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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-31

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桃魔術研究会 第一部室 16:15時―― 

睦美の意味深な発言から始まった『余興』。

白ミサが静流を呼ぶと、いかにもな魔王コスプレの静流が【ゲート】から出てきた。

『我を呼び出したのは、お前か?』ギロ

 防護メガネをかけていない、裸眼の静流が白ミサを見てそう言った。

「は、はい……そうですが?」
『ほぉ。 うい奴じゃ、 我のモノになれ!』
「ひぃっ!?」

 そう言った静流が瞬歩で白ミサに切迫し、桃色に光る瞳で白ミサを見つめた。

「あ、ああっ はぁっ、はぁぁぁ~ん♡♡」
 
 白ミサが悶えながら静流の腕に抱かれ、気を失った。

『さて、前菜はコイツで良しとして、メインの肉はどれにするか……な?』ギロ

「「「ひぃぃぃぃ!」」」

『ふむ。 いるではないか、脂ののった上手そうな豚どもが……』ペロリ

 静流はそう言って部員たちを品定めし始めた。
 口角を釣り上げ、舌なめずりをする様はさしずめ、『オリジナル笑顔』であった。


「シーン……」


 一連のやり取りを見ていた部員たちは、時が停まったようにフリーズしていた。

 すると白ミサが薄目を開けて静流にささやいた。

「あらら、ドン引きみたいですよ? 静流様?」
「もう、 だから言ったでしょ? メガネかけないとこうなっちゃうって……」

 そう言って静流は、こめかみのあたりを触り、いつもの瓶底メガネを表示させた。

「あれぇ? どうしちゃったんだろ? あたし?」ざわ…
「ん? 今の、 なんだったの?」ざわ…
「てっきり静流様が『魔王』になってしまわれたのかと……」ざわ…

 すると、フリーズしていた部員たちが動き出した。

「ドン引きじゃないですか! 睦美先輩がウケるって言うからやったのに……」
「ふむ。 創作意欲が湧きそうなイイ演出だと思ったんだがなぁ……」

 口をとんがらせた静流が睦美の方を向くと、睦美は腕を組み、顎に手をやっていた。
 すると白ミサが静流の顔を手でつかみ、自分に向けさせた。

「私はいつまでも……こうしていたいんですけどね? ウフ」
「ちょっと、 からかわないで下さいよぉ……」

 静流は後頭部を搔きながら白ミサを立たせた。
 部員たちはポカーンと今のやり取りを見ていた。

「えっ? 今のが『余興』?」ざわ…
「でも素敵だった……魔王様モードの静流様……はう」

 部員たちのリアクションに満足げの睦美が、吹き出しそうな顔で部員たちに言った。 

「驚いたか? スマンスマン。 そう言う事だ。 これよりささやかだが打ち上げを行う! 準備開始!」

「「「御意!」」」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 部室に長机が置かれ、飲み物やお菓子が並べられる。全員に飲み物が渡ったのを確認した睦美が、教壇側に立った。

「この二日間、 本当にご苦労だった。 改めて礼を言う。 ありがとう」ペコリ

 睦美がそう言って頭を下げた。

「それではこの二日間の感想と、乾杯の音頭を頼もうかな? 静流キュン!」 


「「「「うっほぉぉぉ」」」」


 睦美に振られ、一同の注目を一身に受ける静流。

「へ? ぼ、 僕ですか?」
「ああ。 キミに是非共頼みたい!」

 睦美にそう言われ、静流は周りを見渡した。
 部員たちの目が輝きだし、何度も頷いている。
 それを見た静流は観念して溜息をついた。

「わ、わかりましたよぉ……」

 魔王コスプレのままの静流が教壇側に立った。

「はふぅ。 そのお姿でいつもの静流様……ギャップ萌えです」
「あぁ……どのようなお言葉を頂けるのでしょうか?」


 部員たちが目を爛々とさせ、静流の言葉を待っている。
 静流は少し考えたあと、ゆっくりと口を開いた。

「えっと、 とりあえず皆さん、 二日間お疲れ様でした。 僕は今回初めて参加したんですが、 二日間を通して思ったことは、参加者さんの『情熱』が半端ではないって事ですね」

