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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-45

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宴会場『プロメテウス』の間

忘年会のプログラムが全て終了し、睦美が締めの挨拶を始めた。

「えー、 これにて『合同大忘年会 IN ククルス島保養施設』を終わります! お付き合い、 ありがとうございました!」

 睦美が頭を下げると、周りから労いの声が上がった。

「お疲れ~っ」パチパチパチ 
「よっ! 名MC!」パチパチパチ

 すると今まで大人しかった郁が立ち上がり、一同に呼びかけた。

「よぉし! やるか? 一本締め!」
「イイね♪ やろやろ!」 

 全員が起立し、郁の方に注目した。

「それでは、 皆さんの来年が良い年でありますようにっ! お手を拝借、 いよぉ~!」パパパン・パパパン・パパパンパン!


「「「「ありがとうございましたぁ~っ!!」」」」パチパチパチ


 みんなの手拍子が見事にシンクロし、郁は満足げに大きく頷いた。

「さぁて、 お部屋に帰りますか……」
「長かった……早く横になりたいわぁ」

 アダルト勢はいそいそと部屋に戻る準備を始めている。

「あぁ、 朔也ぁ……」

 ジルは少し離れた所にいるニナとレプリカのジンが、仲睦まじくしている所を遠い目で眺めていた。

「イイ気味ね。 朔也を知っているアナタが相手じゃなくて良かったわ……」

 シレーヌはそう言いながら、ジルと同じ様にジンを眺めていた。
 その二人に割り込んで来たのは、カチュアと鳴海だった。

「アナタたち、 何を黄昏てるのよ?」
「よろしければ、 聞かせてもらえませんか? ジン様のエピソード」

「「朔也の、 エピソード?」」

 二人にそう言われ、顔を見合わせたジルとシレーヌ。
 カチュアは少しキレ気味に、シレーヌに言った。

「アンタには貸しがあったわよね? 聞かせなさいよ!」
「よく覚えてたわね? スーパードクター『黒孔雀』先生?」

 シレーヌに【性転換魔法】をかけたのは、かつてのカチュアだった。
 カチュアは報酬に、ジンに会わせる事を約束していたが、ジンが消息を絶ってしまい、約束は反故になってしまっていた。
 シレーヌは少し考えた後、カチュアたちに言った。

「わかったわ。 少しだけならね。 神父様、 あなたの話も聞きたいわね」
「イイでしょう。 お話しします」

 シレーヌとジルは、レプリカのジンを一瞥し、カチュアたちと共に宴会場を出て行った。

「ええ~!? 皆さん、 もうお部屋に帰っちゃうんですか?」
「そんなぁ……つまんなぁ~い」
「とにかくココからは出ないとね。 ほら、アンタも支度しなさい」
「「はぁ~い……」」

 美紀と真紀が名残惜しそうにそう言うと、萌がそれをたしなめた。

「蘭の字、 この後どうすんだ?」
「本当はアネキと色んな話をしたかったんだけどよ……」

 ヤス子にそう聞かれ、蘭子は奥でノビているリナと雪乃を寂しそうに眺めていた。
 リナと雪乃は、薫から魔素を根こそぎ吸い取られ、青白い顔で両目がハートマークのまま悶絶した状態だった。

