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第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード54-3
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柳生家 居間――
成り行きで睦美の家に連れて来られた静流。
迎えてくれたのは睦美の父である広海だった。
「実はね、 何年か前にキミの御父上と一緒に仕事をした事があるんだ」
「え? 父さんと仕事? ですか?」
話の展開があまりにも急だった為、静流は目を見開いた。
「ある遺跡の調査をする際に、静クンにガイドをやってもらってね」
「ああ。 成程……」
現在行方不明の静流の父である静は、未開の地を探索して地図を作ったり、新種の動植物を発見したりする『探検家』として世界中を飛び回っていた。
遺跡調査のガイドなどは、静たち探検家の仕事のひとつである。
「この時の調査は、彼のお陰で大きなトラブルが起こらなかったのを鮮明に覚えているよ」
そう言って広海は、調査資料から数枚の写真を取り出し、静流に見せた。
「あ、ホントだ。 父さんだ」
遺跡調査団の集合写真には二十人位のスタッフが写っており、その最前列の隅に中腰で白い歯を見せて笑っている静が写っていた。
「たまにしか帰って来なかったんで、父さんとの想い出ってあまり無いんですよね……」
「当時、 酒を飲むといつも言ってたよ。『チビたちに会いてぇー!』てね」
「確かに他の人と話す時、 僕たちの事を『チビ』って呼んでたな……」
「彼が行方不明だなんて、 信じ難いな」
静流は写真を見ながら、父親の事を思い出してしんみりしていた。
奥からお茶をお盆に乗せた睦美が近付いて来た。
「お待たせしたね。 静流キュン」
「あ、 どうぞお構いなく……」
振り返った静流の顔を見て、睦美はお茶を乗せたお盆を落としそうになった。
「ん? 静流キュン!? 泣いているのか?」
「え? ああ、 ちょっと……」
睦美にそう言われ、目頭を押さえた静流。
「お……親父、 静流キュンを泣かせたのか?」
「ん? 何怒ってるの? ムーちゃん?
睦美の声が低くなり、小刻みに震えているのを見て、広海は首を傾げた。
「ち、違うんです睦美先輩!」
「違わないだろう? 貴様ぁ!」
睦美の顔が般若の面の様な顔に変わった。
「待て待て、 私は静流クンと昔の話をしていただけなのだが?」
「え? そうなのかい? 静流キュン?」
「はい。 広海さんは僕の父さんと面識があったみたいです」
そう言って静流が例の写真を睦美に見せた。
睦美は以前、静流の家で静流の父である静の顔を写真で見ていた。
「ふむ。 確かに父君に違いない……親父? 何故今まで私に言わなかった?」
「しょうがないだろう? 彼がこんなに近しい存在だったのを知ったのは最近だったし」
「ぬぬぬ……」
睦美は、あっけらかんとしている広海に苛立ちを募らせた。
「結果的にご近所さんだったって事だろ? いやぁ、世間って広いようで狭いんだなぁ♪」
そう言って広海は、屈託の無い笑顔を浮かべた。
◆ ◆ ◆ ◆
睦美の淹れたお茶を飲みながら、その時の話を二人に聞かせた広海。
「そんな事があったんですか……」
「でも、 その時彼が仲裁に入ってくれたんで、 部族の長老と懇意にさせてもらった結果、調査がはかどったんだよ」
「何となくわかります。 父さんはどっかでトラブルが発生すると、直ぐ首を突っ込む所があるって母さんがこぼしていましたね」
そう言って苦笑いする静流に、広海は言った。
「静クンは恐らく、 何か重大な事件に巻き込まれた可能性が高い。 ただ、 彼はどんなに過酷な環境でも生存できる術を習得している。 彼は生きているよ」
「ありがとうございます。 僕もそう思います」
ここで睦美が咳払いをして、広海に言った。
「コホン、 親父、 昔話をするために静流キュンを呼んだわけではないのだろう? 早く本題に入れよ」
「……今日来てもらったのは、キミに知ってもらいたい事があったんだ」
広海はお茶を口に含み、ゆっくりと話し始めた。
「私は弁護士と言う肩書があるが、 神学博士でもあり、 大学教授でもあったりする」