 そこで言葉を切った静流。

「ですが……『薄い本』を買ってくれるユーザーさんたちのノリに、 ちょっと引いてしまう所もあったりして……」

「で、ですよねー」
「とびっきりヘビーなユーザー様もいましたしね……」
「よく頑張りましたね。 エライです、 静流様」

 複雑な顔をしている静流に、部員たちはいたわりのまなざしを向けた。

「でも! 皆が作った『薄い本』を抱きしめて駅の方に帰っていく、 幸せそうな顔をしたユーザーさんを見て思ったんです――」


「『あの顔』を見たら、 悪い気はしないな、 って」パァァ


 静流は、満面の笑顔でそう言った。


「「「「はびぃぃぃぃぃ!!」」」」


 部員たちは、いつもの悶絶系ではなく、まるで雷に打たれたようなリアクションだった。

「そこまでご理解いただけましたか。 大きな一歩です!」
「今のままで満足していてはダメ。 更なる精進を!」


「「「「静流様と共に!!」」」」


 部員たちの士気が上がった瞬間であった。
 静流が飲み物が注がれたコップを持ち、高く掲げた。

「では、 二日間お疲れ様でした! 乾杯!」


「「「「乾杯!!」」」」

 
 部員たちが飲み物を酌み交わした。
 しばらく歓談していると、睦美が得意げに部員に言った。

「みんな喜べ! 静流キュンからみんなへ粋な計らいだ!」
「みんな、 おいで」パチン

 静流が指パッチンをすると、【ゲート】からぞろぞろとレプリカたちが出てきた。

 シリアルナンバー1 シズミ 
 シリアルナンバー2 シズルー大尉  
 シリアルナンバー3 シズベール
 シリアルナンバー4 井川ユズル
 シリアルナンバー5 ダッシュ6(鎧装着Ver.)

 魔王コスプレのオリジナル静流の後ろに並ぶレプリカたち。
 静流が生み出したレプリカに、多少アレンジが加わっていた。

「まじまじと見ると荘厳だなぁ。 おい! スチール用意しとけ」
「はいっ!」

 黒ミサは撮影班に声をかけた。
 静流が部員たちに言った。

「打ち上げが終わるまで、 自由にしてもらってイイですよ♪」


「「「「ぶっほぉぉぉん♡♡」」」」


 それを聞いた部員たちは、一瞬で『乙女モード』に変わった。

「シズミくぅ~ん♡」
「大尉殿!」
「シズベール!」
「ユズル様ぁ~♡」

 部員たちが好みのレプリカの前に群がった。

「ダッシュ6……様?」

 何故かダッシュ6の前には、あまり集まらない。
 カナメはその光景に納得いってなかった。

「なんでムツ子の前には並ばんのや? あんなにカワイイのに?」
「まあ見てろって」

 少数派の中に、静流の中学の後輩である荒木・姫野コンビがいた。

「ダッシュ6さん? 一応聞くんですが……」
「『反転』は可能ですか?」

 そう聞かれ、ダッシュ6は睦美の方を見た。

「見せてやりなさい!、 ムツ子!」
「御意!」

 そう言ってダッシュ6は構えた。

「反転! 裏モード『眉目秀麗!』」

 『容姿端麗』のカードを一度抜いて、裏返しにしてスロットに挿した。
 パシュゥ! と言う音と共に、桃色から黒に変わった鎧を付けたサムライが現れた。


「「「ダダダ、ダッシュ7さまぁ~♡♡♡」」」


 ダッシュ7の出現により、他のレプリカに群がっていた部員たちが押し寄せて来た。


「現金なやっちゃなぁ 自分ら!」
「イイじゃないか。 今まで散々裏方に徹していたんだ。 ご褒美だよ」

 部員たちにもみくちゃにされているレプリカを見ながら、飲み物を口に含んだ静流。

「ふう。 これでやっと解放される……」

 そこに真琴たちが寄って来た。

「静流、お疲れ」
「お疲れ様ぁ」

 最後に顔を出したのは、蘭子だった。

「よぉ。お疲れ」
「お蘭さんこそ。 お疲れ様」

 他愛ない話の後、蘭子は急に1オクターブ高い声で静流に言った。

「お静……アタイと、 フレコ交換してくれ!」
「フレコ、交換?」

 静流は蘭子の言っている意味がわからず、首を傾げた。
 堪らず真琴がフォローした。

「スイッチの『フレンドコード』の事! 鈍いわね」
「え? ああ! イイけど?」
「よっしゃ!」

 蘭子は右手を硬く握り、後ろに引く。 丁度以前野球中継で見た、ホームランを打った時の助っ人外人のようなポーズをとった。

「あ、でもやっぱダメだ……」
「へ? ええ~!?」

 急に取り消され、蘭子は急転直下にテンションが下がって行った。
 静流は慌てて弁明した。

「だって、まだ登録してなかったから」 

 後頭部を搔きながら言う静流に、三人は突っ込んだ。


「「「それ、早く言えよ!」」」
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