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第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード56-79
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エルフィンナイツ財団 極東支局 地下格納庫 ジン回想――
出発前の持ち物チェックが終わり、ハルヒによるミッションの最終確認が行われた。
「よし! ミッションの内容をおさらいするぞ!」
今回のミッションは、
・宇宙船『ナビスコ(仮)』に搭乗し、地球から約5光年離れている惑星『カサンドラ(仮)』を目指す。
・カサンドラ到着後、『楽園』の存在確認及び大賢者『ブロディ(仮)』の生存確認及び保護
・『楽園』の生態調査、レアメタルの回収
であった。
「以上だが何か質問はあるか?」
「はーい! しつもーん!」
ミモザは勢いよくバッと手を挙げた。
「何だミモザ?」
「そもそもこの宇宙船があれば、 カサンドラまで簡単に行き来出来たはずですよね? 何で今更なんです?」
ミモザのもっともな疑問に、ハルヒが説明を始めた。
「その昔、 大賢者クラスの者には【転移】の魔法が使える者がいたらしい。 そいつにしてみれば『惑星間移動』などはお茶の子さいさいだったのだろうな……」
「って事は、 そもそも宇宙船なんか必要なかったの?」
「ま、 そうだな」
ミモザの頭の上に『???』のマークが浮かんだように見えた。
「では、 宇宙船を造らないといけない理由が出来た、 と?」
朔也の問いに、ハルヒは頷いた。
「死期を悟ったハイエルフが、 その余生を『楽園』で過ごすと言う習慣は前に説明したな?」
「うん。 聞いた」
「その頃は恐らく、『楽園』の場所が地球ではない他の星だった事もわかっていなかったのだろう……しかーしっ!」
そこでハルヒは言葉を切った。
「これは宇宙船の中にいたコイツの頭の中にあった『航海日誌』でわかった事だが……」
そう言ってハルヒは、 ベラの頭に手をポンと置いた。
ベラはハルヒにこっぴどく叱られ、結局デフォルトの外観に戻されて不機嫌そうな顔つきだった。
「【転移】が使える張本人が『楽園』に行ったきり戻って来なかったのだ」
「うっ、 確かにそれは困るなぁ……」
「何か、 トラブルでもあったんでしょうか?」
「わからん。 そのあたりの記述は見当たらなかった」
「それで宇宙船を造ってまで、 その星に行かないとヤバい事が起きた?」
「そうらしい。 ハイエルフたちは血眼で大賢者のいる『楽園』を探し、 100年を費やしてそれが地球ではない他の星にある事がわかった」
「ひゃ、 100年!?」
「そこでハイエルフは当時の技術を総動員し、 さらに200年かけてこの宇宙船を開発した!」
「うわぁ……完成まで200年ですか……」
ミモザは宇宙船をまじまじと見つめた。
「その後この宇宙船は数回航海に出ているが、『楽園』には到達してはおらん」
「何で? すぐ見つかりそうですけど?」
「この当時はある意味ギャンブル的な要素もあったのだ。 星の位置は大賢者のペットだったオウムの『オズワルド』が言う場所が有力だった」
「は? オウム頼りですか? 非科学的過ぎますよ……」
「しかし、その経験からその候補地には『ある因子』が関係している事がわかり、 そちらの方向からも位置の割り出しを始めたが、当時の演算技術では限界があり、 位置を割り出すまでには至らなかった。 さらに!」
「まだ問題があるんですか?」
ミモザは怪訝そうな顔でハルヒに聞いた。
「この宇宙船の動力源である【ケロリン粒子】の往復分のチャージに、当時は二十年程かかっていたらしい……」
「に、 二十年!? コイツ……どんだけ低燃費なんだ?」
「仕方あるまい。 今の技術でもこの宇宙船の構造の全てを把握出来ていないのだからな。 それでその後だが……」
「うぅ……大体想像はつきますねぇ……」
ミモザの推測は、大筋で合っていた。
「そうこうしている間にオズワルドは死亡し、 座標割り出しも難航している事から、 このプロジェクトは凍結された……」
「やっぱりそうきたか……」
予想通りの展開に、一気に場の空気が重くなった、かのように思えた。
「しかーし! 状況は一変した!」ズビシィ!
