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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-34

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五十嵐家 静流の部屋 19:45時――

 学校を出た静流は、急いで帰る事も無い為、【ゲート】は使わずに通常の交通機関を使用して自宅に帰った。

「静流、 お疲れ」
「ああ、お疲れ様、 真琴」
「明日学校だよ? 寝坊しないでよね?」
「わかってるって」
「シズム、ちゃんと起こすんだよ?」
「大丈夫。 美千留ちゃんがいるし♪」
「ですよねー」

 自宅の前で隣の家に住む真琴と別れた静流たち。
 自宅に帰って来た静流は、帰って来るなりベッドにダイブした。

「ぷしゅぅぅ……疲れた」
「静流様、お着替えは……」
「ちょっとだけ……このままでいたいな……」

 放っておくとそのまま寝てしまいそうな静流。
 暫しの静寂ののち、バタバタと階段を上って来る足音が響いた。
 足音が停まり、ドアを蹴破って美千留が入って来た。

 バァン!

「遅い! しず兄! 夜ご飯は?」
「うぇ? 何か食欲ない……かも?」

 うつ伏せになってそう呟いた静流に、美千留が聞いた。

「変な時間に何か食べたな? 正直に言うてみぃ」
「え? ああ、 学校で打ち上げやった時にちょっとお菓子食べたな……」
「フン、どうせそんな事だろうと思った!」

 床で丸くなっていたロディが、美千留に報告した。

「美千留様、 今日の静流様は魔力消費量が平常時よりも1.75倍多く消費しています。 よって安静が必要です」 
「そんなの、この状態ならわかる。 修行が足りんのだ!」
「ぐえっ!? や、 止めてくれ……」
 
 美千留は足で静流の背中をグリグリと踏んだ。
 静流が何かを思い出し、美千留に聞いた。

「そ、そうだ美千留! 教えてくれ!」
「何? 私が教えられる事? 何だろう?」

 グリグリやりながら、美千留は考えた。

「ス、スイッチに僕のプロフを登録したい。 フレコを交換したいんだ……ぐぇ」

 それを聞いた美千留の顔が、次第に険しくなっていった。

「フレコ? 誰と?」 
「お蘭さんだよ! 紹介したろう?」

 美千留の顔が、驚きから怒りに変わった。

「あのスケバンとフレンドになる……だとぉ?」
「お蘭さんも自分のスイッチが手に入ったから、 交換しようって約束したんだ」

 それを聞いた美千留の怒りが頂点に達した。


「勝手に……約束すんなぁ~!!」げしっ 


 怒りに任せた美千留のかかと落としが、静流の背中にクリーンヒットした。

「うごぉ!」ガクッ

 一瞬エビ反りになったあと、沈黙する静流。

「自分で調べろ! フンッ!」

 美千留はそう言って大股で静流の部屋を出て行った。



              ◆ ◆ ◆ ◆



聖アスモニア修道魔導学園 職員宿舎 深夜――

 『塔』から戻って来たカチュアは、音を立てず、慎重に自分の部屋に戻ろうとしていた。
 ニニの部屋を通り過ぎようとした時、不意にドアが開いた。

「ふぁ~あ…… ん? こんな時間にどうしたんれすか?」チャ
「ニニちゃん? 酔ってるの?」

 赤ら顔のニニは、酔っている事をカチュアに指摘され、口をとんがらせた。

「ほっといてくらさい。 で、カチュア先生は何を?」チャ
「コッチこそほっといてもらいたいわよ。 じゃあね。 お休み」

 そう言って自分の部屋に向かうカチュアが抱えているものが目に入ったニニ。
 目を細めながらカチュアに聞いた。

「むぅ? なんれすかそれ、抱き枕れすか?」
「はいはい。 私のお気に入りの抱き枕よ♪」
「はて、どっかで見た事ありますね……ええと」 
「もう、 早く寝なさい。 風邪ひくわよ?」