「博識ですね。 スゴいな」
「親父には『桃魔』の取締役及び顧問弁護士になってもらってるんだ。 会社を立ち上げる際に後見人がいた方が有利だったのでな」
「そして私は、 国宝審議会のメンバーでもあるのだよ」
「国宝? はっ!」
あるキーワードに気付いた静流が、目を見開いた。
「アノ絵の件、 ですか?」
「そう言う事だ、 静流キュン」
アノ絵とは、国尼祭で静流が描いた『メテオ・ブリージング』の事であろう。
女神シズルカが両手を前に突き出して、『気功波』の様なオーラを放っている絵で、見ている者に癒しや活力を与える効果があるらしい。
国尼祭でオークションに掛ける予定だったが、文科省が国宝指定すべくストップをかけた経緯がある。
「キミの絵を見させてもらった。 素晴らしいの一言だった」
「そ、それはどうも……」
「アノ絵は遅かれ早かれ、 国宝指定されるだろう」
「親父、 それで薫子お姉様たちと絵がどう繋がるのだ?」
「そう急かすな。 ムー、 睦美に聞いたよ。 庵クンの家族たちの事を」
「知っているんですか? 庵さんたちの事を?」
「静クンに聞いているよ。 自分には双子とも兄弟とも違う血縁者がいるとね」
静と庵の関係性については、静流の母であるミミからは聞かされていない。
と言うより、『話せない』と言った方が近い。
静流自身も記憶を消されていたので、薫たちの事は全く覚えていなかった。
「という事は『元老院』の仕業って事も御存じで?」
「あの機関はもう死んだも同然だ。 他人の人生をどうこう出来る力など無いよ」
「以前、 親戚に元老院のメンバーがいる方もそんな事を言ってましたね」
静流が言っているのは、ダーナ・オシー駐屯地にいる竜崎ココナ大尉の事である。
「その方はこうも言ってました。 『ゲソリック総本山』が怪しい、 と」
「鋭いね。 私も同じ意見だ」
ゲソリック教会は、クリスト教の有力教派の一つであり、『すべての主』であるクリス・トーマスを守護する88柱の女神たちを崇める教派である。
その総本山と言われる『クチャラー大聖堂』は、ヨーロッパにある世界最小の国家である『ダイミンカン市国』にある。
「親父、 それが薫子お姉様たちを追放する理由にどう繋がるんだ?」
「私はある仮説を立てた。 総本山の狙いは……」
そこで広海は言葉を切り、少し間を置いて言った。
「『女神シズルカ』の誕生、 だよ」
成り行きで睦美の家に連れて来られた静流。
迎えてくれたのは睦美の父である広海だった。
「実はね、 何年か前にキミの御父上と一緒に仕事をした事があるんだ」
「え? 父さんと仕事? ですか?」
話の展開があまりにも急だった為、静流は目を見開いた。
「ある遺跡の調査をする際に、静クンにガイドをやってもらってね」
「ああ。 成程……」
現在行方不明の静流の父である静は、未開の地を探索して地図を作ったり、新種の動植物を発見したりする『探検家』として世界中を飛び回っていた。
遺跡調査のガイドなどは、静たち探検家の仕事のひとつである。
「この時の調査は、彼のお陰で大きなトラブルが起こらなかったのを鮮明に覚えているよ」
そう言って広海は、調査資料から数枚の写真を取り出し、静流に見せた。
「あ、ホントだ。 父さんだ」
遺跡調査団の集合写真には二十人位のスタッフが写っており、その最前列の隅に中腰で白い歯を見せて笑っている静が写っていた。
「たまにしか帰って来なかったんで、父さんとの想い出ってあまり無いんですよね……」
「当時、 酒を飲むといつも言ってたよ。『チビたちに会いてぇー!』てね」
「確かに他の人と話す時、 僕たちの事を『チビ』って呼んでたな……」
「彼が行方不明だなんて、 信じ難いな」
静流は写真を見ながら、父親の事を思い出してしんみりしていた。
奥からお茶をお盆に乗せた睦美が近付いて来た。
「お待たせしたね。 静流キュン」
「あ、 どうぞお構いなく……」
振り返った静流の顔を見て、睦美はお茶を乗せたお盆を落としそうになった。
「ん? 静流キュン!? 泣いているのか?」
「え? ああ、 ちょっと……」
睦美にそう言われ、目頭を押さえた静流。
「お……親父、 静流キュンを泣かせたのか?」
「ん? 何怒ってるの? ムーちゃん?
