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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード55-9

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ファミリーレストラン『天下布武』――

 静流は睦美に誘われ、太刀川通り沿いに最近オープンしたファミレスに来ていた。
 『戦国武将ファミレス』と銘打っているこのファミレスに、静流はどこか引っ掛かった。

「むむ? 静流キュンが興味を持ったのは、やはりアレか?」
「え? ああ。 そうです」

 睦美が親指で指した方向には、青い甲冑を身に付け、接客している女性店員がいた。

「デザインがダッシュ1に酷似しているな。 無許可とはイイ度胸だ……」
「大体似たり寄ったりになりますって。 日本で流行るかは疑問だけど」

 睦美が何かやらかしそうな勢いだったので、静流はブンブンと手を振り、睦美を止めた。

「ファミレスと鎧武者の取り合わせに、 何か心当たりでもあるのかい?」
「ええ。 少しばかり……」

 静流はゆっくりと語り出した。

「夏休みにアメリカのアンナの実家に行ったんです。 彼女の実家はファミレスなんですよ」
「ああ、 あのムチムチちゃん、 達也クンのお気に入りの?」
「ええ。 そこでちょっとした事件があって、 浪人ギアを使いました」
「何と! 生ダッシュ1をお披露目したのか?」
「あちらは拳銃とか普通に持ち歩いていますからね。 仕方なく」
「読めた! それで見事強盗犯を撃退して、 店長に気に入られでもしたのかい?」

 睦美はそう推理した。 

「まぁそんな所です。 店長であるアンナのお父さんがその時ひらめいたらしくって『サムライガールズ』を売りにしたファミレスに店をリニューアルしたんです」
「それは思い切った事をしたなぁ。 で、 肝心の売り上げは?」

 金の話になり、身を乗り出して聞いてくる睦美。

「その直後にあちらで『サムライレンジャー』が放映されたのがきっかけで、店は繁盛してその後支店を増やしたらしいって聞きました」
「あのローカル番組がか?……アイデア料をもっと上乗せしておくべきだったか……」

 以前、『浪人ギア』のPVを作成した時に、アメリカのプロデューサーが興味を持ち、レヴィと組んでアイデア料の交渉をした経緯があった。

「そんなに繁盛しているなら、コッチにも話題があってもイイと思うが……」
「同じアメリカでも、ムタ州ですから……」
「ムタか……ドが付く位の田舎じゃないか」
「そうなんです。 だから情報とかも遅れて入って来るんじゃないかな、 と」

 話し終えた静流は、再び店内を見回した。 

「そして、 そのアイデアをパクったのがココみたいですね……」
「まさか気付かれていないとでも思っているのか? 今の所は黙認の様だが、いずれは一戦交える事になるかもな……」

