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第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード52-5
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献血カー内 10:30時――
桃魔のブースから駐車場に行き、献血カーに乗り込んだ静流たち。
「お疲れ様です、リリィさん!」
「おはよう静流クン、夕べはグッスリ眠れた?」
「え、ええ。まぁ……」
歯切れの悪い返事に、何かを察したリリィ。
「中のソファーの所でくつろいでなよ。バトルの様子はモニターで見れるし」
「実は、そのつもりで来たんです。フフ」
「まぁいざとなれば仮眠室の睡眠カプセルを使えばイイし、接客はレプリカに任せとけばイイんだから」
「大丈夫です。カプセルはお客さんの為に使って下さい。好評らしいですね?」
「そうなの! 何でも見ているだけだった自分が、自ら推しキャラとイチャコラ出来るって、ネットで呟いてくれた人がいてね」
それを聞いた静流が、手をポンと叩いた。
「あ!、それ多分、ナンシー関サバさんだ!」
「うんうん。そんな感じのハンドルネームだった」
静流の指摘に、リリィは何度も頷いた。
「ウチの広報にヘッドハンティングしようかしら?」
「ムシが良過ぎますよ。でも、そうなったらイイですね」
リリィとの挨拶を終え、インベントリに続くドアを開けようとした時、リリィから忠告があった。
「あ、静流クン、今日のプレイルームは、外の時間より3倍の速さで進んでるから、入らないようにってGMが言ってたよ?」
「さ、三倍!? しかも時間を進めてるって?」
「なんでも、今日は時間きっちりに終わらせる事が大事らしくって、全部のお客さんを満足させる為だって」
どうやら睦美は、昨日とは逆の発想で、実質的なサービスの時短を狙っているようだ。
ここまで黙っていた雪乃が口を開いた。
「一人にかかる時間を短縮して、客の回転率を上げる、と言う事ね?」
「さっすが雪乃ちゃん! 冴えてるぅ!」
「恐らく睦美は、昨日の失態を重く見ているのでしょう……」
「失態? 大成功だと思ったんだけど?」
「ふう……惚れた弱みってやつかしら? 親の心、子知らずとはよく言ったものね……」
雪乃の言った事が理解出来ずに首をひねっている静流を見て、雪乃は小声でそう言った。
◆ ◆ ◆ ◆
インベントリ内 休憩スペース VIP席 10:35時――
静流は一行をインベントリ内のVIP席に案内した。
VIP席にはソファーやテーブルが置かれた一角であり、テーブルには大画面のモニターが据えてあった。
二人掛けのソファーに、先客がいた。
「静流クン!」
「静流様!」
「あ、宗像ドクターとルリさん! お疲れ様です!」
先客は太刀川駐屯地の軍医である宗像ジェニーと、助手の藤堂ルリであった。
「静流様!? もうよろしいので?」
「大丈夫ですよ。一晩眠れば魔力も全回復です」
「本来なら、医療スタッフの私が、つきっきりで看病するところだったのに大丈夫だったの?」
静流に会った途端、グイグイ来るドクターと助手。
「そんな大げさな。ホントに大丈夫ですから……」
「昨日の如月ドクターに代わり、私が医務室を任されるの。 安心して楽しんでね♪」
「ありがとうございます。助かります」パァァ
「あっぱぁぁぁん♡♡」
静流のニパを受け、ドクターと助手がのけぞった。
ここで真琴は、ふと気になった事を雪乃に聞いた。
「雪乃お姉さま、『腕輪』の効果って有効ですよね? でも、 今の感じは?」
「それは、 実物の静流サンを認識しているか否かで効果は変わるから、でしょうね」
雪乃はそう言って、真琴に説明を始めた。
「アナタも知っている【結界】もそうでしょう? 存在を認識できなければ気にも留めないわよ? 現に【認識阻害】をかけているワタシやリナには意識が向いていないでしょう?」
「……ホントだ。 と言うより、 あのお二方には静流しか目に入っていませんけどね……」
大画面モニターの正面にある三人掛けソファーには、静流を中央に真琴とシズムが座った。
両隣に置いてある一人掛けソファーには雪乃とリナが座り、コの字型に置いた二人掛けソファーには、素子・リリィと、ジェニー・ルリがそれぞれ座っている。
モニターでは『ニャンニャン動画』の『ポケクリバトル個人戦』の生中継を受信している。
「静坊、 蘭子は三回戦シードだったよな?」
「うん。 そうなんだ。 お蘭さん昨日頑張ったからね」
「そうなんですよお姉さま方! 蘭ちゃんは頑張り屋さんなんです!」フーフー
蘭子の話題になった途端、静かだった素子が騒ぎ出した。
「彼女の戦術センスには目を見張るものがありますっ! ですよね静流様?」
