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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-18

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保養施設内 露天風呂 女湯――

 女湯には現在、カチュア、ジェニー、ココナ、夏樹がいた。

「「あ゛ぁぁぁ……生き返るわぁ……」」

 湯船に浸かった女医二人が、ドスの効いた低い声で唸った。
 それを見ていたココナが、女医たちに嫌味を言った。

「フッ 相当お疲れの様だな。 医者の不養生とはよく言ったものだ」
「姫様!? 口が過ぎますよ!」

 そんなココナの態度に、夏樹はココナを叱った。

「ほっといて頂戴!」パシャッ

 そう言ってカチュアは、手ですくったお湯をココナに向かってかけた。

「そう言えば宗方、ココのかかりつけ医やってたのよね?」
「ええ。 私はココにいたお陰で皆さんとお知り合いになれたんです……」

 ジェニーはそう言って、お湯を手ですくって首筋にかけた。

「静流クンには本当に感謝しかないわぁ♡」

 そうこうしていると、入り口から騒がしい声がした。

「おぉ、これは広いな♪」
「メルクさん!? 前! 手ぬぐいで隠して!」
「何を隠す必要がある? 女同士ではないか?」
「少しは恥じらうそぶりがある方が、殿方にはウケると思いますよ?」
「そうなのか? いわゆる『チラ見せ』とやらか?」
「もう! 知りません!」

 カチュアたちは、急に騒がしくなった方を見た。

「あ! アンタは!」
「おぅ先生! 御機嫌よう!」
 
 メルクは右手を挙げてカチュアやココナの方に元気に挨拶した。
 メルクの後を、鳴海と白黒ミサ、シズムと右京の、グラビア撮影班が入って来た。

「お疲れ様です。 その節はどうもドクター」ペコリ
「あ! アナタ! 『ジン様推し』の!」

 鳴海はカチュアたちに会釈して、手桶でお湯をすくって体にかけた。
 カチュアと鳴海は、以前お互いにジンのファンである事が判明し、意気投合するようになった。

「シズムン、体洗ってあげる♡」
「ズルいぞ! 私も♡」

 白黒ミサは、シズムを手を引いて洗い場に行った。

「仲イイよね。 この絡みも写真に撮りたかったなぁ……ムフ」

 右京はそう呟いて、洗い場に消えて行った。

「メルク! 貴様……」

 メルクの横柄な態度に、ココナは顔をしかめた。

「何じゃいココナ! 辛気臭い顔しおって!」

 ココナは一糸まとわぬ姿でココナに近づいた。

「う、うるさい! その愛くるしい容姿、お前には勿体ない!」

 ココナの狼狽ぶりに、メルクはニヤリと小悪魔的な笑みを浮かべた。

「ほほう……さてはワシのこの身体に妬いておるのか? 無理もない」

 メルクは腰に手を当て、ドヤ顔でココナに言い放った。

「安心しろ! 静流の性欲処理はワシが全て引き受けるからな! ハッハッハ」

「「「何ィィィ!?」」」

 メルクの爆弾発言に、一同は驚愕の声を上げた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



露天風呂 男湯――

 静流が男湯に入ると、見事に誰もいなかった。
 薫と達也はカジノに、ジルは女子の部屋で恋バナに夢中だった。

「やったぁ! 貸し切りだ……って、 余り嬉しくないなぁ……」

 ひとりぽつんと洗い場でさっと体を洗い、湯船に浸かる静流。

「あ゛ぁぁぁ……」

 思わず声が漏れる静流。
 すると、隣の女湯から声が聞こえた。

「その声は静流か? おーい!」
「メルク? 撮影は終わったの?」
「おお、バッチリじゃ♪ 見たいか?」
「う、うん。 写真集が出来たら見るよ……」
「遠慮するでない。 何なら今見るか? 今なら何も着けてないぞ?」
「イイよ、 遠慮しとく……」
「気が変わったら言え。 好きなだけ見せてやる! 触ってもイイぞ?」

 言いたい事を言って満足したのか、メルクはそれっきり話しかけてはこなかった。
 メルクの身体は、ラプロス壱号機のコクピットにあった「ブラックボックス」に入っていたもので、解析したメルクが言うには、このアンドロイドはパイロットのあらゆるサポートをする万能型であり、その中にはパイロットの性的欲求を満たす事も入っているらしい。
 静流はメルクが言っていた事が、にわかには信じられなかった。

