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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-41

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エントランス ロビー

 静流との唯一の連絡手段だった勾玉での念話を静流側から拒否され、絶望する三人。
 薫子は青ざめた顔で呟いた。

「どうしよう……このままじゃ年増の肉食恐竜に静流が食べれらちゃう……」
「そんなの絶対ダメ! オバさんが言ってたでしょう? 静流のDTは20歳まで守らないと、 大変な事になるって!」

 うなだれた薫子に、忍が発破をかけた。
 その中のあるワードに、フジ子が反応した。

「ん? 静流様が20歳までDTを維持する理由って、 何です?」

 フジコが首を傾げて質問すると、忍の目が泳ぎ出した。

「何でもない! 忘れて!」
「そう言われると、 益々気になりますね……」

 慌てて逆ギレする忍に、フジ子の追及が続く。
 見かねた薫子が忍のフォローを入れた。

「私たちも詳しく聞かされてないのよ……確か、 ハイエルフの里に伝わる風習だとか……」
「成程。 つまりはトップシークレットなのですね?」
 
 薫子の出まかせにわずかな笑みを浮かべたフジ子は、何故か納得したようだった。

「この一大事に何笑ってるの!?」
「この人、 意味わかってる?」
 
 訝し気な二人の視線を浴びながら、フジ子は言い放った。

「よぉくわかりました! 私は静流様が20歳を迎えられた暁に、 堂々とDTを頂きますっ! ヌフ♡」

 そう言って『ロックオンポーズ』をとったフジ子。

「何の宣言!? そんな事……絶対させない!」 
「微妙にシャレになってるけど、 シャレにならない事言わないで!」

 ポーズを決めているフジ子に、二人は罵声を浴びせた。

「少なくとも、 アンタが筋金入りのヤバい奴って事はわかったわ……」

 薫子の発言は無視され、フジ子はふと我に返った。

「お二人共、 今の状況はやはりマズいですね……」

 フジ子は顎に手をやり、状況を整理した。

「何が言いたいの?」
「私の様に虎視眈々と時期を窺うタイプではなく、 何事も本能に忠実なキャリーは、 狡猾に静流様を狙って来ると思います。 つまり……」

 そこで言葉を切り、二人を見たフジ子。

「「とにかくヤバいって事?」」

 フジ子は二人の回答に、一度大きく頷いた。

「2階のバーは8店舗あります。 現場に片っ端から乗り込んで静流様を救出しましょう!」

「「了解!」」

 利害の一致から、即席のパーティーが誕生した。



              ◆ ◆ ◆ ◆



宴会場『プロメテウス』の間

「次! ジャララ……Bの1番!」

 宴会場に、ビンゴマシンの音が響いていた。
 景品の残りは『特賞』の二本以外は、恒例の『霊毛タワシ』だった。
 今回のタワシは量産型で、オリジナルである五十嵐家の髪の毛にナイロンの毛を混ぜ、ロディに【コンバート】させたものである。

「次! ジャララ……Gの51番!」

 そして、均衡が崩れた。 

「ビンゴよぉーっ! ビンゴビンゴ♪」

 ビンゴを宣言し、その場でピョンピョンと跳ねているのは、シレーヌだった。 

「ではここからクジを引いて下さい」

 睦美がクジが入った箱を差し出すと、シレーヌが手を突っ込んだ。

「昔、漫画で読んだ事あるの。 こういう時この辺に……あった!」

 シレーヌはブツブツ言いながらも、一枚のクジを引いた。
 引いたクジを睦美に見せ、不敵に笑うシレーヌ。

「開けるわよ? イイわね?」
「どうぞ。 お開け下さい」

 シレーヌは睦美に向かってゆっくりとクジを開いた。

「ね? 特賞でしょう! 勝った……私は勝――」
「――ですね。 残念」

 睦美の言葉に耳を疑ったシレーヌ。

「は? 何を言って――げぇっ!?」

 クジを自分の目で確認したシレーヌは、その場に崩れる様にへたり込んだ。

「んなっ、 何よ、 タワシってぇ~!!」



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設内 バー『ジャムル・フィン』

 シズルーとひと晩を賭けて『軍人将棋』の勝負を持ちかけて来たキャリー。

「シズルー様! そんな勝負、 受けなくて結構です!」

 ジョアンヌはシズルーに説得を試みた。
 顎に手をやり、暫く沈黙しているシズルー。

(どうしようか……僕が勝てば素直に引き下がってくれるのかな?)
(でもなぁ……万が一負けた時の事を考えると……)

