拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

文字の大きさ
上 下
383 / 611
第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-17

しおりを挟む
モナカ 太刀川店 リナ回想――

 二階の隅っこに設けられた『レトロコーナー』で、数人の人だかりが出来ていた。
 リナの取り巻きたちが見守る中、蘭子は黙々と面をクリアしていた。
 流石に疲労が溜まっているのか、表情は曇りがちだった。

「おい、次で何面だ?」
「うん?……ひゃ、 103面だぞ!?」

「「「うぉー!!」」」

 ヤス子たちがハイタッチして喜んでいる。
 すると、奥から三人の女生徒がこちらに向かって来た。

「たっだいまぁー!」
「やっぱホームは落ち着くわねーっ♪」

「「「先輩!!」」」

 二人の先輩のあと、リナが取巻きたちに声をかけた。

「おぅ、 何だお前たち、 まだいたのか?」
「「「アネキーッ!!」」」

 疲労からか、気の抜けた話し方のリナ。
 そんなリナに、ヤス子がドヤ顔で言い放った。

「アネキ、約束は覚えてます?」
「約束? あんだよそりゃ?」
「まぁ見てくだせぇ。コッチです」
「お、おい……」

 ヤス子がリナの手を引いて、ひとつのテーブル筐体の前に連れて行く。

「こいつはアタイの親友、加賀谷蘭子っス」
「……ども」

 ヤス子が蘭子を紹介するが、蘭子は画面から目が離せなかった。

「お! 『ディグデグ』か? うん? おい、100面超えてるじゃんかよ!?」
「そうなんっス。コイツ、ゲームの腕は折り紙付きでしてね」

 そんな事を話していると、蘭子の調子がおかしくなってきた。

「ヤベェ……手の感覚が……くっ!」
「蘭の字、しっかりしろ!」

 とうとう限界が来たのか、顔をしかめる蘭子。
 その瞬間、リナは蘭子の手にそっと手を添えた。

「くっ!?」

 蘭子の左側にあったリナの顔は、穏やかな笑みを浮かべていた。

「よく頑張ったな。 おっと、 あとはアタイに任せな」
「は、 はい。 お願いします……」
 
 そう言って蘭子は席をリナに譲った。

「おーし、 飛ばすぜ! お前は休んでな」
「うす」

 リナに変わった瞬間、プレイヤーの動きが数段速くなった。
 プレイから解放された蘭子は、二本目のデュアルゴールドをあおった。

「す、スゲェ……アタイとは動きがまるで違うぜ……」

 ヤス子はまたドヤ顔になり、自慢げに蘭子に言った。

「そりゃそうさ。 なんたってアネキだからなっ!」

 リナがプレイしているのを横目で見ながら、蘭子にアケミたちが質問していた。

「ヤス子とは知り合いみたいね?」
「はい。 コイツとは小学校まで一緒だったッス」
「で? 今はドコ中?」

 そう聞かれ、思わず口ごもる蘭子に、ヤス子がドヤ顔で先輩たちに言った。

「それが先輩方、 聞いてくださいよ! なんとアノ『国尼三中』、 なんスよ!」
「ふーん。 国尼三中ね。 何? そんなに有名なの?」

 アケミは興奮気味に話すヤス子の態度に首を傾げた。

「えっ!? まさか、アノ、 『国尼三中』!?」

 ぼけっと聞いていたサチコが、あるキーワードで覚醒した。

「ねぇ蘭子ちゃん? 同期にいるんでしょ? あの子」
「えっ? あの子って?」

 サチコは身を乗り出し、蘭子に詰め寄った。

「とぼけないでよぉん、 愛しの『ピンキーちゃん』よぉんっ♡」

 そういってサチコは、腰をくねらせ、蘭子にウィンクした。

「サチコ先輩、噂のピンク頭、『五十嵐クン』って言うらしいッスよ?」
「うっはぁ……やっぱ実在したのね? 『五十嵐クン』かぁ~♡ 素敵ぃ♡」

 ヤス子とサチコがハイタッチして喜んでいる。

「ヤス、100円追加だぞ?」ギロ

 そう言って蘭子は、ヤス子を睨んだ。

「払う払う。 だから、 紹介してくれよぉ♪」
「ヤッちゃん? 抜け駆けは良くないわよ? あたしもあたしもぉ♡」
「だ、 だから、 アイツとは何も……」

 二人に言い寄られ、困っている蘭子。

「おい! もうすぐ250面だぞ!」 

 取巻きがそう叫ぶと、一同がリナに集中した。

