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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-90

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インベントリ内 特設会場――

 ジンは仁奈が所有していたアングラ界では知る人ぞ知る魔淫具『フルンチング』の状態が危険だと判断し、弥七と共にこれを浄化した。
 フルンチングはその際の初期化で所有者もリセットされてしまった。
 ジンは次の所有者を静流としたいと仁奈に懇願し、仁奈は快諾した。

「先ずは手始めに、 ボクたちを【浄化】してもらおうかな?」
「それは明暗ですな。 早速お願いしやす」

 ジンが静流にそう言うと、弥七は快く同意した。

「え? 僕がやるの? どうして?」
 
 静流は動揺し、指で自分の鼻を指した。

「ソレを浄化する際に、 折角お前がくれたこの身体をボクは汚してしまった。 静流、 お前に浄化してもらいたい……」  
「静流坊ちゃん、 あっしからもおねげぇしやす!」

 二人は静流に深々と頭を下げた。

「ちょ、 ちょっと止めてよ二人共……わかった、やる、 やります、 やらせて下さい!」 

 押しに弱い静流は、仕方なく応じる事にした。

「そう来なくちゃ♪ ありがとう静流!」パァァ
「流石坊ちゃん! 物分かりがイイ♪」

 強張って真剣だった顔がたちまち緩むジンと弥七。
 静流は溜息を吐き、ジンに言った。

「ふぅ。 全く調子イイんだからなぁ……じゃあ、【浄化】の方法を教えてよ!」

 ジンはどこか嬉しそうに言った。

「ジルベール、 親友と見込んでキミに頼みたい。 ラチャナ君、 サポートを頼めるかな?」

 ジンはそう言いつつ、 二人を見つめてニコッと微笑んだ。 
 ジルは神父の他に『退魔士』の資格も持っている。
 ラチャナの家系はかつて陰陽師を輩出した事もある名家『赤星』であり、ラチャナも陰陽道の心得がある。

「承りました! 誰あろう『親友』の頼みですからっ!」
「べ、 別に私は構わないわよ?」

 ジンに指名されたジルとラチャナは、少し緊張気味に了承した。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 二人からレクチャーを受ける為、会場の隅っこに移動した静流たち。

「静流クン、 見た目より結構重いよ?」

 仁奈からフルンチングを渡される。

「え? 全然重みを感じませんけど? うわっ!」

 パァァァ……
 
 静流が手に取った瞬間、フルンチングが金色に発光し、やがて消えた。

「これで正式にキミのモノになったよ。 どう? 感想は?」
「どうって言われても……よくわからないです……」

 ラチャナに聞かれ、返事に困っている静流。
 そんな静流に、ジルは優しく説明した。

「重さを感じなくなったのは、 この法具がアナタの身体の一部となったからです」
「試しに落としてみな? 面白い事が起こるかもよ?」
「え? こうですか?」
  
 ニヤついているラチャナに言われた通り、フルンチングを足元に落とす静流。

「ん? あれ? 浮いてる?」

 フルンチングは床に着く事無く、空中で静止している。

「静流サン、 心を落ち着かせて頭に描くのです。 『我の手の元に来い』と……その時に浮かんだ言葉がアナタのオリジナル呪法となります」
「はい、 やってみます……」

 静流は目を閉じ、精神を集中させる。
 そして目を開けた静流は、頭に浮かんだ呪法を唱えた。


「【テンホー】!!」シュパッ


 呪法と唱えると、フルンチングは瞬時に静流の手に戻った。

「あ! 戻って来た!」

 静流は手元にあるフルンチングを嬉しそうにラチャナに見せた。

「うん。 成功だね♪」
「スゴいじゃない! もう使いこなしてる!」

 ラチャナはうんうんと頷き、仁奈は手を叩いて静流を褒めた。

「静流サン、 今後この法具がドコにあっても、 今の呪法を唱えればアナタの手元に来ます」
「ドコでも? それはスゴいや」

 静流はそう言ってフルンチングをまじまじと見た。
 そんな静流にラチャナが聞いた。 

「ところで、 『テンホー』って麻雀の役の?」
「わかりません。 でも、 そう浮かんだんですよね……」

 天和テンホーとは麻雀の役のひとつであり、親が配牌時に既に役が完成している状態を言い。その際の役は何でも良く、珍しい事から役満扱いとされている。

「ではこれから、【浄化】の一番簡単な呪法をお教えします」
「構えはこう! やってみて?」
「こう、 ですか?」

 ジルとラチャナの『講義』は淡々と続いていた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



「ジン様ぁ、 消えないで下さぁい……」

 静流が【浄化】のレクチャーを受けている間、ジンの周りには別れを惜しむ者たちが群がっていた。
 ジンの身体は次第に薄くなっている。

「折角の聖夜、 ジン様と過ごしたかった……」
「済まないね……いつか必ず埋め合わせはするから」

 目を潤ませてジンに告げる鳴海を、ジンは慰めた。

「伯母様、 なんとかなりませんの?」
「無茶言わないでよ雪乃。 ネネ、 オカルトの線で何か無いかしら?」
「囚われている状況がわからないと、 対処のしようが無いわよ……」

 今の状況を何とか打破出来ないか知恵を出し合う雪乃たち。 

「アマンダ! アンタの得意な化学魔法で何とかならない? ジン様の一大事なのよ!?」
「うるさいわね! そんな方法があったらとっくにやってるわよ!」
「あらまぁ、 使えない技術少佐だこと!」
「はぁ!? 『伝説の闇医者』が聞いて呆れるわ!」 

「「なぬぅぅぅ!!」」

 元々仲の悪い如月姉妹がガンを飛ばし始めた。

「イタコちゃん、 何か試すモノ無いかしら?」
「今のジン様の状態は『幽体離脱』ですわよね?」
「そうなるのかな? 多分?」

 素子がオカ研の部長であるイタコに聞くと、イタコは難色を示した。

「無理に引きはがすと、 本体に戻れなくなりますわよ?」
「それはマズいよ! じゃあやっぱり……」
「諸先輩方と同意見で、 本体を見付けないと処置のしようがない……ですわね」

 会場ではあーだこーだと意見が飛び交っていた。

「折角の聖夜なのに済まないな……ボクの為にみんなをややこしい事に巻き込んでしまった……」

 魔法・医学・オカルト……いろんな角度でジンの救出計画を議論している面々に、ジンは申し訳なさそうに小さな声で呟いた。

「滅茶苦茶良いよんな……気にせんでエエと思いますヨ。 好き勝手に議論しとるだけやし……」

 いつの間にかジンの近くにいたカナメが、他人事の様に笑いながらそう言った。

「答えなんかとっくに出とるやんか。 迎えに行けばエエんや。 な? ジンはん?」
「フフ。 確かにそうだね」 

 カナメの言葉に、ジンはクスリと笑みを浮かべた。
 そうこうしていると、隅っこから静流たちが戻って来た。

「お待たせしました。 無事に習得しましたよ?【浄化】」
「静流クンは筋がイイよ。 このバジュラのお陰もあるけど。 新米退魔士の将来が楽しみだわ♪」

 師事した二人から褒められた静流は、後頭部を搔きながらジンの元に来た。

「何とか習得しました。 いやぁ、 お二人の教え方が良かったんでイメージし易かったんですよ」
「そうか。 今後も修行に励むとイイ。 きっと役に立つ時が来るから」
「はい。 頑張りますっ」

 静流は気を付けの姿勢でジンにそう言った。
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