上 下
432 / 587
第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード55-7

しおりを挟む
国分尼寺魔導高等学校 2-B教室――

 追試対象の達也・蘭子・イチカの三人に、仮契約させたロディから試験範囲の教科書及び参考書の内容を【ロード】させ、強制的に脳に焼き付けた。
 その効果を見る為に、睦美が用意した問題を解かせた所、出来が芳しくなかったようだ。
 原因に心当たりがある静流が、その理由を説明し始めた。

「みんなは今回の試験範囲だけじゃなくって、 それ以前の内容、 少なくとも物理が始まった高1から『学習』しないと理解出来ないんじゃないかと思うんです」

 それを聞いた二人は、大きく頷いた。

「成程な。 腑に落ちたよ静流!」
「そうか。 それで記憶が歯抜けになっているのか……」
「え? ナニ? よくわかんないよぉ……」

 イチカだけはまだわかっていないようだ。
 睦美は今のやり取りを見て、ニヤリと笑みを浮かべた。

「概ね正解だ。 回答を見る限り、 最近新しく覚えた事柄は正解している。 しかし、 単純な計算問題が絡んだ途端、 不正解となるものが多い……何故だかわかるか?」

 そう言って睦美は三人を見渡した。
 達也と蘭子が、顎に手をやりながら睦美に聞いた。

「根本的な所が理解できていないって事ッスか?」
「1年からの積み重ねがあっての『学習』という事か?」
「左様。 チートにも基礎が必須なのだよ」

 睦美はある事が気になり、達也たちに確認した。

「物理は数学と密接な関係にある。 時にお前たちは、 数学は赤ではなかったのだな?」
「ギリでしたがね。 ガキの頃そろばんやってたから、暗算は得意な方なもんで」
「カネに置き換えて考えると、不思議にわかるもんもあるんだよな……」

 意外にも数学は何とか赤点を免れた二人だった。

「成程。 と言う事は、 一応数字に対する拒絶反応はないのだな? 篠崎以外は」ギロ
「ひいっ!?」

 睦美がイチカを睨みつけると、イチカはびくっと肩をこわばらせた。
 この時点でイチカが数学も赤点だった事が静流たちにバレた。
 睦美は少し考えたあと、ロディに聞いた。 

「ふむ。 ロディ殿、『学習』の幅を広げたいのだが、 いかがなものかな?」
「それは構いませんが、【ロード】する情報量が多いと脳に負担がかかりますので、 少しずつ時間をかけないといけません」
「追試まであと三日。 さて、 どうしたものかな……」

 そう言って考え込んでしまった睦美に、静流が提案した。

「睦美先輩、 ロディに【分身】を作ってもらって、 各自で『睡眠学習』したらどうでしょう?」 
「む? そんな事が出来るのかい? ロディ殿?」
「勿論、 可能です」

 それを聞いた睦美は、各自の学習プランを即座に立案した。

「達也クンと蘭子クンには、中学生レベルの全教科と赤点対象科目を1年から叩き込む」
「ははぁ~」

 達也たちは最早、睦美に全面的に従うしかなかった。

「そして……篠崎! お前はさらに、小学生レベルの『算数』を追加だ!」
「うぇぇ? 小学生ですかぁ?」

 イチカの顔が歪み、涙目になっている。

「異論は認めない! 寝ているだけで頭が良くなるのだ。 文句はないだろう?」
「は、はい……わかりました」シュン

 観念したイチカは、肩を落としてうなだれた。
 達也がある事に気付き、静流に聞いた。

「おい静流、 今の話だと分身のロディ様をお持ち帰り出来るって事か?」
「うん? そうだけど?」

 静流の答えを聞き、達也は急に興奮しだした。

「って事は、 アンナ様をウチにお招きして、昼夜を共に過ごすって事か?」
「何ぃぃ? 自分が希望した奴に変身してくれるのか?」
「ホント? うわぁい! やったぁ!」

 達也がそう言うと、蘭子やイチカまで興奮しだした。

「睦美先輩、 あんな事言ってますけど?」
「ふむ。 自分達が置かれている状況を全く理解していないようだな……」

 浮かれている三人を見て、静流と睦美は溜息をついた。

「変身はなし。 但し、 イイ点を採った暁には報酬として変身を許可する、 と言うのはどうだろう?」
「成程! それで行きましょう! イイよねみんな!」

 静流は三人に賛成を促した。

「わかった。 それで手を打とう!」
「アタイも……それで構わないぜ」
「うんわかった! 頑張る!」

 三人の方向性が決まり、睦美が立案した学習プランをロディに渡した。 

「ここまでカバー出来れば、学年末まで何とかなるだろう」

 そこで静流が待ったをかけた。

「睦美先輩、いっその事他の教科も『学習』しておけばイイのでは?」
「ふむ。 そうだな、 しかし……」

 静流のように長期に渡って行った『睡眠学習』とは違い、短期間では脳に与える負担が大きい。
 その事を伝えようとした時、達也たちから断って来た。

「それは勘弁してくれよ……あの感覚、気持ち悪くてよぉ……」
「確かに。 やるんならもう少し慣れてからで頼むわ……」
「アタシは……出来るだけ詰め込みたい、 かな?」

 一番成績が悪いイチカは、この隙に遅れを取り戻そうと企んでいるようだ。

「ロディ殿、 基本メニューはこれで、オプションは各自相談して決める事としようか?」
「はい。 承知しました。 では【分身】します」シュン

 そう言うとロディは、いとも簡単に分身を作り出した。
 分身したロディは、手のひらサイズの子供の豹だった。
 三体の分身が、それぞれの主人に飛びついた。

「うぉ? ネコ? じゃないのか?」
「うわぁ、ちっちゃ……」
「カ、 カワイイ~」

 イチカが子ロディを撫でながら子ロディに聞いた。

「ねぇねぇ、キミは何が好きなの? ミルク?」
「エサは必要ありません」  
「ゲッ!? 可愛くない……」

 子ロディの口調は親ロディそのものだった。

「この子からこのダンディボイス、 ギャップがスゴいな」
「もうちょっと何とかなんないのか? 気になってしょうがない」

 二人からもクレームが付いたので、ロディが音質を調整した。

「じゃあ、 こんな感じでどうかニゃ♪」 

 調整した声は、どこかで聞いたような声だった。

「うんうん。 この方がイイな」
「バッチリ! 違和感なし!」
「この声、ロコ助に似てるな……」

 蘭子はそれに気づいたようだ。
 静流が吹き出しながらロディにツッコミを入れた。

「フフ。 だったら最初からロコ助をコピーすればよかったんじゃないの?」
「確かに。 おっしゃる通りです」

 声も決まり、それぞれのカバンから顔を出している子ロディ。
 それを見た親ロディは、改めて三人に告げた。

「それでは皆様、『学習』についてはこの子たちに全てお任せ下さい」 

「「「はぁーい!」」」

 話がまとまった所で、睦美が静流に言った。

「一応報告しておくが、静流キュンは文句ナシの満点だったぞ?」

「「「うぇ~!?」」」

 睦美の報告に、追試組の三人は驚愕の表情を浮かべた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

処理中です...