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第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード52-2
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桃魔術研究会 第二部室 9:30時――
7時に美千留に起こされた静流だったが、二度寝する気も失せ、仕方なく起きる事に。
美千留は弓道部の助っ人として駆り出されるらしく、部員が近くまで迎えに来ているとの事。
その内真琴が訪ねて来たりと騒がしくなって来た事から、早めに学校に行く事とした。
「アイツのせいでグッスリとはいかなかったな……」
「イイじゃない、今日は基本的にオフなんでしょ?」
「まぁね。ポケクリの個人戦を観る事が優先だから、あとはどっかで寝てるよ」
「大人しく寝てられるかはわからないけどね?」
「そう言うフラグは、立てないで欲しいな……」
静流、真琴、シズムは、いつもの移動手段で学校に着いた。
【ゲート】は、余程の事が無い限りは使わないのが静流のポリシーだった。
第二部室はかつて『静流派』が使っていた部室であり、奥の準備室は睦美のオフィス兼カナメのラボとなっている。
桃魔の部員たちがいる第一部室とは違い、人気は無く、静かだった。
扉を開け、気だるげに挨拶した静流。
「お疲れさまーっす……」
「「「お疲れ様です! 静流様!!」」」パァァァ
そんな静流に満面の笑みで挨拶する五人の部員たち。
「ささ、こちらに……」
「え? 何? どうしたの?」
そして部員たちは、隅にある社長椅子に静流を座らせた。
真琴とシズムは、何が起こったかわからず、呆気にとられていた。
静流は自分に起こっている状況が掴めないで困惑している。
「お飲み物は何に致します? いつもの『ドクポ』ですか?」
「お肩、お揉み致しましょうか?」
「えっ? えぇ?」
まだ状況を把握出来ずにいる静流を甲斐甲斐しく世話を始める部員たち。
「静流様、おぐしにお寝ぐせが……只今お直しします」
「ちょ、ちょっと……自分でやるから……」
「静流様、楽にしていて下さい。動かれると仕事の精度が狂います」
まるでメイドロボのように静流に奉仕する部員たちに、真琴がとうとうキレた。
「何なの!? この状況は?」
「そんな事、僕にもわからないよ……」
「ん? アンタたち、見ない顔よね? 何者?」
真琴がいぶかしげに部員たちを見てそう言った。
部員たちは真琴の問いには耳を貸さず、黙々と静流の世話をしている。
「シカトか? 何なのよ、もう!」
真琴がやり場のない怒りを天井に向けて吐き出すと、奥から誰かが近付いて来た。
「夕べは休めたかな? 静流キュン?」
「「む、睦美先輩!?」」
「オレもおるでぇ」
「カナメ先輩?」
静流の前に来たのは、睦美とカナメだった。
徹夜だったのか、目の下にクマが出来ている。
「この状況って、睦美先輩が?」
「ああ。影から、静流キュンが予定より早くこちらに来るとの事を聞いてね。昨日の疲れがまだ残ってるとマズいと思ったんだ」
「だったら、先に言って下さいよ! ビックリするじゃないですか!」
「悪い悪い。実はね、今日は心強い助っ人が来てくれたんだ。お姉様、こちらに」
部員に髪を引っ張られている静流の前に、睦美に呼ばれたお姉様が現れた。
「ごきげんよう、静流サン。そのお顔、あまり眠れなかったのかしら?」
「雪乃……お姉様?」
雪乃は縦ロールの薄紫の髪をかき上げ、静流に挨拶した。
「静流キュン、雪乃お姉様はね、【分身】関係の魔法に精通している方で、キミの【複製】について、ご教授頂く事になったんだ」
「そう言う事なの。ウフ」パチン
雪乃が指パッチンすると、静流に奉仕していた部員たちが作業を止め、雪乃の前に整列した。
「ご苦労でした。 消えなさい」フッ
雪乃の命令で、部員たちは一瞬で消えた。
「き、消えた!? って事は……」
「そう。先ほどの召使いは、ワタシが出した【サーバント】よ」
「サーバント?」
得意げに語る雪乃に、静流は首を傾げた。
「睦美たちに聞いた所、アナタの【複製】はコストがかかり過ぎていますね?」
「コストが魔力だとすれば、仰る通りです」
「今見せた【サーバント】は、『条件付け』を行う事によって、コストを最小限にとどめているんですの」
「条件付け?」
