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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-48

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保養施設 フロント

 ニナがルリの手を引きながら、フロントに顔を出した。
 その後を二体のレプリカが付いて来ていた。
 ニナは部屋の空き状況を確認すべく、受付を呼んだ。

「すいませーん!」
「如何いたしましたか? お客様?」
「部屋空いてない? どんなのでもイイ。 何ならひと部屋で四人でもイイんだけど?」
「は、はぁ……」

 受付は四人の姿をチラチラ見ながら、PCを操作した。

「ええと……只今ダブル、 ツイン共満室でございます……」

 受付は申し訳なさそうにニナに告げた。

「何ィ!? 満室かよ!?」
「そりゃそうでしょう? 何たって今夜は『聖夜』だもんねぇ?……ムフ」

 驚いたニナに、ルリは諭すように言った。
 すると受付が、意外な事を提案して来た。

「あの……もしよろしければ、 なのですが……」
「何? に選択肢があるの?」 

 受付は奥歯に物が挟まった様な言い方で言った。

「ツインと9人部屋をチェンジ希望のお客様がいらっしゃるんですが、 交渉次第で『相部屋』が可能かと……」
「何ソレ? 聞かせて?」

 受付が言うには、9人部屋の中央に壁を作り、4人と5人に分ける事が可能との事であった。

「出入口とバス・トイレは共有になりますが……」
「イイじゃんソレ! 直ぐ交渉して?」
「わかりました。 では早速……」
 
 受付は受話器を取り、宿泊者リストにある衛星端末の番号をプッシュした。



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設内 バー『ジャムル・フィン』

 軍人将棋でシズルーが勝利したが、勝利報酬であるキャリーの部下、ジョアンヌとカミラを『好きにする権』を得た所、『何もしない』と言う放置プレイ宣言をしたシズルーに、エスメラルダが物言いをつけた。

「奴さん、 こんな事言ってるけど、 アンタたちはそれでイイのかい?」

 エスメラルダはジョアンヌたちに聞いた。

「良く……ありません……納得いきません!」
「アタシも……『放置プレイ』だけは嫌!」

 そう言った二人は顔を火照らせ、潤んだ目でシズルーを見た。
 少し困っているシズルーは、憮然とした表情で二人に聞いた。

「では、 何をすればイイのだ? 一万歩譲って『生殖行為』以外ならやらんでもないが……」

 シズルーのその言葉に、二人は顔を見合わせた。

「本当、 ですか?」パァァ
「『放置プレイ』以外なら、プレイ内容は任せます!」

 二人は一層紅潮した顔でシズルーに言った。
 そこで、今まで黙っていた者たちが一斉に口を開いた。

「お待ち下さい! プレイ内容ならこの私が手取り足取り指導し、 監修致します!」
「何言ってんのよフジ子! このコたちの上官はアタシ! 『筆おろし』はアタシがリードするからアンタは引っ込んでて!」
 
 フジ子の提案に、キャリーは全力で反論した。

「勝手に話を進めないで! それにシズルーは『本番』は無いって言ってるでしょ!」
「『放置プレイ』が嫌なら、 シズルー側が一切手を出さない『視姦プレイ』で手を打つ!」

 堪らず姉たちが横やりを入れると、ジョアンヌたちが即座に反論した。 
 
「見られてるだけなんて、そんなのイヤ!」
「ちゃんとシズルー様の手で……イカせて下さい」ポォォ

 当事者たちとその上官、さらにギャラリーがやいのやいの言いだし、 店内が騒がしくなった。


「黙らっしゃあーいっ!!」


 エスメラルダの一喝に、その場が一瞬でしんと静まり返った。
 それを確認したエスメラルダが、シズルーに言った。

「話がここまで大きくなったからにはシズルー、 『逃げ』は無しだよ?」
「わかっている。 逃げはしない……」
 
 エスメラルダに釘を刺され、シズルーは渋々そう言った。

(マズいぞこの展開……面倒な事になったな……)

 シズルーは気を取り直し、一同に聞いた。

「それで私は、 何をすればイイのだ?」
「それは……ん?」ブブブ

 頬杖をついていたキャリーの身体が、ビクンと跳ねた。

「ちょっと失礼? うんしょっと……」

 キャリーは胸の谷間に手を突っ込み、衛星端末を取り出した。

「はぁい♪ 部屋のチェンジは? え? あ、 そう? それならOKよ♪ じゃ」ピッ

 通話が終わり、端末を胸に戻したキャリーに、ジョアンヌが聞いた。

「ママ? 何かあったの?」
「気にしないで。 変えようとしてた9人部屋、 相部屋に使いたいって二組の客がいるみたいなの。 仕切れば5人分を4人部屋の値段でイイって。ラッキー♪」 

 キャリーは上機嫌でそう言った。

「何よソレ? 他のカップルと同じ部屋になるの? アタシなら断るわ……」
「この女……相当ぶっ飛んでる……」

 ドン引きの姉たちは、畏怖の目でキャリーを見ていた。
 そんな事はお構いなしに、キャリーはほくそ笑んだ。

(面白いじゃない……この際中古でもイイわ。 ドサクサに紛れて頂いてやる……)

 そんな時、薫子が何かに気付いた。 

「ん? 部屋なら静流の『VIPカード』を使えば何とでもな――ふぐっ!?」
「シィーッ! ダメ。 黙ってて」
 
 忍は慌てて薫子の口を押えた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設 フロント

 受付が宿泊客と交渉をしている。

「はい。 それでですね、 仕切り壁を……いいえ、 四人部屋の価格で結構です……そうですか! ありがとうございますっ!」

 受話器を置いた受付が、満面の笑顔でニナたちに言った。

「お喜び下さい! お部屋の都合がつきました!」グッ!

 受付はそう言って親指を立てた。

「よしっ! グッジョブ♪」

 ニナは満面の笑みで受付をねぎらった。 

「では、直ぐにメイキングを始めますので、15分後にこちらにお越し下さい。 その際にキーをお渡しします」
「ほーい! じゃ、 向こうで何か飲もう♪」

 ニナはフロントの端にあるドリンクバーを指さした。 
 それぞれ自分で選んだ飲み物を手にし、テーブルに座った。

「いやぁ助かった。 何とかなるもんだね?」
「ホントです。 部屋を予約するのも骨が折れますねって……ん?」
  
 そこでルリは、何かに気付いた。

「でもでもぉ、 お部屋なら静流様の『VIPカード』を使えば――もごっ!?」
「シィーッ! イイのイイの♪」
 
 ニナは慌ててルリの口を押えた。
 そして小声でルリに言った。

「こんな事で静流クンの手を煩わせるのは、 大の大人のする事じゃないでしょ?」
「うっ……ですよねー」
「大体、 ダッチワイフならぬダッチハズバンドとイチャイチャする為に部屋借りるなんて、静流クンが聞いたらドン引きでしょう?」
「はぐっ!? た、 確かに……」

 ルリはついさっきまでの浮かれた自分を思い出し、冷静さを取り戻しつつあった。
 それを見たニナが、慌ててルリに言った。

「ちょっと先輩!? 賢者タイムになるのはまだ早いって!」
「はっ! そうでした……まだ『楽園』に行く前でしたね……フフ、 フフフフ」

 ニナの言葉に、ルリの顔は再び緩み始めた。
 調子が戻って来たルリを見て、ニナは何度も頷いて言った。 

「そうそうその調子! 反省会は後でね♪」
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