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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-15

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グロリオサの間――

 ここは学園の生徒と先生たちが泊まる部屋。
 今、 学園の生徒は、温泉の男女共有エリアに行っている。

 ネネがニニちゃん先生に声をかけた。

「久しぶりね、 ニニ」 
「ご無沙汰しております、 ネネ先輩」チャ

 ニニちゃん先生は、精一杯の愛想笑いを浮かべ、メガネの位置を直した。
 するとムムちゃん先生が出しゃばって来た。

「先輩、 ニニったら相変わらず不愛想なんですよ?」
「ムム、余計な事言わないで」チャ

 ネネは二人の掛け合いを見て微笑んだ。

「ん? そうかしら? 私は前より表情が豊かになったと思ったわよ?」
「そ、 そうでしょうか? そうだったら嬉しいです」チャ

 ニニとムムは、ネネの大学の後輩だった。
 ネネはもう一人の旧知の仲に声をかけた。

「ご無沙汰してます。 モモ先輩?」
「そうね。 元気そうで何よりよ」
「どうですか? 久しぶりの下界は?」
「露天風呂は最高ね。 声をかけてくれた静流には感謝しかないわ」

 そこでムムちゃん先生が、ネネの隣に座っているモモに声をかけた。

「初めまして、ですかねぇ? 五十嵐クンのご親戚ですよね? 余りにも彼のお母さんにそっくりなので、 初めてとは思えなくて……」

 ムムは眉間にしわを寄せてモモに聞くと、モモは吹き出した。

「フフフ、 そりゃそうよ。 ミミの姉、 ですから?」
「ご兄弟!? ですか?」
「そう。 私とミミは高校の同級生、 モモは先輩にあたるのよ」
「そうだったんですね。 高校時代のネネ先輩って、どんな感じだったんですか?」
「それ、 私も聞きたいです」チャ 
「何よニニまで!? 身を乗り出すレベル?」 
 
 目を輝かせてモモを見る二人に、モモは天井の方を見ながら記憶を辿った。

「んと……そうねぇ。 ネネは引っ込み思案な所、あったなぁ……」
「そこの所、 詳しく」
「ずいぶん昔の話だからね。 ミミたちのクラスに、 だれもが羨む美貌の持ち主であり文武両道。 非の打ち所がない正に『紅顔の美少年』と言える逸材がいたの」
「そ、その方はもしや?」
「そう。 静流の父親、『五十嵐 しずか』クンよ」
「きゃっはぁ、 来た、来ましたぁ!」

 ムムは無邪気にはしゃいだ。

「彼は自分がモテモテだという事を全く意識していなくてね。 誰とでもフランクに接する好感度の塊だった」
「それで、 ネネ先輩とのアツアツエピソードは?」
「ある時、ネネがマンティコアに襲われてね……」
「マ、マンティコア? 羽が生えた人面ライオンですか?」

 ニニが珍しく身を乗り出してきた。

「よく知ってるわね。 そう。 ビーストテイム部の連中が学校の『禁書』に手を出して、 うっかり召喚しちゃったらしいの」
「そんなの、 うっかり出せないでしょう?」
「偶然が幾重にも重なったんでしょう。 そしてそいつが、 校庭の隅で花壇の手入れをしていたネネの前に現れた」

 ムムが興奮気味に、続きを促した。

「来た来た! この胸アツ展開! それでそれで?」
「マンティコアはネネを睨みつけて、じりじりとにじり寄って来たの。 気付いたネネは、 驚いて腰を抜かしてしまった!」

 調子に乗ったモモが、身振り手振りで語った。

「凄い臨場感。 まるで見ていたかのようですね?」
「見ていたわよ。 【式神】で」
「【式神】!? 日本古来の古式魔法ですね?」
「そう。 覚えると色々楽よ」

 ムムはまた続きを促した。

「それで、続きをはよ!」
「ネネは隙を見てその場を離れようと様子を窺ってたんだけど、先に掛けてきたのは、奴だった」
「きゃはぁ! それでそれで?」
「奴が繰り出した猫パンチがかすって、ネネの右肩をひっかいた! ザシュ! ネネのつんざくような悲鳴!『きゃぁぁー!』」

