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第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード52-16
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モナカ 太刀川店 リナ回想――
「よっしゃ、88面クリアだ!」
モナカでは、蘭子が黙々と『ディグデグ』をやっていた。
かれこれ開始から一時間近くが経過していた。
次の面に移る数秒間、スティックを操作する左手を振り回す仕草が目立って来た。
「おい! 怪獣の火がデカくなってるぞ!?」
あるタイミングで動きが速くなる敵。
「大丈夫だから、心配すんなって」
淡々と敵を岩トラップで料理していく蘭子。
そうは言っても、少しずつ疲労が蓄積されていく。
「悪りぃヤス、のどが渇いた……」
「オッケー、 何がイイ? コーラか?」
「そうだな……『デュアルゴールド』をくれ」
「よし、任せろっ!」
ヤス子はひとっ飛びで自販機に向かい、希望した飲み物を買って来た。
「ほらよ! アタイのおごりだ!」
「サンキュー、 恩に着るぜ」
蘭子は途中の面を終わらせた瞬間、飲み物を手に取り、キャップを取ると一気にあおった。
「んぐっ、んぐっ……ぷはぁ」
「まだやれるか? 蘭の字?」
「おうよ! これで気合い注入完了だ!」
すぐさま次の面になり、蘭子はプレイに集中した。
◆ ◆ ◆ ◆
アドワーズ 太刀川店――
現在2-1でリナが片桐をリードしており、つぎの三回戦で勝てばリナの勝利となる。
「悪りぃけど、次で決めさせてもらうよ? 後輩たちを待たせてるんだ」
「急いでるんだったら、 今すぐ負けを認めるんだな? イイぜ、 その潔さ」
「ほざいてろ。 早く始めんぞ!」
「せっかちだなぁ。 そんなに早く交わりたいのか? ヒッヒッヒ」
片桐が『例の顔』になり、気色悪い笑い声をあげた。
「ひぃっ、気持ち悪ぅ……」
「リナ、こんなやつとっととやっつけて!」
アケミたちの言い草に、リナは溜息混じりに呟いた。
「元はと言えばサチコ、お前が……ふぅ、もうイイや」
リナは両手で自分の頬を叩き、顔を左右に振った。
『REDY GO』
三回戦の1セット目が始まった。
開始早々仕掛けたのは片桐だった。
「ふっふっ、はぁー!」
「ぐっ!?」
忍者が上段の掌底三連撃を女格闘家に放つと、数歩あとずさり、HPが半分近く減った。
慌てて距離をとる女格闘家。
「何よ、 今の技……地味だけど被ダメージが半端ない……」
「切り札は最後に取っておくもんだろ? フッフッフ」
女格闘家は下Pを打ち込む為、中腰でにじり寄った。
「無駄無駄! ちっ、しくじったか」
「うりゃうりゃ、うりゃあ!」
先ほどの技は発動せず、下Pを三発食らった忍者。
どうも技を発動するコマンドが複雑のようで、成功率が低いようだ。
「おのれぇ、こうしてくれる!」
忍者はごく普通のパンチとキックのミックスを放つ。
それに合わせ、カウンターを狙った女格闘家が背後を取られ、ブレーンバスターを食らった。
『K.O.』
『笑止千万!』
忍者が勝ち名乗りをあげた。
「うっひょお! やったぜアニキ!」
「2セット目も頂だぜ!」
直ぐに2セット目が始まった。
「ウッ、ハ、ハァー!」
「ぐわっ!」
中腰で突進して来た女格闘家が先ず繰り出したのは膝蹴りだった。
そのあとすかさず下Pとローキックを忍者に食らわした。
『K.O.』
『○○××~!』
今度は女格闘家が勝ち名乗りをあげた。
相変わらず早口の英語で意味がわからなかった。
「スゴい技だね? どうやったの?」
「スティック一回転とPとKを同時押し……だったような……わかんねぇ」
リナは殆どまぐれで、コンボ技を繰り出していたのだ。
「これでサドンデスか……」
「行けぇリナ! やっちまえー!」
「アニキ! あとがありませんぜ!?」
「まだ秘密の技、隠してるんじゃないんスか?」
互いの取り巻きが好き勝手な事を言っているが、当人たちは落ち着いていた。
極小のリングに立つ忍者と女格闘家。
『SUDDEN DEATH』
『REDY GO』