「え、ええ。がむしゃらに突っ込んでた感じで、戦術ってほどでもないと思うけど……」
そんな素子に、雪乃は話題を振った。
「それはそうと素子さん? 『ハシビロコウのなく頃に』はアナタが中心で作ったの?」
「ギクゥ……お、お姉様、なぜそのタイトルを?……」
『ハシビロコウのなく頃に』は、以前薫子が部員から試供品として入手したものであり、『塔』の娯楽室に置きっぱなしになっていたものだ。
「あぁ! アレか! 苦労したんだぜ? 静坊のルート」
「リナお姉様!? まさか、クリアしたのですか?」
「もち♪ エンディングまでやったぜ?」
薫子や忍がトライするも、静流が登場する事もレアな上、静流のルートに分岐させる事すら無理に近かったが、リナが雪乃のアドバイスを得ながらなんとかクリアしたのだった。
「そ、そんな……あり得ませんよ……だってあのソフトは――」
素子が真っ青の顔でブツブツと呟き始めた。
「当然です。あのソフトは不完全でしたから」
「雪乃……お姉様? どうしてそれを?」
「ワタシがデバッグを行い、データ内の素材を切り張りして構成しましたの」
「なな、なんですとぉ!?」
素子が驚愕の表情を浮かべ、うめく様な声を絞り出した。
「多少、ワタシの主観が入ってしまっていますが、まとまっている方だと思いますよ」
「しゅ、修正箇所を教えてください! 是非! 是非!」フー、フー
「ソフトは『塔』にあるから、勝手に持って行きなさい」
「あ、あり難き幸せ……」
素子は跪き、雪乃に頭を下げた。
それからと言うと……。
「素子、お茶」
「はっ! 只今!」しゅたっ
「あと、お茶うけには――」
「銘菓『ヤギの月』でございます」サッ
「気が利くわね。感心感心」
雪乃の使いっ走りを、自ら率先して行う始末だった。
何を思ったのか素子は、リナに話題を振った。
「しかしリナお姉様、 恐らくお一人ですよ? 静流様のルートを攻略出来たのは」
「でもよぉ、 ヅラがいたからクリア出来たんで、チート確定だけどな」
「また一つ伝説を作りましたね? 流石は『閃光のサブリナ』様っ」
和やかな空気が、一瞬で重くなったのを、一同は感じた。
「おい……今、 なんつった?」
「ですから、『閃光の――』はっ!」
緩んでいたリナの顔が瞬時に引き締まり、鋭い眼光が素子を刺した。
つい先ほど、蘭子に忠告されたばかりなのに……。
「久しぶりに聞いたなぁ、 そのムカつく呼び名……」
「あらら素子ったら、滑っちゃったのね? 悪い口」
「ひ、ひぃぃぃ、お許しを……」
こうして素子は、晴れて雪乃及びリナの使い走りとなった。
桃魔のブースから駐車場に行き、献血カーに乗り込んだ静流たち。
「お疲れ様です、リリィさん!」
「おはよう静流クン、夕べはグッスリ眠れた?」
「え、ええ。まぁ……」
歯切れの悪い返事に、何かを察したリリィ。
「中のソファーの所でくつろいでなよ。バトルの様子はモニターで見れるし」
「実は、そのつもりで来たんです。フフ」
「まぁいざとなれば仮眠室の睡眠カプセルを使えばイイし、接客はレプリカに任せとけばイイんだから」
「大丈夫です。カプセルはお客さんの為に使って下さい。好評らしいですね?」
「そうなの! 何でも見ているだけだった自分が、自ら推しキャラとイチャコラ出来るって、ネットで呟いてくれた人がいてね」
それを聞いた静流が、手をポンと叩いた。
「あ!、それ多分、ナンシー関サバさんだ!」
「うんうん。そんな感じのハンドルネームだった」
静流の指摘に、リリィは何度も頷いた。
「ウチの広報にヘッドハンティングしようかしら?」
「ムシが良過ぎますよ。でも、そうなったらイイですね」
リリィとの挨拶を終え、インベントリに続くドアを開けようとした時、リリィから忠告があった。
「あ、静流クン、今日のプレイルームは、外の時間より3倍の速さで進んでるから、入らないようにってGMが言ってたよ?」
「さ、三倍!? しかも時間を進めてるって?」
「なんでも、今日は時間きっちりに終わらせる事が大事らしくって、全部のお客さんを満足させる為だって」
どうやら睦美は、昨日とは逆の発想で、実質的なサービスの時短を狙っているようだ。
ここまで黙っていた雪乃が口を開いた。
「一人にかかる時間を短縮して、客の回転率を上げる、と言う事ね?」
「さっすが雪乃ちゃん! 冴えてるぅ!」
「恐らく睦美は、昨日の失態を重く見ているのでしょう……」
「失態? 大成功だと思ったんだけど?」
「ふう……惚れた弱みってやつかしら? 親の心、子知らずとはよく言ったものね……」
雪乃の言った事が理解出来ずに首をひねっている静流を見て、雪乃は小声でそう言った。
◆ ◆ ◆ ◆
インベントリ内 休憩スペース VIP席 10:35時――
静流は一行をインベントリ内のVIP席に案内した。
