。

「……消えちゃった。 急に静かになったね……」

 ケイはジンたちが消えた辺りを眺めながら、ポツリと呟いた。
 
「何か麻雀の役みてぇな呪文だな?」
「つうか……モロ役でしたよ?」

 薫と達也が話していると、ラチャナが解説を始めた。

「『呪法』ってややこしい過程を踏まないとダメなんだけど、あのバジュラが上手く変換してくれてるんだよ。 静流クンのイメージだと、 やっぱ麻雀の役が近いらしいのよね」

 その説明に、達也は顎に手をやりながら呟いた。

「アイツ何でか知らないけど、 麻雀出来ないくせに役は知ってるんだよな……」

 その言葉に反応して、即座にツッコんだのは蘭子だった。

「それはお前がゲーセンで『脱衣麻雀』ばっかやってるからだろ?」
「うっ、 面目ねぇ……」
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