「全く……本当にそんな目的のアンドロイドをコクピットに乗せるのか?」

 あまりにも荒唐無稽な話だったので、静流も困惑していた。
 気を取り直して、静流は露天風呂からの景色を楽しむ事にした。

「日が沈んでいく……もう夜か」

 沈黙はそう長くは訪れなかった。
 女湯が何やら騒がしくなった。

「おい! あれは何だ?」
「ああ、 あれはラブラブカップルが二人で絶景を楽しむ混浴エリアよ♡」
「成程な。 よし、 わかった」

 メルクの問いに、ココに詳しいジェニーが答えた。
 男湯と女湯の境目にある岸壁に、球体の個室のようなものがあった。
 メルクは満面の笑みを浮かべ、隣の静流に向かって声を張り上げた。

「おーい静流ぅ! 今からあの先の個室に入るぞぉーっ♪」
「は? 何言ってるのメルク? あそこは恋人限定だったハズだよ?」

 静流はかつて、美千留や真琴、果ては軍の連中とあのエリアに入った事があった。
 苦し紛れに言ってはみたが、あまり説得力はなかった。

「構わん! ワシが許す。 ほれ、 はよう来んか!」
「メルク……もしかして酔っぱらってる?」

 眉間にしわを寄せ、静流はメルクに聞いた。

「ん? まだアルコールは摂取してはおらんが?」

 メルクは首を傾げている。
 するとカチュアが声を張り上げた。

「静流クン! この子うるさいから行ってあげてくれない?」
「ええっ? マジですか?」
「イイじゃない、 減るもんじゃないし!」
「よく言った先生! では、 先に行って待ってるからのう♪」
 
 メルクはザブザブと湯船を歩き、混浴エリアに向かった。

「わかったよ……今行くから」

 観念した静流は、仕方なく混浴エリアに向かった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



露天風呂 混浴エリア――

 混浴エリアは個室にはなっているが、間違いがあっては困るからか、中央にがっちり壁が入っている。
 壁の中央に窓があり、シャッターが閉まっている。

「着いたよ、 メルク」
「おお! 早く顔を見せろ!」

 静流がシャッターを上げると、メルクが顔を見せた。

「よぉ! 楽しんでるか? 静流ぅ?」
「まぁね。 メルクは楽しそうだね?」
「お陰様でな。 やはり三次元は面白い♪」
「そ、 それは良かったね……」

 突然隣が静かになったので、静流は絶景を楽しむ事とした。
 見渡す限りの水平線に、太陽が沈んでいく所だった。

「いい景色だ……」

 静流は眼前に広がる絶景に目を奪われていた。
 その隙を突き、メルクが仕掛けた。

「こちらも絶景じゃぞ? 存分に見るがイイ!」
「何? って……うわっ!」

 静流がシャッターの方を向くと、そこにはメルクが尻を押し付けていた。
 それだけではなく、メルクは自らのワレメを指で開いて見せていた。

「どうじゃ静流? 浴場で欲情したか?」

 メルクは上手い事を言ったと、自画自賛だった。
 しかし、静流から出たのは称賛ではなく、叱責だった。

「メルク! いきなりそんなものを気安く見せちゃダメでしょ!?」
「何故怒るのだ? そこは喜ぶハズじゃろう?」

 静流に怒られたメルクは、不貞腐れて頬を膨らませた。

「あのねぇ……その身体の本当の主はどこかで泣いてるよ?」
「フン、 そんなもんかのう?」

 首を傾げているメルクに、静流は冷淡に言った。

「はいはい、 僕はもう上がるよ? これ以上入ってるとのぼせちゃうから……」ザバァ

 静流は立上り、出口に向かっていく。

「お、 おい静流ぅ……つまらん! 実につまらん!」

 メルクはまた、不貞腐れて頬を膨らませた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



男湯 脱衣所―― 

 混浴エリアから足早に離脱し、脱衣所に行った静流。
 平静を装っていたが、内心は違ったようだ。

「ヤバい……メルクのアソコがチラついて、 どうにかなりそうだ……」
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