合図で双方が飛び出した。
ちなみに通常のタイムが30秒に対し、サドンデスは5秒である。
「はぁぁー!!」
「うらぁー!!」
忍者はパンチを二連、女格闘家は上段キックを放ち、流れでかかと落としにつないだ。
「ぐしっ!?」
かかと落としを見事に食らった忍者は、膝を突き、くずおれた。
『K.O.』
『WINNER』
『○○××~!』
女格闘家が勝ち名乗りをあげた。
「やった! 勝ったわサチコ!!」
「アケミィ~!!」
三回戦をリナが勝った瞬間、リナの勝利が確定した。
サチコとアケミが抱き合って喜んだ。
「やけにあっさり勝負が着いちまったな……」
自分が勝った事に、感覚が追い付いていないリナ。
「くぅぅ、負けた……この俺が」
「ア、アニキィー!」
暫くぼんやりと天井を見ていた片桐。
そんな片桐に、リナが言い放った。
「おい! 約束は覚えてるだろうな?」
「ああ……。 お前たちには手を出さない。 これでイイか?」
きつい言動や特殊な笑い方の割に、意外と聞き分けの良い片桐であった。
「ありがとうリナ! 助かったよ!」
「事の発端はアタイなんだろ? 気にすんなって」
リナは椅子から立ち上がり、片桐に言った。
「用件は済んだ。じゃぁな」
「……また、会えるか?」
「知るか! 気色悪りぃ事言うな!」
そう吐き捨てて、リナたちはアドワーズを後にした。
入れ替わりで片桐の取り巻きが息を切らせながら戻って来た。
「ハァハァ……アニキ、買ってきましたぜ? 例の『アレ』」
取巻きがドヤ顔で黒い小箱を見せた。
「千円の、 いっちばん高けぇの買いましたぜ?」
「うるせぇ! もう必要なくなった! お前が使え!」
「うえぇ~!?」
片桐は、顔を赤くして取巻きに怒鳴った。
「ま、イイッスけど。 ちょうど切らしてたんで」
「何ぃ!? お前、使うアテ、あんのかよ?」
他の取り巻きが、焦った顔で聞いた。
「家庭教師のリツ子先生。 テストでイイ点数取るとご褒美にな。 ヌフフ」
ドヤ顔でそう言う取巻きに、他の者がブチ切れた。
「「「てんめぇ~!!!」」」
みんなに小突かれている取巻き。その中に何故か片桐も混ざっていた。
「調子こいてんじゃねぇぞ! この野郎!」
「痛い! 痛いッス! まさかアニキ、童て―― うぎゃぁぁ!」
「よっしゃ、88面クリアだ!」
モナカでは、蘭子が黙々と『ディグデグ』をやっていた。
かれこれ開始から一時間近くが経過していた。
次の面に移る数秒間、スティックを操作する左手を振り回す仕草が目立って来た。
「おい! 怪獣の火がデカくなってるぞ!?」
あるタイミングで動きが速くなる敵。
「大丈夫だから、心配すんなって」
淡々と敵を岩トラップで料理していく蘭子。
そうは言っても、少しずつ疲労が蓄積されていく。
「悪りぃヤス、のどが渇いた……」
「オッケー、 何がイイ? コーラか?」
「そうだな……『デュアルゴールド』をくれ」
「よし、任せろっ!」
ヤス子はひとっ飛びで自販機に向かい、希望した飲み物を買って来た。
「ほらよ! アタイのおごりだ!」
「サンキュー、 恩に着るぜ」
蘭子は途中の面を終わらせた瞬間、飲み物を手に取り、キャップを取ると一気にあおった。
「んぐっ、んぐっ……ぷはぁ」
「まだやれるか? 蘭の字?」
「おうよ! これで気合い注入完了だ!」
すぐさま次の面になり、蘭子はプレイに集中した。
◆ ◆ ◆ ◆
アドワーズ 太刀川店――
現在2-1でリナが片桐をリードしており、つぎの三回戦で勝てばリナの勝利となる。
「悪りぃけど、次で決めさせてもらうよ? 後輩たちを待たせてるんだ」
「急いでるんだったら、 今すぐ負けを認めるんだな? イイぜ、 その潔さ」
「ほざいてろ。 早く始めんぞ!」
「せっかちだなぁ。 そんなに早く交わりたいのか? ヒッヒッヒ」
片桐が『例の顔』になり、気色悪い笑い声をあげた。
「ひぃっ、気持ち悪ぅ……」
「リナ、こんなやつとっととやっつけて!」
アケミたちの言い草に、リナは溜息混じりに呟いた。
「元はと言えばサチコ、お前が……ふぅ、もうイイや」
リナは両手で自分の頬を叩き、顔を左右に振った。
『REDY GO』
三回戦の1セット目が始まった。
開始早々仕掛けたのは片桐だった。