「そう。先ほどの子たちは、『ひたすら静流サンの世話をする』という条件を付けたわ」
今まで傍観していた真琴が口を開いた。
「そうか。それで話しかけてもシカトこかれたのか……」
「条件は多い程コストが掛かるの。かといって少な過ぎてもああいう事になる」
睦美はここぞとばかりに話に割り込んで来た。
「そこでだ静流キュン、キミの【複製】に、条件を付けようと思うんだが」
「条件、ですか……?」
◆ ◆ ◆ ◆
静流たちに睦美が、ホワイトボードでわかりやすく解説していた。
「……と言う事で、キミの魔力量に相当するレプリカの『条件付け』を行う『演算補助プログラム』を、雪乃お姉様の助言を基に私とカナメ、メルク殿で組み上げた」
「もしかして、それで徹夜を?」
「そのつもりだったが、演算をメルク殿に押し付けて、途中で寝てしまったよ。ハハハ」
「大丈夫や。メルクはんがキッチリ仕上げて来てくれたんでな」
カナメは静流の前に来て、右手を出した。
「静流キュン、腕にしてるガジェット、貸してみぃ?」
「は、はい」カチャ
「ちょい待っとって。直ぐ終わるさかいに」
カナメはガジェットを受け取ると、奥のラボに速足で入って行った。
ラボに入るなり、ガサゴソと物音がしたが、直ぐに戻って来た。
「ほれ、着けてみぃ? 驚くぞ?」
「は、はぁ」カチャ
「新しく追加したんはこのツマミや。ひねってみぃ?」
「こうかな?」クリ
ブゥン
カナメの言われた通りにつまみをいじると、ガジェットの操作パネルからメッセージが表示された。
「『基本設定』『条件選択』『必要魔力量』?」
よく見ると、条件等の入力は終わっている様だ。
「初回やから、設定とかはコッチでさせてもろたで。そしたらつまみを押すんや」
「こう、ですか?」カチ
静流は、新しく追加されたつまみを、ストップウォッチのように押し込んだ。
クリック感のあと、『ピピッ』というビープ音が鳴り、操作パネルからメッセージが表示された。
「ん? 『承認』ですって。OKって事でしょうか?」
「おし! 通ったで! ムっちゃん」
「ああ。やった。成功だ!」パチィン
目の前でハイタッチしながらスキップしている二人を、不思議そうに眺めている静流。
「えと、これって、どういう意味ですか?」
そんな静流を放置し、成功に浮かれている二人。
「しょうがないわね。ワタシが説明しますの」
しびれを切らした雪乃が、静流に説明を始めた。
7時に美千留に起こされた静流だったが、二度寝する気も失せ、仕方なく起きる事に。
美千留は弓道部の助っ人として駆り出されるらしく、部員が近くまで迎えに来ているとの事。
その内真琴が訪ねて来たりと騒がしくなって来た事から、早めに学校に行く事とした。
「アイツのせいでグッスリとはいかなかったな……」
「イイじゃない、今日は基本的にオフなんでしょ?」
「まぁね。ポケクリの個人戦を観る事が優先だから、あとはどっかで寝てるよ」
「大人しく寝てられるかはわからないけどね?」
「そう言うフラグは、立てないで欲しいな……」
静流、真琴、シズムは、いつもの移動手段で学校に着いた。
【ゲート】は、余程の事が無い限りは使わないのが静流のポリシーだった。
第二部室はかつて『静流派』が使っていた部室であり、奥の準備室は睦美のオフィス兼カナメのラボとなっている。
桃魔の部員たちがいる第一部室とは違い、人気は無く、静かだった。
扉を開け、気だるげに挨拶した静流。
「お疲れさまーっす……」
「「「お疲れ様です! 静流様!!」」」パァァァ
そんな静流に満面の笑みで挨拶する五人の部員たち。
「ささ、こちらに……」
「え? 何? どうしたの?」
そして部員たちは、隅にある社長椅子に静流を座らせた。
真琴とシズムは、何が起こったかわからず、呆気にとられていた。
静流は自分に起こっている状況が掴めないで困惑している。
「お飲み物は何に致します? いつもの『ドクポ』ですか?」
「お肩、お揉み致しましょうか?」
「えっ? えぇ?」
まだ状況を把握出来ずにいる静流を甲斐甲斐しく世話を始める部員たち。
「静流様、おぐしにお寝ぐせが……只今お直しします」
「ちょ、ちょっと……自分でやるから……」
「静流様、楽にしていて下さい。動かれると仕事の精度が狂います」
まるでメイドロボのように静流に奉仕する部員たちに、真琴がとうとうキレた。
「何なの!? この状況は?」
「そんな事、僕にもわからないよ……」
