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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-9

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利用者専用ビーチ ビーチバレーコート――

 成り行きで静流とのランチを賭け、ビーチバレーで勝負する事になった。
 砂浜の一角に設置されたビーチバレーのコートに、若干の人だかりがあった。

「そぉーりゃ!」 「うらぁ!」
「とぉっ!」   「でありゃぁ!」

 今現在、薫子・忍ペア VS ヨーコ・アンナペアが壮絶なラリーを繰り広げられている。
 他のペアはというと、この二組とは明らかに熱量が低く、比較的あっさりと決着が着いてしまった。
 
「はぁぁ、 負けちゃった。 でも大人げないよね? ししょーたち……」
「ホント! まさか、【体力強化】まで使うなんてね……」

 イチカと真琴は、自分たちがあっさり負けた事に納得していなかった。

「ちぃっ! もう少し……もう少しだったんだ! くぅぅ」

 悔しがっているココナに、イクがニヤつきながら言った。

「残念だったなぁココナ? 流石に若さには勝てぬか? フハハハ」
「うるさいイク! 私に負けた貴様はそれ以下だろうに!」
 
 ニヤついていたのは他にもいた。
 
「あぁ、 アンナ様ぁ……零れ落ちそうな魅惑の果実……」
「達也……さっきメルクを見て卒倒したばっかだろ?」
「アンナ山脈……男なら一度は挑戦してみたいものだ。 あの遥かな頂きに……」

 アンナの水着は、体の線がくっきり表れるハイレグのレオタードタイプだった。
 それを見てナギサが呆れ顔で静流に言った。

「もっとヤバいのもあったんですけど、ヨーコと全力で止めましたよ……」
「あれより? 止めてくれて助かったよ、ナギサ」

 ナギサがオシリスを撫でながら溜息混じりにそう言うと、静流はナギサをねぎらった。

「おぉ……グレイト! 脳内でアナタのグラビア、 只今撮影好調です!」ハァハァ
「ぐぬぬ……達也の奴、 私なんか眼中に無いってか!?」

 終始アンナに釘付けの達也に、朋子は頬を膨らませて拗ねた。
 朋子は露出控えめのチューブトップにパレオの組み合わせだった。

「真琴、 狙った所に脂肪が付く魔法ってあるのかな?」
「どうだろう? ドクターに聞いてみたら?」

 今の所、薫子・忍ペアが優勢だが、疲れからかヨーコの渾身のスパイクに、忍は反応出来なかった。
 
「よっしゃあ!」
「ナイス! ヨーコ!」

 ポイントを取られた薫子たちは、レシーブの構えを取る。

「忍! 次はちゃんと拾って!」
「わかってる 次は決める!」
「アナタはレシーブに集中して! フェイントにも気を付けるのよ?」
「私は大丈夫。 次はビシっとスパイクを決める!」
「だからぁ……もうイイ!」

 薫子は自分の顔を叩き、気合を入れ直した。
 サーブ権はヨーコ・アンナペアにあった。

「もう一本行くわよ!」
「オッケー!」

 数歩下がったアンナはボールを高く上げ、膝を曲げた。

「来るわよ! ジャンプサーブ!」
 
 薫子が叫ぶのと同時に、アンナは飛び上がり、最高到達点でボールを捉えた。
 豊満なバストが揺れ、振り下ろされた手からボールが放たれた。

「どぅおりゃあぁー!」バシュゥ

 凄まじい回転がかかったボールは、アウトラインすれすれを目指して飛んでいく。

「ぐっ!」

 薫子は回転しながらすんでの所でボールを弾いた。
 弾いたボールが忍に渡ると、薫子にトスを上げた。
 直ぐに立ち上がった薫子が振りかぶり、スパイクの体制に入った。

「うぉりゃあぁー!」ポス

 薫子はスパイクと見せかけてフェイントをかました。

「ぐわぁぁ!」

 ヨーコは反応したが間に合わなかった。
 
「よし! 決まったぁ!」

 この後も点を取ったり取られたりのシーソーゲームが続き、やがて決着が着いた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設内 レストラン『ガーベラ・テトラ』

 昼食となり、静流たちは水着のまま入れるレストランに入った。
 ここはビュッフェ形式で、各自が好きな料理を自由に取り分けて食べる事が出来る。

「さぁて、 何を食べよっかなぁ」ガタッ
「ストーップです! 静流様♡」

 席を立とうとした静流を止め、ヨーコはニコニコしながら静流に言った。

「静流様はそのままでお待ちくださいね♡ 私が持って参りますから♡」
「え? イイよ、 自分で取るから……」
「イケません! 全て、 私にお任せくださいねっ♡」

 眉間にしわを寄せ、明らかに迷惑そうにしている静流を半ば無視しているヨーコ。 

「ヨーコ? それじゃあビュッフェ形式の意味が無いじゃないか!」
「ひっ!? ごめんなさい……ちょっと舞い上がってしまいました……」シュン

 少し声を荒げた静流に驚き、ヨーコは途端に涙目になって俯いた。

(ヤベッ、 地雷踏んだかも……)