睦美の声が低くなり、小刻みに震えているのを見て、広海は首を傾げた。
「ち、違うんです睦美先輩!」
「違わないだろう? 貴様ぁ!」
睦美の顔が般若の面の様な顔に変わった。
「待て待て、 私は静流クンと昔の話をしていただけなのだが?」
「え? そうなのかい? 静流キュン?」
「はい。 広海さんは僕の父さんと面識があったみたいです」
そう言って静流が例の写真を睦美に見せた。
睦美は以前、静流の家で静流の父である静の顔を写真で見ていた。
「ふむ。 確かに父君に違いない……親父? 何故今まで私に言わなかった?」
「しょうがないだろう? 彼がこんなに近しい存在だったのを知ったのは最近だったし」
「ぬぬぬ……」
睦美は、あっけらかんとしている広海に苛立ちを募らせた。
「結果的にご近所さんだったって事だろ? いやぁ、世間って広いようで狭いんだなぁ♪」
そう言って広海は、屈託の無い笑顔を浮かべた。
◆ ◆ ◆ ◆
睦美の淹れたお茶を飲みながら、その時の話を二人に聞かせた広海。
「そんな事があったんですか……」
「でも、 その時彼が仲裁に入ってくれたんで、 部族の長老と懇意にさせてもらった結果、調査がはかどったんだよ」
「何となくわかります。 父さんはどっかでトラブルが発生すると、直ぐ首を突っ込む所があるって母さんがこぼしていましたね」
そう言って苦笑いする静流に、広海は言った。
「静クンは恐らく、 何か重大な事件に巻き込まれた可能性が高い。 ただ、 彼はどんなに過酷な環境でも生存できる術を習得している。 彼は生きているよ」
「ありがとうございます。 僕もそう思います」
ここで睦美が咳払いをして、広海に言った。
「コホン、 親父、 昔話をするために静流キュンを呼んだわけではないのだろう? 早く本題に入れよ」
「……今日来てもらったのは、キミに知ってもらいたい事があったんだ」
広海はお茶を口に含み、ゆっくりと話し始めた。
「私は弁護士と言う肩書があるが、 神学博士でもあり、 大学教授でもあったりする」
「博識ですね。 スゴいな」
「親父には『桃魔』の取締役及び顧問弁護士になってもらってるんだ。 会社を立ち上げる際に後見人がいた方が有利だったのでな」
「そして私は、 国宝審議会のメンバーでもあるのだよ」
「国宝? はっ!」
あるキーワードに気付いた静流が、目を見開いた。
「アノ絵の件、 ですか?」
「そう言う事だ、 静流キュン」
アノ絵とは、国尼祭で静流が描いた『メテオ・ブリージング』の事であろう。
女神シズルカが両手を前に突き出して、『気功波』の様なオーラを放っている絵で、見ている者に癒しや活力を与える効果があるらしい。
国尼祭でオークションに掛ける予定だったが、文科省が国宝指定すべくストップをかけた経緯がある。
「キミの絵を見させてもらった。 素晴らしいの一言だった」
「そ、それはどうも……」
「アノ絵は遅かれ早かれ、 国宝指定されるだろう」
「親父、 それで薫子お姉様たちと絵がどう繋がるのだ?」
「そう急かすな。 ムー、 睦美に聞いたよ。 庵クンの家族たちの事を」
「知っているんですか? 庵さんたちの事を?」
「静クンに聞いているよ。 自分には双子とも兄弟とも違う血縁者がいるとね」
静と庵の関係性については、静流の母であるミミからは聞かされていない。
と言うより、『話せない』と言った方が近い。
静流自身も記憶を消されていたので、薫たちの事は全く覚えていなかった。
「という事は『元老院』の仕業って事も御存じで?」
「あの機関はもう死んだも同然だ。 他人の人生をどうこう出来る力など無いよ」
「以前、 親戚に元老院のメンバーがいる方もそんな事を言ってましたね」
静流が言っているのは、ダーナ・オシー駐屯地にいる竜崎ココナ大尉の事である。
「その方はこうも言ってました。 『ゲソリック総本山』が怪しい、 と」
「鋭いね。 私も同じ意見だ」
ゲソリック教会は、クリスト教の有力教派の一つであり、『すべての主』であるクリス・トーマスを守護する88柱の女神たちを崇める教派である。
その総本山と言われる『クチャラー大聖堂』は、ヨーロッパにある世界最小の国家である『ダイミンカン市国』にある。
「親父、 それが薫子お姉様たちを追放する理由にどう繋がるんだ?」
「私はある仮説を立てた。 総本山の狙いは……」
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