拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-19

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インベントリ内 食堂 12:55時――

 準決勝は13:30時であり、その15分前から会場に行く事になっていた。
 蘭子は成り行きでセコンドを務める事となった静流に声をかけた。

「さぁて、そろそろ会場に行くか?」
「ちょっと待って、何か忘れてるような……」

 静流は首を傾げ、必死に思い出そうとしている。
 するとそこに、二人の白衣を着た女性が現れた。 

「静流クゥン! 診察の時間よぉ♡」
「失礼しまぁす。 ヌフフ」

「宗方ドクターと、 ルリさん?」

 静流の前に現れたのは、宗方ジェニーと、藤堂ルリだった。

「あら? お昼に静流クンの健康状態を診る様に言われてるんだけど?」
「あ! そう言えば睦美先輩がそんな事言ってた!」

 腑に落ちた静流は手をポンと叩いた。

「じゃあ皆さん、ちょこーっと静流クンを借りますよぉ♡」
「体の隅々まで診察いたしますので……ムホォ」
「わかりましたから、 自分で歩けますって……」

 静流が二人に手を引かれ、奥の方に連れて行かれた。

「……何だ? 今のは?」
「太刀川駐屯地の軍医さん。ココの医務室を今日だけ頼んでるの」

 真琴がいぶかし気な表情の蘭子に説明した。

「お静、何処か悪いのか?」
「そうじゃなくて、静流は今【複製】の魔法を使ってるの。だから魔力量とかを定期的にチェックする必要があるみたい」
「そうなのか? アイツも大変だなぁ……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 プレイルーム 医務室――

 食堂から医務室に静流を連れて来たジェニーとルリ。

「ここは、 医務室?」
「そう。さっきも言ったけど、 一瞬で終わるからちょっと我慢しててね?」
「は、はい……」
「じゃあ聴診器を当てるから、上着を脱いでね♪」
「は、はぁ……」

 静流は言われるままに上着を脱ぎ、ジェニーに身を任せた。
 ジェニーは聴診器を着け、静流の胸にピースを当てた。

「ムフゥ。 綺麗な心音ね。 感度良好♪」 

 ジェニーは心臓から肺、腹部と順番にピースを当てる。

「ルリちゃん、血圧測定するわよ!」
「はい! 待ってました!」

 ルリは興奮気味に静流の右腕をまさぐり、加圧ベルトを肘の上に着けた。
 ジェニーは聴診器のピースを肘の裏に当てた。

「……フム。 問題無しね。 そしたら次は……」

 ジェニーはルリとアイコンタクトをとった。
 ルリは頷き、静流に指示を出した。

「では、 そこに仰向けになって下さい……ムフ」
 
 静流は二人の態度が気になったが、備え付けのベッドに言われた通り仰向けになった。

「ゆっくりと、 目を閉じて下さぁい」
「こ、こうですか……?」
「これから魔法で体内のオーラを診ます。 大丈夫、直ぐ終わるから」
「お願いします」

 静流は不安げにゆっくりと目を閉じた。
 ジェニーが立ち上がり、構えた。

「いくわよ。【メディカル・サーチ】」パァァ

 ジェニーは右手で輪を作って右目にあて、静流を頭の先から見始めた。

「フム。 夜更かしはダメよ? 睡眠時間はもう少し長くしてね?」
「え? そんなこともわかっちゃうんですか?」
「はい、 動かない。 ええと魔力はぼちぼち補給した方がイイみたい」