VIP席にはソファーやテーブルが置かれた一角であり、テーブルには大画面のモニターが据えてあった。
二人掛けのソファーに、先客がいた。
「静流クン!」
「静流様!」
「あ、宗像ドクターとルリさん! お疲れ様です!」
先客は太刀川駐屯地の軍医である宗像ジェニーと、助手の藤堂ルリであった。
「静流様!? もうよろしいので?」
「大丈夫ですよ。一晩眠れば魔力も全回復です」
「本来なら、医療スタッフの私が、つきっきりで看病するところだったのに大丈夫だったの?」
静流に会った途端、グイグイ来るドクターと助手。
「そんな大げさな。ホントに大丈夫ですから……」
「昨日の如月ドクターに代わり、私が医務室を任されるの。 安心して楽しんでね♪」
「ありがとうございます。助かります」パァァ
「あっぱぁぁぁん♡♡」
静流のニパを受け、ドクターと助手がのけぞった。
ここで真琴は、ふと気になった事を雪乃に聞いた。
「雪乃お姉さま、『腕輪』の効果って有効ですよね? でも、 今の感じは?」
「それは、 実物の静流サンを認識しているか否かで効果は変わるから、でしょうね」
雪乃はそう言って、真琴に説明を始めた。
「アナタも知っている【結界】もそうでしょう? 存在を認識できなければ気にも留めないわよ? 現に【認識阻害】をかけているワタシやリナには意識が向いていないでしょう?」
「……ホントだ。 と言うより、 あのお二方には静流しか目に入っていませんけどね……」
大画面モニターの正面にある三人掛けソファーには、静流を中央に真琴とシズムが座った。
両隣に置いてある一人掛けソファーには雪乃とリナが座り、コの字型に置いた二人掛けソファーには、素子・リリィと、ジェニー・ルリがそれぞれ座っている。
モニターでは『ニャンニャン動画』の『ポケクリバトル個人戦』の生中継を受信している。
「静坊、 蘭子は三回戦シードだったよな?」
「うん。 そうなんだ。 お蘭さん昨日頑張ったからね」
「そうなんですよお姉さま方! 蘭ちゃんは頑張り屋さんなんです!」フーフー
蘭子の話題になった途端、静かだった素子が騒ぎ出した。
「彼女の戦術センスには目を見張るものがありますっ! ですよね静流様?」
「え、ええ。がむしゃらに突っ込んでた感じで、戦術ってほどでもないと思うけど……」
そんな素子に、雪乃は話題を振った。
「それはそうと素子さん? 『ハシビロコウのなく頃に』はアナタが中心で作ったの?」
「ギクゥ……お、お姉様、なぜそのタイトルを?……」
『ハシビロコウのなく頃に』は、以前薫子が部員から試供品として入手したものであり、『塔』の娯楽室に置きっぱなしになっていたものだ。
「あぁ! アレか! 苦労したんだぜ? 静坊のルート」
「リナお姉様!? まさか、クリアしたのですか?」
「もち♪ エンディングまでやったぜ?」
薫子や忍がトライするも、静流が登場する事もレアな上、静流のルートに分岐させる事すら無理に近かったが、リナが雪乃のアドバイスを得ながらなんとかクリアしたのだった。
「そ、そんな……あり得ませんよ……だってあのソフトは――」
素子が真っ青の顔でブツブツと呟き始めた。
「当然です。あのソフトは不完全でしたから」
「雪乃……お姉様? どうしてそれを?」
「ワタシがデバッグを行い、データ内の素材を切り張りして構成しましたの」
「なな、なんですとぉ!?」
素子が驚愕の表情を浮かべ、うめく様な声を絞り出した。
「多少、ワタシの主観が入ってしまっていますが、まとまっている方だと思いますよ」
「しゅ、修正箇所を教えてください! 是非! 是非!」フー、フー
「ソフトは『塔』にあるから、勝手に持って行きなさい」
「あ、あり難き幸せ……」
素子は跪き、雪乃に頭を下げた。
それからと言うと……。
「素子、お茶」
「はっ! 只今!」しゅたっ
「あと、お茶うけには――」
「銘菓『ヤギの月』でございます」サッ
「気が利くわね。感心感心」
雪乃の使いっ走りを、自ら率先して行う始末だった。
何を思ったのか素子は、リナに話題を振った。
「しかしリナお姉様、 恐らくお一人ですよ? 静流様のルートを攻略出来たのは」
「でもよぉ、 ヅラがいたからクリア出来たんで、チート確定だけどな」
「また一つ伝説を作りましたね? 流石は『閃光のサブリナ』様っ」
和やかな空気が、一瞬で重くなったのを、一同は感じた。
「おい……今、 なんつった?」
「ですから、『閃光の――』はっ!」
緩んでいたリナの顔が瞬時に引き締まり、鋭い眼光が素子を刺した。
つい先ほど、蘭子に忠告されたばかりなのに……。
「久しぶりに聞いたなぁ、 そのムカつく呼び名……」
「あらら素子ったら、滑っちゃったのね? 悪い口」
「ひ、ひぃぃぃ、お許しを……」
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