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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-87

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宇宙船ナビスコ 船内 ジン回想――

 何者かによるビーム攻撃を受けた宇宙船ナビスコは、惑星カサンドラの周回軌道へ小ワープを試みた。

「間もなく目標地点に到着します」
「熱源反応はあるか?」
「今の所、ありません」

 ハルヒと技術スタッフたちがシミュレーションした最も安全であろう地点にナビスコは到着した。

「小ワープ解除! 重力圏に入ります」
「と言われても、 実感わかないんだよなぁ……」

 ナビスコには宇宙空間でも問題なく生活出来る重力制御装置が有る為、この様な感覚になるのだろう。
 船首のスクリーンが外の風景を映し出した。

「うわぁ……スゴい植物だな……森の惑星か?」

 緑豊かな景色に、感嘆の声を漏らした朔也。

「木が生い茂ってて、これじゃあ着陸出来ないよ……」
「先ずは無事到着した事を地球に報告しますね」

 ベラは地球のハルヒたちにカサンドラ到着の報告ををすべく通信回線を開いた。


 ザザー……


 モニターはブラウン管テレビの砂嵐の状態だった。

「ダメだ……繋がらないぞ?」
「通信を阻害するもの……ココの大気やあるいはジャミング?」

 ベラは顎に手をやり、少し首を傾けながら呟いた。

「妨害電波のせいだって言うの? 例のキャンセラーを使うか?」
「原因が判明しない限り、 キャンセラーは使わない方が良いですね」

 そう言い終わるとベラは姿勢を直して朔也に告げた。

「これより、 着陸可能且つベースとして適当な地形を探します」

 ベラは惑星の探索に取り掛かった。

「同時に大気と水の成分を調べます」
「これだけ自然がいっぱいなら、問題無いんじゃない? 大賢者だってココに住んでるんでしょ?」
「念の為です。 人体に影響を及ぼす物質があるかも知れませんので」

 ベラは操作盤のボタンを押した。
 
「調査用ポッパーA・B・C発射!」カチッ


 パシュッ  

 
 ナビスコから3機の小型探査機が打ち出された。

「サンプル収集後に分析を開始します。それまで雲の上で待機。 自動操縦に切り替えます」

 重力制御の成せる業なのか、ナビスコは静止画の様に空中でホバリングしている。
 ベラは操縦席から立上り、軽く伸びをして首をコキコキと動かした。
 どちらもアンドロイドには似つかわしくない仕草だった。

「探査結果を待つ間自由時間とします 読み物が途中なので……では」
「おいおい……ベラの奴、 どこまでマイペースなんだ?」

 言うなりマンガを読みに行ったベラに、朔也は大きな溜息を吐いた。

「ここまで来ると最早尊敬に値するよ……」



              ◇ ◇ ◇ ◇



 小一時間した頃に、ポッパーたちがナビスコに帰還した。
 ポッパー格納庫に行くと、戻って来たのはポッパーAとBの2機だった。
 半畳程の大きさであるポッパーのイメージは、今風に言えばドローンに近い。
 
「1機戻って来てないな……それに数時間でこんなになるのか?」 

 戻って来た2機のポッパーは、所々傷があり、薄っすらと錆のようなものが浮いていた。
 大きさに対して超軽量なのか、ベラは2機のポッパーを軽々と持ち上げた。

「詳細は不明です……早速分析を開始します」

 そう言ってベラは2機のポッパーを台車に乗せ換え、格納庫の横にあるラボに運んだ。



              ◇ ◇ ◇ ◇

 

 それから暫くして、朔也がリビングのソファーでうたた寝をしていると、ベラに揺り起こされた。

「……サマ、 起きて下さい! 朔也サマ!」
「う、 う~ん……何かわかった?」

 目をこすりながら伸びをする朔也に、ベラは低い声で言った。

「とんでもない事がわかりました……」

 場所を操縦席に移し、ベラは朔也を席に座らせた。 

「これから2機が持ち帰った映像を見せますが、 驚かないで下さいよ?」
「そんなのわからないよ……まだ見てないんだから」

 最初にAのポッパーが持ち帰った映像をベラは見せた。

「は? 何コレ……」

 その映像を見た朔也ひと言は、実に拍子抜けだった。
 映像には高層ビル群が建ち並び、その中央には正に摩天楼と言うべき『塔』が建っていた。

「まるでニューヨークかホンコン……自然なんてほとんどゼロじゃないか!?」
「そうなのです……ではこちらの映像もご覧下さい」

 続いてベラはBのポッパーが持ち帰った映像を朔也に見せた。

「え? えぇぇぇ!?」

 今度は驚嘆の声を上げた朔也。
 映像は森林を抜けて大きな湖に出た途端、何者かがポッパーに威嚇してくる様子だった。

「きき、 きょ、 恐竜!?」
「首長竜でしょうか? 脳内のデータベースには該当なしでした……」
 
 回避行動をとりながら撮影した映像には、遠くの方に雲に達する程の高い岩山が映っていた。
 映像を見せた後、ベラは朔也に向き直って言った。

「これらの示す現象、 それは……『幻覚』ではないでしょうか?」
「これが『幻覚』!? でもアイツら傷だらけだったじゃないか?」
「どちらかが幻覚なのか、もしくは全て幻覚……わかりません」

 今まで散々余裕をかましていたベラも、今度ばかりはダメージが大きいようだ。

「それで、 空気と水は問題無いの?」
「あっ、 殆ど地球と同じ成分でそれは問題ありません」

 朔也に聞かれ、ビクッと反応したベラ。

「だったら問題無いね。 確かめてみようじゃないか?」
「何を……です?」

 ベラは恐る恐る朔也に聞いた。

「幻覚かどうかこの目で確かめよう。 今からアソコに行くぞ!」ビシッ

 朔也は外の状況を映し出しているモニターの一点を指さした。
 そこには樹齢何万年かと思われる大木が、天に向かってそそり立っていた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 特設会場

 ゆっくりと照明が点灯し、映画が終わった時の状態になった。

「……とまぁそんな感じで、 次に目が覚めた時はこの真っ暗な空間に閉じ込められてたんだ……」

 そう結んだレプリカのジンは、しゃべり終えた安堵から溜息を吐いた。
 唐突に話が終わった為、聞き手たちが騒ぎ出した。

「ふぇ!? もう終わりなの?」ざわ…
「何か、 少年誌の打ち切りエンドみたいな展開だね……」ざわ…

 その中の一人の呟きが、ジンにまで届いた。 

「ジン様全然活躍してないじゃん……つまんない」
「こら! 美千留!?」

 美千留の言い草に、静流は指でバツを作り『メッ』のポーズを取った。

「面目ない。 ホント情けないよな……適当な言い訳も見つからないし……」

 美千留の言葉が相当刺さったのか、ジンは肩を落としてうなだれた。

「朔也さん! コイツの毒舌は今に始まった事じゃないんです! 真に受けないで下さい!」
「静流……お前は優しいね……」

 ジンは眉をハの字にして寂しげに微笑んだ。
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