「って事は、あと5面クリアで見れるんスね?」
「アケミ先輩は見た事、 あるんスよね?」
「うん。 地味に驚くよ……」

 そしてついに、その時が来た。

「よし、255面クリアだ。 みんな、よぉーく見てな!」

 固唾を呑む一同。
 次の瞬間、驚愕の事実が判明した。


『ピ! ピュゥゥゥゥゥン』
『ピ! ピュゥゥゥゥゥン』
『ピ! ピュゥゥゥゥゥン』
『ピ! ピュゥゥゥゥゥン』


 何と、面が始まる時には、既にプレイヤーが敵に捕まっている。
 当然ミスとなり、機が減っていく。

『GAME OVER』

 機のストックを使い果たし、ゲームオーバーとなった。
 ハイスコアの祝福画面となり、イニシャルを入れるワードパッドが出現した。
 この光景を目の当たりにした者たちは、暫く呆然としていた。

「……どういう事?」
「あり得ないっしょ!? 無理じゃん!?」
「あまりにも理不尽過ぎるね……」

 やっと口に出た言葉は、不満の声ばかりだった。

「な? クリア不可能だったろ? ハッハッハ!」

 ポカンとしているみんなに、リナはそう言って笑った。
 
「しかし大したもんだぜ。 気に入った」

 そう言ってリナは、蘭子の肩をポンと叩いた。

「恐縮ッス……お噂は聞いてったッス」
「おめぇの根性、見せてもらったぜ♪」
「じゃあアネキ、蘭の字を仲間に入れても?」

 ヤス子が恐る恐るリナに聞くと、リナは白い歯を見せて笑った。

「ああ。 いつでも遊びに来な。 歓迎するぜ」
「よっしゃぁ! 良かったな 蘭の字」
「ヤス……サンキューな。 声掛けてくれて」



              ◆ ◆ ◆ ◆



モナカ 太刀川店 リナ回想――

 それから蘭子は、毎日のように授業が終わるなり学校を飛び出し、溜まり場となっている『モナカ 太刀川店』に顔を出した。

「うーっす!」
「よぉ蘭の字、相変わらずはええな?」

 ヤス子に挨拶すると、奥から甘ったるい声が聞こえて来た。

「あ、蘭ちゃぁん、待ってたわぁ♡」
「サ、サチコ先輩……」

 サチコを見た蘭子がたじろいだ。

「蘭ちゃぁん、 例の物、 手に入ったのかしらぁ?」
「そう言うの、もう止めにしません?」
「そんな事言って。 勝負に負けたのは蘭ちゃんでしょう?」
「蘭の字、往生際が悪りぃぜ? 今やバーチャをやらせたらサチコ先輩の右に出る者はいないの、わかってるだろ?」

 サチコがニヤついた顔で蘭子に手をわきゃわきゃやった。 

「ふぅ……もうこれっ切りにして下さいよ?」パサ

 蘭子が薄っぺらいカバンから、数枚の写真をテーブル筐体の上に置いた。
 その写真は、

  ・瓶底メガネを掛けた桃色の髪をした少年が、つまらなそうに授業を受けているもの
  ・体育の授業で仲間とじゃれ合っているもの
  ・彼の部屋を超望遠で撮ったのか、メガネを外した少年がベッドに寝転んで漫画を読んでいるもの

 であった。

「きゃっはぁん♡ ありがとう蘭ちゃん♡」
「うっひょー! メガネ無しバージョン! レア中のレアですぜ? サチコ先輩!」

 サチコとヤス子が食い入るように写真を見入っている。

「それはあるツテを使って、 『静流派』と呼ばれている組織から買ったものです。」 
「ははぁーん。 静流クンって言うんだ。 五十嵐静流クン。 はぁ……お近付きになりたいわぁん♡」
「しまった! ついうっかりアイツの情報を……」

 そうこうしていると、奥から怒声が聞こえた。

「あ!? あんだよテメェ! もう二度と顔見せんなっつってんだろうが!」
「あぁ……心地イイ。 もっと俺を叱ってくれ……」

 リナが店に入って来た。後ろに見覚えのある男子生徒が付いて来ていた。

「アネキ、またついて来たんスか? ソイツ」
「ソイツとは失敬だな……みんな、俺の事は『アニキ』と呼んでくれてイイんだぞ?」

 その男子生徒は、決めポーズを取りながらそんな事を言った。

「かぁたぁぎぃりぃ~!!」
「呼んだかい? 愛しのリナ♡」 
「おぇぇ、とっとと消えろ」

 このあとリナは、暫く片桐に付きまとわれたらしい……。
 ここで、リナの回想が終わった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...