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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-7

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インベントリ内 休憩スペース VIP席 11:00時――

 11:00時となり、ポケクリバトルの個人戦が始まった。
 静流たちはVIP席に据えてある大型モニターで、ネット動画サイトの『ニャンニャン動画』の生中継を観ていた。

「お、始まったようだな」
「何か、見てるコッチが緊張するなぁ……」
「アンタが緊張してどうすんのよ?」

 真琴にツッコまれる静流。

「只今より、『ポケットクリーチャー・ギルガメッシュ』制作決定記念企画、『ポケクリバトルトーナメント個人戦IN膜張』を行います!」


「「「「うぉぉぉぉぉー!!」」」」


 アナウンスの後に飛び出したのは、団体戦の時と同じ、白と黒の二体の着ぐるみだった。
 着ぐるみの顔の部分がオープンになっており、女性の顔が見えている。


「みんなぁー! クダまいてるかぁー!」


「「「「うぉぉぉぉぉー!!」」」」


「確定申告、忘れるなよー!」


「「「「うぉぉぉぉぉー!!」」」」


 画面に見覚えのある着ぐるみが映った。

「あっ! 白黒ミサ先輩だ!」

 画面の中では、二体の着ぐるみが観客にぺこりと頭を下げた。

「えー、 昨日の団体戦に引き続き、 進行役は私、『シロミ』こと白井ミサと――」
「私、『クロミ』こと黒瀬ミサの――」


「「曖昧みー! エラきゃ黒でも白になる! でおなじみの『ゼブラッチョ』でお送りしまーすっ♡」」


「「「「シロミィー!!」」」」
「「「「クロミィー!!」」」」


 二体の着ぐるみがポーズをとると、観客が一斉に沸いた。

「あの子たち、まぁまぁ人気あるのね?」
「え? どうだろう? カワイイとは思いますけど……」
「ふむ。静坊はああいうのがイイのか?」
「そう言う意味じゃないから。 ただ着ぐるみが似合うってだけで……」

 裏で散々勝手な事を言われているとはつゆ知らず、ゼブラッチョの進行は続いていた。

「本大会は参加者様の匿名性を考慮し、個人名はハンドルネームを使用し、 顔にボカシを入れさせて頂きます」


「「「「うおぉー!!」」」」

 
「えー、個人戦は西と東で10人ずつ、計20人のトーナメント方式で行います」パチン

 シロミが指パッチンすると、後ろの巨大スクリーンにトーナメント表が映し出された。


「「「「うおぉー!!」」」」


「メンバーはそれぞれ、東と西のA、Bブロックに分かれています」パチン

 4分割の画面に、長机とゲーミングチェアに座った5人ずつのプレイヤーが映った。
 予告通り、顔にはボカシが入っている。

「あ! 右上にお蘭さんが映った!」
「ホントだ! 蘭ちゃん頑張れ!」

 画面のプレイヤーに向かい、クロミが叫んだ。

「参加者のみんなぁー! 準備はオッケーかぁーい?」

「「「「うぇーい!!」」」」

「よぉし、お前らの本気、伝わったぜ! シロミ、ルール説明おねがぁい♡」
「はぁい!かしこまりぃ♡ では、団体戦のルール説明をしまぁーっす……」

 ここで、個人戦のルールをおさらいすると、

・1プレイヤーは計6体のポケクリを用意し、ひと試合で使用できるポケクリは3体。
・相手のポケクリを全て戦闘不能にした方が勝ち。
・制限時間10分で、時間内に決まらない場合は、残ったポケクリの数で勝敗が決まる。

 シロミがルール説明を終えた。
 
「おい静坊、蘭子は何処だ?」
「えと……お蘭さんは東Aの三回戦シードにいるね。 『ツンギレ』ってハンドルネームだよ」

 静流がトーナメント表を指さして、リナに教えた。 

「かなり有利なポジションね? 初戦で勝てばいきなりベスト4入りじゃないの?」
「そうなのです! 蘭ちゃんは昨日の団体戦で個人スコアが優秀だったので、あの位置をゲット出来たのです!」フー、フー

