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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-2

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国分尼寺魔導高等学校 校庭―― 15:05時

 クリストマス・イヴを保養施設で過ごすために校庭に集合していた国尼チーム。
 迎えに来たのはドラゴン型MT『ラプロス』の壱号機に乗った竜崎ココナだった。

「さて、それでは皆さん、あちらの車に乗ってください!」 

 睦美はそう言ってラプロスの横に停車している、APCと呼ばれている『装甲兵員輸送車』を手で示した。

「左京、誘導を頼めるか?」
「御意! では、参りましょう!」

 睦美の指示で、左京がAPCに誘導する。

「どうやってあんな小さい車に全員乗るのよ?」
「イイから乗りなさい。 あとがつかえてるわよ」

 ムムちゃん先生が思ったままの感想を述べるが、説明が面倒なのか、仏頂面のネネに肩を押されてAPCの後部乗り込み口に入っていく。

「あれ? 広い。 どうなってるの?」
「簡単に言うと、この車の中は異空間と繋がってるのよ」
「ふぅん。 これもロスト・テクノロジーですか」

 中に入ると中央と左に続く廊下に出た。
 先頭に立った睦美が、みんなに告げた。

「これからみなさんは、 真っ直ぐ行った先の部屋で、体内時計の調整を行って頂きます!」

 達也が辺りを見回しながら静流に向かって言った。

「あ! コミマケの時に使った空間だな? って、あり? 静流は?」

 いつの間にか静流がいない事に気付いた達也に、真琴が溜息混じりに言った。

「静流ならあのMTパイロットにつかまってたわよ……」
「何ィ!? 『静流争奪戦』は、 もう始まってるって事か……」
「そうみたいね。 全くもう……」
 
 真琴はまた溜息をついた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 みんながAPCに乗り込んだのを確認し、ココナは静流に言った。

「全員乗ったな? では我々も乗り込むか? むふぅ」

 そう言ったココナの顔は、終始緩みっぱなしであった。
 静流は気まずそうにココナに言った。

「すいませんけど、僕も体内時計を調整したいんで、あっちに行きたいんですが……」

 そんな静流に、ココナはドヤ顔で言い放った。

「案ずるな静流殿。 その位はコイツのコクピットでも出来る! なぁリア?」
〔勿論じゃ。 造作もないわな〕
「そうなの? リア?」 

 リアの言い草に、静流は思わず聞き返した。

〔おうとも。 宇宙船としての性質上、 パイロットのコンディションを整えるのは必須じゃからのう〕
「そうか。 コイツって宇宙空間でも稼働出来るんだったな……」

 静流はラプロスのスペックの高さを、今更ながら思い知った。

「さぁ、乗り込むぞ!」

 ココナは意気揚々と操縦席に座ると、席の横に手をやり、何かを操作した。

「アジャスト!」ググゥン

 すると操縦席の幅がみるみる広がり、二人掛けのベンチシート状に広がった。  

「ささ静流殿、 こちらに♡」
「は、はい……」

 ココナに促され、静流はココナの隣にちょこんと座った。

「では静流殿、ちいとばかし密着させるぞ?」
「は、はい……」
「ア、アジャスト……」きゅうっ

 ココナが操縦席の微調整を行うと、二人は密着した。

「締め付け具合はこの位か? 静流殿、苦しくないか?」
「問題ないです。 今回で二回目ですけど、 どうも慣れなくて……」
「そうか? むふ、むふふふ」

 ココナの顔が、みるみる緩んでいく。
 
〔ココナ、心拍数が急上昇しとるぞ?〕
「う、うるさい! お前は発進の準備を急げ!」

 画面にいるリアがココナの異常を告げるが、ココナは顔を真っ赤にし、激昂した。
 今までのやり取りを見ていた沖田がツッコミを入れた。

「おい! そこのパイロット! さっきからデレデレしおって!」
「ん? 結界係か。 ご苦労だったな」

 思わぬ所で横やりが入ったからか、ココナは若干イラついていた。

「何なんだその座席は? まるでラブラブシートではないか!? 『複座式』とは通常、 前後に座るもんだろうが!?」

 全力でツッコんできた沖田に、ココナは鬱陶しそうに言った。

「む? そうなのか? では静流殿に私の膝に座ってもらうか?」
「何ィ!?」

 しれっとそんな事を言うココナを睨み、沖田の顔がみるみる赤くなっていく。

「ココナさん、 それはちょっと……」
「残念だ。 私はそちらの方がイイのだが……むふぅ」

 引き気味の静流に、ココナは鼻息を荒くした。
 そうこうしている間に、しびれを切らしたリアがココナに言った。

〔おいココナ、いつでも出発出来るぞ!〕
「了解した! では行くぞ、 静流殿!」
「はい、お願いします!」

 壱号機のキャノピーがゆっくり閉じていく。
 静流は不安そうな顔の沖田に声をかけた。

「では先生、行ってきます!」
「静流殿! くれぐれも気を付けるのだぞぉ!」
「フッフッフ。 問題無い。 静流殿はこの私が全力で守ろう!」
「ほざけ! そこが心配なのだ! ぐぬぬ……」

