拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

文字の大きさ
上 下
523 / 611
第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-81

しおりを挟む
宇宙船ナビスコ 船内 ジン回想――

 ハルヒに案内され、船内に足を踏み入れた朔也たち。
 扉をくぐって廊下を抜けると、二人の前には外観からは想像だにしない空間が広がっていた。

「ココは共有スペース。 家で言うとリビング・ダイニングだなっ!」

「「ほぉぉ……」」

 朔也たちの前に船室には似つかわしくない、10畳ほどのリビングが広がり、思わず感嘆の声が漏れた。
 大画面の液晶モニターやテーブル、ソファーが目に付く。

「あれ? この船ってこんなに大きかったっけ?」
「いえ、 せいぜい魚雷艇程度の大きさのハズです……」

 キョロキョロと辺りを見渡す二人に、ハルヒはドヤ顔で言った。
 
「どうだ! 驚いたろう? あと6畳ほどの部屋が3つある。 家で言ったら4LDKだな♪」 
「一体どんな仕掛けなんです?」
「よくぞ聞いた! この拡張性に富んだ内部構造、 その原理はな……」

 ミモザに聞かれ、ドヤ顔で解説を始めようとするハルヒ。

「さっぱりわからん!」

「「はぁ!?」」

 ハルヒはそう言って『オーマイガー』のポーズを取った。

「ベラが言うには、『仮想空間』と繋がっているとの事らしいが、実証の方法がわからんのだ」
「ロスト・テクノロジー恐るべし……」
 
 ミモザはただ驚くばかりだった。
 朔也はソファーに腰かけ、ふんぞり返ってみる。

「フム。 とりあえず、 居住性は問題無しかな?」
「ですね。 ウチの寮より立派ですよ……」

 ミモザもソファーに座り、辺りを見回している。
 するとミモザはふと何かに気付いた。

「先輩? この備品って、 経費で落ちたんです?」
「うっ……細かい事はイイだろ? そうだ! お前たちも登録を済ませておけ!」

 ハルヒは天井からディスプレイパネルを引き出し、朔也たちに見せた。

「ココに手を置けば『搭乗員登録』完了だ♪」

 言われるがままに手を置く二人。 登録は瞬時に完了した。

「他の部屋に案内する。 早くコッチに来い!」

 ハルヒは他の部屋を見せたがっているようで、ソファーから二人を立たせた。
 奥に続く廊下の扉の横にあるコンソールに手をかざすと、扉が上に跳ね上がった。

 シュゥーン

「うわぁ。 この開き方、もろSFですねぇ……」
「このエリアから奥は登録しないと入れない。 つまり、『選ばれし者』だけが入れるワケだ♪」
「セキュリティも万全ですね……」

 ハルヒは廊下を通って最初の扉を開けた。

「ココは資料室。 古今東西のあらゆる文献が閲覧できるように――うわっ!?」

 部屋に入るなり、ハルヒは驚いて声を上げた。
 部屋の中には本棚がずらっと並び、隅っこに小さいデスクとノートPCが置いてあった。
 その一角でなにやら物影がうごめいていた。

「……何をやっているのだ? ベラ!」
「本棚の整理をしていマス……」

 ベラは、横積みになった本をせっせとかたずけていた。
 心なしか焦りを感じるベラの仕草に、ハルヒの眉間にしわが寄った。

「な!? それは私の蔵書たちではないか! 何でココにあるんだ!?」
「肯定デス。 時代考証の資料としてお借りいたしまシタ」
「勝手に持って行くな! 直ぐに戻せ!」

 ハルヒの蔵書とは、全てマンガだった。

「否定。 拒否権を行使シマス」
「な、 何ぃぃぃ!?」

 ベラの思わぬ反逆に驚愕するハルヒ。 

「『アクリルのお面』は27巻まで読みまシタ。 『オークの紋章』は今48巻デス」
「他にも『ペーの一族』とか『リングにぶっかけろ!』とか……バラエティーに富んだチョイスですね?」
「う、 うるさい! 他人の趣味趣向を笑うな!」