 ジェニーの視線が次第に下半身に移っていく。
 
「あとは概ね良好ね……ん? 何かしら、このオーラの塊は?」
「ド、ドクター? そこはもしや……」
 
 ジェニーはある部分から目が離せなくなっている。

「待って、眩し過ぎて良く見えない……こ、これは……?」
「ドクター、ナニが見えたんですか? 詳しく説明して下さい!」

 ルリが身を乗り出し、ジェニーに詰め寄った。

「はぁ、はぁ……スゴい、いきり立ってる……ダメ、これ以上目視出来ない!」 
「ドクター! もっと詳しく説明を!」

 二人が気になり、静流は薄目を開けた。
 目の前の二人が、下半身を凝視してわちゃわちゃやっているのが見えた。

「え? どこか悪い所があるんです? 特に体感的には感じませんが……」
「本当に何ともないのね? あぁ……見ちゃダメなのはわかってるんだけど、目が離せないの……」

 ジェニーの顔が紅潮し、息が乱れている。

「はぁ、はぁ、もう、ダメ……あっふぅうん♡♡」

 ジェニーはワナワナとよろけ始め、ぺたんと座り込んでしまった。
 
「ドクター!? しっかりして下さい!」

 周りの状況が気になり、静流は目を開けた。

「な、何があったんです? ルリさん!?」
「わかりません。 ドクター、しっかりして下さいよぉ!」

 ルリは放心状態になっているジェニーを揺すった。

「あ、あぁ……スゴかったわぁ……」
「一体ナニが見えたんです? ドクター?」

 心配そうに見ているルリに、ジェニーは言った。

「発育状態は……良好、 よ……」 

 数分後にジェニーは回復し、何事もなかったかのように診察を続けた。

「はいっ! 診察終わり! ね? 直ぐにおわったでしょう?」
「ええと……それで僕の体調はどうですか?」

 恐る恐るジェニーに結果を聞く静流。

「いたって健康よ♪ あ、魔力はドクポで補充しておいてね?」
「よかったぁ……さっきの騒ぎは何だったんですか?」

 上着を着ながら、静流はジェニーに先ほどの状況を聞いた。

「あぁ、アレ? 大丈夫。 キミは正常だよ♪」
「そうですか。 でも、 何か気になるんだよなぁ……」

 若干ジェニーの顔に赤みがさしたのを見た静流は、どうも納得していない様子だった。

「ま、イイです。正常なら」

 無理矢理納得した静流は、二人に礼を言って医務室を出た。
 そして静流は小走りで食堂に戻った。



              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 食堂 13:00時――

「お蘭さん、お待たせ!」
「うぉ!? もう終わったのか? 5分しか経ってないぞ?」
「え? あ! そうだった。 アッチの時間、三倍速かったんだ……」
 
 静流はプレイルームの時間を三倍速く設定していた事を想い出し、手をポンと叩いた。

「シズム、ドクポ頂戴!」
「ちょっと待って……はい!」プシュ

 シズムはポシェットからドクポを出し、栓を抜いて静流に渡した。

「ありがと。 ゴクゴク……ぷはぁ! 生き返ったぁ!」

 静流は一気にドクポをあおり、蘭子に声をかけた。 

「じゃあ、行こっか」
「お、おう……」

 二人が食堂を出て行く。

「蘭ちゃん、頑張ってねー!」
「蘭子、思いっきりやれ! 静坊、ちゃんと見届けるんだぞ!」

 みんなの声援を受け、二人は親指を立てた。

「では、行って来ます!」



              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 プレイルーム 医務室――

 静流が出て行った後のジェニーは、デスクに頬杖をつき、天井をぼんやりと見ていた。

「ドクター! いい加減説明して下さいよぉ! 静流様にナニがあったんです?」

 ルリは不貞腐れながら、ジェニーに抱き付いた。

「言葉では言い表せないわね……とにかくスゴい、としか言えない」
「デカいって事ですか? 静流様の『アレ』が……ヌフ」
「そんな下品なものじゃないわよ! そうねぇ……丁度精巣の辺りかしら……眩しいオーラに包まれた何かが見えたの」
「これは黒孔雀先生に報告すべき案件ですかね?」
「そうね。 でも、何て報告すればイイのか……」

 頬杖を突きながら、ジェニーは呟いた。 
 
「とにかく、将来が楽しみだわぁ……むふぅ」
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