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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-26

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ポケクリバトル会場 14:40時――

 『オリジナル笑顔』こと『オリ笑』が幻のチート技である【P-MAX】を発動し、巨大化したヒロポン。
 運営スタッフたちが協議した結果、本人の希望もあり試合続行となった。

「さぁて、試合続行です!」
「先ほど【じこさいせい】でHPを半分まで回復したブラッカラムに、【P-MAX】にて巨大化したヒロポンが襲い掛かる!」

『ヒロポン! 【じゃれつく】!』ギュゥゥン

 巨大化したヒロポンは、自分の1/3程度のブラッカラムに突進すると、土煙を上げてブラッカラムをもてあそんだ。 

「おーっと! ドラゴン系には有効の【じゃれつく】が、巨大化によって攻撃力がさらに3倍に跳ね上がっている!」
「マズいですね、 半分のHPでも持つかどうか……」

 奇跡的にブラッカラムは生き残ったが、瀕死状態だった。

「もう一度【じこさいせい】を使うか? しかし結果は変わらないぞ?」
「少しでもダメージを与え、次のギシアンに繋ぐか?」

 ツンギレは後者を選択したようだ。

『ブラッカラム! 【ポイズン・アロー】!』ザシュ

 ブラッカラムから毒の矢が放たれ、ヒロポンに命中した。

「虫系フェアリーには痛い攻撃だが、やはり巨大化のせいか威力は1/3程度だ!」


「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


 1ターンを攻撃に使ったツンギレは、効果が今一つだった結果に奥歯を噛みしめた。
 オリ笑のアバターがツンギレを指さし、言い放つ。
 
『これまでよく耐えた。 しかし、次の一手で終わらせてもらう!』

「おーっと! オリ笑選手の勝利宣言か!?」 
「ツンギレにはまだ『ギシアン』がいる! 宣言はまだ早いだろ!」

 実況席の野次を無視し、オリ笑みがヒロポンに指示を出す。


『ヒロポン! 【ハイパーしゅきしゅきビーム】 発射!!』ポポポポポ


 ヒロポンの手からピンクの♡マークが連続で放射され、ブラッカラムに命中した。
 これには耐えきれず、ブラッカラムのHPは一瞬でゼロになり、力尽きた。


「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


 ブラッカラムが消滅していく様を、巨大化したヒロポンが見送った。 

「後が無いツンギレ選手、最後の希望『ギシアン』を召喚する!」

『行けっ! ギシアン!』キュウン

 巨大化したヒロポンの前に、淡い紫色をした不健康そうな天使のギシアンが召喚された。
 それを見たオリ笑が、笑いをこらえながらツンギレに言った。

『おやぁ? てっきり投了するのかと思ったぜ? まだやるのか?』
『おい! お前だけのもんじゃねぇんだよ……』
『何? 今なんつった?』

 オリ笑がツンギレに聞き返すと、すかさず技を発動するツンギレ。


『見せてやれギシアン! 【P-MAX発動】!!』ギギュゥゥゥン


 ツンギレのアバターの右腕が光り、その光をギシアンに照射した。
 するとギシアンの目が眩しく光ったあと、体がぐんぐんと大きくなっていった。
 最終的にはアバターの3倍ほどに巨大化した。