ハルヒは二人に向かってポーズを取った。
「この宇宙船が発見された時、 当然の事ながら主電源は落ちていた。 しかし、 予備電源でカサンドラの座標を求める演算プログラムは稼働しており、 座標の特定は完了していたのだ!」
「「おぉー!」」
思いがけない朗報に、二人は手を取り合って喜んだ。
「しかもだ! 別の目的だはあったが、『魔素』を変換して『ケロリン粒子』を生成する装置を、 軍の研究機関が開発していたのだ!」
「「おぉー!」」パチパチパチ
ポーズを取ったハルヒに、二人は拍手を送った。
「星の位置も、 コイツのエネルギー問題も解決した。 残るは何かわかるか?」
ハルヒはわざとらしく朔也に聞いた。
「コレに乗るパイロット……でしょ?」
「その通り! そこでお前なのだ朔也!」ズビシィ!
ハルヒはそう言って、人差し指を朔也の鼻先に突き付けた。
「そ、 それは光栄だね……」
「だろう? だから私はお前に『崇高なミッション』だと言ったのだ!」
ハルヒは腰に手をやり、ふんぞり返った。
「ジン様? これだけ条件が揃っているならこのミッション、 案外楽勝かもしれませんね?」
「そうだとイイんだけどね……」
ミモザはそう言ったが、朔也は正直納得はしていなかった。
「操縦も全てコイツがやる。 何にも問題は無いさ♪」
ハルヒはそう言って、ベラの頭をポンポンと叩いた。
朔也はハルヒに、思っている事をストレートにぶつけた。
「だったら全部ベラにやってもらえばイイんじゃないか? 遠隔で指示を送る事だって出来るんだし……」
「甘いな……それが出来れば苦労は無い!」
「やっぱり何かあるんだね? ボクじゃなきゃダメな理由……」
「うぅ……まじまじと見るな! 恥ずかしいであろう!」
朔也はハルヒの瞳を見つめ、瞳孔の開きを注視した。
「ボクには真実を知る権利がある! さぁ……話したまえ!」
「わかった話す……実はな、 大賢者は……女だ」
「「はぁ~!?」」
朔也たちは気の抜けた声を上げた。
「皆まで言わんとわからんか? お前のルックスと話術で大賢者をメロメロにして連れて来いって事だ!」
「何だよそのミッション……要は宇宙船でとある惑星に行って熟女をナンパしろって事?」
はっきりとハルヒに言われ、朔也は半笑いでおどけて見せた。
「ああ。 そう言う事だ。 確実に落とせよ? お前には【魅了】もあるしな♪」
ハルヒは開き直り、朔也に釘を刺した。
出発前の持ち物チェックが終わり、ハルヒによるミッションの最終確認が行われた。
「よし! ミッションの内容をおさらいするぞ!」
今回のミッションは、
・宇宙船『ナビスコ(仮)』に搭乗し、地球から約5光年離れている惑星『カサンドラ(仮)』を目指す。
・カサンドラ到着後、『楽園』の存在確認及び大賢者『ブロディ(仮)』の生存確認及び保護
・『楽園』の生態調査、レアメタルの回収
であった。
「以上だが何か質問はあるか?」
「はーい! しつもーん!」
ミモザは勢いよくバッと手を挙げた。
「何だミモザ?」
「そもそもこの宇宙船があれば、 カサンドラまで簡単に行き来出来たはずですよね? 何で今更なんです?」
ミモザのもっともな疑問に、ハルヒが説明を始めた。
「その昔、 大賢者クラスの者には【転移】の魔法が使える者がいたらしい。 そいつにしてみれば『惑星間移動』などはお茶の子さいさいだったのだろうな……」
「って事は、 そもそも宇宙船なんか必要なかったの?」
「ま、 そうだな」
ミモザの頭の上に『???』のマークが浮かんだように見えた。
「では、 宇宙船を造らないといけない理由が出来た、 と?」
朔也の問いに、ハルヒは頷いた。
「死期を悟ったハイエルフが、 その余生を『楽園』で過ごすと言う習慣は前に説明したな?」
「うん。 聞いた」
「その頃は恐らく、『楽園』の場所が地球ではない他の星だった事もわかっていなかったのだろう……しかーしっ!」
そこでハルヒは言葉を切った。
「これは宇宙船の中にいたコイツの頭の中にあった『航海日誌』でわかった事だが……」
そう言ってハルヒは、 ベラの頭に手をポンと置いた。
ベラはハルヒにこっぴどく叱られ、結局デフォルトの外観に戻されて不機嫌そうな顔つきだった。
「【転移】が使える張本人が『楽園』に行ったきり戻って来なかったのだ」
「うっ、 確かにそれは困るなぁ……」
「何か、 トラブルでもあったんでしょうか?」
