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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-25

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ポケクリバトル会場 14:25時――

 毒及び凶悪属性のブラッカラムには天敵とも言える、格闘及び鋼の属性を持つバキに苦戦しているツンギレこと蘭子。

『ブラッカラム!【飛翔】!!』バサッ

「おっとブラッカラム! 【飛翔】を使って巨体を宙に浮かせた!」

『バキ!【ジェットアッパー】!』ブゥン!
 
「バキが高速アッパーを繰り出した! しかーし! 宙に浮いているブラッカラムには、 効果は今一つだ!」


「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」

 
『ブラッカラム! 【メガトン頭突き】!!』ゴンッ! 

 ブラッカラムは空中から急降下し、自重を載せた頭突きをバキにかました。

「バキ、強烈な一撃を浴び、 HPが半分まで減少!」

 するとバキの全身を赤いオーラが覆った。
 ステータスに表示されたワードに、観客がざわついた。

「【ふくつのとうし】と【せいぎのこころ】だと!?」ざわ…
「アバターがどっちもヒールだけにイタい展開だな……」ざわ…

 【せいぎのこころ】とは、相手が悪または凶悪の場合、それらから攻撃を受ける毎に攻撃力がUPするというスキルである。

「ココに来て二つのスキル発動とは、オリ笑選手のポケクリ育成にかける情熱はすさまじい!」
「ファイナリストなら当然でしょう。 少し見直しました」

 クロミは不満そうにコメントした。

「思ってたよりまともなのな?」ざわ…
「こうなると、地上でガチの殴り合いが見たいなぁ……」ざわ…

 オリ笑のこれまでの戦い方についての観衆の呟きに、クロミがたまらず反応した。

「上等だ! レア度ならこっちが上だ! やっちまえブラッカラム!」
「ちょっとクロミ!? アンタって子はもう……」

 ここでオリ笑がツンギレに言い放った。

『おい! みんなは俺たちのガチバトルが見たいとよ! 下りて来て正々堂々と俺と戦え!』

「そんな挑発に乗る必要ないぞ! 今のままでHPを削れ!」ざわ…
「俺は見てみたいかな。 ガチバトル」ざわ…

 観衆がざわめく中、ツンギレが沈黙を破った。


『イイぜ……乗った』


 そう言うとツンギレは【飛翔】を解除した。


「「「「うぉぉぉぉ!!」」」」


 地面に降り立ったブラッカラムに、バキは構えた。

『お望み通り降りて来てやったぜ? やれるもんならやって見ろ!』
『クックック、直ぐに楽にしてやる。 バキ!【真空とび膝蹴り】!!』シュバッ!

 バキは渾身の回し蹴りをブラッカラムに見舞った。
 インパクトのあと、HPがみるみる減っていく。
 このままゼロになってしまうかと思われたが、わずかにHPが残った。

「残った! 残しました! ブラッカラム、 驚異の生存本能です!」


「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


 刺し違える覚悟で臨んだオリ笑であったが、結果的に両者共HPは残りあとわずかとなった。

『クッ、差し切れなかったか……』
『危なかったぜ。 今度はこっちから行くぜ!』

 ツンギレのターンとなり、ブラッカラムに命じた。

『ブラッカラム! 【みだれひっかき】!』ザシュ

 ブラッカラムが放ったノーマル技がヒットし、バキは消滅した。


「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


「ブラッカラム、バキを撃破! しかしHPがわずかしかなく、戦闘続行は難しいか!?」
 
 オリ笑が最期のポケクリを召喚した。

『行ってこい! ヒロポン!』ギュピィィ! 