「ん? アンタたち、見ない顔よね? 何者?」
真琴がいぶかしげに部員たちを見てそう言った。
部員たちは真琴の問いには耳を貸さず、黙々と静流の世話をしている。
「シカトか? 何なのよ、もう!」
真琴がやり場のない怒りを天井に向けて吐き出すと、奥から誰かが近付いて来た。
「夕べは休めたかな? 静流キュン?」
「「む、睦美先輩!?」」
「オレもおるでぇ」
「カナメ先輩?」
静流の前に来たのは、睦美とカナメだった。
徹夜だったのか、目の下にクマが出来ている。
「この状況って、睦美先輩が?」
「ああ。影から、静流キュンが予定より早くこちらに来るとの事を聞いてね。昨日の疲れがまだ残ってるとマズいと思ったんだ」
「だったら、先に言って下さいよ! ビックリするじゃないですか!」
「悪い悪い。実はね、今日は心強い助っ人が来てくれたんだ。お姉様、こちらに」
部員に髪を引っ張られている静流の前に、睦美に呼ばれたお姉様が現れた。
「ごきげんよう、静流サン。そのお顔、あまり眠れなかったのかしら?」
「雪乃……お姉様?」
雪乃は縦ロールの薄紫の髪をかき上げ、静流に挨拶した。
「静流キュン、雪乃お姉様はね、【分身】関係の魔法に精通している方で、キミの【複製】について、ご教授頂く事になったんだ」
「そう言う事なの。ウフ」パチン
雪乃が指パッチンすると、静流に奉仕していた部員たちが作業を止め、雪乃の前に整列した。
「ご苦労でした。 消えなさい」フッ
雪乃の命令で、部員たちは一瞬で消えた。
「き、消えた!? って事は……」
「そう。先ほどの召使いは、ワタシが出した【サーバント】よ」
「サーバント?」
得意げに語る雪乃に、静流は首を傾げた。
「睦美たちに聞いた所、アナタの【複製】はコストがかかり過ぎていますね?」
「コストが魔力だとすれば、仰る通りです」
「今見せた【サーバント】は、『条件付け』を行う事によって、コストを最小限にとどめているんですの」
「条件付け?」
「そう。先ほどの子たちは、『ひたすら静流サンの世話をする』という条件を付けたわ」
今まで傍観していた真琴が口を開いた。
「そうか。それで話しかけてもシカトこかれたのか……」
「条件は多い程コストが掛かるの。かといって少な過ぎてもああいう事になる」
睦美はここぞとばかりに話に割り込んで来た。
「そこでだ静流キュン、キミの【複製】に、条件を付けようと思うんだが」
「条件、ですか……?」
◆ ◆ ◆ ◆
静流たちに睦美が、ホワイトボードでわかりやすく解説していた。
「……と言う事で、キミの魔力量に相当するレプリカの『条件付け』を行う『演算補助プログラム』を、雪乃お姉様の助言を基に私とカナメ、メルク殿で組み上げた」
「もしかして、それで徹夜を?」
「そのつもりだったが、演算をメルク殿に押し付けて、途中で寝てしまったよ。ハハハ」
「大丈夫や。メルクはんがキッチリ仕上げて来てくれたんでな」
カナメは静流の前に来て、右手を出した。
「静流キュン、腕にしてるガジェット、貸してみぃ?」
「は、はい」カチャ
「ちょい待っとって。直ぐ終わるさかいに」
カナメはガジェットを受け取ると、奥のラボに速足で入って行った。
ラボに入るなり、ガサゴソと物音がしたが、直ぐに戻って来た。
「ほれ、着けてみぃ? 驚くぞ?」
「は、はぁ」カチャ
「新しく追加したんはこのツマミや。ひねってみぃ?」
「こうかな?」クリ
ブゥン
カナメの言われた通りにつまみをいじると、ガジェットの操作パネルからメッセージが表示された。
「『基本設定』『条件選択』『必要魔力量』?」
よく見ると、条件等の入力は終わっている様だ。
「初回やから、設定とかはコッチでさせてもろたで。そしたらつまみを押すんや」
「こう、ですか?」カチ
静流は、新しく追加されたつまみを、ストップウォッチのように押し込んだ。
クリック感のあと、『ピピッ』というビープ音が鳴り、操作パネルからメッセージが表示された。
「ん? 『承認』ですって。OKって事でしょうか?」
「おし! 通ったで! ムっちゃん」
「ああ。やった。成功だ!」パチィン
目の前でハイタッチしながらスキップしている二人を、不思議そうに眺めている静流。
「えと、これって、どういう意味ですか?」
そんな静流を放置し、成功に浮かれている二人。
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