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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-89

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インベントリ内 特設会場――

 インベントリの特設会場で行われた『七本木ジン様 凱旋記念座談会』が終わった。
 と言っても行方不明になる直前までの朔也の記憶を語っただけだが。
 語り終えて満足していたジンの身が突然透けて行くという異変が起こり、それは仮の身体の限界を知らせるものであった。

「今までのは一応録画させて頂きました。 今後の捜索活動に利用させて頂きます」

 アマンダはジンに断りを入れた。

「ああ構わない。 与えられる手がかりが少なくて申し訳ないね……」
「いえ。 カサンドラの位置さえ特定できれば、 移動手段は確保しておりますので」
「そうなの? 軍も宇宙船を所有する時代になったか……」
「いえ、 あくまでも極秘裏ですから……」

 アマンダがそう言うと、メルクが横から割り込んだ。

「宇宙船ではないが、 亜空間航行が可能な『M・T』があるのでな! 機動力ならワシが太鼓判を押してやる!」
「MTって、 モビル・トルーパーだよね? ボクが知っているのは陸戦型で飛ぶことすら出来ない代物だけど……」
「そいつもナビスコとやらと同じ『発掘モノ』でな、 つまりロスト・テクノロジーさまさまと言う事だな! しかも零号機と壱号機の2機あるのだ!」

 メルクがドヤ顔で言うと、ジンは興味深く聞いていた。

「成程。 それは期待出来そうだ」
「おう! 期待してくれ!」

 気を良くしたメルクは腰に手を当ててふんぞり返った。

「まぁ、まだ宇宙空間での稼働試験はこれからなのよね……」
「え? そうなの?」
「ま、 まぁ大丈夫だろう! 細かい事は気にするな!」

 アマンダにツッコまれ、 メルクは少し動揺した。
 次第に薄くなっていくジンに、モモは神妙な顔で話しかけた。

「朔兄様……あと何か言っておきたい事ある?」
「う~ん、 そうだな……」

 天井の方を少し眺めていたジンは、ふと何かを思い出した。

「おっとそうだった……弥七クン、 例のモノを」
「へい! 旦那」

 ジンはラチャナの横に座っている弥七を呼び寄せた。
 弥七から何かを受け取り、ジンは仁奈の方を向いてそれを見せた。
 
「仁奈クン、 コレが何だかわかるかい?」
「へ? う~ん、 わからないなぁ……綺麗な打撃系武器?」

 ジンが見せた物は、細かな装飾が美しい金属製の何かだった。
 仁奈は近くまで来てそれをいろんな角度で見るが、さっぱりわからなかった。  

「これは浄化された『フルンチング』だ」
「え? これが!? 形が全然変わってるけど……」

 フルンチングはかつて仁奈が後輩からもらったもので、『魔淫具』と呼ばれ、レズ御用達の『疑似マラ』である。

「アレは長い間男女の愛憎を溜め込んでいた状態で、 コレが元々の形なんだ」
「はぁ……そうなんだ……それにしても綺麗だな……」

 手に取るとずっしりと重く、洗練されたデザインに見入ってしまう仁奈。
 横からズィッと顔を出したラチャナが、フルンチングを見て言った。

「それはヴァジュラ。 煩悩を打ち払う密教法具でね。『金剛杵こんごうしょ』とも言うわね」
「おぉ……これは素晴らしい装飾ですね。 かなり位の高い僧侶が所有されていたのでしょう」

 ジルがヴァジュラを見て感嘆の声を漏らした。

「あのままだと危険だと判断して、 弥七クンと2人のレディに手伝ってもらって浄化させてもらったんだ。 所有者のキミに断りなく処置をして済まなかった……」
「あ、 いえいえ! むしろ感謝ですよ!」

 ジンが頭を下げると、仁奈は手をブンブンと振って顔を赤くした。

「まだ続きがあるんだ。 実はね仁奈クン……」
「へ?」
「ソレを浄化した際に、 所有者もリセットされてしまったのだよ……そこで頼みがあるんだが……」

 ジンが申し訳なさそうに仁奈に告げた。

「何です? 私の出来る範囲になら何なりと……」

 真剣な顔つきのジンに、仁奈はかしこまった。

「このヴァジュラは本来、 呪いや煩悩、 厄災から人々を救う為に使う法具なんだよ」
「は、 はぁ……」

 仁奈はジンの言葉に生返事で返した。

「それでね。 コイツでこの世の煩悩を払う役目……その役は静流が相応しいと思うんだ」
「ふぇ!? ぼ、 僕ですか?」

 今まで黙って聞いていた静流は、いきなり自分の名前が出たので素っ頓狂な声を上げた。

「静流はこれからいろんな『壁』に遭遇するだろう……その時にコレが助けになる場面が必ず来る!」
「そんな……まるで僕のこれからの人生が『いばらの道』みたいじゃないか……」
「あくまでも『仮定』の事だ。 気にしなくてイイ」
「今更そんな事言っても、 無理だよ……」

 静流はやり場のない苛立ちにブータレた。

「彼のこれからの為に必要だ。 これを静流に託したい。 頼むよ」

 そう言ってジンは、仁奈に深く頭を下げた。

「ちょ、 ちょっと頭を上げて下さい! わかりました。 ソレの所有権は静流クンに渡します!」
「ありがとう仁奈クン。 感謝するよ」

 ジンは嬉し気に礼を言った。

「そんな恐れ多い代物、 私の手元にあっても持て余すだけですし……」

 仁奈は後頭部を掻きながら、照れ笑いを浮かべた。

「仁奈さん、 そんな事簡単に決めてイイんですか?」
「イイの! 静流クンに使ってもらった方がフルンチングも幸せだろうと思うの!」
「またいわくつきのヤバいものが僕の所に来るのか……」

 静流は複雑な顔つきで呟いた。
 そんな静流に、ジンは弥七と顔を見合わせ、微笑みながら静流に言った。 

「それじゃあ手始めに、 ボクたちを【浄化】してもらおうかな?」
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