 二人が考え込んでいると、奥からワゴンを押してくる甲冑姿の店員がこちらに寄って来た。
 鎧武者は緑色の甲冑を身に着けており、どことなくダッシュ2に似ていた。

「お待ちどぉ様でぇす♪ 関が原セットと壇ノ浦セット……あり?」

 鎧武者が静流の顔をチラ見したあと、何かに気付いてもう一度静流を見た。

「おおお、お静、ちゃん!?」

 鎧武者は静流の事を知っているようだ。

「え? あっ! ヤス子師匠!」
「はわわわっ!?」

 素性がバレた鎧武者は、軽くのけ反った。
 次に慌てて自分の格好を気にしだした。
 甲冑とはいうが、微妙に布面積が小さく、ヘソは露出していた。

「あちゃあ、 エラい所見つかっちゃったなぁ……」
「師匠、 ココでバイトしてるんだ?」
「臨時だぜ臨時。 冬休み中だけな」

 甲冑姿の店員と静流が、和気あいあいと会話している所を見て、睦美が引きつった顔で話に割り込んだ。

「そこの店員、 勤務中の私語は慎みたまえ」ギロ
「睦美先輩! この人はね――」

 静流が慌ててフォローに入ろうとしたが、睦美に睨まれたヤス子は危険を感じ、小刻みに震え始めた。

「ヒッ! あ、熱いのでお気を付け下しゃいましぇ。 し、失礼しましたぁ~」
「あ! ちょっと……」

 ヤス子はワゴンから注文した料理を取り出し、静流たちの前に置くとそそくさと奥に引っ込んでいった。

「睦美先輩! むやみに威嚇しないで下さい、 ビビッて逃げちゃったじゃないですか!」
「す、 済まん、 今のは大人げなかったな……」

 静流に叱られ、気まずそうに後頭部を搔いた睦美。

「取り敢えず食べましょうよ♪ いただきますっ」
「お、おう。 いただきます……」

 睦美はカットステーキを口に含んだ。

「うむ。 このワサビソースは悪く無いな」
「うん。 フライもサクサクで美味しいですっ」パァァ

 静流がエビフライに舌鼓を打っていると、周りの客及び店員の生温い視線が静流に集中した。

「ねぇねぇ見て? あの子、 カワイイ~♡」ヒソ
「あの制服、 国尼だよね?」ヒソ

 そんな視線に気付いた睦美が、咳払いしたあと、眉間にしわを寄せて静流に話しかけた。

「うぉっほん。 して、先ほどの鎧武者とはどの様な関係なのかな?」
「関係って、 そんなんじゃないですから……」

 料理を口にしながら、静流はヤス子の事を話し始めた。

「あの人はヤス子さんって言う人で、お蘭さんの幼馴染なんです。 あと、リナ姉の中学の後輩でもあるんですよ?」
「そうか。 そいつは悪い事をしたな……」

 益々気まずくなってしまった睦美。

「ふむ。 でも彼女は何の『師匠』なんだ?」
「クレーンゲームです。 この間、 腐中のゲーセンでお世話になったんです」

 静流はついこの間のゲーセンでの一件を睦美にかいつまんで説明した。

「そんな事があったのか。 美千留嬢のご機嫌取りも大変だな……」
「そうなんですよ。 アイツったらもう……」

 話が盛り上がっている所に、ヤス子がお盆にドリンクを乗せ、こちらに近付いて来た。

「お、お飲み物でございまぁーっす。 ではごゆっくり――」
「あコレ、 待ちたまえ」

 瞬時にドリンクを置くと、直ぐに立ち去ろうとするヤス子を、睦美は呼び止めた。

「へ? な、 何か?」
「静流キュンに聞いたよ。 先ほどは済まなかったね」
「あ、 大丈夫ッス! 気にしねぇでくだせぇ! 須奈高の兵藤ヤス子ッス!」

 おもむろに頭を下げた睦美を、手をブンブンと振ってかしこまった。

「フフ。 確かに蘭子クンに雰囲気が似てるな」

 睦美の言葉に合点がいったヤス子は、急に早口になった。

「蘭の字!? あ、 そうか先輩ッスね? そう言う事かぁ。 ふう。 良かったぁ、 てっきりお静ちゃんの――」
 
 ヤス子の言葉を遮って睦美は名乗った。

「静流キュンの『良きパートナー』柳生睦美だ。 以後よろしく」
「パパパ、 パートナー!?」

 自信満々でそう言った睦美に、ヤス子は面食らった。

「やだなぁ師匠、 そんなに驚かなくても。 先輩とはあくまでもビジネスライクですってば」
「静流キュウン……そう言い切るなよぉ、 私だって傷付く事もあるのだからな?」
「またまたぁ、 そんな事言っちゃって」

 二人のやり取りを見ていたヤス子は、二人がただならぬ関係である事を信じて疑わなかった。

「仲がよろしいようで……ではごゆっくり」ペコリ
(ちぇ……入り込む隙間なんか1ミリもねぇじゃんかよ……)

 そう言ってヤス子は一礼し、その場を去ろうとしたが、睦美に呼び止められた。 

「時にヤス子クン、キミに調べて欲しい事があるのだが
「ん? 何スか?」
「ココのコンセプトは誰の発案なのか、 それとなく聞いて来てくれないか?」
「え? そんな事を自分がッスか?」

 ヤス子は首を傾げて苦々しい顔をした。

「ヤス子師匠、 僕からもお願いします」
「オッケー! 任せとけ!」グッ

 難色を示していたヤス子だったが、静流の一声でガラッと変わった。 
 ヤス子は意気揚々と奥に戻って行った。

「何だ今の態度は? 静流キュンの頼みならふたつ返事かよ……」
「ファーストインパクトがよっぽどキツかったんですよ。 フフフ」
「失礼な。 それを言うならファーストコンタクトだろう? フフフ」

 そう言って笑い合っている二人は、傍から見て『リア充』ととられかねなかった。
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