 雪乃がそう言うと、横から素子がドヤ顔で割り込んだ。

「するってぇと、 この四人の内の勝ち残ったヤツと蘭子は戦うんだな?」
「そうです! まぁ恐らく雑魚ですので、 ベスト4はもらったも同然ですっ!」
「さぁて、そう上手く行くかしらね?」

 雪乃は楽観視している素子をたしなめた。

「それでは早速、一回戦を開始しまぁーす!」


「「「「わぁぁぁー!!」」」」


 観客席から、ひと際大きな歓声が上がった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



聖アスモニア修道魔導学園 7:00時―― 

 朝のお祈り・朝食が終わり、寮に向かうヨーコたち。
 
「ちょっとあれ見て、 先生の様子、おかしくない?」

 アンナが屋外のベンチで何をするでもなく空を眺めているカチュアを見つけた。

「あぁ……ジン様ぁ……」

 学園に帰って来てからのカチュアは、手元にある写真をチラ見しては溜息をついていた。

「それを言うなら、あそこにいる神父様もおかしいわよ? ボーッとしてて……」

 少し離れた所にいるジルを見たナギサが、首を傾げながらそう言った。

「朔也ぁ……」

 ジルもまた、礼拝堂前の掃除をしながら、ため息をついていた。
 談話の時間、百合の間で紅茶を飲みながら、ヨーコがサラに聞いた。

「サラ、 『コミマケ』から帰って来た後のカチュア先生の様子、 おかしくない?」
「そ、それは、 ジン様に会ったから、 だと思う」
「ジン様って、 七本木ジンの事? 往年のスターで、『薄い本』の静流様とのカプが多い人よね?」
「うん、そう。 静流様がユーザーのリクエストを受けてレプリカを作ったの」

 サラはコミマケ一日目のエピソードを、ヨーコたちにかいつまんで説明した。

「【複製】ですって!? 静流様がそのような魔法を取得されたの?」
「それはスゴいね! アタシ用に静流様の抱き枕、つくってもらおっかなぁ?」
「アンナ? そんな下品な事に静流様のお力を使うわけにはいかないでしょ?」
「でもヨーコだって、 今頭の中で思ってたでしょう? 顔が緩んでたよ?」
「ひゃう!? かか、 勝手に私の頭の中を覗くな!」

 ナギサは二人のやり取りを見ながら、サラに話しかけた。

「でも、 神父様も様子がおかしかったわよ? 心ここに在らずって感じで……」
「それは私にも……わからない」

 ナギサにそう言われ、首を傾げるサラに、ヨーコが詰め寄った。

「で? 静流様とはどうだったの? 詳細を希望するっ!」
「スゴく、 楽しかったですよ。 私のわがままを全て聞いて下さって……」ポォォ

 サラは昨日の事を思い出し、頬を赤く染めた。

「ムキー! どうして静流様はサラばっかり可愛がるの!?」
「それはしょうがないわよ。『コミマケ』はヲタたちの祭典。 サラは『先生』なんだから」
「わかってるわよ、そんな事……」
「でも静流様、 ヨーコの事褒めてたよ。 『良く暴走しなかったね』って」
「そうよね。ちょっと前のヨーコなら、強引に付いて行ってたでしょ? 良く我慢出来たわね?」
「うう。 人を暴走機関車みたいに言うな! 私だって、どれだけ静流様にお会いしたかったか……ぐふっ」バタッ

 ヨーコはみんなにいじられ、ブチ切れたかと思えば、次の瞬間テーブルに突っ伏した。

「これ、昨日のスナップなんだけど、見る?」

 サラは昨日撮った数枚の写真を、意気消沈のヨーコの顔の前に置いた。

「むっほぉー! こ、これがシズムのお兄様の設定のユズル様ね? イカしてるわぁ♡」

 ヨーコはユズルの写真を見た途端、興奮しながらサラに詰め寄った。  
 そんなヨーコを見て、アンナたちは『オーマイガー』のポーズをとった。

「ヨーコ……アンタ行かなくて正解だったわ……」
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