「何ィ!? ギシアンが巨大化だと?」ざわ…
「ツンギレも隠してやがったんだ、【PーMAX】を……」ざわ…

 巨大スクリーンに映し出された巨大化したヒロポンとギシアン。
 普段は愛らしい二体のフェアリー系ポケクリが巨大化し、観衆の度肝を抜いた。

「これは驚きました! ツンギレ選手にも切り札が残っていたとは」
「さぁ! 勝負は佳境に入りました! 先手はオリ笑だ!」


『ぶちかませヒロポン!【ハイパーたまごボンバー】!!』ボム、ボム


 ヒロポンは、腹部から生み出された卵をギシアンに高速で射出した。
 
「全弾命中! これは効いたかギシアン! 効果は抜群だ!」


「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


 その時、ヒロポンに異変が起こった。


「シュゥゥゥゥ……ン」 


 ヒロポンの身体がみるみるうちに収縮し始めた。

『うぉ!? しまった!』

「おーっと時間切れか? ヒロポンが元の大きさに戻りました!」
「しかも、ブラッカラムから受けた、 毒のダメージが蓄積されています!」


「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


 数ターン前とは逆の立場となり、ヒロポンが巨大化したギシアンを見上げている構図となった。

 
『どうやら詰みのようだぜ? オリジナル笑顔さんよ?』
『チッ、しくじったか……早くやれよ』


 観念したのか、ふてくされながらそう言ったオリ笑。
 ツンギレは最後の技をギシアンに命じた。


『ギシアン! 【ギガント・ヤンデレ光線】発射!!』ブブブブブブ 


 ギシアンからドス黒い♡マークが連続で放射され、ヒロポンに命中した。
 するとヒロポンの体が浸食されて行き、やがて消滅した。


「ヒロポン消滅! 勝者、ツンギレ選手!!」


「「「「うぉぉぉぉ!!」」」」


 スクリーンにツンギレがカットインし、『WINNER』の文字が表示された。
 オリジナル笑顔を倒し、ツンギレが優勝した瞬間だった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ポケクリバトル会場 蘭子の控室 14:50時――

「やった! お蘭さんが勝ったぁー!」
「よくやったわツンギレちゃん! おめでとう!」

 試合をモニターで見ていた静流とソロ充は、ツンギレの勝利に抱き合って喜んだ。
 ふと我に返った静流は、ぱっとソロ充から離れた。

「あ、 すいません……嬉しくて、 つい……」
「イイのよ。 帰って来たら盛大に褒めてあげるのよ?」
「ええ。 でも助かりました」
「へ? 何が?」

 ソロ充に向き直った静流は、緩んだ顔を引き締めて言った。

「ソロ充さん、 ありがとうございました。 お蘭さんは恐らく、 アナタ無しでは勝つ事は出来なかったでしょう!」
「そんな大袈裟な。 私はきっかけを与えただけ。 ぜーんぶ、 あの子の実力よ!」

 ソロ充は照れくさそうに、手をブンブンと振りながらそう言った。



              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 休憩スペース VIP席 14:50時――

 大画面モニターで観戦していた真琴たち。
 勝利が決まった瞬間、素子が立ち上がった。

「やりました! 蘭ちゃんが優勝しましたぁー!」
「ふぅ。 一時はどうなるかと思ったぜ……」 

 リナがため息まじりに呟いた。

「エンタメ的には大成功だったわね」
「それにしてもドラマチック過ぎますよ」

 雪乃が意見を述べると、素子も同調した。

「まさか、ポケクリが巨大化するとは。でも蘭ちゃん、どうやってそのソフトを入手したのかしら?」

 真琴が感心しながらそう言うと、素子がピクリと反応し、早口で説明してくれた。

「確かに『幻のベータ版』は存在しました。以前、ココ膜張で行った『東京ゲームショウ』で、一般公開前の業界関係者やプレスを対象とした『ビジネスデー』にごく少数が配られた、らしいです」 
「ほぉ。 そうだったんですか……」
「そのあとはご存じの通りカップコンは倒産し、ポケクリの新作は二度と陽の目を見る事はありませんでした……」

 素子は床の方を見て、テンションを下げた、と思った瞬間、  

「で・す・が! 今日この対戦でお披露目出来ました! 【P-MAX】は当然新作にも実装されるでしょう!」フン

 素子は右手を高く挙げ、誇らしげにそう言った。
 リナは少し引っかかる所があった。

「でもよぉ、だったら一番強ぇヤツに使えばイイだろうによ?」
「う~ん、確かにそれはそうですが……」

 リナの疑問に、素子は腕を組んで考え込んだ。
 すると雪乃が代わりに答えた。

「簡単な事でしょう? 恐らく試供品では高スペックのポケクリに対応していない事と……」
「あとは何だよヅラ?」 

 雪乃は言葉を途中で切った。

「そんなの決まってるじゃない、 面白く無いからよ!」

 雪乃はウィンクしながらそう言った。
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