拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード53-1

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国分尼寺魔導高等学校 2-B教室――

 コミマケが終わってから数日後の朝。

「オッス静流!」
「おはよ、達也……」

 いつになく元気の無い静流。

「おいおいどうした? 一難去ってまた一難ってか?」
「……当たらずとも遠からず、 かな?」

 そう言っていつものように机に突っ伏した静流。
 となりでは朋子が真琴に話しかけていた。

「真琴、どうしたの五十嵐クン、浮かない顔して」
「それがね、ごにょごにょ……」
「美千留ちゃんが!? あぁ…あの重度のブラコンならやりかねないか……」

 真琴に理由を聞いた朋子の顔がみるみる内に曇り出した。
 達也はいつも通り静流を励ました。 

「ミッチーのご機嫌が悪いのはいつもの事だろ? 気にすんなよ」
「それがさ、いつもとはちょっと違うみたいなんだ……ふぅ」

 そう言ってため息をついた静流の後ろを、教室に入ってきた蘭子が通り過ぎた。

「あ、蘭ちゃん、おはよう!」
「うーっす」

 真琴の呼びかけに、蘭子は右手を挙げて応えた。

「あ、お蘭さん、これ」

 静流は蘭子をみるや、ポケットから紙切れを渡した。

「ん? 待て、 こ、これは、 まさか!?」

 紙切れを受け取った蘭子は、内容を見て大げさにのけ反った。

「僕のフレコ。 夕べ美千留に頼んで作ってもらったんだ」
「お!? おお」

 静流にそう言われ、静流のフレコである事が確信に変わった蘭子は、慌てて紙切れをポケットにしまった。
 それを見た真琴は、ひそかに奥歯を噛みしめた。

「言っとくけどそれ、今入れても意味ないんだよね……」
「ん? どう言うこったそりゃ?」

 静流のその言葉に、達也たちが注目した。

「ログイン出来ないんだ。 少なくともウチの本体ではね……」
「な、何ィ!? それじゃあ、意味ねぇじゃんかよぉ……」

 それを聞いて驚いた蘭子は、小さめの声で呟いた。
 達也が思いつくままに静流に言った。

「じゃあよぉ、部室のヤツでログインすればイイんじゃねぇ?」

 団体戦の副賞だったジュンテンドースイッチは、「桃魔」の部室で使う事にしたのだ。

「ダメだよ。 美千留にチェックされてる。 見つかったらヤバい」
「スイッチの普及率が低いだけに、 直ぐ足が付きそうよね……」

 美千留はログインの履歴もチェックしているのだろうか?

「だったら何でアカウント作ったんだろ?」
「さぁね。 アイツの思考はいつもぶっ飛んでるから……」
「さっぱり糸口がつかめない。 詰んでるわね」

 朋子も必死に考えているが、何も思いつかない。
 その様子を見ていた真琴が話しかけた。

「実はね、 あたしが美千留ちゃんの部屋で見つけたんだけど……」

 真琴が携帯端末を取り出し、ある写真を表示させた。
 達也たちが一斉に端末を覗き込んだ。

「なになに? 『欲しいものリスト♡』だと?」

 そのリストには、主に以下のようなものがあった。

 ・小悪魔系メイクコスメ
 ・あつまれ 恫喝の森
 ・監視・追跡用超小型スパイ衛星
 ・愛される妹キャラ育成講座
 ・やさぐれウォンバット スペシャルぬいぐるみ

「うわ、 見なきゃよかった……」
「自覚あったんだな、 小悪魔系だって」
「『あつ森』って、18禁じゃなかったっけ?」
「うわ、 スパイ衛星って何?」
「ここまで来ると、健気というか、いじらしいと言うか……」

 最後の項目に、達也が反応した。

「このぬいぐるみって、クレーンゲームの景品だよな?」
「うん。 『阿鼻叫喚アニマル』シリーズって言うの。 意外とカワイイんだよ♪」
「おいお蘭、 知ってるゲーセンにコイツ扱ってるの、知らねぇ?」
 
 しょっちゅうゲーセンに出入りしている印象の蘭子に、達也が聞いた。

「ああ、そのシリーズか。 聞くところによると激ムズらしいぞ?」
「何とか手に入んねぇかな? ミッチーの御機嫌が良くなれば、 鎖国から解放されるかも知れねぇし……」

 ぶつぶつと呟いていた達也の言葉に、蘭子は食いついた。

「つまり、 ソイツをゲット出来れば、 お静とスイッチで遊べるんだな?」
「わかんねぇけど、交渉のカードには使えると思うぜ?」

 蘭子に詰め寄られ、達也はたじろぎながらそう言った。
 何か思い付いた蘭子が、自信たっぷりに言い放った。 

「そうか……よし、 その件はアタイに任せな」
「そうは言ってもお蘭、 クレーンゲーム得意なのか?」
「アタイじゃない。 ちょっとしたツテがあるんだよ」
「何だよそのツテってよ?」

 達也の問いに、言葉を濁した蘭子。  

「アイツを頼る事になるとはな……出来ればアイツの力は借りたくなかったんだけどよ……」

 一同には意味不明の言葉を呟いたあと、蘭子が一同に言った。

「放課後、腐中の『ダイトーステーション』に行くぞ!」
(妹ちゃんの機嫌、直さないとな……)



              ◆ ◆ ◆ ◆



腐中駅付近 『ダイトーステーション』――

 放課後、蘭子に連れられ、静流は達也や真琴たちと共に腐中駅から徒歩数分の雑居ビルに向かった。
 意外だったのが、こういう時にあまり参加しない朋子が付いてきた。
 シズムは行きたがったが、正門で待ち伏せしていた鳴海に連れていかれた。

「ココは多分、クレーンゲームの設置台数じゃ日本一だ!」
「って事は、 実質世界一だったり?」
「そうかもな。 よし、中に入るぞ」

 中に入ろうとした静流を、真琴は呼び止めた。

「ちょっと待って、 静流、 アレ、 着けてるよね?」
「大丈夫。 ほれ」チラ
「ふむ。 ならばよし!」

 真琴に聞かれ、静流は『サチウスの腕輪』を見せた。
 人払いの効果は、コミマケで実証済みだ。
 蘭子が進むと自動ドアが開いた。

「「「おぉ……」」」

 中に足を踏み入れると、フロア全体にクレーンゲームが並んでいる。
 日本一の設置台数と言うのも、ガセではないようだ。
 静流たちが感嘆の声を上げた。

「うわぁ……スゴいなぁ」
「おい静流、 無免ライダーのフィギュアもあるぜ?」
「ホントだ……イイなぁ……」

 静流たちは男子向けの景品がセットしてある台を物色している。
 すると朋子が、気に入った景品を見つけるや否や、達也の手を引いた。

「あ、あれ欲しい! ねぇ、 取ってよ達也ぁ」
「げ!? 無理だ! あんなでけぇの! 大体なぁ、ああゆうもんは、アームの強度設定がだな……」
 
 朋子の無茶ぶりに、達也は目を泳がせてあーだこーだ言い訳を始めた。
 それを見てニヤついている朋子に、真琴は肘でツンツンとつついた。

「見せつけてくれるわね、朋子?」
「アンタもグイグイ行きなさいよ! チャンスでしょうに」
「ふう。 簡単に言ってくれるわね……」

 ちょっと先にいる蘭子を見つめて、真琴は複雑な表情で言った。
 その蘭子が右手を上げると、その先から誰かがやはり右手を上げてこちらに近づいてきた。

「いよぉ! 蘭の字! 久しぶりだなぁ?」
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