拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-70

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地下格納庫 ジン回想――

 ハルヒは今回のミッションに使用する宇宙船を朔也とミモザに披露した。
 そして、どう言うわけか宇宙船に乗るのは朔也一人であると明言した。

「乗組員は朔也……お前だけだ!」

「何ぃぃぃぃ!?」「何ですとぉぉぉ!?」

 ハルヒの発言には、ミモザも驚きを隠せなかった。
 朔也は手をブンブンと振り回しながらハルヒに食って掛かった。

「どうしてボクだけなの? おかしいでしょう?」
「帰りは一人じゃないからな。 席は多い方がイイだろう?」
「それ、 どういう意味?」

 朔也は眉間にしわを寄せ、ハルヒに聞いた。

「その星にいると言われている『ある人』を連れてくるミッションも、 同時に発令されておるのだ!」
「人が生息しているって、 何でわかるの?」
「ある遺跡で、『古文書』が発見されたのだ。 見たまえ」ピッ

 ハルヒはリモコンをホワイトボードに向けると、ある映像が浮かび上がった。

「ん? 見た事無い文字ですね。 何て書いてあるんですか? しかもところどころ抜けてる……」 
「我が国が誇るスパコン『ワイズマン』で文字を解析した所、 ある事がわかった……」ピッ

 そこで言葉を切り、ハルヒは次の画像を映した。

「最新鋭のスパコンを使って導き出した文字、 それは……」

「「それは?」」

「『楽園』と『黄金』、『生命の泉』だった……」

 映し出された映像にアンダーラインが引かれている。 

「エルフの里に伝わる言い伝えでは、 死期を悟ったハイエルフはその余生を『楽園』で過ごすと言う習慣があったと言われている」
「その『楽園』がその星にあると言いたいの?」
「先輩、 それだけじゃないですよね? 『黄金』と『生命の泉』……どっちも喉から手が出るほど欲しいでしょうから……」チャ
「御名答! クライアントは欲張りでな。 そう言う事だ。 観念しろ朔也♪」

 ハルヒは朔也とミモザの指摘に、悪びれもせずしれっと言い放った。
 その傲慢な態度に流石の朔也もキレた。

「何だよソレ! いくら何でも一人じゃ無理だ! 第一操縦方法がわからないし!」
「問題無い。 順を追って説明する!」

 ハルヒは興奮気味の朔也をなだめた。

「まぁそう焦るな。 十数年前、 ある場所でコイツを発見した」

 ハルヒはそう言って親指で後ろにある宇宙船を指した。

「ある場所? ドコで?」
「遺跡……とかですかぁ?」
「それは機密だ♪」

 ハルヒは人差し指で唇を押えた。

「最初はコレが何なのかさっぱりわからなかったが、 調べている内に出入り口が見つかり、 中を調べた……」 

 そこで言葉を切ったハルヒは立上り、宇宙船に近付いた。

「そして、 船内で故障して動かなくなっていたアンドロイドが見つかったのだ」

「「アンドロイド!?」」

 二人は驚愕の表情を浮かべた。

「金属でも樹脂でもない、 特異な物質で出来た1/1フィギュアのようだった……」
「修理、 出来たんですぅ?」
「ああ。 何とかな……」

 ミモザの問いに、ハルヒは肯定の意を示し、自分のこめかみを指した。

「ココにな。 電池が入っていた。 型番は『CR2032』だった」 
「はぁ!? それって電卓とかに使うボタン電池ですよね?」
「但し、 左右10コずつで、 20コ使うがなっ!」

 そのボタン電池は現在ごく普通に使用している電池であり、数百もしくは数千年前に存在したとは信じ難い。

「そんなの、 その時代にあるワケ無いでしょ?」

 二人はまた、驚愕の表情を浮かべた。

「百聞は一見に如かず。 お見せしよう」パチン

 ビィィィィー……

 ハルヒが指パッチンすると、ガンメタリックのつるっとしたボディに裂け目が出来、宇宙船の一部が開いた。

「あそこが出入り口? 今まで気付かなかった……」
「どうゆう構造なんですぅ? アレ……」

 シーン……

 扉は開いたが、数十秒経っても何も起こらなかった。

「ん? 何も出て来ませんけど……」
「チッ、 使えない奴め……」

 イラついたハルヒは、開いた扉にずかずかと入って行った。
 何やら怒号が飛び交ったあと、ハルヒが何かを引きずりながら扉から出て来た。

「おいポンコツ! 自分で歩け! 重い!」
「はわわわわわ……」

 ハルヒが連れて来たのは、先ほど聞いた通りの容姿をしたアンドロイドだった。
 二人が見つめていると、アンドロイドはハルヒの後ろに隠れてしまった。
 
「そのコが例のアンドロイドですか?」
「人見知りしてるの?」
「これ! 前に出んかたわけ!」
「ひぃぃぃ……」

 ハルヒが無理矢理引きはがそうとすると、アンドロイドは意地になってしがみつく。
 朔也は中腰になり、腰が引けているアンドロイドに話しかけた。

「大丈夫だよ? ボクはこのお姉さんよりずぅーっと優しいからねっ?」
「な、何を~っ!?」

 すると、アンドロイドは朔也の顔をじっと見つめた。
 やがてアンドロイドは、朔也の薄桃色の髪を見てポツリと呟いた。

「……その髪の色……『ダー様』の色に似ている……デス」
「ダー様? 何それ?」

 アンドロイドが言った意味がわからず、三人はお互いの顔を見合わせた。

「ダー様は私のご主人様……デス」

 怯えていたアンドロイドが、自らの意思で朔也の前に立った。
 そして真っ直ぐに朔也の目を見つめた。

「ジジジ……網膜認証……第一候補、 エラー、 第二候補、 エラー……」
「何をしているんだコイツは?」
「さぁ? ボクにはさっぱり……」

 アンドロイドの謎の行動に、ミモザはピンときた。

「このコは多分……ジン様が自分のマスターに相応しいか『審査』してるんですよ!」チャ

 暫くこの状況が続いたが、数分後に変化があった。

「生体スキャン完了。 『黄昏因子』を検出……」
「何を言ってるんだコイツは?」
「黄昏なんちゃらって言ってましたけど……」

 アンドロイドが言ったあるワードに、朔也の顔が若干曇った。

「……第九候補、 適合。 ごきげんよう、 荻原朔也サマ」
「あれ? ボクはまだ名乗ってないよね?」

 アンドロイドは何故か朔也の名前を知っていた。

「キミ……さっき『黄昏因子』って言ったよね?」
「……回答不能……デス」
「間違いなく言った! ちゃんと説明してっ!」
「はわわわ……」

 朔也が我に返ると、アンドロイドの両肩を掴み、激しく揺すっていた。

「あ、 ゴメン。 ついうっかり……」
「ふむ……これは……」
 
 朔也とのやりとりを見ていたミモザは、またもやピンときた。

「先輩? このコを制御しているのって、 AIじゃない何か……ですよね?」チャ
「素晴らしい観察眼だ。 出来るなミモザ♪」
「フッ、 伊達に『ハラカワ文庫』とか『朝日ソノヤマ』のSF小説読んでませんよ♪」チャ

 ミモザの指摘に満足げのハルヒが解説を始めた。

「電池交換で起動までは出来たんだが肝心のOSが壊れていてな。 たまたま研究所の資料室にあった『ある精霊族の標本』に宿っていた魂を、 ネクロマンサーのスキルを持っている奴に【受肉】させたのだっ!」
「という事は、 つまり?」
「つまり、 コイツには感情があると言う事だ!」
   
 ハルヒはドヤ顔でそう言った。 
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