 少しイラついているキャリーが、シズルーに聞いて来た。

「どうなの? 受けるの? 受けないの?」

 催促され、シズルーが口を開いた。

「私が勝った場合の報酬は?」
「その時は……この二人を好きにしてイイわ♪」

 キャリーはそう言って、部下二人を顎で指した。


「「な、何ですとー!?」」


 あまりの無茶ぶりに、部下たちは奇声を上げた。

「ママ!? シズルー様にも選ぶ権利があるでしょ!? ね? ジョアンヌ?」
「そ、そうです! シズルー様の『初めて』を私共がなんて……でも、 私は大歓迎ですが……」ポォォ
「ジョアンヌ!? アンタねぇ……」

 頬を染めたジョアンヌに、全力でツッコんだカミラ。
 するとキャリーはさらに付け加えた。

「勿論、 ワ・タ・シ……もね♡」

 キャリーはそう言ってウィンクした。
 それを見てシズルーは眉間にしわを寄せた。

「ん? それでは勝敗はあまり変わらんのではないか?」
「何でよ? 2Pが4Pになるかも知れないのよ? 全然違うじゃない!」

 首を傾げてそう言ったシズルーに、キャリーは熱っぽく言った。

「オトコを悦ばせるスキルなら、 このコたちも侮れないわよぉ? 何たって私が手取り足取り教えたんだから♪」

 そう言いながらキャリーは、右手の指を卑猥に動かした。
 その手を見ながら、シズルーは再び黙考し始めた。

(ま、 どうにかなるか。 ヤバくなったら、 あの方法でいけばイイし……) 

 暫くしてシズルーが口を開いた。

「イイだろう。 相手になってやる」
「オッケー♪ そう来なくっちゃ♡」キャピッ

 キャリーは年甲斐もなくはしゃいだ。
 部下たちは驚いてシズルーの顔をガン見した。

「ゲェ!? 受けるんですか? この勝負?」
「てっきり断るかと……でも、 少し嬉しいです……」ポォ

 カミラは焦って口をパクパクさせている。
 ジョアンヌは身体をくねらせて、ひそかに喜びをかみしめていた。
 キャリーがマスターに何かを頼んだ。

「ちょっとマスター! 『アレ』持ってきて頂戴?」
「はっ! かしこまりましたっ!」

 『アレ』でわかる程、酒場では定番の遊びらしい。
 それを証拠に、マスターは直ぐにそれを持って来た。

「お待たせしました。 こちらでよろしいですか?」
「ありがとう」

 マスターが持って来たのは、『軍人将棋』の盤面と駒だった。
 9×6のマス目の5段目は基本使わず、『突入口』というマスが二ヶ所あるタイプである。
 駒は尉官・佐官・将官の将校と工兵・騎兵、地雷・飛行機・戦車・軍旗、最後にスパイである。
 軍人将棋は、プレイヤーが任意の場所に置いた駒を伏せた状態で開始し、停まったマスにある駒を公開して勝敗を決めていき、相手の司令部に佐官以上の将校が到達すれば勝利となる。
 一般の将棋同様、特定の駒には進める方向が決められている。
 駒の基本である『将校駒』は、階級が上の方が勝利となるが、他の飛行機や戦車などの『特殊駒』は、それぞれ強弱が細かく設定されている。
 この為、その都度勝敗を審判に判定させるルールである。

「ローカルルールがあるなら確認したい」

 盤面と駒を確認したシズルーが、キャリーに聞いた。

「そうね……特に無いと思うけど」
「ではこちらから。 相手の『大将』を倒した時点で勝ち、というのは如何かな?」
 
 キャリーは少し考えて、それを了承した。

「早くケリが付きそうね。 それでイイわ」

 それを聞いたシズルーの口角が、少し上がったように見えた。

「審判はジョアンヌ、 アナタに頼もうかしら?」
「り、 了解しましたっ!」

 キャリーに指名されたジョアンヌは、やけに気合が入っていた。

「さぁ! 始めるわよ! 衝立を立てて!」
「ほいっ!」

 互いの駒の配置を見られなくする為、衝立を立てるカミラ。
 駒の配置で戦局が左右される為、ある程度慎重になる必要があるが、軍人将棋の楽しさのひとつでもある。

「私は置いた。 シズルー、 アナタは?」
「終わっている。 何時でも構わんよ」

 双方の配置が完了し、衝立が外された。
 先攻後攻をコイントスで決め、キャリーが先攻となった。

「では始めましょう! 行くわよぉ!」
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