 沈黙に耐え切れず、静流はヨーコに言った。 

「うっ……わかったよ。 じゃあアレとアレ、 持って来てくれる?」

 静流がそう言うと、ヨーコの顔が瞬時に笑顔に戻った。

「はぁーい♡ かしこまりましたぁー♡」パァァ

 ヨーコはスキップしながら料理の置かれているエリアに向かって行った。
 状況的に見て、ビーチバレー対決の勝者は、ヨーコ・アンナペアだったようだ。
 複雑な表情で頬杖を突く静流。

「はぁ……何だろう? この疲労感……」

 ヨーコとすれ違いに、大皿に料理を盛りつけたアンナが席に座った。

「嬉しそうだねヨーコ。 頑張った甲斐があったよ」
「お疲れアンナ。 随分持って来たな?」
「この燃料タンク、 燃費が悪くってねぇ♡」

 そう言ってアンナは、自分の胸を鷲掴みにした。

「アンナがそう言うと不思議と説得力あるよね。 フフフ」
「そうでしょう? ねぇ、 これ食べる?」
 
 アンナが山盛りの皿から、分厚いステーキをナイフで切り、フォークに刺した。

「はい、 あーん♡」

 アンナはフォークを静流の顔に持って行った。
 静流は雰囲気に押され、口を開けた。

「あー……」
「ちょーっと待ちなさいアンナ!」

 ステーキが静流の口に入るかと言う瞬間、横からヨーコが割り込んで来た。

「何よ? アタシだって勝者なんだから、 こうして静流様と一緒にご飯食べる権利あるんだからね?」
「だ、だからと言って私がいない間に……」

 アンナはヨーコの言う事を全て聞く前に、静流の口にステーキを放り込んだ。

「はーい♡ どぉ? 美味しい?」
「う、 うん美味しいよ……」
「あー! 今日初の『あーん』をアンナに取られた……」
 
 ヨーコは顔を真っ赤にして悔しがり、自分が取って来た皿から、熱々のグラタンをフォークですくい、静流の口元に持って行った。
 
「気を取り直して、 はい、 あーん♡」
「ち、 ちょっと熱そう。 フー、フー」

 静流が必死に息で冷ましていると、横からアンナもグラタンをフォークで差し出した。

「はい♡ ちゃんと冷ましてるから大丈夫だよぉ♡」
「うん。 パクッ」

 静流は迷わずアンナの方のをフォークを口に含んだ。

「し、静流、 様? どうして……」
「だって、ヨーコの熱々だから、 ベロがヤケドしちゃうと思ったんだよ」

 ヨーコが自分の手にあるフォークを見ると、グラタンはプスプスと煙を上げていた。

「じゃ、じゃあ静流様、 サラダを食べましょう、 はい、 あーん♡」
「ああん、アタシのプチトマトも食べてぇ♡」
「んぐっ、 んぐ……」

 静流の両脇で、ヨーコとアンナが順番に静流に料理を食べさせている。
 そんな光景を、周囲の者は冷ややかな目で見ていた。

「うぅぅ……羨ましいぞ静流ぅ」
「ふぅぅ……私もお兄様にご奉仕したぁい」

 達也とカナ子は、ほぼ同時に溜息をついた。

「カナ子とツッチー、 皿まで食べてる。 キモい」

 美千留は二人をあきれ顔で見ている。
 真琴も静流たちのテーブルを、不機嫌そうに横目で見ている。

「あの死闘をくぐりぬけて勝ち取ったんだから妥当な権利だけど、 やっぱムカつく……」
「でも、 ちょっと意外だったね。 てっきりお姉様ズが勝つと思ってたよ」

 朋子はそう真琴に言った。

「プッ、 ししょーイイ気味。 ククク」

 イチカは奥のテーブルを見ながらほくそ笑んだ。
 ヤケ食いとばかりに、取って来た料理を次々に頬張っている薫子と忍だった。

「くぅぅ……勝ってれば今頃、アタシがアレをやってたのにぃ~」
「リナと組めば良かった……失敗した」
「何よ! 負けたのはアタシのせいだとでも言いたそうね? アンタだってミスしてたでしょうに? んぐっ」
「フン。 知らない! はむっ」

 静流のテーブルに、保養施設のスタッフが近づいて来た。

「五十嵐様、お食事中済みません」 
「僕に、 何か?」
「失礼してお耳を拝借。 かくかくしかじかで……」

 スタッフが静流に耳打ちした。 

「……はい、 わかりました」
「では、 ごゆっくり」ペコリ
 
 スタッフは一礼して去って行った。
 スタッフが去ったあと、ヨーコは怪訝そうな顔で静流に聞いた。

「何かあったんですか? 静流様?」
「う、うん……ちょっとね……」

 静流の返事は、歯切れの悪いものだった。
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