 カチュアは適当にニニとの会話を切り、いそいそと部屋に向かった。
 その様子を見ていたニニは、何かを思い出したようだ。

「ん? もしかしてあれは、 七本木……ジン?」



              ◆ ◆ ◆ ◆



ワタルの塔 食堂 20:00時――

 カチュアが帰ったあと、リリィとお姉様たちに報酬を渡した睦美。

「みなさんの報酬はコチラです」

 受け取った姉たちは、それぞれの感想を述べた。

「フッ、 当然」
「うほっ? こんなにイイのぉ?」
「待ってました臨時収入♪」

 忍と薫子は一日目にいろいろ手伝った。
 リリィは二日間、インベントリ内の軍の施設を使用する件でいろいろと動いてくれた。 

「ま、こんなもんでしょう」

 雪乃は二日目に【複写】について講義やらアドバイスを静流や睦美たちにした報酬だった。

「そしてこれはリナお姉様の分です」 
「へ? アタイは今回、ほとんど何もしてねぇけど?」

 睦美は、今回特に出番が無かったリナにも報酬を与えた。
 リナは驚いて睦美に聞いた。 

「まぁまぁ。 そう言わずにお納め下さいよ」
「何か納得しねぇなぁ……」

 リナは恐る恐る中を覗いた。

「ん? 10万も? はっ!」
「さすがリナお姉様。 察しがイイですね?」

 リナが何かに気付いたのを、睦美は見逃さなかった。

「蘭子クンからです。 何かに用立ててくれ、と」
「アイツ……わかった。 受け取っておく」

 封筒の10万円は、個人戦の賞金だったのだ。
 リナは少しためらったが、大人しく受け取った。
 そのやり取りを横から覗いていた忍がぼやいた。
 
「リナ、私よりもらってる。 ズルい」

 そのさらに横で、薫子は緩んだ顔で睦美に言った。

「この『南極静流号』特別ボーナスって事でアタシに頂戴♪」 
「薫子お姉様。 だぁーい好き♡」
「きゃっふぅん」

 薫子はレプリカの静流が発したセリフに、恍惚の表情を浮かべた。
 レプリカの静流を抱きしめ、頬ズリしていた。

「それは構いませんが、そろそろ賞味期限が……」
「何ソレ!? どういう事?」

 睦美の物言いに、薫子はいぶかし気な表情になった。
 すると次の瞬間、抱いていたレプリカの静流が突然消えた。

「あれ? 静流? ああ~っ!!」
「残念でした。 この静流は私が面倒を見るからご心配なく」

 レプリカの静流は、いつの間にか忍が抱き抱えていた。

「しのぶちゃん、だぁーい好き♡」
「くはぁ、 たまんない」

 オリジナルの静流から発する事は皆無だと思われるセリフが発せられ、忍は恍惚の表情を浮かべた。

「ちょっとぉ、 私が貰ったの! 返しなさいよ!」
「ヤダ。 絶対渡さない!」

 とうとうレプリカの静流の腕を薫子と忍が引っ張り合う状態になった。

「まるで、西部劇の拷問シーンみたいね」
「ガキの喧嘩じゃねぇか。 はーやだやだ」

 雪乃やリナが呆れて見ている。

「賞味期限かぁ。 どんな味、 するんだろうね?」

 いつの間にかワインを片手に持っているリリィが、ほろ酔い状態でそう呟いた。

「さぁ? では私はこれで失礼します。 御機嫌よう」

 そう言って睦美は立ち上がり、軽く会釈して食堂を後にした。

「いつまで持つかな? とっとと帰らないと……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



学園内 教員宿舎 カチュアの部屋 深夜――

 酔っぱらったニニを何とかやり過ごし、やっとのことで自分の部屋に辿り着いたカチュア。

「ふぅ。 やっと二人きりになれたわ……」

 カチュアはレプリカのジンをベッドに寝かせ、マウントポジションをとった。

「もう邪魔する者はいない。 あぁ…ジン様ぁ」
「カチュア、 愛してるよ♡」

 レプリカのセリフを聞き、カチュアの理性は一瞬で飛んだ。
 カチュアは高速で自分の服を脱ぎ捨て、下着姿になる。

「あぁっ、ジン様ぁ!」ガシッ

 カチュアは思いっきりジンを抱きしめた。すると、


  ぷしゅぅぅ……パァン!!


 レプリカのジンの身体が破裂し、跡形も無くなった。


「は? え? ええ~っ!!」


 突然起こった事態に半狂乱となるカチュア。 



              ◆ ◆ ◆ ◆



 ワタルの塔を後に、自宅に向かっている睦美。
 
「おっと念話だ。 意外と早かったな」

 そう言って念話に出た睦美。

〔ちょっと睦美!? 静流が破裂しちゃったんだけど?〕
〔何とかして。 お願い〕

 念話は薫子と忍だった。

〔恐らく、静流キュンの意識が途切れたからでしょう〕
〔それって、『寝た』って事?〕
〔丸一日魔力を注いでいたんです。 大目に見てあげて下さい〕

 睦美は簡単に経緯を説明した。

〔そう言う事か なら仕方ないわね……〕
〔むしろこれで良かった。 安易に手に入れるものでは無いから……〕

 状況が状況なので、強く出れないお姉様たちだった。
 しおらしく引き下がった二人と念話を切った。

「ふう。 さて次は……来た」

 睦美の予想通り、かかってきた念話の相手はカチュアだった。

〔ちょっとGMさん!? これはどう言う事かしら?〕
〔ええと、 その件につきましては……〕

 先ほど姉たちに説明した事を、もう一度カチュアに説明する羽目になった睦美であった。
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