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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-81

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宇宙船ナビスコ 船内 ジン回想――

 ハルヒに案内され、船内に足を踏み入れた朔也たち。
 扉をくぐって廊下を抜けると、二人の前には外観からは想像だにしない空間が広がっていた。

「ココは共有スペース。 家で言うとリビング・ダイニングだなっ!」

「「ほぉぉ……」」

 朔也たちの前に船室には似つかわしくない、10畳ほどのリビングが広がり、思わず感嘆の声が漏れた。
 大画面の液晶モニターやテーブル、ソファーが目に付く。

「あれ? この船ってこんなに大きかったっけ?」
「いえ、 せいぜい魚雷艇程度の大きさのハズです……」

 キョロキョロと辺りを見渡す二人に、ハルヒはドヤ顔で言った。
 
「どうだ! 驚いたろう? あと6畳ほどの部屋が3つある。 家で言ったら4LDKだな♪」 
「一体どんな仕掛けなんです?」
「よくぞ聞いた! この拡張性に富んだ内部構造、 その原理はな……」

 ミモザに聞かれ、ドヤ顔で解説を始めようとするハルヒ。

「さっぱりわからん!」

「「はぁ!?」」

 ハルヒはそう言って『オーマイガー』のポーズを取った。

「ベラが言うには、『仮想空間』と繋がっているとの事らしいが、実証の方法がわからんのだ」
「ロスト・テクノロジー恐るべし……」
 
 ミモザはただ驚くばかりだった。
 朔也はソファーに腰かけ、ふんぞり返ってみる。

「フム。 とりあえず、 居住性は問題無しかな?」
「ですね。 ウチの寮より立派ですよ……」

 ミモザもソファーに座り、辺りを見回している。
 するとミモザはふと何かに気付いた。

「先輩? この備品って、 経費で落ちたんです?」
「うっ……細かい事はイイだろ? そうだ! お前たちも登録を済ませておけ!」

 ハルヒは天井からディスプレイパネルを引き出し、朔也たちに見せた。

「ココに手を置けば『搭乗員登録』完了だ♪」

 言われるがままに手を置く二人。 登録は瞬時に完了した。

「他の部屋に案内する。 早くコッチに来い!」

 ハルヒは他の部屋を見せたがっているようで、ソファーから二人を立たせた。
 奥に続く廊下の扉の横にあるコンソールに手をかざすと、扉が上に跳ね上がった。

 シュゥーン

「うわぁ。 この開き方、もろSFですねぇ……」
「このエリアから奥は登録しないと入れない。 つまり、『選ばれし者』だけが入れるワケだ♪」
「セキュリティも万全ですね……」

 ハルヒは廊下を通って最初の扉を開けた。

「ココは資料室。 古今東西のあらゆる文献が閲覧できるように――うわっ!?」

 部屋に入るなり、ハルヒは驚いて声を上げた。
 部屋の中には本棚がずらっと並び、隅っこに小さいデスクとノートPCが置いてあった。
 その一角でなにやら物影がうごめいていた。

「……何をやっているのだ? ベラ!」
「本棚の整理をしていマス……」

 ベラは、横積みになった本をせっせとかたずけていた。
 心なしか焦りを感じるベラの仕草に、ハルヒの眉間にしわが寄った。

「な!? それは私の蔵書たちではないか! 何でココにあるんだ!?」
「肯定デス。 時代考証の資料としてお借りいたしまシタ」
「勝手に持って行くな! 直ぐに戻せ!」

 ハルヒの蔵書とは、全てマンガだった。

「否定。 拒否権を行使シマス」
「な、 何ぃぃぃ!?」

 ベラの思わぬ反逆に驚愕するハルヒ。 

「『アクリルのお面』は27巻まで読みまシタ。 『オークの紋章』は今48巻デス」
「他にも『ペーの一族』とか『リングにぶっかけろ!』とか……バラエティーに富んだチョイスですね?」
「う、 うるさい! 他人の趣味趣向を笑うな!」

 ミモザのツッコミに、ハルヒは顔を赤くして怒鳴った。 
 にらみ合うハルヒとベラに、朔也はつまらなそうに言った。

「貸してあげなよハルちゃん。 旅は長くなりそうだしね……」
「初版だぞ!? プレミアが付いてるものもあるんだ!」
「慎重に取り扱えばイイんでしょ? 出来るよね? ベラ?」

 朔也はベラに聞いた。

「肯定。 丁重に扱いマス」

 ベラは真顔ながら、ハルヒに必死な目で訴えた。
 それが通じたのか、ハルヒは溜息混じりに言った。

「……折り目を付けたら、 タダじゃ置かないぞ?」
「約束、 シマス!」
「わかった。 許可する」

 ハルヒは観念して、マンガの貸し出しを許可した。

「ありがとうございマス!」

 ベラの表情は真顔だが、どことなく嬉しそうに見えた。

「じゃあボクは、この際だから『四国史』でも読破するかな?」
「お前も読むのか!?」
「今後映画化とかの企画があった時の予備知識だよ」
 
 ハルヒは資料室の隣の部屋を二人に見せた。

「ココは見ての通り寝床だ!」

 8畳ほどの部屋に三段ベッドがコの字型に配置されている。
 隔壁がある為、最低限のプライベートは守られている。

「これは詰め込みましたね……カプセルホテルみたい」
「ココで一人で寝るなんて、何か気が進まないなぁ……」

 好き放題言っている二人に、ハルヒはドヤ顔で言った。

「安心しろ! 隣の部屋は『船長室』だ。 ベッドと風呂もあるぞ?」  

 そう言って二人をその隣の部屋に連れて行くハルヒ。

「ほぉぉ……」

 船長室は6畳ほどで広めのデスクと社長椅子があり、その横に4畳ほどのベッドルームと風呂場らしきものがあった。
 ハルヒは社長椅子に腰かけ、ふんぞり返って朔也に言った。

「お前はココを使えばイイ。 どうだ? 快適だろ?」
「確かに。 充分すぎる装備だね」
「そうだろう? 気に入ってくれて一安心だ♪」

 ドヤ顔で椅子をクルクル回すハルヒに、朔也が素朴な疑問をぶつけた。

「ところで……操縦はドコでするの? まさかココじゃないよね?」
「ほとんど自動操縦だが一応操縦席はある。 見るか?」

 ハルヒは船長室を出て、行き止まりになった通路の横に手をかざした。

 シュゥーン

 すると突然扉が出現し、上に跳ね上がった。
 中に入ると、操縦席らしき5個の椅子が、全て同じ方向に向かって設置してあった。

「ひょっとして、ココが船首ですか?」
「そうだ。 そこのボタンを押してみろ」

 ミモザはハルヒが指差した操縦席に座った。

「こうですか? ポチッとな!」

 ブゥン……

 ハルヒが指示したボタンをミモザが押すと、目の前にスクリーンが出現し、格納庫の様子が浮かび上がった。

「おお、 外の様子が見えます……おもしろぉい!」
「コレ、 ホントに宇宙船なんだね? やっと実感わいたよ……」

 朔也は操縦席に座り、外の様子を眺めながらしみじみ言った。 
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