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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード55-12

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国分尼寺魔導高等学校 2-B教室 数日後―― 
 
 あれから数日が経ち、追試の日が来た。
 当日は追試の対象になっている生徒以外は教室に入れない。
 追試の対象者は学年で10人であり、追試の会場が何故か2-B教室になっていた。
 先に来た別クラスの生徒たちが雑談している。

「おいお前、 勉強して来たか?」
「ダメだ……やるにはやったけどよぉ、 正直全然全くこれっぽっちもわかんねぇ……」

 男子生徒はオーマイガーのポーズを取った。
 もう一人の男子生徒が教室を見回しながら言った。

「つうかよぉ、 B組の奴らってまだ誰も来てねぇじゃん?」
「余裕なのか? いや、 もしかしてバックレたのか?」
「あり得るな。 あの『お蘭』だろ? 何食わぬ顔でゲーセンにいそうだよな……」

 男子たちは手を合わせ、目を閉じた。 

「ツッチー、 ご愁傷様……」
「お前の骨は俺たちが拾ってやるぜ……」

 次の瞬間、教室の扉が勢いよく開いた。 ガララッ

「グッドモーメント諸君! 早くからご苦労」チャ
「室内の気温18度……飽和水蒸気圧は……理想気体の状態方程式を用いて静水圧均衡が……」チャ
「シャルルは激怒した……」チャ

 入って来た三人はみんな瓶底メガネをかけ、表情を読み取る事が難しい程に真顔だった。
 それぞれ席に着く三人。 男子生徒が達也に声をかけた。

「おいツッチー! 何だよその静流見てぇなメガネはよ?」
「お前も『アノ』状態異常になったのか? 羨ましい反面、 不憫だよな……」

 そうまくし立てる男どもに、達也は溜息混じりに答えた。

「ふう。 お前たち、 そんな事言ってる余裕あるのか?」
「んなもんあるワケねぇだろ? 『鬼レポ』の代筆を誰かに頼もうか悩んでるよ……」

 男子生徒がそう言うと、達也の瓶底メガネが一瞬光った。

「報酬は? それ次第で都合付けやってもイイぜ?」チャ
「本当か? 助かるぜ。 俺んち、 冬休みは田舎でスノボー三昧だからよぉ」

 そんな話をしていると、蘭子から横やりが入った。

「土屋、『あの方』を頼るつもりなら止めろ。 アタイたちはあくまで『仮契約』なんだぞ?」ヒソ
「う……そうだった。 わりぃ、 さっきの話は無しな?」

 蘭子に耳打ちされ、みるみる顔が青くなった達也。

「何だよそれ? ちぇ、 イイよイイよ。 他当たるから……」

 ブータレながら席に戻っていく男子生徒。
 それをやり過ごしたあと、蘭子は達也を叱った。

「お前なぁ、子ロディ様は親ロディ様と繋がってんだ。 逐一お静に報告が行くんだぜ?」  
「わぁってるけどよぉ……やっぱマズかったか?」
「少なくとも追試が終わるまでは大人しくしとけ。 アタイたちを巻き込むなよ?」
「へいへい。 肝に命じますよ……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



五十嵐家 静流の部屋―― 

 静流の部屋のモニターには、以前活躍した超小型監視衛星が捉えた2-B教室の映像と音声がライブで中継されている。

「達也の奴、 ロディ子で小遣い稼ぎって、そう言う所は頭の回転が速いんだよな……」
「そうは問屋が卸さないがな」

 静流の部屋には、静流と真琴、そして睦美がいた。
 真琴は先ほどから抱いていた疑問を静流にぶつけた。 

「ねぇ静流? 追試の様子なんか見てもしょうがないでしょ? 手出し無用なんだから……しかも先輩までここにいるって、 どう言う事?」
「う、うん……それがさぁ……」

 口ごもる静流を、睦美がフォローした。

「そうも言ってられないのだよ真琴クン。 アイツらの『睡眠学習』が難航しててね……」

 睦美は静流に相談を受けて今日ここにいる事を真琴に説明した。

「ん? 頭には入ったけどそれを引き出す事が出来ないって、 どう言う事?」

 真琴が首を捻っていると、静流がフォローした。

「丁寧に参考書で解き方まで頭に叩き込んだのに、 問題と答えの歯車が上手くかみ合わないらしいんだ。 そうだろ、 ロディ?」
 
 静流は傍で丸くなっているロディに聞いた。

「イエス。 彼らの『読解力』が著しく低い為、 回答に辿り着けないのです」

 睦美が続いてフォローを入れた。

「奴らのアーカイブがパンク寸前になっているらしい。 ここ数日で詰め込み過ぎたようだ。 私の失策だよ……」
「何でも詰め込めばイイってもんじゃなかったって事みたい」

 それぞれの説明を受けて、真琴は溜息混じりに言った。

「それってつまり……生粋の『BAKA』って事?」
「うむ。 肯定だ」

 睦美はそう言って大きく頷いた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



国分尼寺魔導高等学校 2-B教室―― 

 魔法物理の追試が始まる時間となった。
 担当の先生が三人の異変に気付いた。

「お前たち、そのメガネは何だ?」
「え? このメガネは……」

 疑いの眼差しを送る先生に、達也たちは口ごもった。

「どうした? 答えられんか?」
「先日、 学年5位になった五十嵐クンにあやかって、 かけてみれば少しは頭が良くなるかなぁ、 なぁんて思いまして……」

 苦し紛れに達也が弁明すると、生徒たちがどっと沸いた。

「ハハッ! そんなんでイイ点数取れりゃあ苦労しないって!」
「でもなんとなくわかるぜ。 藁にも縋りたい気持ち……」 

 先生が三人の前に立った。

「一応調べさせてもらう。貸しなさい」
「は、はい……」カチャ

 三人はメガネを外し、先生の前に置いた。
 先生はその内の一つを手に取り、魔力キャンセラーの近くに持って行った。
 魔力キャンセラーが魔力を感知すれば、何らかの反応があるはずだが……。

「フム。 魔力は感知していないな」
「そ、 そりゃそうですよ。 カンニングなんてするワケないじゃないですか」

 疑いが晴れた達也たちは、安堵しながら先生に懇願した。

「不正じゃないんだったらかけてイイだろ先生? アタイのお守りなんだ!」
「お願ぁい先生。 肩たたき券あげるから~」

 そんな三人を見ていた先生は、呆れ顔で言った。

「ああ鬱陶しい。 好きにしろ!」


「「「先生、 好きぃーっ♡」」」


 三人が揃って口元を握った手で隠す『キュンキュンポーズ』を取った。

「何だその気色悪い反応は? 時間だ。 とっとと準備しろ!」


「「「はぁーい♡」」」

 
 先生の許可が下りたので、三人はおもむろに瓶底メガネをかけた。


「「「じゅわっつ!!」」」


 メガネをかけた次の瞬間、三人は無表情に変わった。

「気合が入ったようだな。 では、 始め!」

 先生の号令で追試が始まった。
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