「慎重に、 丁寧にお連れして!」
「はいっ!」

 担架を用意したスタッフが、二人を運ぼうとした時、後ろから声が掛かった。

「悪りぃね。 ちょっとイイかな?」
「は、 はぁ……」ポォ

 声の主は薫で、スタッフは薫を見た途端に顔を赤らめた。
 薫は二人の額に左右の手をあてがった。
 
「ちょっとごめんよ……フンッ!」パァァァ

 薫の手から紫色のオーラが発生し、二人の額に吸収されていった。
 オーラが消え、数十秒後に変化が訪れた。

「う、 ううぅ~ん……薫が……薫が私の中に……くはぁ」 
「アニキ……もう食えねぇ……ゲプ」

 顔に血色が戻り、うわ言を言いだした二人。 

「おい、 お前らいい加減起きろ」

 薫に声をかけられ、ハートマークだった二人の目が、ゆっくりと開いた。
 目の前には腕を組んだ薫が立っていた。

「薫?」「アニキ?」
「何ボケっとしてんの? 宴会はもう終わってんぜ?」
「「へ? そうなの?」」

 薫にそう言われ、呆けた顔の二人。

「とっとと撤収すんぞ。 スタッフさんにご迷惑がかかるだろ?」

 周囲を見回して、状況が何となくわかってきた二人。

「わ、わかったぜアニキ、 すんませんしたぁ……」ペコリ
「すいません、 私とした事が、 はしたない……」ペコリ 

 二人がスタッフたちに頭を下げると、若い方のスタッフは慌てて手をブンブンと振った。

「お、お気になさらず……」

 年配のスタッフは、にこやかに薫に言った。

「イケメンのお兄さん、 見事な回復魔法だね。 ウチの救護班に入らない? 給料弾むよ?」

 年配のスタッフが、右手で『お金』を意味する仕草で薫をスカウトして来た。

「悪りぃ。 色々とワケアリでよ。 勘弁してくれや?」
「そうかい? 残念だねぇ……」

 そんなやり取りをしていると、若い方のスタッフが話に割り込んで来た。

「ど、 どちらのお部屋にお泊まりで?」
「ん? そんなの聞いてどうすんの?」
「それはその……」モジ

 薫の鋭い眼差しを一点に受け、体をくねらせるスタッフ。
 薫が何かを喋り出す前に、物凄い形相のリナと雪乃が両サイドからスタッフを睨んだ。

「ひっ……し、 失礼いたしましたぁ~っ!」

 顔を真っ赤にしながら、若い方のスタッフは一礼してダッシュで部屋を出て行った。

「確か5人部屋だったよね? バカだねぇあの子ったら。 ホホホホ」
 
 年配のスタッフがそう言いながら去って行った。

「何だよアイツ! 所かまわず盛りやがって……」
「薫? 脇が甘いですよ? 気を付けて下さいましっ!」

 スタッフを見送ると、二人は鼻息を荒くしながら薫に詰め寄った。
 薫は呆れ顔で二人に言った。

「おいおい、 お前たちが言えた義理か?」
「アニキ……それを言っちゃあお終いよ。 タハハ」
 
 薫たちが談笑していると、リナのもとに蘭子とヤス子が近寄って来た。

「「アネキ!」」

「おお、 お前たちか! どうした?」

 蘭子たちは恐る恐るリナに言った。

「この後、アタイたちとお茶でも……どうスか?」
「聞きたいっス! アネキの武勇伝!」

 それを聞いたリナは、困った顔で薫をチラ見した。
 
「でもよぉ……アタイは……」

 そんなリナに、薫は言った。

「迷う事ぁねぇだろ? 付き合ってやれよ!」
「う、 う~ん……」

 少し考えた後、二人に言った。

「ったく、 しょうがねぇな。 わぁったよ」
「「やったぁ!」」

 二人は喜び、手を取り合ってピョンピョン跳ねた。
 そして二人は薫に向き直り、満面の笑みで言った。

「「ありがとう! アニキ♡」」
「お? おうよ!」

 薫は親指を立て、白い歯を見せた。 
 リナは後輩たちに手を引かれ、宴会場を出て行った。
 薫はその様子を見ながら、ボソッと呟いた。 

「イイやつらじゃねぇか……惚れたぜ」

 それを聞き逃さなかった雪乃。

「ほら! 薫ったら行ってるそばから……えいっ!」ギュウ
「痛てぇ!」

 雪乃にわき腹をつねられ、薫は痛がった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設内 バー『ジャムル・フィン』

 再び店の入口付近が騒がしくなった。
 目を細めたラチャナは、入口付近にいる女性をフジ子だと認識した。

「あれ、フジ子だよね? 何やってんだろ?」
「フジ子さん!? ココには来ないハズでは?」

 ジョアンヌはフジ子を見て驚いている。
 先ほどの話で、キャリーと顔を合わせる事を嫌がっていたからだ。

 すると間もなく店に3名の新客が入って来た。

「いらっしゃいま――」

 店員をガン無視し、フジ子を追い越してヅカヅカと店に入っていく二人。
 そして二人はシズルーたちがいるテーブルの前に立った。

「静流! じゃなかったシズルーさん! ココにいたのね?」
「早く帰ろう! 宴会終わっちゃうよ」

 テーブルの前に立っていたのは、薫子と忍だった。

「薫子……クンと忍クン!?」

 先程まで仏頂面だったシズルーの顔が、若干焦っている様に見えた。

「ねぇねぇ聞いた? 薫子『クン』だって♡ イイわぁ、 その呼び方♡」
「悪くないけど、『ちゃん』呼びに敵う者なし!」フン

 姉たちはそう言って何故か顔を赤らめた。
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