 オリ笑が召喚したのは、全身が深緑の虫寄りのフェアリー系ポケクリだった。

『ブラッカラム! 【じこさいせい】発動!』パァァ

「成程、HPを半分まで回復させ、次のターンでヒロポンを血祭りに上げるつもりですね?」

 クロミを含め、誰しもがそう思っていたが、予想外の事が起こった。
 落ち着きはらったオリ笑は、ヒロポンに指示を出した。


『出し惜しみは無しだ! ヒロポン! 【P-MAX】発動!』キュゥゥゥン


 オリ笑のアバターの右腕が光り、その光をヒロポンに照射した。
 するとヒロポンの目が眩しく光ったあと、体がぐんぐんと大きくなっていった。
 最終的にはアバターの3倍ほどに巨大化した。

「何ィィ!? なんだこの技は!?」ざわ…
「ポケクリが、巨大化した!?」ざわ…

 巨大スクリーンに映し出されたヒロポンは、ユーモラスな風貌のまま巨大化したため、不気味に映った。

「な、何が起こったのでしょうか!? ポケクリが巨大化するなんて、聞いてませんよぉ?」
「P-MAX……これがオリ笑が用意した最大の罠だったのか?」

 シロミが目の前で起こっている事象に口をパクパクさせ、テンパっている。
 クロミは不敵に笑うオリ笑のアバターを睨んだ。
 シロミたちにADがカンペを渡す。

「え? ……あ、 はい。なになに? えー【P-MAX】システムは、製作途中で中止となった幻のソフトである『ポケットクリーチャー・ソード及びシールド』に実装予定だったもので、ベータ版が少数出回ったとの事です!」 
「そのベータ版は皮肉にもココ、膜張メッセで数年前に行われた『東京ゲームショウ』でわずかに配布されたものらしい、 です」

 シロミたちがカンペを読み終えると、観客がざわつき始めた。
 
「何だよそりゃ? チート過ぎないか?」ざわ…
「でもよぉ、一応ポケクリなんだし、 MODもOKならアリじゃね?」ざわ…

 場の状況が変わり、ADからシロミたちに指示が来た。

「ストーップ!! これより審議に入ります。 皆さんはそのままお待ちください!」

 シロミたちが一礼してスタッフルームに駆け込んだ。
 周りではスタッフたちがバタバタとせわしなく走り回っている。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ポケクリバトル会場 蘭子の控室 14:30時――

 今までの試合をモニターで見ていた静流とソロ充。

「うわぁ、 これってマズくないですかね? ソロ充さん」
「参ったわね……そう来たかぁ」

 静流たちにとっても、予想外の展開だったようだ。

「しかし、どうやって入手したのかしら?」
「そのゲームショウで手に入れた? あるいは転売とか……」

 モニターに映るせわしなく走り回っているスタッフを見て、ソロ充が呟いた。

「このままアイツが反則食らって負ける、 ってのも後味悪いよね?」
「そんなぁ……じゃあこっちが先に出してたら、 逆もあったって事ですよね?」

「「う~ん」」

 二人は腕を組み、考え込んだ。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ポケクリバトル会場 14:32時――

 蘭子の対戦用ボックスに、運営のスタッフが小走りで近寄って来た。

「すいません、運営の者ですが……」 
「うす、 再開はいつですか?」
「ええと……それがですね……」

 スタッフは簡単に事情を説明した。

「……という事ですので、一旦仕切り直した方が――」
「やります。続行でお願いします」
「へ? ですから……」
「イイって言ってんだろ? 運営がOKならアタイは構わねぇよ」
「本当に?」
「ああ。 それによ、アタイにはごにょごにょ……」
「……なるほど。 それは面白そうですね? こうしちゃいられないぞ!」

 蘭子が何か言うと、スタッフは何度も頷き、スタッフルームの方に駆けて行った。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ポケクリバトル会場 14:40時――

 スタッフルームからシロミたちが出て来て、実況席の前に立った。

「えー、お待たせいたしました。只今の試合で使用した【P-MAX】システムについて協議した結果、『試合続行』となりました!」


「「「「うぉぉぉぉ!!」」」」

 
 試合続行を聞いた観客は、大いに沸いた。
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