「わからん。 そのあたりの記述は見当たらなかった」
「それで宇宙船を造ってまで、 その星に行かないとヤバい事が起きた?」
「そうらしい。 ハイエルフたちは血眼で大賢者のいる『楽園』を探し、 100年を費やしてそれが地球ではない他の星にある事がわかった」
「ひゃ、 100年!?」
「そこでハイエルフは当時の技術を総動員し、 さらに200年かけてこの宇宙船を開発した!」
「うわぁ……完成まで200年ですか……」
ミモザは宇宙船をまじまじと見つめた。
「その後この宇宙船は数回航海に出ているが、『楽園』には到達してはおらん」
「何で? すぐ見つかりそうですけど?」
「この当時はある意味ギャンブル的な要素もあったのだ。 星の位置は大賢者のペットだったオウムの『オズワルド』が言う場所が有力だった」
「は? オウム頼りですか? 非科学的過ぎますよ……」
「しかし、その経験からその候補地には『ある因子』が関係している事がわかり、 そちらの方向からも位置の割り出しを始めたが、当時の演算技術では限界があり、 位置を割り出すまでには至らなかった。 さらに!」
「まだ問題があるんですか?」
ミモザは怪訝そうな顔でハルヒに聞いた。
「この宇宙船の動力源である【ケロリン粒子】の往復分のチャージに、当時は二十年程かかっていたらしい……」
「に、 二十年!? コイツ……どんだけ低燃費なんだ?」
「仕方あるまい。 今の技術でもこの宇宙船の構造の全てを把握出来ていないのだからな。 それでその後だが……」
「うぅ……大体想像はつきますねぇ……」
ミモザの推測は、大筋で合っていた。
「そうこうしている間にオズワルドは死亡し、 座標割り出しも難航している事から、 このプロジェクトは凍結された……」
「やっぱりそうきたか……」
予想通りの展開に、一気に場の空気が重くなった、かのように思えた。
「しかーし! 状況は一変した!」ズビシィ!
ハルヒは二人に向かってポーズを取った。
「この宇宙船が発見された時、 当然の事ながら主電源は落ちていた。 しかし、 予備電源でカサンドラの座標を求める演算プログラムは稼働しており、 座標の特定は完了していたのだ!」
「「おぉー!」」
思いがけない朗報に、二人は手を取り合って喜んだ。
「しかもだ! 別の目的だはあったが、『魔素』を変換して『ケロリン粒子』を生成する装置を、 軍の研究機関が開発していたのだ!」
「「おぉー!」」パチパチパチ
ポーズを取ったハルヒに、二人は拍手を送った。
「星の位置も、 コイツのエネルギー問題も解決した。 残るは何かわかるか?」
ハルヒはわざとらしく朔也に聞いた。
「コレに乗るパイロット……でしょ?」
「その通り! そこでお前なのだ朔也!」ズビシィ!
ハルヒはそう言って、人差し指を朔也の鼻先に突き付けた。
「そ、 それは光栄だね……」
「だろう? だから私はお前に『崇高なミッション』だと言ったのだ!」
ハルヒは腰に手をやり、ふんぞり返った。
「ジン様? これだけ条件が揃っているならこのミッション、 案外楽勝かもしれませんね?」
「そうだとイイんだけどね……」
ミモザはそう言ったが、朔也は正直納得はしていなかった。
「操縦も全てコイツがやる。 何にも問題は無いさ♪」
ハルヒはそう言って、ベラの頭をポンポンと叩いた。
朔也はハルヒに、思っている事をストレートにぶつけた。
「だったら全部ベラにやってもらえばイイんじゃないか? 遠隔で指示を送る事だって出来るんだし……」
「甘いな……それが出来れば苦労は無い!」
「やっぱり何かあるんだね? ボクじゃなきゃダメな理由……」
「うぅ……まじまじと見るな! 恥ずかしいであろう!」
朔也はハルヒの瞳を見つめ、瞳孔の開きを注視した。
「ボクには真実を知る権利がある! さぁ……話したまえ!」
「わかった話す……実はな、 大賢者は……女だ」
「「はぁ~!?」」
朔也たちは気の抜けた声を上げた。
「皆まで言わんとわからんか? お前のルックスと話術で大賢者をメロメロにして連れて来いって事だ!」
「何だよそのミッション……要は宇宙船でとある惑星に行って熟女をナンパしろって事?」
はっきりとハルヒに言われ、朔也は半笑いでおどけて見せた。
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