 ミモザのツッコミに、ハルヒは顔を赤くして怒鳴った。 
 にらみ合うハルヒとベラに、朔也はつまらなそうに言った。

「貸してあげなよハルちゃん。 旅は長くなりそうだしね……」
「初版だぞ!? プレミアが付いてるものもあるんだ!」
「慎重に取り扱えばイイんでしょ? 出来るよね? ベラ?」

 朔也はベラに聞いた。

「肯定。 丁重に扱いマス」

 ベラは真顔ながら、ハルヒに必死な目で訴えた。
 それが通じたのか、ハルヒは溜息混じりに言った。

「……折り目を付けたら、 タダじゃ置かないぞ?」
「約束、 シマス!」
「わかった。 許可する」

 ハルヒは観念して、マンガの貸し出しを許可した。

「ありがとうございマス!」

 ベラの表情は真顔だが、どことなく嬉しそうに見えた。

「じゃあボクは、この際だから『四国史』でも読破するかな?」
「お前も読むのか!?」
「今後映画化とかの企画があった時の予備知識だよ」
 
 ハルヒは資料室の隣の部屋を二人に見せた。

「ココは見ての通り寝床だ!」

 8畳ほどの部屋に三段ベッドがコの字型に配置されている。
 隔壁がある為、最低限のプライベートは守られている。

「これは詰め込みましたね……カプセルホテルみたい」
「ココで一人で寝るなんて、何か気が進まないなぁ……」

 好き放題言っている二人に、ハルヒはドヤ顔で言った。

「安心しろ! 隣の部屋は『船長室』だ。 ベッドと風呂もあるぞ?」  

 そう言って二人をその隣の部屋に連れて行くハルヒ。

「ほぉぉ……」

 船長室は6畳ほどで広めのデスクと社長椅子があり、その横に4畳ほどのベッドルームと風呂場らしきものがあった。
 ハルヒは社長椅子に腰かけ、ふんぞり返って朔也に言った。

「お前はココを使えばイイ。 どうだ? 快適だろ?」
「確かに。 充分すぎる装備だね」
「そうだろう? 気に入ってくれて一安心だ♪」

 ドヤ顔で椅子をクルクル回すハルヒに、朔也が素朴な疑問をぶつけた。

「ところで……操縦はドコでするの? まさかココじゃないよね?」
「ほとんど自動操縦だが一応操縦席はある。 見るか?」

 ハルヒは船長室を出て、行き止まりになった通路の横に手をかざした。

 シュゥーン

 すると突然扉が出現し、上に跳ね上がった。
 中に入ると、操縦席らしき5個の椅子が、全て同じ方向に向かって設置してあった。

「ひょっとして、ココが船首ですか?」
「そうだ。 そこのボタンを押してみろ」

 ミモザはハルヒが指差した操縦席に座った。

「こうですか? ポチッとな!」

 ブゥン……

 ハルヒが指示したボタンをミモザが押すと、目の前にスクリーンが出現し、格納庫の様子が浮かび上がった。

「おお、 外の様子が見えます……おもしろぉい!」
「コレ、 ホントに宇宙船なんだね? やっと実感わいたよ……」

 朔也は操縦席に座り、外の様子を眺めながらしみじみ言った。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鬼斬り剣士の異世界平定記

チャラン
ファンタジー
異形の鬼に追われる銀髪の姫と兵団を目撃した源竜次 苦戦中の兵団隊長に託された宝刀ドウジギリを 練磨した剣技で扱い鬼を倒した竜次は 異世界アカツキノタイラに存在する縁の国の姫、平咲夜に惚れられた 咲夜は法具で日本への歪を開き、異世界の乱れを治める儀式に必要な 国鎮めの銀杯の1つを求めに来たという 咲夜から異世界と縁の国、私自身をその強さで守って欲しいと懇願され 竜次は異世界に赴き、残る6つの銀杯を探す旅を姫と始める 縁の国の将として旅を進め、協力者との邂逅、強敵との戦いを繰り返し 竜次は異世界の騒乱に関わる、伝承を突き止めていく 源竜次は異世界平定のその日まで、鬼斬りの剣を振るい続ける 小説家になろう自アカから転載中 ユーザーネーム:チャラン 作品URL https://ncode.syosetu.com/n5151hb/

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで

あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...