拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード55-14

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国分尼寺魔導高等学校 2-B教室―― 

 達也は世界史の追試が終わると、すくっと立上り、出入り口に向かった。

「じゃあな篠崎、 健闘を祈る……」
「お疲れ……ツッチー」

 達也はすれ違いざまに、イチカの机に飴玉を置いた。

「餞別だ。 もってけ」
「あんがと」

 達也は蘭子同様、廃人の様な状態で帰って行った。

「よぉし、 糖分補給っと。 あむあむっ」

 イチカは残りの飴玉を二個頬張った。

「あとは数学だけ。 持ちこたえてくれ、 私の脳ミソよ!」

 イチカの追試は、次の数学で最後だった。
 また数人入れ替わったあと、数学の女性の先生が問題を持って教室に入って来た。

「はぁーい、 それでは数学の追試を始めます! 机の上は筆記用具だけにしなさい」 

「「「「うぇぇぇ……」」」」

 生徒たちは苦い顔をして呻いている。
 数学の先生は、イチカを見て怪訝そうな表情となった。

「ん? 篠崎さん? 口の中に何か入っていますね?」
「ヒェッ! ンガクック……フグゥ!」 

 先生に指摘されて驚いたイチカは、飴玉を飲み込んでしまった。

「篠崎さん!? 大丈夫なの?」

 先生が駆け寄ろうと近付いて来るが、イチカはそれを手で制し、みぞおちを殴り始めた。 

「ンン、 ゴックン……だ、大丈夫です。 のど飴がのどにつっかえただけ……」
「本当に大丈夫? 顔が紫色になってるわよ?」
「だ、 大丈夫……です」
「そう? じゃあ始めるわね?」 
 
 メガネについて言及されなかったのは、前の試験の先生が問題無い事を伝えてあるのだろう。




              ◆ ◆ ◆ ◆



五十嵐家 静流の部屋―― 

 今のやり取りを部屋のモニターで見ていた静流たち。

「しののん具合悪そうだけど、 大丈夫なの?」
「アイツ……あの飴を二個同時に丸飲みしやがったのか!?」

 心配そうに見ていた静流とは違い、全開でツッコミを入れる睦美。
 真琴が眉間にしわを寄せながら睦美に聞いた。

「あの飴玉って、 回復系の成分とか入ってるんですか?」
「うむ。 あれにはな、脳細胞を活性化する物質が配合されているのだ」

 睦美の説明を聞いて、静流はますます心配そうな顔になった。

「そんなのを二個も? それじゃあ頭の回転がMAXまで引き上げられるんじゃ? しののん耐えられるのかな?」

 静流の言葉に、睦美はかぶりを振った。

「いや、 個数よりも問題は飴玉を丸のみした事だ。 あの飴は時間をかけてゆっくりと消費することを前提にしている」
「ん? 丸飲みした事で何か支障があるんですか?」

 真琴が首を傾げて睦美に聞くと、睦美は大きく頷いた。

「あるな。 胃の中にある飴玉が胃液で消化され、腸で糖分を吸収するのに時間がかかる。 従って効果が出るまでにタイムラグが発生する」
「それってつまり、 ヤバいって事ですか?」
「ああ。 制限時間に間に合うかは、アイツの体内器官のポテンシャルに掛かっていると言っても過言では無い」

 静流が要点をまとめ、睦美が肯定した。

「とにかく、 見守るしかないか……」

 静流は溜息混じりにそう言った。 



              ◆ ◆ ◆ ◆



国分尼寺魔導高等学校 2-B教室―― 

 「では、 始めて下さい!」

 先生の号令で数学の追試が始まった。
 号令がかかったにも関わらず、イチカは目を閉じ、微動だにしなかった。

(接続せよ! シナプス! 甦れ! 私のニューロン!)