 ラプロスの頭部がせり上がっていく。全高は10m程であるが、鼻先から尾までの全長は15m程ある。
 壱号機は数メートル浮き、後ろ足でAPCをがっちりと掴むと羽根を広げ、ぐんぐんと高度を上げていき、空中で制止した。

「う、 浮いた。 あの質量がいとも簡単に……」

 沖田はそう言ってラプロスを見上げている。

「ラプロス壱号機、 発進!」
〔了解! 不可視モード展開!〕

 シュンッ!

 暫く空中で制止していたラプロスが、突然視界から消えた。

「あ、消えた……」

 静流たちを見送った沖田は、ラプロスが飛び立った空を暫く見上げていた。

「静流殿……次の機会には、 必ず!」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 ラプロス壱号機のコクピットでは、ココナが何やら準備を始めた。

「これより静流殿の体内時計の調整を行う。 これを装着してくれ」

 ココナはダッシュボードからヘッドセットを取り出し、静流に渡した。

「えと、 これでイイですか?」
「OKだ。 リア、 始めてくれ」
〔了解した〕ポゥ

 リアがそう言うと、ヘッドセットのランプが点灯した。 

「あれ?……何か眠くなってきました……くぅ、 すぅ、 すぅ」

 静流はそう呟くと、直ぐに眠りに落ち、ココナの肩にしなだれかかった。

「静流殿、 ゆっくりお休み。 目が覚める頃には目的地に着いているだろう……」

 ココナは静流を抱き寄せ、自分の膝に静流の頭を横たえた。 

「むふぅん、イイ香り……♡」

 ここぞとばかりに静流の顔を覗き込むココナ。
 空気を読まないリアは、ココナに話しかけた。

〔ココナよ、 到着時間はどうするのだ?〕
「野暮な事を聞く。 静流殿の調整が終わるまでだ!」
〔フム。 大方30分と言った所じゃろうか?〕

 リアが割り出した所要時間を聞いたココナは、静かな寝息を立てている静流の頭を優しく撫でた。

「それまでこの至福の時を存分に味わおう……むふぅ」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 APCの中と繋がっているインベントリ内では、睡眠カプセルによる体内時計の調整が行われている。
 以前コミマケ参加者の為の企画で使用したままの状態で、『ワタルの塔』から移設した睡眠カプセルがずらっと並んでいる。
 左京が慣れた口調で説明を始めた。

「こちらで体内時計を調節します。 その間はこちらに用意したお好きな『夢』をご覧頂けます!」

 左京が夢のメニューを一同に見せた。メニューの内容は、

 ①疲れて帰って来たOLを待っていたシズベール
 ②ダッシュ7に『夜のお供』を命ぜられる初々しい女中
 ③敵地に囚われたダッシュ6を尋問する女幹部
 ④さびれた旅館にお忍びで団地妻と逢瀬を重ねる七本木ジン

 であった。

 順番に好きな『夢』を選んで睡眠カプセルに入っていく。
 達也の順番が来たが、夢の選択に迷っているようだ。
 その後ろにいたカナメが達也に聞いた。

「ん? どした後輩、 迷ってるんか?」
「先輩、 これって、 男の場合ってどうなるんスか? こう言う趣味無いんだよね、俺……」

 確かに女性目線の夢ばかりで、達也には酷と言える。
 それを察したカナメは、達也の肩をポンと叩いた。

「安心せぇ! 勝手に都合よく男女入れ替わる仕組みや!」
「そうなんスか。 なら俺は②かな?」
「オレは断然③やな。 ムツ子をあの手この手で……くぅ~! たまらんわぁ」

 そう言って指をわきゃわきゃさせるカナメを見ながら、達也は呟いた。

「それはそうと、静流は大丈夫か?」
「問題ないやろ。 軍の奴らはああ見えて意外と奥手っぽいからな」

 カナメの見立ては、言い得て妙であった。
 達也たちが睡眠カプセルに入ると、睦美は左京にアイコンタクトを送った。

「では皆さん、イイ夢を。」パチ 

 睦美の指パッチンを合図に、左京がボタンを押し、カプセルが稼働を始めた。

 ブゥゥーン

 カプセルの蓋が閉まり、角度がゆっくり鈍角になっていく。
 達也たちはものの数秒で眠りに落ちた。
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