上 下
491 / 590
第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-49

しおりを挟む
保養施設内 バー『ジャムル・フィン』

 軍人将棋でキャリーを撃破し、勝利の報酬だった『部下たちを好きにする権』を『放置』する事でこの場を回避しようとしていたシズルーだったが、エスメラルダに阻止された。
 エスメラルダはシズルーに聞いた。

「シズルー、 この子たちを『アレ』以外で満足させられるとしたら、 何が出来る?」
「…………」

 聞かれたシズルーは、顎に手をやって暫く黙考した。

(参ったな……どうやって逃げるか……これはどうだろう?)

 やがてシズルーが口を開いた。

「『オイルマッサージ』なら、多少心得があるが……」

 静流は依然、奇しくもこの保養施設でオイルマッサージを澪たちにやった事があった。
 その際に指導してもらったのは、そこにいるフジ子だった。

「シズルー様のオイルマッサージ……それは究極の『癒し』です! 私が保証します!」

 瞬時に察したフジ子がフォローを入れる。

「ほう……それは興味あるね。 どれ、 アタシもやってもらおうかね?」
「ボス? 正気か?」

 そう言ってシズルーは、エスメラルダを見て眉を若干ゆがめた。

「だったら私もお願いしようかしら? 肩も凝ってるし……」
「キャリー!? まぁ図々しい……アナタは勝負に負けたのよ! 諦めなさい!」
「フジ子……アンタなんて外野の癖に、 隙を見て便乗するつもりなんでしょう? そんなの許さないから!」

 途端に店内が騒がしくなった。
 姉たちはひそひそと相談を始めた。

「どうすんのよ忍……あの年増連中、 侮れないわよ?」ヒソ
「一刻も早く静流を解放させる為には、この流れに乗るしかない……」ヒソ

 その後、シズルーに相手をしてもらうのは自分だと言い張る者が続々と出現し、店内はカオスな状態となっていた。
 イラついたエスメラルダは、ふと何かを思いついた。

「キャリー、 アンタが借りてる部屋、9人部屋だったね?」
「え? そうですが、 相部屋希望の二組のカップルに半分貸す事になったんですよね……」

 キャリーからそれを聞いたエスメラルダはニヤリとした。

「9人部屋か……丁度イイじゃないか。 とっとと済ませるよ!」
「はぁ?……閣下、 何を仰っているんです?」

 エスメラルダの言う事に理解が追い付かない一同。

「シズルー、 お前がココにいる全員にオイルマッサージとやらをするんだ!」

 さらにカオスな事を言い出すエスメラルダに、シズルーはイラつき、テーブルを叩いた。

「何? 冗談にも程がある!」ドンッ
(何でそうなるの!? こんな筈じゃなかった!)

 エスメラルダはシズルーにとどめを刺した。

「そうでもしないと収拾がつかないだろ? これは命令だよ!」
「……わかった。 引き受けよう」
 
 逃げ場のなくなったシズルーは観念し、某A級スナイパーのセリフをまねた。

「きゃあ! シズルー様が私たちを気持ち良くさせてくれるって♡」
「ああ……諦めなくて良かった!」

 シズルーの返事を聞いたジョアンヌたちは、手を取り合って喜んだ。

「な、なぁに……適当にあしらってイカせちゃえばイイのよ。 シズルー! ガンバ……」
「ヌメヌメマッサージ……少し、 嬉しいかも? グフ」

 薫子は動揺し、忍はソワソワしている。

「ねぇ……全員って、 アタシも?」

 先程まで面白がって見ていたラチャナは、呆気に取られて薫子たちに聞いた。

「ま、 そう言う事みたいよ♪」
「ツイてるね。 タナボタ案件?」

 紆余曲折があり、シズルーは結局、ここにいる関係者全員をもてなす事になった。



              ◆ ◆ ◆ ◆


保養施設 ロビー

 部屋が整うまでの間、ロビーで飲み物を飲みながら待つことにしたニナ達。
 テーブル付きソファーに各々のレプリカを隣に座らせ、対面で座って談笑している。
 年齢はルリの方がはるかに上だが、階級が同じ少尉な事からか、ニナとはフランクに接している。