「ふっふっ、はぁー!」
「ぐっ!?」
忍者が上段の掌底三連撃を女格闘家に放つと、数歩あとずさり、HPが半分近く減った。
慌てて距離をとる女格闘家。
「何よ、 今の技……地味だけど被ダメージが半端ない……」
「切り札は最後に取っておくもんだろ? フッフッフ」
女格闘家は下Pを打ち込む為、中腰でにじり寄った。
「無駄無駄! ちっ、しくじったか」
「うりゃうりゃ、うりゃあ!」
先ほどの技は発動せず、下Pを三発食らった忍者。
どうも技を発動するコマンドが複雑のようで、成功率が低いようだ。
「おのれぇ、こうしてくれる!」
忍者はごく普通のパンチとキックのミックスを放つ。
それに合わせ、カウンターを狙った女格闘家が背後を取られ、ブレーンバスターを食らった。
『K.O.』
『笑止千万!』
忍者が勝ち名乗りをあげた。
「うっひょお! やったぜアニキ!」
「2セット目も頂だぜ!」
直ぐに2セット目が始まった。
「ウッ、ハ、ハァー!」
「ぐわっ!」
中腰で突進して来た女格闘家が先ず繰り出したのは膝蹴りだった。
そのあとすかさず下Pとローキックを忍者に食らわした。
『K.O.』
『○○××~!』
今度は女格闘家が勝ち名乗りをあげた。
相変わらず早口の英語で意味がわからなかった。
「スゴい技だね? どうやったの?」
「スティック一回転とPとKを同時押し……だったような……わかんねぇ」
リナは殆どまぐれで、コンボ技を繰り出していたのだ。
「これでサドンデスか……」
「行けぇリナ! やっちまえー!」
「アニキ! あとがありませんぜ!?」
「まだ秘密の技、隠してるんじゃないんスか?」
互いの取り巻きが好き勝手な事を言っているが、当人たちは落ち着いていた。
極小のリングに立つ忍者と女格闘家。
『SUDDEN DEATH』
『REDY GO』
合図で双方が飛び出した。
ちなみに通常のタイムが30秒に対し、サドンデスは5秒である。
「はぁぁー!!」
「うらぁー!!」
忍者はパンチを二連、女格闘家は上段キックを放ち、流れでかかと落としにつないだ。
「ぐしっ!?」
かかと落としを見事に食らった忍者は、膝を突き、くずおれた。
『K.O.』
『WINNER』
『○○××~!』
女格闘家が勝ち名乗りをあげた。
「やった! 勝ったわサチコ!!」
「アケミィ~!!」
三回戦をリナが勝った瞬間、リナの勝利が確定した。
サチコとアケミが抱き合って喜んだ。
「やけにあっさり勝負が着いちまったな……」
自分が勝った事に、感覚が追い付いていないリナ。
「くぅぅ、負けた……この俺が」
「ア、アニキィー!」
暫くぼんやりと天井を見ていた片桐。
そんな片桐に、リナが言い放った。
「おい! 約束は覚えてるだろうな?」
「ああ……。 お前たちには手を出さない。 これでイイか?」
きつい言動や特殊な笑い方の割に、意外と聞き分けの良い片桐であった。
「ありがとうリナ! 助かったよ!」
「事の発端はアタイなんだろ? 気にすんなって」
リナは椅子から立ち上がり、片桐に言った。
「用件は済んだ。じゃぁな」
「……また、会えるか?」
「知るか! 気色悪りぃ事言うな!」
そう吐き捨てて、リナたちはアドワーズを後にした。
入れ替わりで片桐の取り巻きが息を切らせながら戻って来た。
「ハァハァ……アニキ、買ってきましたぜ? 例の『アレ』」
取巻きがドヤ顔で黒い小箱を見せた。
「千円の、 いっちばん高けぇの買いましたぜ?」
「うるせぇ! もう必要なくなった! お前が使え!」
「うえぇ~!?」
片桐は、顔を赤くして取巻きに怒鳴った。
「ま、イイッスけど。 ちょうど切らしてたんで」
「何ぃ!? お前、使うアテ、あんのかよ?」
他の取り巻きが、焦った顔で聞いた。
「家庭教師のリツ子先生。 テストでイイ点数取るとご褒美にな。 ヌフフ」
ドヤ顔でそう言う取巻きに、他の者がブチ切れた。
「「「てんめぇ~!!!」」」
みんなに小突かれている取巻き。その中に何故か片桐も混ざっていた。
「調子こいてんじゃねぇぞ! この野郎!」
「痛い! 痛いッス! まさかアニキ、童て―― うぎゃぁぁ!」
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