 そして、イチカはゆっくりと目を開けた。

(うん、 わかる。 これも、 これも)

 ペンを取ったイチカは、何の躊躇もなくペンを走らせる。

(ここは……この式を代入した方が簡単に答えが出るな……)

 イチカは終始つまずくことなく、すべての問題を解き終わった。

(ふう。 終わったぁ……)

 周囲を見ると、頭を抱えている生徒や、ペンを転がして出た目を記入している生徒等、半ばあきらめが入っていた。
 暫くして制限時間となった。

「はい! 終了です!」

 そう言って先生が机の上の答案用紙を一枚ずつ集めていく。
 集め終わった先生が、答案用紙をそろえながら言った。

「午前の部はこれで終わりです。 お疲れ様でした」

「「「お疲れしたー」」」

 机の筆記用具をカバンにしまいながら、生徒たちが話している。

「……ヤバい。 全然出来なかった……」
「俺も。 鬼レポ確定か……」

 イチカの近くにいた女子生徒たちが、追試の内容を確認していた。

「ねぇ、 問8の問題って、答え3でオッケー?」
「え? 違うと思う……」
「やっぱそうか。 検算しようとして積分した答えを逆に微分しても問題と同じ答えにならなかったの……」

 するとイチカは、自然に話に割り込んで来た。

「ああそれはね、 ここのマイナスを忘れてる」
「へ? ああ、 そうか! スゴいね篠崎さん、 どうしちゃったの?」
「別に? 今なら何でも答えられそうだよ?」
「うん?」

 イチカの態度に顔を見合わせた女子生徒たちは、わざと難問をぶつけて来た。

「じゃあ、三角関数のグラフはどうやったの?」
「ああ、sinシータのグラフは、ここをこうして……」

 イチカはノートにグラフを書き始めた。

「ふむふむ。 そうか。 その説明スゴぉくわかりやすいよ♪」
「ホント! 先生みたぁい♪」

 それからいくつかの問題の解き方を説明したイチカは、晴れやかな顔で教室を出て行った。



              ◆ ◆ ◆ ◆



職員室 夕方―― 

 すべての追試が終わり、それぞれの教科の先生が追試の採点を行っていた。
 ムムは自分の担当である現代社会の補修を終えた所だった。
 採点が終わった魔法物理の先生に、ムムは気まずそうに話しかけた。

「あのぅ……どうでしょう? ウチの生徒は……」 
「ああ、日吉先生……それがですねぇ……」

 物理の先生は苦笑いでムムに返答した。

「お宅のクラスの子、 実にユニークな回答ばかりで感心しましたよ♪」
「へ? どう言う意味ですか?」

 ムムは不安に駆られながら説明を求めた。

「大丈夫です。三人ともボーダーは奇跡的にクリアしていますよ?」
「そうですか……よかったぁ」
「特に興味深いのは、 篠崎だね」
「へ? あの子が何か?」

 イチカの名前が出て、驚きを隠せないムム。

「最終的な答えは間違っていても、着眼点が素晴らしい。 難問に果敢にチャレンジした事は評価できよう」

 物理の先生は、そう言って遠い目で天井付近を眺めていた。
 呆気に取られていたムムに、数学の先生が声をかけた。

「日吉先生! ちょっとちょっと!」クイクイ
「な、何でしょうか?」

 ムムは数学の先生の所に寄って行った。

「日吉先生、 驚かないでね? 篠崎さん、 実質100点満点ですよ!」
「ヴェー!? そんなバカな!?」

 驚愕の余りのけ反ったムムは、後ろに倒れそうになるのを全力でこらえた。 

「バカって……自分のクラスの子でしょう?」

 そんなムムの態度に呆れている数学の先生。
 するとムムは、さっきの言葉に引っかかる所があった。

「ん? 実質、 とは?」
「うん、 それはね……ちょっとこれ見て?」

 数学の先生は、イチカの答案用紙をムムに見せた。
 イチカの答案を見たムムは、最初斜め読みしていたが次第にかぶりつくように答案用紙を見た。

「え? えぇ!? これって先生……」
「気が付いた? ね? スゴいでしょ?」
 
 ムムが数学の先生を見ると、数学の先生は得意げに説明した。

「ここ、この公式は三学期に教えるヤツ。 これなんか3年生の選択授業で使う公式なのよ?」
「え? それって……」
「答えは正解だけど、解法がこれだとみんなとフェアじゃない。 だからちょっと減点するわよ?」
「それで実質満点、 ですか……」

 説明を聞いてもまだ信じられないムムに、数学の先生は言った。

「天才と何とやらは紙一重って、 ホントかもね?」
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