「しっかし、 部屋の都合がついて良かったよね?」
「全くです。 ある意味、 神懸ってると言ってもイイですね……むほぉ」

 レプリカたちが気になるのか、周りの客たちがざわついている。

「見て見て? あそこにいるのって、 ほら、 昔いたイケメン俳優の……」ざわ… 
「ジン様! 七本木ジン様よ!」ざわ…
「でもジン様って、かなり前に突然行方不明になったのよね?」ざわ…
「ドッペルゲンガーかしら? 何にしても羨ましい……」ざわ…
「その奥にいる殿方も素敵よねぇ……」ざわ…
 
 そんな光景を見ながら、ニナとルリはささやかな優越感に浸っていた。

「凄い集客力だね? さすが元有名人♪」
「流石は『レジェンド・オブ・イケメン』ですぅ」

 思い出したように、ルリはニナに聞いた。

「ところで、最も肝心な『プレイ内容』なのですが……」
「まぁ、 詳しく話すと興奮度が下がるといけないから、 簡単に言うね?」
「ぐほっ!? その言葉だけで興奮してしまいますぅ」

 ニナは得意げにルリに言った。

「さっきチラッと言った『道具』って、『フルンチング』っていうの。 知ってる?」

 道具の名を聞いたルリが、即座に反応した。

「え? そ、 ソレって、 『疑似マラ界の聖剣』と呼ばれている、 おナベ垂涎の『魔淫具』では?」

 疑似マラとは、いわゆる『電動コケシ』の類である。
 

「そうらしいね。 軍の養成所にいた頃、 とある後輩にプレゼントされてね♪」

 ニナはボーイッシュな風貌から、後輩女子に言い寄られることがしばしばあったらしい。

「もらったコも含めて何人かに使ったけど、 みんな一分持たないでイッてたよ♪」 
「おほっ、 聞きしに勝る素晴らしい性能ですね? で、 ご自分で使用した感想は?」

 ルリは興奮しながらニナに聞いたが、ニナは複雑な顔になった。

「されがさぁ……正直、 イマイチなんだよね……」 
「なぬ!? どうゆう事?」

 ニナの意外な返事に、ルリは耳を疑った。

「『相手を三こすり半で確実にイカせる』と言う伝説の聖剣ですぞ?」
「昔はイカせる専門だったし、『ひとりエッチ』だと何か萎えちゃうんだよね……」
「成程……さしずめ『疑似ED』と言った事ですか……」
「でもさ……」
  
 ニナはそこで言葉を切った。

「ジン様なら、私をイカしてくれそうじゃん? 当然『中イキ』だよ♪」
「イキましょう。 私も全力でサポートいたしますゆえ……ぶふぅ」

 そう言ってルリは、ニナの手をグッと握った。

「ん? 何か騒がしいですね……はっ!」

 ルリたちが我に返って辺りを見回すと、いつの間にかロビーに人だかりが出来ていた。

「あらら、 いつの間にこんなにメスが? フェロモンムンムンですねぇ」
「タハハ……まいっちゃうな」

 皆に注目されて、アタフタしている二人に、フロントの方から受付がパタパタと小走りで近づいて来た。

「あ! 丁度良かった♪ 部屋の準備出来た?」
「お待たせしてすみません……少し手違いがありまして……」

 受付はペコペコと頭を下げた。

「準備があと30分程かかりそうなのです……」

「「えぇ~っ!?」」

 二人はあからさまに不機嫌になった。

「で、 ですのでお待ち頂いている間、こちらの『黄金風呂』でお寛ぎ下さい!」
 
 受付はパンフレットを開き、二人に見せた。

「「おぉ~っ!」」

 パンフレットには、六畳程の部屋の中央に、黄金に輝く円形のバスタブが配置してあった。

「こちらはVIP中のVIP御用達のお風呂で、一般のお客様は通常、使用不可の代物で、 当然『混浴』でございますっ!」

 それを聞いた二人は、次第に機嫌が良くなっていった。

「ま、 まぁそれならイイか♪」
「し、 しょうがないですね。 それで手を打ちましょう……ヌフ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...