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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-21

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保養施設 宴会場『ダイダロス』の間

 スタッフを先頭に静流と薫、そして達也は歩いていた。
 廊下を抜けると、大勢の人がザワザワと談笑している部屋に着いた。

「こちらでございます」カチャ
「ほぉぉ……」

 扉を開けると、話し声が一層大きくなった。
 スタッフに案内された宴会場は、『プロメテウスの間』とは違って洋風の部屋だった。

「スゲェ……ゴージャス」
「何か、 お呼びでない感全開なんですけど……」
「イイじゃねぇか。 うめぇモン食えるんだからよ♪」

 丸テーブルが6つ設置され、テーブル一つに6脚の椅子が配置してある。
 隅っこにある空席のテーブルに案内された静流たち。

「どうぞ、 こちらです」
「ど、どうも……」

 一つ飛ばしに名札が置かれ、その通りに三人が座った。
 するとすぐに給仕がテーブルに近付いて来た。
 
「お飲み物は、 如何致しましょうか?」
「とりあえずビールで♪」

 薫は嬉しそうに注文した。

「えと、ジンジャーエール下さい」
「俺、 コーラね」

 静流たちは未成年なのでソフトドリンクを注文した。

「あんだよおめぇら、 酒飲まねぇの?」
「色々マズいでしょう? ガキだし」
「そうッスよ。 ココで飲んたらお説教とか……っておい! あれ見ろ静流!」
「えっ? あっ……」

 部屋の奥にある長手のテーブルに10脚の椅子が配置されており、その中に静流たちの知っている者がいた。

「「校長先生!?」」

 静流たちは1オクターブ高い声を上げた。
 すると向こうも気付いたようで、手を上げてにこやかに会釈した。
 その様子を見ていた者が立上り、こちらに近付いて来た。

「おぉ静流! 我が友よ!」
「あっ、 どうも八郎司令、 ご無沙汰していますっ」

 三船八郎は静流の隣にどかっと座った。

「お、 お招き頂き、 光栄に……うわっ」
「よう来た! 待っとったぞい!」

 静流の肩を抱き、 そう言った八郎の顔は真っ赤だった。

「八郎さん……もしかして酔っ払ってます?」
「おう! かれこれ一時間前から飲んでおるからのう」

 すると、静流たちのテーブルに、また一人近付いて来る者がいた。

「諸君! 冬休みを謳歌しとるか?」
「校長先生! ま、 まぁ……ぼちぼちでんなぁ……」

 国尼の校長である三船三郎は、静流にべったりの八郎を引きはがしにかかった。

「これハチ! ウチの生徒にクダをまくんじゃない!」
「サブ兄! イイじゃねぇかよ! 今日は無礼講だろぉ?」
「お前の浮気症が感染ったらどうするんじゃ!」

 苦笑いしながら、静流は三郎に聞いた。

「校長先生もいらしてたんですね? 一瞬驚きましたよ」
「久しぶりに兄弟揃って飲もうという事になってな、 それなら馴染みの連中と忘年会を兼ねて催す事になったんじゃ」
「来たわねぇ静流、 待ってたわよぉん♪」 
 
 するとまた一人、近付いて来る者がいた。

「シレーヌさん!」

 シレーヌは三船兄弟の『四男』であったが、かつて闇医者だったカチュアに【性転換魔法】で女にしてもらった経緯があった。
 今はシズムや白黒ミサが所属する芸能事務所『ミフネ・エンタープライゼス』の代表である。