 さらに調子に乗ったモモが、効果音入りで語る。

「負傷した腕をかばって後ずさりするネネに、マンティコアは攻撃の機会を窺っている。 そして奴はネネに飛び掛かった!」

「『きゃぁぁー!!』 ズ、ズゥーン……しかし、軽い地響きと共に倒れたのは、 マンティコアだった……」

「「うっほぉー!」」

 二人の興奮度はMAXに達しようとした。
 いつの間にかネネが、顔を真っ赤にしている。

「先輩!? もうその位にしませんか?」
「え? これから面白くなってくるのに?」

 バタバタと手をばたつかせて、モモの話を遮ろうとするネネ。

「話は佳境に入ってるんです。 諦めて下さい」チャ
「そうです! ここで切るなんて、 蛇の生殺しじゃないですか!」

 ブータレている二人に、新たな珍客が現れた。 

「それで、マンティコアを生殺しにしたのは、 どなただったんです?」ハァハァ
「ジル神父!?」
「神父さん!?」

 ニニたちに並んで、いつの間にか乙女ポーズを取っているジル神父。

「い、いつの間に?」
「あ、 大丈夫ですよ。 この神父、 中身は『乙女』そのものですから」チャ
「さぁ早く、 続きを」ハァハァ
 
 周囲の奇異の目を無視して、話の続きを促すジル。

「では、リクエストにお応えして。 危機一髪の所を救ったのは、ご想像通り静クン、 ではなかった!」

「「「え? えぇ~!?」」」

 三人の頭上に、『?』のマークが浮かんでいた。

「ネネを救ったのは、 静クンのいとこである、 私の未来の夫である『五十嵐 いおり』だったぁ!!」

「「「うぇぇ~!?」」」

 モモがドヤ顔で言い放つと、三人は納得していなかった。

「ここで新キャラですか? 確かに胸アツではありますが」
「何か余計な設定が入ってましたが、今はスルーしましょう」チャ
「ネネ先輩、 庵サンの詳細キボンヌ!」

 ジルとニニがモモにツッコミを入れ、ムムがネネに話しかけた。
 ネネは少し照れながら、庵の紹介を始めた。

「庵クンは私たちの隣のクラスでね。 容姿は静クンと瓜二つで、静クンは癖っ毛の短髪で、 庵クンはサラサラのストレートロングだったな……」
「誰とも隔てなく接する静クンに対し、我が庵は周囲に見えない壁を作り、常に近寄りがたいオーラを放っていた!」フン!
「陰キャと陽キャの美少年……映えますねぇ」

 ムムが思い出したように話の続きを促した。 

「それで、 そのあとどうなったんです?」
「え? ええ……」

 ネネは複雑な顔でモモの顔をチラッと見た。
 モモは特に悪びれもせず、続きを話し始めた。

「ネネは自分の前に立つ意外な人物に動揺していた。『庵クン?』」
「庵はネネに向き直って、か細い声で言った。『大丈夫かい?』」
「『ケガしてるじゃないか!』【ヒール】『こ、こんなの自分で……ふぅ』マンティコアに付けられた傷が、みるみるふさがっていく!」
「『あ、ありがとう、 庵クン?』『大した事なくて良かったよ。木の実ネネ……クン?』二人は見つめ合った」

「「「きゃあ♡ 素敵♡」」」

 三人は興奮度はとっくにMAXを超えていた。

「そうか! 『吊り橋効果』ですね? 極限状態にあった男女が、恋愛関係を抱くという……」
「堅物なネネ先輩も、 命の恩人にはイチコロですね?」
「その後は? 二人は付き合ったんですか?」

 三人の言葉を無視し、モモは一言付け加えた。

「見つめ合う二人……恋の歯車は動き始めた……かのように思われた。 おしまい」

 モモは意味深な言い方で話を終わらせた。

「それで終わりですか? その後の二人は?」
「わかった! そのあと、 三角関係に発展するんですね?」
「ミミさんも入るから四角関係ですか?」チャ

 インタビュー風にモモに迫る三人を、ネネはうっとおしそうに止めた。

「もうイイでしょ? この後はつまらない話だから!」

 興味が何くなったジルは、モモに声をかけた。

「つかぬことを聞きますが、 モモさん旧姓は?」
「え? 荻原ですが?」
「きゃっはーっ!」

 それを聞いたジルは、飛び上がって喜んだ。

「と、 いう事は、『朔也』とは?」
「ああ朔兄ですか。 ええ。 いとこですけど」
「うっはぁ! 私は朔也と高校で一緒でしたので」

 はしゃいでいるジルを、不思議に思っているムムとニニ。

「神父さんは、何を喜んでいるんです?」
「私のいとこが荻原朔也だって事がわかったからでしょう?」

 ネネはモモの言ったことに補足した。

「荻原朔也は、芸名『七本木 ジン』よ」

「「ふぇ? えぇ~!!」」
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