「こちらにいるなんて、 鳴海マネには聞いてませんけど?」
「サプライズよ♪ だって、 あの子たちには言ってないもの♡」

 シレーヌが手をポンと叩いて、三郎に言った。

「そうだ! ちょっと静流を貸して? 他の兄弟にも紹介したいから♡」
「うぇ? ち、 ちょっと、 まだ心の準備が……」
「そんなのイイから♡ さ、 コッチよ♪」

 シレーヌは静流の手を引き、奥に連れ去ってしまった。
 
「全く……強引な奴じゃなぁ」

 シレーヌも酔っているのか、静流と無理やり腕を組んではしゃいでいる。
 三郎が溜息をつき、ぼやいた。
 八郎は達也たちに声をかけた。 

「お前たちは静流の友か?」
「は、 はい。 俺はダチで、 アニキは静流のいとこです」
「うーっす! 静流のいとこの薫でーす」ペコリ

 達也に紹介され、薫は八郎たちに会釈した。
 三郎が何かに気付き、薫に聞いた。

「と、 言うことは……薫子クンの?」
「ええ。 兄ッス」

 それを聞いた三郎は、真剣な顔になった。

「そうか……彼女たちには済まない事をした……」
「ああ、 留学の件ッスか? 色々あったけど、 むしろ感謝してるんじゃないッスかね? アイツら」

 三郎に謝罪され、やんわりと否定する薫。
 達也はキョトンとしながら、三郎に言った。

「『国尼四羽ガラス』のお姉様たちならココに来てますよ?」
「な、 何じゃと!?」

 達也の発言に、目を大きく開いて驚いた三郎だった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 奥の長テーブルに無理やり連れてこられた静流。

「ねぇねぇみんな♡ 紹介したいコがいるの♡ こちら、五十嵐静流クンよぉ♡」
「ど、 どうも……」ペコリ

 三船兄弟が一同に会した状況に、静流は緊張した。 

「ジロ兄とロクは知ってるでしょ? 静流は統合軍じゃ結構有名人なのよ?」

 シレーヌは二郎と六郎を見て言った。

「ウチの者が世話になっている」
「うむ。 久しいな!」

 二郎と六郎は、静流に会釈した。

「初めましては五郎とナナね。 二人は警察官よ♪」
「五十嵐静流です! 初めまして」ペコリ
 
 静流は五郎とナナに向かって最敬礼した。

「五郎だ! ハチから色々聞いてるよ? 是非ともウチに欲しいね」

 五郎はいかつい顔とは違って、フランクな対応だった。 

「ナナでーす。 紅一点だったんだけど、二点になっちゃったって、 グエェ……」

 ナナはやわらかな物腰だったが、一言多かったのかシレーヌに首を絞められていた。 

「知り合いになって損はない面々よ。 今のうちに顔を売っておく事ね♡」
「は、 はぁ……」

 静流は後頭部を掻き、愛想笑いを浮かべた。
 すると、背後から声をかけられた。

「シズル……さあ、 その愛らしい顔を私に見せておくれ♡」
「え? ん? あっ!」

 振り返った静流は、一瞬では誰かわからなかったが、その正体に驚愕した。

「りょ、 寮長先生!?」 
「チッチッチ、学園の外では寮長ではないの。 私の事は『エスメ』って呼んで頂戴♡」
 
 エスメラルダはそう言って、静流にウィンクした。



              ◆ ◆ ◆ ◆



宴会場『プロメテウス』の間

 静流たちが退場し、いささか場がしらけている『プロメテウス』の間。

「何だよ? しず坊のプレゼントってよぉ?」
「つまらないものだったら、部屋に帰りますよ?」

 薫がいない事に納得いかないリナたち。

「ご安心くださいお姉様方! そうなる事が予想されたので対策を講じさせて頂きました!」

 睦美はドヤ顔でリナたちにそう言った。

「何ですの? 対策とは?」 
「つまんねぇのだったら、 承知しねぇからな?」
「きっと気に入ってくれますよ! お願いしますっ!」パンパンッ

 睦美は顔の横で二回手を叩いた。

「「ほーい♪」」

 睦美の合図で飛び出したのは、二人の薫だった。


「「「「うぇぇぇ!?」」」」


 ひときわ驚いていたのは、予想通り雪乃とリナだった。

「薫が……」「アニキが……」

「「ふたりぃぃぃ~!?」」
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